“糖質オフ”でも“脂質カット”でもない、心臓に効く食事の新常識

“糖質オフ”でも“脂質カット”でもない、心臓に効く食事の新常識

低糖質か、低脂質か。その問いは少しズレていたのかもしれない

「心臓に良い食事」と聞くと、多くの人はまず何かを減らすことを考える。糖質を減らす。脂質を減らす。カロリーを減らす。白米やパンを控える。油を避ける。肉をやめる。あるいは、反対に糖質こそ悪で、脂質は恐れる必要がないと考える人もいる。

この数十年、食事と健康をめぐる議論はしばしば「低糖質か、低脂質か」という対立軸で語られてきた。ダイエット市場でも、糖質制限、ケトジェニック、ローファット、カロリー制限など、わかりやすいラベルが人々の関心を集めてきた。しかし、米国の大規模な長期研究が示したのは、もっと地味で、しかし実生活にはるかに重要な結論だった。

心臓を守るうえで本当に問うべきなのは、「糖質を減らしたか」「脂質を減らしたか」ではない。
「何を食べて、その食事を組み立てているか」だ。

ScienceAlertが紹介した研究は、米国の約20万人の男女を30年前後にわたって追跡したものだ。対象者の食事パターンを分析し、低糖質食や低脂質食が冠動脈疾患のリスクとどう関係するかを調べた。その結果、健康的な食品で構成された低糖質食・低脂質食は、いずれも心臓病リスクの低下と関連していた。一方で、精製された炭水化物や動物性脂肪・動物性たんぱく質の多い食事は、たとえ「低糖質」や「低脂質」というラベルがついていても、心臓に良いとは言い切れない結果となった。

つまり、低糖質そのものが勝者でもなければ、低脂質そのものが正解でもない。勝っていたのは「食品の質」だった。


“低糖質”にも良い低糖質と悪い低糖質がある

低糖質食と聞くと、パンや米、麺類、砂糖を減らす食事を思い浮かべる人が多い。だが、糖質を減らした分、何を増やすかによって内容は大きく変わる。

たとえば、野菜、豆類、ナッツ、種子、魚、オリーブオイル、アボカドなどを中心にし、精製された糖質や加工食品を減らす低糖質食は、比較的質の高い食事になりうる。ところが、糖質を減らす代わりに加工肉、脂身の多い肉、バター、チーズ、揚げ物、加工スナックに偏るなら、同じ「低糖質」でも中身はまったく違う。

研究では、植物性食品や質の高い食品を中心とした健康的な低糖質食は冠動脈疾患リスクの低下と関連していた。一方で、動物性食品や精製食品に偏った不健康な低糖質食は、逆にリスク上昇と関連していた。

これは、糖質制限を実践する人にとって重要なメッセージだ。糖質を減らすこと自体よりも、減らした後の食卓を何で満たすかが問題になる。白米を抜いた代わりに加工肉を増やすのか。菓子パンをやめて豆や野菜を増やすのか。その差は、単なるカロリーや糖質量の差以上に大きい可能性がある。


“低脂質”もまた、砂糖と精製穀物に逃げれば健康的ではない

同じことは低脂質食にも言える。脂質を減らす食事は、かつて心臓病予防の定番のように語られた時期がある。だが、脂質を減らすことだけに注目すると、別の落とし穴が生まれる。

脂質を減らした結果、野菜、果物、全粒穀物、豆類を増やすなら、食事の質は高まりやすい。だが、低脂質をうたう加工食品、砂糖の多いシリアル、精製されたパン、甘い飲料、低脂肪だが高糖質の菓子類に置き換えるなら、それは健康的な低脂質食とは言いにくい。

今回の研究でも、質の高い炭水化物を中心とした低脂質食は良い結果と結びついた一方、精製炭水化物や低品質の食品が多い低脂質食は、心臓病リスクの上昇と関連していた。

ここで重要なのは、「脂質は悪い」「糖質は悪い」といった単純な話ではないということだ。全粒穀物や豆類に含まれる炭水化物と、白パンや砂糖菓子に含まれる炭水化物は同じではない。ナッツやオリーブオイル、魚に含まれる脂質と、加工食品や過剰な動物性脂肪に偏った脂質も同じではない。

栄養素の名前だけを見ると同じでも、食品としての質、食物繊維、微量栄養素、加工度、食事全体のバランスは大きく異なる。


約20万人・500万以上人年の追跡で見えたもの

この研究の強みは規模と期間にある。対象となったのは、Health Professionals Follow-Up Study、Nurses’ Health Study、Nurses’ Health Study IIという米国の大規模コホートに参加した男女で、合計は約19万8000人。追跡期間は研究ごとに異なるが、おおむね30年前後に及ぶ。

研究者らは、食事調査票をもとに参加者の食事を評価し、低糖質食と低脂質食をいくつかのタイプに分類した。単に糖質や脂質の量を見るだけでなく、動物性食品中心か植物性食品中心か、全粒穀物など質の高い炭水化物を含むか、精製炭水化物が多いかといった点も考慮した。

さらに、血液中の代謝物や脂質、炎症に関わる指標も調べ、食事パターンと心血管リスクの生物学的なつながりを探っている。健康的な低糖質食・低脂質食は、HDLコレステロール、いわゆる善玉コレステロールの高さや、中性脂肪、炎症マーカーの低さなど、より好ましい心血管リスクプロファイルとも関連していた。

冠動脈疾患は、心臓の血管が狭くなったり詰まったりする病気で、心筋梗塞など重大なイベントにつながる。長期的な食事の質がこのリスクと関連するという結果は、日々の食卓の積み重ねが体内の代謝環境に影響しうることを示している。


ただし「原因が証明された」とまでは言えない

一方で、この研究には注意点もある。観察研究であるため、特定の食事が直接心臓病を減らしたと断定することはできない。食事内容は自己申告に基づいており、記憶違いや申告の偏りもありうる。

また、参加者の多くは医療従事者で、一般人口より健康意識が高く、医療へのアクセスも良い可能性がある。そのため、結果をそのまますべての国や集団に当てはめるには慎重さが必要だ。

さらに、この研究で扱われた低糖質食や低脂質食は、極端なケトジェニック食や極端な脂質制限食とは異なる。現実の食事パターンのなかで、相対的に糖質や脂質が少ない人を比較したものと見るべきだ。したがって、「ケト食は安全だ」「脂質はいくら摂ってもよい」「糖質は気にしなくてよい」といった極端な読み方は避けたい。

それでも、この研究が示す方向性はかなり実用的だ。健康的な食事を考えるとき、まず食品の質を見る。これは多くの人にとって、糖質や脂質の比率を細かく計算するより取り入れやすい。


SNSでは「結局、普通のことだった」という反応が目立つ

 

この研究は、SNS上でもさまざまな反応を呼んでいる。ScienceAlertの投稿や、JACC関連の投稿、Redditの科学・栄養系コミュニティでは、「低糖質か低脂質か」という長年の対立よりも、食事の質こそ重要だという点に反応が集まった。

Redditのr/scienceでは、「マクロ栄養素は入れ物で、食事の質が中身だ」という趣旨のコメントが見られた。低糖質という器に加工食品を詰め込むこともできるし、低脂質という器に砂糖を詰め込むこともできる。だから、ラベルではなく中身を見るべきだという受け止め方だ。

また、別のコメントでは「結局、昔ながらの食べ方、つまりホールフード、バランス、節度の話に戻る」といった反応もあった。新しい研究として注目されながらも、その結論は極端なダイエット法よりも、加工度の低い食品を中心に食べるというシンプルな原則に近い、という見方だ。

栄養に詳しいユーザーが集まるr/ScientificNutritionでは、研究の要約を踏まえて「マクロそのものではなく、実際に何を食べているかが重要」という評価が見られた。一方で、「低糖質や低脂質をどう定義したのか」といった方法論への関心も出ていた。これは重要な指摘で、栄養研究では同じ“低糖質”という言葉でも、研究ごとに定義や比較対象が異なることがある。

Xでは、心臓病や循環器領域のアカウントから「低糖質か低脂質かではなく、食事の質が重要」という趣旨の投稿が共有されていた。JACC関連の発信でも、低糖質・低脂質論争を超え、食品の質に目を向けるべきだというメッセージが前面に出ている。

一方で、SNSでは当然ながら反発もある。低糖質派の一部からは、「低脂質政策が肥満を増やした」「結局は低糖質の方が良い」といった主張も見られる。逆に、動物性脂肪や飽和脂肪への警戒を強めるべきだという意見もある。食事法は個人の成功体験と結びつきやすく、議論が宗派化しやすい領域だ。

だからこそ今回の研究は、どちらかの陣営を勝たせるというより、対立そのものを少し外側から見直す材料になる。糖質を減らす人も、脂質を減らす人も、共通して大事にすべきものがある。それが、食事全体の質だ。


“制限”より“置き換え”で考える

この研究を日常に落とし込むなら、「何を禁止するか」より「何に置き換えるか」で考えるとわかりやすい。

白いパンを食べるなら、全粒粉パンやオートミール、玄米、雑穀に置き換える。甘い飲料を飲むなら、水、お茶、無糖の飲み物にする。加工肉を頻繁に食べるなら、魚、豆腐、豆類、鶏肉、ナッツなどを組み合わせる。脂質を摂るなら、揚げ物や加工食品ではなく、オリーブオイル、ナッツ、魚、アボカドなどを選ぶ。

糖質を減らす場合でも、野菜や豆類、ナッツ、魚を増やす方向にする。脂質を減らす場合でも、砂糖や精製穀物に逃げず、全粒穀物、果物、野菜、豆類を中心にする。どちらの道を選んでも、質の高い食品に近づけば心臓にとって望ましい可能性がある。

この考え方は、ダイエットを長続きさせるうえでも現実的だ。人によって、米やパンを控える方が楽な人もいれば、脂っこい食事を控える方が楽な人もいる。文化や家庭、仕事、外食環境、好みも違う。低糖質か低脂質かを一律に決めるより、本人が続けやすい範囲で、食品の質を上げる方が実践しやすい。


「健康食品っぽい加工品」にも注意が必要

今回の研究が投げかけるもう一つの問いは、食品のラベルに惑わされないことだ。

低糖質、低脂質、高たんぱく、グルテンフリー、植物性、カロリーオフ。こうした言葉は、一見すると健康的に見える。しかし、それだけで食品の質が高いとは限らない。低糖質でも加工度が高く、飽和脂肪や塩分が多い食品はある。低脂質でも砂糖や添加物が多い食品はある。植物性でも、精製油や砂糖、塩分が多い加工食品なら、必ずしも健康的とは言えない。

SNSで「結局ホールフードに戻る」という反応が出たのは、この点を直感的に理解している人が多いからだろう。野菜、果物、豆、全粒穀物、ナッツ、魚、発酵食品など、加工度の低い食品を中心にする。完璧を目指す必要はないが、食事の大部分をそうした食品で構成する。その方が、栄養素の数字だけを追いかけるよりも、結果的に心臓にやさしい食事になりやすい。


日本人の食事に置き換えるなら

この研究は米国人を対象にしたものだが、日本の食生活にも応用できる視点は多い。

たとえば、主食を完全に悪者にする必要はない。白米の量を調整しつつ、玄米、雑穀米、オートミール、全粒粉パン、そばなどを取り入れる。野菜、海藻、きのこ、豆腐、納豆、魚を増やす。揚げ物や加工肉、菓子パン、甘い飲料、スナック菓子の頻度を下げる。脂質は避けるだけでなく、魚、ナッツ、オリーブオイルなど質の良いものを選ぶ。

日本食は、魚、大豆製品、海藻、野菜、発酵食品を取り入れやすい一方で、白米中心になりやすく、塩分も高くなりがちだ。だから、「和食なら何でも健康」と考えるのではなく、精製された主食の量、塩分、加工食品の頻度、野菜やたんぱく源の質を見直すことが大切になる。

低糖質をしたい人は、米を減らす代わりに肉だけを増やすのではなく、魚、豆腐、卵、野菜、きのこ、海藻、ナッツを組み合わせる。低脂質をしたい人は、油を減らすだけでなく、砂糖や白い小麦製品に偏らないようにする。どちらのスタイルでも、食卓の中心を「加工度の低い食品」に戻すことが共通のポイントだ。


ダイエット論争から、食卓の現実へ

低糖質か低脂質かという議論は、わかりやすい。敵を一つに決められるからだ。糖質が悪い、脂質が悪い、カロリーが悪い、肉が悪い、米が悪い。そう言い切る方が、情報としては広まりやすい。

しかし、体は単一の栄養素だけで動いているわけではない。食事は、食品の組み合わせであり、生活習慣であり、文化であり、継続できる行動でもある。糖質や脂質の比率だけを切り取っても、心臓にとって良い食事かどうかは判断できない。

今回の大規模研究が示したのは、食事の「名前」より「中身」を見る必要性だ。低糖質でも低脂質でも、健康的に組み立てられる。逆に、どちらのラベルを掲げていても、不健康な食品で構成されていれば心臓を守るとは限らない。

SNSの反応にあったように、これはある意味で拍子抜けするほど当たり前の話かもしれない。けれど、ダイエット市場が次々と新しいラベルを生み出すなかで、その当たり前を確認することには価値がある。

心臓に良い食事は、極端な我慢ではなく、毎日の選び方の積み重ねに近い。何を減らすかだけでなく、何を増やすか。どの栄養素を避けるかだけでなく、どんな食品で食卓を満たすか。

低糖質か、低脂質か。
その問いの前に、まず「質の高い食事か」を考える。
それが、心臓を守るためのもっとも現実的な第一歩なのかもしれない。


出典URL

ScienceAlert。低糖質・低脂質よりも食品の質が重要だと紹介した解説記事。
https://www.sciencealert.com/giant-study-reveals-the-secret-to-heart-health-isnt-low-carb-or-low-fat

Journal of the American College of Cardiology掲載研究。低糖質食・低脂質食の質、代謝指標、冠動脈疾患リスクの関連を調べた元研究。
https://www.jacc.org/doi/abs/10.1016/j.jacc.2025.12.038

American College of Cardiologyのプレスリリース。研究の概要、約20万人・30年以上の追跡、食品の質が重要という著者・専門家コメントを確認。
https://www.acc.org/about-acc/press-releases/2026/02/11/18/16/healthy-versions-of-low-carb-and-low-fat-diets-linked-to-better-cardiovascular-and-metabolic-health

EurekAlert / Harvard T.H. Chan School of Public Healthのリリース。研究対象、主な結果、約15%低い冠動脈疾患リスク、観察研究である点などを確認。
https://www.eurekalert.org/news-releases/1115888

HCPLiveのZhiyuan Wu氏インタビュー記事。食品の質が炭水化物・脂質の量より重要だという研究者本人の説明を確認。
https://www.hcplive.com/view/food-quality-more-important-than-carbs-or-fat-for-preventing-heart-disease-with-zhiyuan-wu-phd

TCTMDの解説記事。専門家による解釈、植物性食品・全粒穀物・不飽和脂肪の重要性、極端なケト食とは異なる点を確認。
https://www.tctmd.com/news/both-low-fat-and-low-carb-diets-tied-less-heart-disease

Reddit r/scienceのスレッド。SNS反応として、「マクロ栄養素より食品の質」「ホールフード、バランス、節度」といった一般ユーザーの受け止めを確認。
https://www.reddit.com/r/science/comments/1tst9f0/effect_of_lowcarbohydrate_and_lowfat_diets_on/

Reddit r/ScientificNutritionのスレッド。栄養に関心の高いユーザーによる、研究方法や低糖質・低脂質の定義への反応を確認。
https://www.reddit.com/r/ScientificNutrition/comments/1re9h13/effect_of_lowcarbohydrate_and_lowfat_diets_on/

Zhiyuan Wu氏のLinkedIn投稿。著者本人による研究の要点と、健康的な低糖質・低脂質食が心血管指標と関連したという発信を確認。
https://www.linkedin.com/posts/zhiyuanwuathsph_effect-of-low-carbohydrate-and-low-fat-diets-activity-7427774194018455552-XERr