若者の運動不足が未来の健康を脅かす — WHOが警鐘を鳴らす

若者の運動不足が未来の健康を脅かす — WHOが警鐘を鳴らす

「もっと運動して」だけでは変わらない——WHOが警告する、若者の運動不足と大人の課題

学校から帰り、宿題を済ませ、スマートフォンを眺めているうちに夜になる。そんな子どもの姿を見て、「少しは体を動かしたら」と声をかけたくなる大人は少なくないだろう。

しかし、その子には安心して遊べる場所があるだろうか。運動が得意でなくても参加できる活動はあるだろうか。費用や送迎の負担なく、友人と体を動かす機会を持てるだろうか。

世界保健機関(WHO)が2026年11月4日に公表した若者の身体活動に関する推計は、子ども本人の意欲だけでは片づけられない問題を浮かび上がらせた。

世界の11〜17歳の約4人に1人が、直前の1週間に「中高強度の身体活動を合計60分以上行った日が一度もなかった」と回答したという。推計すると、約2億4,000万人に相当する。

この数字を、若者への説教で終わらせてはいけない。問われているのは、体を動かすことが日常の中に自然に組み込まれているかどうかだ。


「活動した日がゼロ」は「まったく動かなかった」ではない

今回の報道で、まず押さえておきたいのが「活動した日」の定義である。

研究でいう活動日は、中程度から高い強度の身体活動を、その日に合計60分以上行った日を指す。単に外出したか、スポーツをしたかという区分ではない。

例えば、毎日30分の早歩きをしていたとしても、それ以外の活動を合わせて60分に達しなければ、この指標では活動日として数えられない。

したがって、「4人に1人が1週間まったく動かなかった」と表現すると、実態を誤って伝えてしまう。問題になっているのは、一定の強度と時間を満たす活動機会の少なさだ。

また、60分は「そこまで動かなければ意味がない」という境界線でもない。活動量が少ない子にとっては、無理のない範囲で体を動かす機会を増やすこと自体が出発点になる。

数字は状況を知るための道具であり、一人ひとりの生活を合格・不合格に分けるためのものではない。


320万人超のデータが示した、15年間の停滞

今回の研究は医学誌「The Lancet Global Health」に掲載され、140の国・地域で行われた389件の人口ベースの調査、計320万人を超える若者のデータを用いている。

WHOによると、若者が回答した活動日は平均で週2.7日。7日すべてで60分以上の活動を行ったと答えた割合は14%だった。

さらに重いのは、若者の身体活動の状況が過去15年間、ほぼ変わっていなかったという点だ。

健康のために運動が大切だという知識が広がっても、それだけでは日々の行動は変わらない。安全な場所がなければ外に出にくく、費用が高ければ継続が難しい。学校や家庭の予定が詰まっていれば、自由に遊ぶ時間も後回しになりやすい。

ただし、この研究は若者の自己申告を基にした推計である。活動量計で全員の動きを測定した結果ではなく、今回の数字だけで、運動不足を生んだ原因を一つに特定することもできない。

「スマホが原因」「親の管理不足」と即断するより、どのような条件が活動を難しくしているのかを考える必要がある。


女子の活動機会は、なぜ少ないのか

男女差も明確だった。

60分以上の活動をした日が一度もなかったと答えた割合は、女子28%、男子22%。一方、7日すべて活動したと答えた割合は、女子11%、男子17%だった。

WHOは、ほぼすべての国・地域で女子の活動水準が男子より低かったと説明している。

ここから「女子は運動が好きではない」と結論づけることはできない。数字が示すのは活動状況の違いであり、本人の好みや能力の違いを直接証明するものではないからだ。

学校や地域で考えたいのは、本人たちが何に参加したいか、何が参加の妨げになっているかである。

競争の強い活動しか選べないのか。初心者でも入りやすい雰囲気があるのか。人目や服装、更衣場所に不安はないか。帰宅時間や移動経路の安全性は確保されているか。

こうした点は、地域ごとに当事者の声を聞いて確かめる必要がある。「参加しない子」を変えようとする前に、「参加しやすい条件」がそろっているかを見直したい。


SNSの関連議論では、費用と大人の関わり方が争点に

若者の運動をめぐる問題は、SNSでも本人のやる気だけでは説明されていない。

海外掲示板型SNSのRedditでは、青少年スポーツの最大の問題は「指導者、保護者、費用のどれか」を問うスレッドに、さまざまな意見が寄せられていた。

 

以下は今回のWHO発表への直接の反応ではなく、同じテーマをめぐる関連議論の要旨である。投稿者の経験談や意見であり、社会全体を代表する調査ではない。

費用を問題視する投稿では、青少年スポーツが収益重視になり、子どもの成長が後回しになっているという批判が見られた。

一方、非営利のバスケットボール団体を運営した経験があるという投稿者は、体育館の利用料金や施設予約の難しさを挙げていた。高額化の背景には、運営側が負担する現実的なコストもあるという指摘だ。

指導者や保護者の関わり方については、大人が勝敗や自分の期待を優先しすぎることで、子どもが競技を好きでいられなくなるという意見もあった。

これらの議論から考えさせられるのは、「スポーツに参加する機会がある」ことと、「気軽に楽しく体を動かせる」ことは同じではない、という点である。

本格的な競技を望む子には、その機会が必要だ。同時に、週末に少し遊びたい子や、上達より友人との時間を楽しみたい子にも、参加できる場所が必要になる。


日本でも「部活をしているか」だけでは捉えきれない

日本で子どもの運動を考えるとき、部活動やスポーツクラブの存在は大きい。

ただし、健康につながる身体活動は、競技としてのスポーツに限られない。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の関連解説でも、身体活動にはスポーツや体育に加え、通学や家事などの生活活動が含まれると説明されている。

部活動に入っていない子でも、日常の移動や遊びを通じて体を動かすことはできる。反対に、部活動に所属しているという情報だけで、生活全体の活動量が分かるわけでもない。

日本で今回の知見を生かすなら、「何人が運動部に入ったか」に加え、日常の選択肢を見たい。

例えば、授業の合間に動ける時間はあるか。放課後に短時間だけ使える場所はあるか。競技経験がなくても参加できる活動はあるか。費用や送迎が必要な仕組みに偏っていないか。

今回の世界全体の割合を、そのまま日本の子どもに当てはめることはできない。それでも、活動機会を生活環境から考える視点は、日本でも役に立つ。


「1日60分」は、連続したトレーニングを意味しない

「60分」と聞くと、毎日まとまった運動時間を確保するのは難しいと感じるかもしれない。

しかし、身体活動は一度にまとめて行う必要はない。米国の国立糖尿病・消化器病・腎疾病研究所(NIDDK)の若者向け情報でも、通学や学校での活動、放課後の時間などに分けて体を動かす考え方が紹介されている。

少し息が上がる程度の移動、休み時間の遊び、ダンス、自転車、ボール遊びなど、本人が楽しめる活動を日常に組み合わせることができる。

なお、ゆっくりした散歩や立ち上がる動作が、すべて今回の研究でいう中高強度の活動に相当するわけではない。それでも、長く座り続ける生活を見直す入口にはなる。

活動量の少ない子に、いきなり長時間の運動を課す必要はない。厚生労働省の関連解説も、少しでも身体活動を行うことを勧める一方、激しすぎる運動や使いすぎに注意を促している。

目標を達成させることだけに集中せず、体調や本人の希望に合わせて続けられる形を探すことが大切だ。


スマホの時間を減らした先に、何があるか

子どもの運動不足をめぐっては、スマートフォンやゲームが話題になりやすい。

座りっぱなしの時間を見直すことには意味がある。ただ、画面を見る時間を減らせば、自動的に外遊びやスポーツが増えるとは限らない。

外に出ても遊べる場所がない。友人と会うには送迎が必要になる。参加できる活動は費用が高い。そうした状況では、スマホを使わなくなった時間が、別の座って過ごす時間に置き換わることも考えられる。

家庭で話し合うなら、利用時間のルールと一緒に、「その時間に何を楽しめそうか」を考えたい。

一緒に歩く、近所で遊ぶ、家で好きな音楽に合わせて踊る。本人が選べる小さな候補を用意することは、禁止だけで終わらせないための一歩になる。

これは今回の研究が特定の家庭内対策の効果を証明したという意味ではない。環境を整えるという視点を、暮らしの中で具体化するための提案だ。


子どもを動かす前に、大人が変えられるもの

WHOのテドロス事務局長は、若者にもっと努力するよう求めるだけでは解決しないと強調した。安全で、無理なく、当たり前に体を動かせる学校や道路、地域をつくる必要があるという趣旨だ。

その考え方は、運動が得意な子にも、苦手な子にも関わる。

体を動かす場が、いつも評価や選抜と結びついている必要はない。勝てなくても、速く走れなくても、途中から参加しても楽しめる時間があってよい。

大人ができるのは、運動するよう繰り返し言うことだけではない。利用しやすい場所を増やすこと、費用の壁を下げること、安全に移動できるようにすること、子ども自身の希望を聞くことも含まれる。

「なぜ動かないのか」と問うときには、「動きたくなる選択肢を用意できているか」も一緒に問いたい。

15年間の停滞を変える手がかりは、子どもの根性よりも、毎日の暮らしの中にあるのかもしれない。


出典・参考資料

  1. BUSINESS-PANORAMA/AFP:WHOの推計、活動日の定義、男女差、テドロス事務局長の発言を紹介。
    https://business-panorama.de/news.php?newsid=6716920

  2. WHO:2026年11月4日の公式発表。研究の規模と世界推計、活動しやすい環境づくりの必要性を確認。
    https://www.who.int/news/item/04-11-2026-one-in-four-adolescents-worldwide-reported-no-active-days-in-the-previous-weekwho.int

  3. オックスフォード大学:研究に参加した研究者による解説。活動日の測定方法と研究の位置づけを確認。
    https://www.ox.ac.uk/news/2026-11-04-only-one-in-six-uk-adolescents-is-active-every-day-major-new-report-findsOxford University

  4. 厚生労働省・e-ヘルスネット:「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」こども版の解説。身体活動の範囲、強度、少量から始める考え方、過度な運動への注意を参照。
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-003健康日本21アクション支援システム Webサイト

  5. NIDDK:若者向け健康情報。身体活動を一度にまとめず、生活の中で分けて行う考え方を参照。
    https://www.niddk.nih.gov/health-information/weight-management/take-charge-health-guide-teenagersNIDDK

  6. Reddit・r/CoachingYouthSports:青少年スポーツの費用、施設確保、指導者や保護者の関わり方をめぐる関連議論。今回のWHO発表への直接の反応ではなく、個人の意見として紹介。
    https://www.reddit.com/r/CoachingYouthSports/comments/1wj09sk/whats_the_biggest_issue_in_youth_sports_the/