中国で負け、コストで苦しみ、関税が刺さる — メルセデスが迎えた正念場

中国で負け、コストで苦しみ、関税が刺さる — メルセデスが迎えた正念場

1)スポットライトは眩しい。でも数字は冷たい

メルセデス・ベンツは、演出がうまい。新型Sクラスの発表は、社内ミュージアムでの大規模ショー。ポップスターが歌い、世界的スポーツスターが登場し、半導体大手のトップが映像で祝辞を送る——「さすがメルセデス」と思わせる舞台装置が揃っている。


ところが、スポットライトの外側にある現実は厳しい。記事が示すのは、利益の急減、売上の減少、販売台数の落ち込みという“三重苦”だ。メルセデスは自動車史の象徴のようなブランドだが、その象徴性だけでは今の市場を勝ち抜けない、という冷たい事実が突きつけられている。


2)「外部要因」だけでは片づかない——“自分たちのミス”が痛い

もちろん、ドイツ自動車産業全体が逆風にある。景気、サプライチェーン、地政学、規制、電動化の速度差。外部要因は多い。だが記事は「一部は自分たちの問題だ」と踏み込む。


象徴的なのが、電動化戦略のブレだ。かつて「electric first」、さらに「electric only」へと舵を切ったが、のちに“戦略的柔軟性”として内燃機関も織り込む方向に修正した。市場の現実に合わせたと言えば聞こえはいいが、消費者から見れば「結局どっち?」となりやすい。EVは“買い替え理由”が従来より強く問われるため、方針の揺れは心理的なブレーキになり得る。


3)半導体不足の“勝ち筋”が、その後の読み違いを生んだ

もう一つの指摘は、コロナ禍の半導体不足期の判断だ。限られたチップを利益率の高い高級車へ優先配分する——短期的には合理的に見える。実際、当時は「作れば売れる」状態だった。

しかし、その成功体験が“需要構造の変化”という誤解につながった。高級・大型が恒常的に伸びると見込み、ラグジュアリー志向を強めた結果、「他社も良い車を作れて、しかも安い」局面で価格プレミアムを正当化しにくくなった、という構図が浮かぶ。

プレミアムブランドの難しさはここにある。価格を上げるなら、体感できる差(品質、技術、体験、信頼)も“明確に上”でなければならない。差が曖昧になると、消費者は「それなら同等品質で安い方へ」移る。

4)中国:最大市場での“プレミアム戦”が一気にハード化

記事が特に重く見ているのが中国だ。メルセデスにとって中国は最大級の稼ぎ場で、販売の約3分の1を占める規模だが、現地メーカーが猛スピードで品質と機能を引き上げ、価格競争も激化している。


2025年の販売では、中国が大きく落ち込んだとされ、世界全体でも乗用車販売が減少している。
中国市場は「新しさの波」が速い。車載OS、コックピット体験、ADAS(先進運転支援)、スマホ連携、OTA更新——こうした“体験の総合点”で競争が起きる。伝統ブランドが「走り」「質感」「ステータス」だけで勝つのは難しくなり、デジタル領域での説得力が必須になっている。


5)関税とコスト:外からも内からも利益が削られる

もう一つのパンチが関税だ。米国の関税政策が収益を圧迫し、見通しにも影を落とすという指摘がある。
さらに、ドイツ国内の高い人件費や間接部門の固定費が重荷になりやすい。販売が伸び悩む局面で固定費が高いと、利益は急速に薄くなる。


そこでメルセデスはコスト削減を強化し、2027年までに生産コスト10%削減などの目標を掲げている(報道ベース)。
ここは“やるしかない”領域だが、削減の仕方を間違えるとブランド価値を削りかねない。プレミアムがプレミアムである理由(品質、サービス、開発力)を落とさずに、無駄を切り落とす——言うほど簡単ではない。


6)それでも希望はある:商品と技術で「再び差」を作れるか

記事内では、新型CLA(エントリー領域)や、売れ筋SUVの新型GLCなど、商品面の“立て直し”も触れられている。車載OS(MB.OS)を含めて、体験価値を再設計しようとしている点は見逃せない。


また、運転支援や自動運転分野での先行性は、差別化の核になり得る。価格が高いことを納得させる武器が「安全」「快適」「疲れにくさ」「移動体験の上質さ」に直結するからだ。

 
ただし、それが“分かりやすく伝わる形”で市場に届かないと意味がない。機能があるだけでは勝てず、日常で実感できることが重要になる。


7)SNSの反応

この手のニュースが出ると、SNSはだいたい3つに割れる。

  • ①「EV一本化は早すぎた」派
    「EVは地域差が大きいのに“only”は攻めすぎ」「結局、方向転換してるのが不安材料」という声。戦略の揺れが“買い控え”につながるのでは、という見方が多い。

  • ②「中国が強すぎる」派
    「中国メーカーの進化が速い」「高級でも“デジタル体験”で負けたら終わり」など、競争環境の変化を冷静に語る反応。特に価格と装備のバランスに触れる投稿が目立つ。

  • ③「それでもメルセデスはメルセデス」派
    「安全性と信頼は別格」「長距離の疲れなさは代替が効かない」など、ブランドへの信仰にも近い支持。一方で「だからこそ、もっと“差”を見せてほしい」という注文もセットになりがちだ。


8)結論:2026年は「耐える年」、2027年に“結果”が出る

記事中の見立ては、2026年が移行期で、回復の兆しは2027年以降というものだ。
ここからの勝負はシンプルに言えば3点。

  1. 中国で“高くても選ばれる理由”を作り直す

  2. 関税・固定費に耐えられる体質へ、ブランドを壊さずに変える

  3. 商品とソフトの体験で、競合より「明確に上」を示す


豪華なショーは、ブランドの物語を守るために必要だ。だが物語だけでは市場は動かない。数字を冷たくした原因を直視し、“星が輝く理由”を現実の価値で再構築できるか。メルセデスの正念場は、まさにこれからだ。



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