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「心の安全第一」へ ─ ビクトリア州で始まった“心理的ハラスメント規制”のインパクト

「心の安全第一」へ ─ ビクトリア州で始まった“心理的ハラスメント規制”のインパクト

2025年12月08日 12:45

「心の安全」がついに法令レベルへ

オーストラリア・ビクトリア州で、職場のメンタルヘルスを巡る大きな転換点が訪れた。
2025年12月1日、「Occupational Health and Safety (Psychological Health) Regulations 2025(心理的健康規則)」が施行され、企業はこれまで以上に明確なかたちで「心の安全」を守る義務を負うことになったのである。Wyndham


従来も、各社が独自にストレスチェックやEAP(従業員支援プログラム)を導入する例はあった。しかしそれらはあくまで“努力目標”としての色合いが強く、「やっていれば良い会社」「やっていなくても違法ではない」というグレーな位置づけだった。
今回の規則は、メンタルヘルスを職場の安全衛生の“周辺テーマ”から、“中核的な法的義務”へと一段引き上げるものだ。


WorkSafe(州の労働安全機関)のチーフ・ヘルス&セーフティ・オフィサーであるサム・ジェンキン氏は、発表の中で「これからの安全とは、身体だけでなく心のリスクも同じ真剣さで扱うことだ」と強調している。worksafe.vic.gov.au


新規則が求める「心理社会的ハザード」対策とは?

新たな規則のキーワードは「psychosocial hazards(心理社会的ハザード)」だ。
これは、仕事の設計や職場の人間関係、業務の進め方などが原因となって、ストレスや心理的負担を引き起こす要因を指す。WorkSafeは、具体例として次のようなものを挙げている。worksafe.vic.gov.au


  • いじめ・パワーハラスメント

  • セクシュアルハラスメントやジェンダーに基づく暴力

  • 顧客・利用者・同僚からの暴言や暴力、攻撃的なふるまい

  • 事故・事件・虐待など、トラウマになり得る出来事やコンテンツへの繰り返しの曝露

  • 高すぎる(あるいは低すぎる)業務量・責任

  • 裁量のなさ、役割の不明確さ

  • 評価・報酬の不公平感、組織変更の乱暴さ、上司からのサポート不足 など


新規則では、ビクトリア州内のほぼすべての雇用主に対して、こうした心理社会的ハザードを:

  1. 特定する(identify)

  2. リスクを評価する(assess)

  3. 可能な限りリスクを除去、難しければ低減する(eliminate or reduce)

  4. 対策をモニタリングし、必要に応じて見直す(review & revise)

という一連のプロセスで管理することが義務づけられた。worksafe.vic.gov.au


単に「相談窓口があります」と掲示するだけでは不十分で、組織としてリスクを構造的に減らすための仕組みづくりが求められている点が重要だ。


背景にある「見えない労災」の増加

なぜ、ここまで踏み込んだ規則が必要になったのか。
背景には、「心の病」が静かに広がり続けているという現実がある。


ビクトリア州では、2024〜25年のWorkSafeへの労災申請のうち、約17%がメンタルヘルス関連の負傷・疾患に関するものだったと報告されている。labourhireauthority.vic.gov.au


一件一件は目に見えにくくとも、うつ病や不安障害、PTSDなどによる休職・退職は、企業にとっても社会にとっても大きな損失だ。


特にリスクが高いとされるのは:

  • 建設業や製造業など、高い負荷と危険を伴う現場

  • 顧客対応が多いコールセンター・小売・サービス業

  • 児童福祉・医療・介護・対人支援など、他者の苦しみやトラウマに日常的に向き合う職種

といった領域だ。worksafe.vic.gov.au


こうした現場では、「仕事だから仕方ない」「みんな我慢している」という慣習が長く続いてきた。しかし、その“我慢”の積み重ねが、ある日突然の離職や自殺企図といった最悪の事態につながることもある。


新規則は、まさにこうした「見えにくいが深刻なリスク」を法律の光の下に引きずり出そうとする試みだと言える。


チェックリストではなく「仕組み」の変革を

では、企業は実際に何をすれば良いのか。
WorkSafeの資料や各種の法律解説を見ると、以下のようなステップが推奨されている。worksafe.vic.gov.au

  1. 現状把握

    • ハラスメントや暴力、長時間労働などに関する苦情・相談・事故報告を洗い出す

    • ストレスチェックや従業員サーベイを実施し、部署ごとの負担や不満を可視化する

  2. リスクアセスメント

    • どの部署・業務で、どのような心理社会的ハザードが強く出ているかを分析

    • その頻度と深刻度を評価し、優先順位をつける

  3. リスク低減のための具体策

    • 業務の量や締切の見直し、交代制の改善

    • ハラスメント行為をしない・許さない文化を徹底するためのポリシーと研修

    • トラウマとなり得る内容に接する職種では、ローテーションや事後ケア(デブリーフィング)の体制を整える

    • 中間管理職が“板挟み”で燃え尽きないよう、マネジメント向けのサポートも用意する

  4. モニタリングと改善

    • 苦情や離職率、病気休暇のデータなどを定期的に見直し、対策の有効性を検証

    • 経営層・現場・人事・安全衛生担当が対話しながら、施策をアップデートしていく


ポイントは、「メンタルヘルスのセミナーを1回やったから終わり」ではなく、リスク管理サイクルの中に心理的なリスクを組み込むことだ。
法律事務所の解説では、単なる情報提供や研修だけに頼るのではなく、業務の設計そのものを変えることが求められると指摘されている。minterellison.com


ウィンダム地域の現場感──期待と戸惑い

今回のニュースを伝えたWyndham Star Weeklyの記事は、メルボルン西部ウィンダム地域の企業や働く人びとにとって、この新規則が身近なテーマであることを示している。Wyndham


例えば、ある中規模物流会社では、早くからフォークリフト事故や転倒・転落などの「身体の安全」には力を入れてきたが、夜勤の孤独感や、顧客クレームにさらされ続ける事務スタッフのストレスには、十分な対策が取られてこなかったという。
同社の人事担当者はこう話す。

「これまでも『何かあったら相談してね』とは伝えていましたが、正直どこまで踏み込んで良いのか手探りでした。
新しい規則のおかげで、会社として“ここまでやるべき”というラインが見えた気がします」


一方で、小さなカフェを営むオーナーは、こうした動きを歓迎しつつもコスト面を心配する。

「暴言を吐くお客さんもいるし、スタッフの心のケアが必要なのは分かっています。
でも中小の飲食店が、どこまで制度化できるのか……。行政や業界団体のサポートがないと厳しいですね」

こうした“期待と戸惑い”の両方が、今の現場のリアルだろう。


SNSでの反応:「ようやく時代が追いついた」vs「中小泣かせでは?」

新規則の施行は、SNS上でも議論を呼んでいる。
X(旧Twitter)やFacebookなどを眺めると、主に次のような声が目立つ。


歓迎派の声

  • 「うつ病で退職した自分からすると、これくらいやってくれないと変わらない。やっと時代が追いついてきた感じ」

  • 「身体の安全だけ守ればOKって時代は終わり。メンタルが壊れたら人生そのものが崩れるんだから、当然の流れ」

  • 「これをきっかけに、管理職の“パワハラマネジメント”が見直されてほしい」


懸念・慎重派の声

  • 「中小企業にとっては、また新しい書類と手続きが増えるだけでは? 現場の実情を分かっているのか不安」

  • 「従業員と揉めたときに“心理的安全じゃない”と何でもかんでも訴えられそうで怖い」

  • 「結局、罰則ありきで始めると“形だけのチェックリスト”になるのでは?」


建設的な意見

  • 「罰則よりも、現場のいい事例をどんどん共有してほしい。成功パターンが見えれば、企業も動きやすいはず」

  • 「労働者側も“全部会社のせい”にするのではなく、お互いにどう環境をよくするか考えるフェーズに入ったと思う」

つまり、多くの人が「方向性としては賛成だが、運用を誤ると反発も大きくなり得る」と感じているといえる。


守りの“コンプライアンス”から、攻めの“組織づくり”へ

では、企業はこの新規則をどう捉えるべきだろうか。
単に「罰則を避けるために最低限やるべきこと」と見るか、それとも「組織文化をアップデートするチャンス」と見るかで、結果は大きく変わる。


心理社会的ハザードは、裏を返せば「働きづらさ」や「不公平感」の集積だ。
これをていねいに拾い上げていくことは、離職率の低下や採用力の向上、イノベーションの促進など、多くのポジティブな効果につながりうる。


  • いじめや理不尽な叱責が減れば、若手社員が安心して意見を出せる

  • 業務量や責任の配分が透明になれば、「あの人だけ得をしている」という不満が減る

  • トラウマになり得る仕事に対して、きちんと準備と事後ケアをすれば、専門職を長く続けられる

こうした変化は、法律がなくても本来は目指すべき状態だったはずだ。


新規則は、その取り組みを「やってもやらなくてもよい善意の施策」から、「やらなければならない最低限のライン」へ押し上げたに過ぎないとも言える。


これから問われるのは「対話力」と「実装力」

心理社会的リスクは、マニュアルだけで解決できるものではない。
部署や職種、個々のライフステージによって“しんどさ”の内容が違うため、「現場との対話」が何より重要になる。

  • 経営層:
    メンタルヘルスをコストではなく投資として捉える姿勢を示し、リソースを割く決断をする

  • 管理職:
    叱責一辺倒のマネジメントから、「成果」と「ケア」のバランスをとるスタイルへシフトする

  • 従業員:
    我慢し続けて限界を迎える前に、声を上げたり、相談したりできる風土を一緒につくる


法律は、こうした対話を促す“強制力のあるきっかけ”に過ぎない。
本当に職場が変わるかどうかは、日々のミーティングや1on1、何気ない雑談の中で、どれだけ安心して本音を話せるかにかかっている。


結び──「心の安全」が当たり前の未来へ

ウィンダムのような地域紙が、心理的健康規則のニュースを大きく取り上げていること自体、時代の変化を象徴している。Wyndham


かつて「メンタルの話はプライベートの問題」とされてきた世界から、「仕事の設計やマネジメントの仕方として正面から向き合うべきテーマ」へ。
今回の新規則は、その流れを一気に加速させることになるだろう。


もちろん、制度の運用には試行錯誤がつきものだ。
中小企業への支援や、業界ごとのガイドライン整備、現場の声を踏まえた規則の見直しなど、今後やるべきことは多い。


それでも、「心の安全」が法的に保障される方向へ舵を切ったことは、働く一人ひとりにとって大きな前進だ。
この流れがビクトリア州にとどまらず、他の州や国、そしてあなたの職場へと広がっていくかどうか──それは、これからの私たちの選択にかかっている。



参考記事

新しい規制により、心理的健康が優先事項に
出典: https://wyndham.starweekly.com.au/news/new-regulations-make-psychological-health-a-priority/

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