介護・保育だけではない、心の不調による病休が多い仕事とは

介護・保育だけではない、心の不調による病休が多い仕事とは

「人を支える仕事」で、働く人の心は守られているか

電話の相手を落ち着かせる。介護を必要とする人の暮らしを支える。子どもの安全を見守り、保護者の不安にも応える。

誰かの困りごとを引き受ける仕事は、社会に欠かせない。その一方で、支える側が疲れたとき、その負担はどこに向かうのだろうか。

ドイツ紙WELTは、AOKの新たな調査を取り上げ、職種によって心の健康への負担に違いが見られることを報じた。雇用や家計への不安も重なるなか、職場のメンタルヘルスを個人の問題だけで考えることの限界が浮かぶ。

ただし、「心を病みやすい職業」という見出しだけで仕事の危険度を決めつけると、調査の意味を取り違える。注目すべきなのは、職業名と、その背後にある働き方の両方だ。


目立ったのは、コールセンターなどの仕事

AOKが2026年10月8日に発表した資料では、2025年の精神疾患による病休について、次の職種で高い件数が示された。

職種区分の概訳AOK加入者100人当たりの病休件数
対話型マーケティング職〔コールセンターなど〕39.0件
家庭・家族のケア、生活支援に関わる職種25.6件
高齢者介護職24.9件
障害者支援・特別支援教育関連職24.6件
保育・児童養育関連職23.0件

※ドイツの職業分類に基づく区分であり、日本の資格や職種区分と完全には一致しない。

ここで注意したいのは、「100人当たり39件」は「39%の人が発症した」という意味ではないことだ。これは病休の発生件数で、人数や新規発症率とは異なる。

さらに、精神疾患による病休が記録されているからといって、そのすべてが仕事だけを原因としているわけでもない。この表は、特定の職業が必ず病気を引き起こすことを証明するものではなく、負担や支援体制を詳しく調べる手がかりとして読む必要がある。


「忙しい」に「自分では変えられない」が重なる

上位の仕事を見て気づくのは、単に作業量が多いという点だけではない。相手の感情や生活、安全に向き合いながら、自分の判断だけでは状況を変えにくい仕事が含まれている。

調査に関わったライプツィヒ大学のシュテフィ・リーデル=ヘラー教授は、高い要求に対して裁量が小さいこと、十分な承認や周囲の支援が得られないことなどを、職場の重要な負担として挙げている。

例えば、次のような場面を想像すると分かりやすい。これは調査の個別事例ではなく、職場の構造を考えるための例だ。

顧客の不満を聞く担当者には、丁寧な対応が求められる。しかし、料金や契約を変更する権限はない。介護職には利用者への細やかな対応が求められるが、その日の人員を増やすことはできない。

求められる責任と、実際に使える権限との間に隔たりがある。

そこで「気持ちを切り替えよう」と言うだけでは、翌日も同じ問題が残る。本人が落ち着いて対応できることと、組織が対応可能な仕事量や判断権限を用意することは、併せて考える必要がある。


約42%増を「病気の人が42%増えた」と読まない

AOKのデータでは、精神疾患による労働不能日数は、加入者100人当たりで2016年の284日から2025年の403日へ増えた。増加率は約42%だ。

また、2025年の精神疾患による病休は、1件当たり平均28.5日。呼吸器疾患の5.7日と比べると、期間の長さが目立つ。

ただし、この数字をそのまま「社会全体で精神疾患の人が42%増えた」と言い換えることはできない。

病休の記録には、病気の状態に加えて、診断を受けられるか、不調を職場に伝えられるか、治療や休養につながるか、といった事情も関わる。リーデル=ヘラー教授も、以前より不調が認識され、話題にされ、治療されるようになった点を挙げている。

数字が増えた背景には、負担の増加だけでなく、これまで表に出なかった不調が見えるようになった可能性もある。病休を減らすことだけを目標にして、必要な休養まで取りにくくしてしまっては、問題の解決にならない。


SNSでは「職場の仕組みを変えるべきだ」という指摘

今回確認できたSNS投稿では、負担を本人だけに背負わせないことや、早い段階での予防を求める意見が見られた。ただし、以下は専門家・団体による公開投稿の例であり、世論全体を示すものではない。

ドイツのバーンアウト予防団体DBVBはLinkedInで、AOKの報告を紹介し、精神疾患には私生活や経済的な心配なども関わるとしたうえで、企業が仕事の負担を把握し、管理職を支え、従業員の裁量を確保する必要性を訴えた。予防は、従業員が何週間も休むようになってから始めるものではない、という趣旨だ。

同投稿のコメントにも、企業での予防を充実させるべきだという反応があった。

また、リーデル=ヘラー教授は自身のLinkedIn投稿で、取り組みを三つの段階に整理している。健康を保てる職場をつくること、不調が出たら早期に支援すること、そして病気の後に無理なく仕事へ戻れるようにすることだ。

これらの発信に共通するのは、メンタルヘルス対策を、本人がストレスに耐えるための訓練だけにしないという視点である。相談先の案内と同時に、相談しなければ持ちこたえられない働き方そのものを見直す必要がある。


日本でも「医療、福祉」の件数が多い

日本でも、仕事と心の健康の関係は大きな課題になっている。

厚生労働省が2026年7月に公表した令和7年度の集計では、業務災害に係る精神障害の労災請求は4,958件。前年度より1,178件増え、支給決定は1,082件だった。

業種別では「医療、福祉」が請求1,288件、支給決定292件と、ともに最多だった。

ここでも、数字の扱いには注意が必要だ。日本の集計は労災の請求・支給決定で、AOKの集計は保険加入者の病休である。対象も制度も異なるため、日独の数値を直接比較することはできない。

また、日本の業種別件数には、その業種で働く人の多さも影響する。「件数が最多だから、働く人一人当たりのリスクも最も高い」とは限らない。

それでも、人を支える現場で起きている不調について、人員配置や業務量、対人対応の負担、相談体制を具体的に点検する必要性は読み取れる。


日本の職場で考えたい、三つの問い

今回の調査を日本の職場に引き寄せるなら、「どの職業を避けるべきか」だけで考えるのはもったいない。同じ職種でも、仕事の分担や上司の対応によって日々の経験は変わる。

点検の出発点として、三つの問いが考えられる。

一つ目は、難しい対応を交代できるか。対応が長引いたとき、担当者が上司や別のスタッフに引き継げるか。「担当した以上は最後まで一人で」という運用になっていないか。

二つ目は、要求に見合う時間と権限があるか。丁寧さを求めながら、対応時間を極端に短く設定していないか。責任を負わせる一方で、判断に必要な情報や権限を渡していない状態はないか。

三つ目は、相談した後に仕事が変わるか。話を聞くだけで終わらず、担当業務、勤務時間、仕事量などを調整できるか。

これらは調査から日本向けに考えた実務上の問いであり、AOKがそのまま提示したチェックリストではない。しかし、個人の努力と職場の条件を一緒に見直すという方向性は共通している。

「つらかったら相談して」と伝えるなら、相談を受けた後に何を変えられるのかまで用意しておきたい。


支える人が、支えられる職場へ

今回の職種別データは、コールセンター、介護、保育などの仕事に否定的なラベルを貼るためのものではない。

誰かを支える仕事には、意義や達成感がある。それを長く続けられるようにするには、働く人自身も支援を受けられることが必要だ。

丁寧に対応できる人だからと、難しい案件を集め続けていないか。責任感が強い人だからと、休めない状態を当然にしていないか。

職種ランキングを見た後に考えたいのは、「この仕事の人は心が弱いのか」ではない。目の前の仕事に必要な時間、裁量、助けを、その職場は用意できているかということだ。


出典・参考資料

  1. WELT:
    https://www.welt.de/wirtschaft/plus6ac75d0b6e0a564ee52e8e3b/psychologie-diese-berufe-machen-besonders-haeufig-psychisch-krank-einer-ueberrascht.htmlWELT

  2. AOK:欠勤レポート2026の公式発表。職種別の病休件数と精神疾患による欠勤の推移。
    https://www.aok.de/pp/bv/pm/fehlzeiten-report-2026/AOK Presse

  3. WIdO・ヘルムート・シュレーダー氏の発表資料:病休期間、職種差、統計の背景。
    https://www.aok.de/pp/fileadmin/bereiche/unternehmenskommunikation/AOKs_und_ihr_Verband/AOK_Bundesverband/Pressemitteilungen/2026/FZR_2026/26.0449_PK_Fehlzeiten-Report_Statement_Schroeder.pdfaok.de

  4. リーデル=ヘラー教授の発表資料:欠勤統計の解釈、職場の裁量や支援、予防と復職の考え方。
    https://www.aok.de/pp/fileadmin/bereiche/unternehmenskommunikation/AOKs_und_ihr_Verband/AOK_Bundesverband/Pressemitteilungen/2026/FZR_2026/26.0449_PK_Fehlzeiten-Report_Statement_Riedel-Heller.pdfaok.de

  5. 厚生労働省:令和7年度「過労死等の労災補償状況」。日本の精神障害に関する請求・支給決定件数。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74476.htmlmhlw.go.jp

  6. DBVBのLinkedIn投稿:AOK調査を受けた職場での予防に関する見解とコメント。
    https://de.linkedin.com/posts/deutscher-bundesverband-f-r-burnout-prophylaxe-und-pr-vention-e-v_dbvb-burnoutprävention-fehlzeitenreport2026-activity-7515675500548096001-8RDsde.linkedin.com

  7. リーデル=ヘラー教授のLinkedIn投稿:予防、早期支援、復職という三段階の取り組み。
    https://de.linkedin.com/posts/steffi-riedel-heller-ba1023319_fehlzeitenreport2026-psychischegesundheit-activity-7514265718746644481-buiM