若者だけ所得税ゼロ? 英国のアンディ・バーナム構想が日本に問いかける世代間格差

若者だけ所得税ゼロ? 英国のアンディ・バーナム構想が日本に問いかける世代間格差

英国の若者減税案は、なぜ日本人にも無関係ではないのか

英国で浮上した「Gen Z減税」案が、大きな議論を呼んでいる。

発端は、英国の有力政治家アンディ・バーナム氏が、若い世代の住宅購入を支援するため、就職後3年間の所得税免除を含む政策パッケージを検討していると報じられたことだ。対象は主にGen Z、つまり1990年代後半から2010年代前半に生まれた若い世代。狙いは、働き始めた若者が手取りを増やし、住宅購入の頭金を貯めやすくすることにある。

この話は一見、日本から遠い英国政治のニュースに見える。だが、実は日本にとってもかなり重要なテーマを含んでいる。なぜなら、この議論の中心にあるのは「若者が普通に働いても、普通の将来を描けなくなっている」という問題だからだ。

英国では、住宅価格の高騰や家賃負担の重さにより、若者が持ち家にたどり着くことが難しくなっている。日本でも、都市部の住宅価格上昇、家賃負担、奨学金返済、社会保険料の重さ、将来不安は若年層の生活設計に大きな影を落としている。さらに、英国ではブレグジットによってEU域内で自由に学び、働き、暮らす機会が狭まった。日本にはブレグジットのような出来事はないが、人口減少、円安、低成長、社会保障負担の増大という別の形で、若い世代の選択肢が圧迫されている。

だからこそ、バーナム氏の案は「英国の若者政策」としてだけでなく、日本が若者にどこまで本気で未来を返そうとしているのかを考える材料になる。


バーナム氏の構想とは何か

報道によれば、バーナム氏が検討している政策の中心は、若者がフルタイム雇用に就いてから最初の3年間、所得税を免除するという案だ。これにより、若者が住宅購入の頭金を貯めやすくし、いわゆる「賃貸の罠」から抜け出す道をつくることを目指している。

政策パッケージには、住宅購入支援だけでなく、rent to buyと呼ばれる家賃支払いから購入へ移行しやすくする仕組み、若者向けの公共交通支援、教育・雇用政策の見直しなども含まれるとされる。つまり、単なる減税ではなく、若者が「働く」「移動する」「住む」「資産をつくる」までを一体で支えようとする発想だ。

この点は日本でも参考になる。日本の若者支援は、しばしば少子化対策や子育て支援の文脈で語られる。しかし、結婚や出産の前に、そもそも安定した住まいを持てない、将来の家計を見通せない、移動や教育にお金がかかるという問題がある。若者政策を本気で考えるなら、「子どもを産んだ後」だけでなく、「若者が生活基盤を作る前段階」への支援が必要になる。


SNSで割れた反応――「希望」か「人気取り」か

この構想に対するSNSの反応は、かなり割れている。

 

まず目立つのは、若者支援を歓迎する声だ。英国では、住宅を買うどころか家賃を払うだけで精一杯という若者が多い。そうした層から見れば、政治がようやく若者の生活基盤に正面から向き合い始めたように映る。特に、ブレグジットによって欧州で働く・学ぶ自由を失った若者にとって、「若い世代を優先する政治」は新鮮に見える。

一方で、懐疑的な反応も強い。最大の疑問は財源だ。所得税を3年間免除すれば、当然ながら税収は減る。報道では、費用が数十億ポンド規模に及ぶ可能性も示されている。英国財政には余裕がなく、国防費、公共サービス、年金、医療など、他にも支出圧力は多い。SNSでは「聞こえはいいが、誰が払うのか」「結局は別の世代にツケが回るのではないか」という疑問が出ている。

さらに、税制の抜け穴を心配する声もある。税制専門家からは、親が子どもを利用して所得を移すような租税回避が起きるのではないか、対象者の線引きが難しいのではないかという指摘が出ている。フルタイム雇用だけを対象にするなら、非正規、自営業、ギグワーカー、介護や学業と両立する若者はどうなるのかという問題もある。

そしてもう一つ、SNSで強く表れているのがミレニアル世代の不満だ。Redditの英国政治系コミュニティでは、Gen Zを支援する一方で、年金のトリプルロックを維持する姿勢に対し、「ではミレニアル世代はどうなるのか」という反応が目立つ。ミレニアル世代もまた、金融危機、コロナ禍、住宅価格上昇、賃金停滞を経験してきた。彼らから見れば、若者支援と高齢者保護の両方が語られる一方、自分たちだけが政策の谷間に落ちているように感じられる。

これは日本でも起こり得る反応だ。仮に日本で「20代だけ所得税ゼロ」「新卒から3年間だけ社会保険料軽減」といった政策が出れば、30代・40代から「自分たちは就職氷河期、非正規化、住宅価格上昇、子育て費用を背負ってきたのに、なぜ対象外なのか」という声が出るだろう。若者支援は必要だが、世代を切り分ける政策は必ず別の世代の不満を生む。


ブレグジットと若者――失われたのは経済だけではない

今回の記事が興味深いのは、Gen Z減税案をブレグジット再考への希望と結びつけている点だ。

英国の若者にとって、ブレグジットは単なる貿易政策ではない。EU離脱により、英国民はEU域内で自由に働く、学ぶ、暮らす権利を失った。若者ほど、留学、就職、起業、移住、文化交流の機会を失った感覚が強い。しかも、2016年の国民投票当時に投票権を持たなかった若者も多い。自分たちが十分に決めたわけではない選択の影響を、長く背負わされているという意識がある。

これは日本に置き換えると、少し違う形で理解できる。日本の若者は、何か一つの国民投票で未来を奪われたわけではない。しかし、長年の低成長、硬直した雇用慣行、都市部への一極集中、社会保障負担の増加、実質賃金の伸び悩みの中で、少しずつ選択肢を狭められてきた。大きな政治イベントがあったわけではないからこそ、問題が見えにくい。

英国の若者は「EUとの自由な往来」を失った。日本の若者は「普通に働けば普通に暮らせる」という確信を失いつつある。形は違っても、共通しているのは、若い世代が未来の選択肢を減らされているということだ。


日本で同じ政策をやるなら、所得税より社会保険料が論点になる

では、日本で英国型の「若者所得税免除」を導入したらどうなるだろうか。

結論から言えば、日本では所得税だけを減らしても、英国ほどのインパクトは出にくい可能性がある。なぜなら、日本の若年層にとって重く感じられるのは、所得税だけではなく、社会保険料、住民税、家賃、奨学金返済、通信費、教育費などを含む固定負担全体だからだ。

特に社会保険料は、日本の現役世代にとって非常に大きな負担になっている。厚生労働省は、社会保障給付費が年々増加し、2026年度予算ベースで144.1兆円に達すると説明している。財務省も、2025年度の国民負担率を46.2%と見込んでいる。つまり、日本では税だけでなく、社会保障を支える負担全体が現役世代に重くのしかかっている。

若者支援を本気でやるなら、所得税減税だけではなく、社会保険料の軽減、住宅補助、家賃補助、奨学金返済負担の緩和、地方での雇用創出、公共交通の維持、保育・教育費の軽減を組み合わせる必要がある。英国のバーナム構想が示しているのは、まさにこの「複数の負担をまとめて見る」視点だ。

日本では、若者支援がどうしても「給付金」や「子育て世帯支援」に偏りがちだ。しかし、若者が結婚や出産に進む前には、住む場所、働く場所、移動手段、将来の貯蓄という土台が必要になる。そこに手を付けなければ、少子化対策も十分な効果を持たない。


日本の住宅問題は「家が足りない」だけではない

英国の議論では、若者が住宅市場に入れないことが中心テーマになっている。日本でも、住宅問題は若者の将来設計に深く関わっている。

ただし、日本の住宅問題は英国とは少し違う。日本全体では人口減少が進み、空き家も増えている。一方で、東京圏など一部の都市部では住宅価格が高止まりし、若者や子育て世帯にとって住まいの確保が難しくなっている。つまり、日本では「全国では家が余るのに、若者が住みたい場所では高い」というミスマッチが起きている。

内閣府は、50代以下の持ち家率低下には単身世帯の増加が大きく寄与していると分析している。また、40代までの住宅取得動機には結婚、出産、子育てといったライフステージの変化が関係している。これは重要な指摘だ。住宅を持てないから結婚や子育てをためらうのか、結婚や子育てをしないから持ち家需要が減るのか。現実には、その両方が絡み合っている。

若者の住宅支援は、単に家を買わせる政策ではない。人生の選択肢を早い段階で広げる政策である。賃貸でも安心して暮らせる制度、子育てしやすい広さの住宅、地方でも働ける雇用環境、中古住宅の流通、住宅ローンに頼り過ぎない住まい方。日本の場合は、こうした多様な選択肢を整えることが、英国型の住宅購入支援以上に重要になる。


年金を守り、若者も助ける――その矛盾をどう説明するか

バーナム氏の政策がSNSで批判されている理由の一つは、年金トリプルロックを維持する姿勢と、若者支援を同時に掲げていることだ。

年金トリプルロックとは、英国の年金額を賃金上昇率、物価上昇率、2.5%のうち最も高い基準で引き上げる仕組みである。高齢者の生活を守る政策として支持されてきたが、財政負担の大きさから見直し論も根強い。バーナム氏はRedditでこの制度を維持する考えを示したため、若者支援との整合性が問われている。

この構図は、日本にとって非常に身近だ。日本でも、社会保障給付の多くは高齢者向けに使われる。一方で、現役世代は税と社会保険料を負担しながら、自分たちの老後に同じ水準の給付があるのか不安を抱えている。若者支援を拡充するなら、財源はどこから出すのか。高齢者向け給付の見直しに踏み込むのか。資産を持つ高齢層にも応分の負担を求めるのか。避けて通れない問いである。

ただし、若者対高齢者という単純な対立にしてしまうと、議論は進まない。高齢者にも貧困層はいる。若者にも高所得層はいる。問題は年齢だけではなく、所得、資産、住宅の有無、家族構成、地域によって異なる。日本で必要なのは、世代間対立を煽ることではなく、「負担能力のある人により多く負担してもらい、未来への投資を増やす」という設計だ。


日本の政治に足りないのは「若者向けの大きな物語」

英国のGen Z減税案は、粗削りで、財源も制度設計も不透明だ。それでも注目されたのは、「若者を政治の中心に置く」というメッセージが明確だったからだ。

日本の政治にも若者向け政策はある。子育て支援、奨学金制度、住宅ローン減税、賃上げ政策、NISA、リスキリング支援など、個別の施策は存在する。しかし、それらが一つの大きな物語として若者に届いているかと言えば、疑問が残る。

若者が聞きたいのは、「数万円を配ります」という話だけではない。「この国で働き、住み、家族を持つかどうかを選び、老後まで見通せる人生を作れるのか」という問いへの答えだ。英国のバーナム構想は、少なくともその問いに政治が向き合う姿勢を見せた。日本でも本来、若者政策は住宅、税、社会保険料、教育、雇用、地域政策を横断する国家戦略であるべきだ。

SNSで懐疑や批判が出るのは当然だ。大胆な政策ほど、財源や公平性を問われる。しかし、批判を恐れて小さな政策だけを積み重ねれば、若者の将来不安は解消されない。重要なのは、夢のある政策を語ることと、現実的な財源を示すことを両立させることだ。


結論――英国の議論は、日本の未来への警告である

アンディ・バーナム氏のGen Z減税案は、まだ実現が決まった政策ではない。財源、対象者、制度の抜け穴、世代間公平など、課題は多い。SNS上で期待と批判が入り混じるのは当然である。

だが、この議論が示している本質は重い。若者が住宅を持てない。働いても将来が見えない。高齢世代への支出は守られる一方、若い世代への投資は後回しにされる。そんな社会で、民主主義への信頼は保てるのか。

これは英国だけの問題ではない。日本でも、若者はすでに多くの負担を背負っている。税、社会保険料、家賃、教育費、奨学金、将来不安。さらに少子高齢化が進めば、現役世代の負担は一段と重くなる。日本が英国の議論から学ぶべきなのは、「若者だけを優遇せよ」という単純な話ではない。若者が未来を描けない社会は、国全体の持続可能性を失うという現実である。

バーナム氏の案が成功するかどうかは分からない。しかし、若者を政治の中心に置くという問題提起には意味がある。日本でも、若者支援を選挙前の一時的な給付ではなく、住宅、雇用、社会保障、税制を横断する長期戦略として考えるべき時期に来ている。

英国のGen Z減税論争は、日本にこう問いかけている。

若い世代に「この国で生きていける」と思わせる政治を、私たちは本気で作るつもりがあるのか。


出典URL

・The Independent:アンディ・バーナム氏のGen Z向け税制案を、ブレグジット再考への希望と結びつけて論じた記事。
https://www.independent.co.uk/news/uk/politics/andy-burnham-brexit-gen-z-tax-breaks-b3008725.html

・The Independent Bulletin:若者の所得税免除、住宅購入支援、rent to buy、若者向け交通支援、費用規模などの政策概要。
https://www.independent.co.uk/bulletin/news/andy-burnham-tax-reform-policy-b3008823.html

・ITV News:バーナム氏がRedditのAMAで年金トリプルロック、総選挙、選挙制度改革、EUとの関係などについて答えたことを報じた記事。
https://www.itv.com/news/2026-07-03/from-the-triple-lock-to-electoral-reform-andy-burnham-takes-questions-on-reddit

・Reddit r/ukpolitics:年金トリプルロック、若者支援、ミレニアル世代の不満など、SNS上の反応傾向を確認。
https://www.reddit.com/r/ukpolitics/comments/1umlsg6/andy_burnham_announces_he_will_keep_controversial/・Reddit r/ukpolitics:バーナム氏の顧問による年金トリプルロック見直し論をめぐる反応。世代間公平への不満や懐疑的な声を確認。

https://www.reddit.com/r/ukpolitics/comments/1udsqdg/andy_burnhams_advisers_back_scrapping_pension/・Tax Policy Associates:英国の税制専門家ダン・ネイドル氏による、バーナム政権が財源を確保する場合の選択肢やキャピタルゲイン税改革に関する分析。

https://taxpolicy.org.uk/2026/07/03/andy-burnham-tax-rises-47bn/

・内閣府「令和6年度 年次経済財政報告」住宅ストックの展望と課題:日本の年齢別持ち家率、単身世帯増加、住宅取得動機に関する背景確認。
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je24/h03-02.html

・厚生労働省「給付と負担について」:日本の社会保障給付費、将来世代への負担先送り、世代間公平に関する背景確認。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21509.html

・財務省「令和7年度の国民負担率を公表します」:日本の国民負担率、潜在的国民負担率に関する確認。
https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/futanritsu/20250305.html

・OECD Affordable Housing:若者、低所得者、子育て世帯などにとって住宅費負担が国際的課題になっていることの背景確認。
https://www.oecd.org/en/topics/sub-issues/affordable-housing.html