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なぜ一流企業は「優秀な人」から切っていくのか ─ 解雇がキャリアを加速させるパラドックス

なぜ一流企業は「優秀な人」から切っていくのか ─ 解雇がキャリアを加速させるパラドックス

2025年11月20日 00:16

「なぜあの人がクビに?」という違和感

外資コンサル、投資銀行、トップクラスの法律事務所──いわゆる「エリートファーム」では、入社時に選ばれるのは各国から集められたトップ層の人材です。ところが、数年後に振り返ると、
「え、あの人が辞めさせられたの?」
というケースが珍しくありません。


日本でも総合商社やメガバンク出身の30代がスタートアップに流れていくニュースをよく目にしますが、その裏側には「自分から辞めた」のか「辞めさせられた」のか、外からは分からないグレーゾーンが存在します。

2025年11月18日にPhys.orgに掲載された記事は、この“優秀そうに見える人が大量にいなくなる”現象を、感情論ではなく経済学のモデルで説明しています。Phys.org


記事の元になっているのは、ロチェスター大学のロン・カニエルとウィスコンシン大学のドミトリー・オルロフがAmerican Economic Reviewに発表した論文「Intermediated Asymmetric Information, Compensation, and Career Prospects(仲介された非対称情報、報酬、キャリア展望)」です。American Economic Association


彼らは、エリート企業が行う一見理不尽な「大量の解雇」や「激しい入れ替え」が、実は企業と労働者の双方にメリットをもたらす“パラドックスな均衡状態”だと主張します。



キーワードは「情報の非対称性」と「仲介者」

研究の出発点は、とてもシンプルな疑問です。
「なぜプロフェッショナルサービスの世界は、わざわざ会社を挟んで人材を売っているのか?」

たとえば、弁護士やコンサルタント、ファンドマネージャー、会計士、建築家などの仕事では、最終的に価値を生むのは個人のスキルです。それならクライアントが直接その人と契約しても良さそうです。

しかし現実には、彼らの多くは大手ファームに所属し、そのブランドのもとで案件にアサインされます。
この「会社という仲介者」が存在する最大の理由が、情報の非対称性です。American Economic Association


  • クライアント側:

    • その人がどれくらい優秀なのか、実績が積み上がるまでよく分からない

  • 企業側:

    • 面接・試用期間・内部評価を通じて、外部よりも早く個人の能力を把握できる

つまり、企業は「個人の真の実力」という情報を、クライアントよりも早く・正確に知ることができる立場にあります。ここにビジネスチャンスが生まれます。



「静かな期間」と「チャーニング」という戦略

カニエルとオルロフは、キャリアの初期を「静かな期間(quiet period)」と呼びます。Phys.org

  1. 静かな期間

    • 入社したばかりの若手の成果は、外からはまだよく見えない

    • 企業は標準的な給与を支払いながら、内部でじっくり観察する

    • この時点で、会社は「誰が本当にすごいか」を外部よりもよく理解している

  2. 情報ギャップの縮小

    • 裁判の勝訴、投資パフォーマンス、大型案件の成功など、
      公開情報を通じてクライアントも個人の能力を徐々に学習していく

    • すると、「この人は優秀そうだから、もっと報酬を払ってでも起用したい」とクライアントが考えるようになり、
      本来なら企業もその人の給与を上げざるを得なくなる

ここで出てくるのが、「チャーニング(churning)」という戦略です。Phys.org


企業は情報ギャップが小さくなってきたタイミングで、
あえて一定数の優秀な人材を手放します。

  • 解雇された側は、外から見ると「一定以上の成果を出していたのに突然いなくなった人」

  • 残った側は、「厳しい選抜を生き残ったエリート」

クライアント側には内部事情が見えないため、
「辞めた人も残った人も、少なくとも平均以上には優秀そう」
という印象だけが残ります。

その結果:

  • 元社員は「一流ファーム出身」という肩書きを武器に、市場で高い報酬を得やすくなる

  • 企業は「残った人はさらに選び抜かれたエリート」というブランドを維持しつつ、
    内部では彼らに対して市場水準より低い報酬を提示しても受け入れさせやすくなるPhys.org

という、ちょっとブラックな(笑)メカニズムが成立します。



「選ばれた側」はむしろ安くこき使われる?

このモデルで最も皮肉なのは、
最終的にもっとも搾取されるのが、会社に残る“勝ち組”である
という点です。


企業は彼らにこう暗に迫ることができます。

「君をここから追い出したら、外の人は『あの会社から外された人』と見る。
それが嫌なら、しばらくはこの条件で我慢して働きなさい」

もちろん、優秀な人ほど外部オファーも多く、
いつまでも安く働かせ続けることはできません。
それでも、**「今ここに残っていること自体が市場への強力なシグナル」**である以上、
本人も「もう少しここで実績と看板を積み上げたほうが得だ」と考え、
やや不利な条件を呑みやすくなります。Phys.org


論文の結論は驚くべきもので、

  • こうしたチャーニングのおかげで、企業の利益はむしろ高まる

  • それでも、若者はキャリアのスタート地点としてエリートファームを選び続ける

という、「みんなある程度ハッピーだけど、どこかモヤモヤする」均衡が成立するのです。



SNSでは賛否両論、「搾取」か「合理性」か

この記事が紹介されると、X(旧Twitter)やLinkedInではさまざまな反応が飛び交いました(以下は典型的な声を要約したものです)。

  • 批判派

    • 「人を“ブランド向上のための弾”として扱っているだけでは?」

    • 「メンタルをすり減らして働いた結果が“戦略的クビ”って、あまりに非人間的」

    • 「これで『うちは人を大切にする会社です』と言われても信用できない」

  • 肯定・擁護派

    • 「プロの世界なんだから、最初から“踏み台にされる可能性”も含めての契約でしょ」

    • 「元社員が市場で高く評価されるなら、むしろWin-Winでは?」

    • 「実力主義を徹底すると、こういう仕組みになるのは仕方がない」

  • 現場のリアル派

    • 「解雇された側は“戦略的に手放された優秀層”とは思ってくれない。
      家族からすればただの失職だし、ローンもある」

    • 「上位数%の“ポジティブなクビ”と、それ以外の“本当にパフォーマンスが悪くて切られた人”がごちゃ混ぜに扱われる危険がある」

要するに、理論的にはキレイでも、人間の感情や生活を考えるとかなり葛藤を生む仕組みだ、というのが多くの人の率直な感想です。



日本の「総合職」文化との接点

このモデルは主に欧米のプロフェッショナルサービスを念頭に置いていますが、日本にも共通する部分があります。

  • 新卒一括採用で「とりあえず大量に採る」

  • 数年ごとに評価がつき、

    • 花形部署に残る人

    • 子会社・関連会社へ出向する人

    • 転職を促される人
      に分かれていく


表向きは「本人の意思によるキャリア選択」に見えても、
内側ではかなりシビアな序列と選別が行われているケースは少なくありません。


もし社内の人事が、
「外でやっていけそうな人から順に出向・転籍させることで、
 残った人材の“選ばれた感”を高めよう」
と考えていたとしたら、それは論文で描かれたチャーニング戦略そのものです。


もちろん、日本では終身雇用や雇用慣行、労働法制などの違いもあり、
アメリカ型ほど露骨には機能しないでしょう。
それでも、情報を先に握っている側がキャリアの方向性を決めてしまうという構図は、
多くの大企業で共通しているように見えます。



個人はこのゲームとどう付き合うべきか?

研究は主に企業側の合理性を説明していますが、
私たち一人ひとりのキャリア戦略として考える材料もたくさん含まれています。

  1. 「ブランド」と「実力」を切り分けて考える

    • トップファームの看板は確かに強力なシグナルですが、
      それが永遠に続くわけではありません。

    • どの案件で何をしたのか、自分の成果を具体的に可視化しておくことが重要です。

  2. 「クビ=終わり」という考えを捨てる

    • このモデルでは、解雇された人も決して“負け組”ではなく、
      むしろ市場で稼ぎやすくなる可能性さえ示唆されています。Phys.org

    • 実際、スタートアップ界隈を見れば、「元◯◯(有名企業)」の肩書きを活かして
      資金調達や顧客開拓に成功している例は枚挙にいとまがありません。

  3. 「いつ辞めるか」を自分で設計する

    • 企業側が“情報ゲーム”を仕掛けている以上、
      待っているだけでは自分にとって最適なタイミングでキャリアの次のステップに移れません。

    • 外部から声がかかり始めたタイミングで、「残ることで得る reputational premium(評判の上乗せ)」と
      「今出ることで得られる自由や報酬」を、意識的に比較することが必要です。

  4. メンタル面のリスク管理

    • 「選ばれなかった」というラベルは、メンタルに大きなダメージを与えます。

    • しかし、今回の研究が示すように、
      「解雇=能力不足」と単純に考えるのは誤りかもしれません。

    • 周囲の評価に過剰に振り回されず、自分のスキルや市場価値を冷静に見つめ直す視点が求められます。



「残酷な合理性」とどう折り合いをつけるか

エリート企業が優秀な人材を“わざと”手放す──。
このパラドックスは、資本主義社会の冷徹さを象徴するようにも見えます。

一方で、

  • 企業は限られた情報の中でブランドと利益を守ろうとし、

  • 労働者はその仕組みを理解したうえで、自分にとって最も有利なタイミングで動こうとする

という、極めて人間くさい駆け引きの結果でもあります。


SNS上で巻き起こった議論は、
「これは搾取だ」と怒る人と、
「ルールが分かっているなら、あとはどう活用するかだ」と割り切る人に分かれました。


結局のところ、
大事なのは、自分がどちらのスタンスでこのゲームに参加するのかを意識的に選ぶこと
なのかもしれません。

  • ブランドを最大限に利用して市場に飛び出すのか

  • 安定よりも自由を優先して、早めに独立や転職に舵を切るのか

  • あるいは、そもそもこうした“チャーニング”前提の業界を選ばないのか

あなたが今いる会社は、
そしてあなた自身のキャリアは、
このパラドックスのどの位置にいるでしょうか。



参考記事

トップ企業が優秀な社員を解雇するパラドックスの理由
出典: https://phys.org/news/2025-11-firms-paradoxically-good-workers.html

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