人形遊びで育つ「相手の気持ちを考える力」 ― 男の子にも開いておきたい遊びの世界

人形遊びで育つ「相手の気持ちを考える力」 ― 男の子にも開いておきたい遊びの世界

「好きなおもちゃを選んでいいよ」の前に、何を見せている?

おもちゃ売り場で、子どもに「好きなものを選んでいいよ」と声をかける。親としては、本人の気持ちを尊重しているつもりだ。

けれど、その子が「自分の好きなもの」を見つけるまでには、広告や商品パッケージ、友達の持ち物、大人の何気ない言葉との出会いがある。

人形やおままごとで遊ぶのは女の子。恐竜や実験のおもちゃを楽しむのは男の子。そんな場面を繰り返し見ていたら、子どもは「これは自分が遊んでいいもの」「あちらは自分とは関係のないもの」と受け取るかもしれない。

ドイツのニュースサイト「Kreiszeitung」が2026年10月12日に掲載した記事は、おもちゃのカタログをめぐる批判を入り口に、この問題を取り上げた。

問われているのは、人形と恐竜のどちらが優れたおもちゃかではない。子どもが興味を持つ前から、選択肢を性別で分けてしまっていないか、ということだ。


ドイツのカタログに批判――SNSには保護者の戸惑いも

元記事によると、批判の対象になったのは、おもちゃ販売大手Smyths Toysのカタログだ。女の子は主にメイク用品、人形、家事に関するおもちゃとともに描かれ、男の子は恐竜や望遠鏡とともに登場していたという。

記事では、Instagramに寄せられた母親のコメントも紹介されている。

その母親は、子どもたちに遊ぶものを指定してこなかったのに、娘たちがこうしたイメージに強く引かれることに戸惑っていた。兄の恐竜のおもちゃには関心を示さず、広告や周囲の環境から幼い子にも一定の価値観が伝わっている、と感じているという。

この反応から浮かぶのは、「自由に選ばせれば十分なのだろうか」という保護者の悩みだ。家庭では制限していなくても、家庭の外から届くメッセージまでは親が選べない。

ただし、これは元記事が取り上げた一人の保護者の経験であり、SNS利用者全体の意見を示す調査ではない。また、娘たちの好みが広告だけで生まれたと確認されたわけでもない。

同社は、元記事の取材時点である10月12日午後までに、編集部の問い合わせへ回答していなかったとされる。


広告は「何が好きか」だけでなく、「何をしてよいか」も伝える

元記事に登場するウィーン大学の教育心理学者、マルレーネ・コルマイヤー氏は、おもちゃ業界には性別に関する固定観念が依然として強く残っていると指摘する。

女の子向けには、世話、家事、外見の美しさ。男の子向けには、ものづくり、実験、競争。こうした見せ方が続くと、それぞれに期待される役割まで伝わってしまう、という問題意識だ。

もちろん、家事のおもちゃや人形に問題があるわけではない。人の世話をすることも、料理をすることも、生きていくうえで大切な営みである。組み立てたり、実験したりする楽しさも、性別にかかわらず開かれていてよい。

気になるのは、ある遊びを一方の性別と結びつけた結果、もう一方の子どもに「自分には合わない」と感じさせてしまうことだ。

コルマイヤー氏自身、広告だけの影響を研究で切り分けるのは難しいと説明している。子どもの好みや行動には多くの要素が関わる。それでも、広告が固定観念を伝え、繰り返し強める経路の一つになりうる、という指摘は考える価値がある。


人形遊びでは、どんな力を使っているのか

「この子、おなかがすいたんだって」
「こっちの子は、まだ帰りたくないの」
「泣いているから、迎えに行こう」

こうしたせりふを伴う人形遊びでは、子どもは登場人物に気持ちや希望を与え、それぞれの立場を想像している。自分とは別の誰かの視点に立つ練習になりうる。

この点を調べたのが、カーディフ大学などの研究チームだ。

2022年に発表された研究では、4~8歳の子ども33人を対象に、人形やタブレットで遊ぶ際の発話と脳活動を調べた。人形で遊ぶときには、タブレットで遊ぶときよりも他者の感情や考えに触れる言葉が多く、特に一人で遊ぶ場面で違いが見られた。

研究でいう「心の状態に関する言葉」とは、難しい説明をすることではない。「悲しい」「欲しい」「こう思っている」といった、誰かの内面を表す言葉だ。

ただし、この結果を「人形を買えば共感力が必ず伸びる」と読み替えることはできない。観察されたのは、特定の遊びの場面での発話や脳活動であり、将来の性格や学校生活全体を保証するものではない。


2026年の研究では、他者の思い込みを理解する課題に改善

さらに2026年3月、研究チームは人形遊びの効果を検証する無作為化比較試験を発表した。

4~8歳の子どもを人形で遊ぶグループと、創造的なタブレットゲームで遊ぶグループに分け、約6週間の取り組みを行った。前後の調査を終えたのは73人。人形のグループでは、他者の誤った思い込みを理解する課題で、タブレットのグループより大きな改善が見られた。

例えば、自分は物の移動先を知っていても、それを見ていない人は元の場所を探すはずだ、と考える力である。自分が知っていることと、相手が知っていることを区別する能力に関わる。

これは興味深い結果だが、読解力や数学の成績を測った研究ではない。ほかのあらゆる遊びと比較して人形が優れていると示したものでもない。

なお、この研究は玩具メーカーのマテルから資金提供を受けている。論文は、同社などが研究設計の初期協議に関わった一方、設計の最終決定やデータ収集・分析、結果の解釈、論文執筆には直接関与していないと説明している。


「人形で遊ぶ子は優秀」と言い切ると、話を見誤る

元記事の見出しは、人形で遊ぶ子どもが同年代に対して何らかの強みを持つ、という印象を与えるものだ。

しかし、ここから「人形遊びをしない子は遅れている」「女の子は言葉、男の子は数学に向いている」と結論づけるのは適切ではない。

元記事では、コルマイヤー氏が、人形遊びに伴う言葉のやり取りや、組み立て・実験と学校で使う能力との関係に触れている。ただし、おもちゃの違いだけで学力差が生まれることを実証した記事ではない。

親として受け取りたいのは、遊びを成績向上のための課題にする発想よりも、経験の入口を増やす発想だ。

物語をつくる。形を組み合わせる。仕組みを試す。誰かの世話をする。一つの遊びだけですべてを経験する必要はなく、子どもによって夢中になる入口も違う。


日本の家庭でできるのは、「好き」を変えるより選択肢を増やすこと

この話を日本の家庭に引き寄せるなら、まず見直せるのは、大人が選択肢を示すときの言葉だ。

「男の子だから、こっちが好きでしょう」
「それは女の子のおもちゃだよ」

こうした言葉の代わりに、「何をして遊べそう?」「どれを試してみたい?」と聞いてみる。本人が興味を示したものを、性別を理由に外さないことから始められる。

同時に、固定観念を避けたいあまり、子どもの今の好みを否定しないことも大切だ。人形が好きな女の子に恐竜を押しつけたり、乗り物が好きな男の子に人形遊びを義務づけたりする必要はない。

実践の一案としては、好きな遊びに別の要素を加えてみる方法がある。

例えば、人形のために積み木で家をつくる。恐竜の親子が迷子を探す物語を考える。電車のおもちゃで、困っている乗客を目的地まで運ぶ。

こうした組み合わせは、特定の効果を保証する方法ではない。それでも、今ある「好き」を足場に、新しい遊び方を提案できる。子どもが乗ってこなければ、無理に続けなくてよい。


園や学校でも、「誰に頼むか」を少し変えられる

コルマイヤー氏は、教育の場での声かけにも注意を向けている。元記事では、箱を運ぶ際に「力の強い男の子」を募集するような言い方が例に挙げられた。

手伝いを頼むときに、性別を条件にする必要があるだろうか。「一緒に運んでくれる人はいる?」でも目的は果たせる。

同じように、世話役、組み立て役、発表する役、片づける役を、いつも同じ属性の子どもに結びつけていないか振り返ることもできる。

家庭でも、大人が実際にさまざまな役割を担う姿を見せることは、「これは誰がしてもよいことだ」と伝える機会になる。

人形で遊ぶことを特別な教育法にする必要はない。恐竜も、ままごとも、工作も、子どもが興味を持ったときに手を伸ばせる。その自由を、大人の先入観で狭めないことが、おもちゃ選びの出発点になりそうだ。


出典・参考資料

  1. Kreiszeitung:Smyths Toysのカタログをめぐる批判、コルマイヤー氏の説明、Instagramの保護者コメント、企業への問い合わせ状況の出典。SNSの反応は、同記事に掲載された内容の要約。
    https://www.kreiszeitung.de/deutschland/bildungspsychologin-kinder-die-mit-puppen-spielen-haben-gleichaltrigen-etwas-voraus-zr-94537856.html

  2. Hashmiほか(2022):4~8歳の子ども33人を対象に、人形遊び中の他者の心に関する発話と脳活動を調べた研究。
    https://doi.org/10.1111/desc.13163orca.cardiff.ac.uk

  3. Gersonほか(2026)、PLOS One:人形遊びとタブレット遊びを比較し、他者の誤った思い込みを理解する能力の変化を調べた無作為化比較試験。研究規模、方法、資金提供の説明を確認。
    https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0343698