配信がテレビ・ラジオを抜く年に ― ドイツの予測が映す、日本のメディアの未来

配信がテレビ・ラジオを抜く年に ― ドイツの予測が映す、日本のメディアの未来

帰宅してテレビをつける。けれど、選ぶのは放送中の番組ではなく、動画配信アプリ。移動中はラジオの周波数を合わせる代わりに、スマートフォンで音楽や音声番組を再生する。

そんな日常の変化が、メディア業界のお金の流れを塗り替えようとしている。

ドイツのFOCUSが2026年10月21日に掲載した記事によると、民間メディア団体VAUNETは、同年の動画・音声ストリーミングの売上高が、テレビやラジオなど従来型サービスを初めて上回ると予測した。

ただし、これは「テレビを見ている人より、配信を見ている人が多くなった」という単純な話ではない。そして、配信市場が伸びれば、番組や音楽を届けるすべての企業が豊かになるわけでもない。

今回の予測から浮かび上がるのは、配信への移行と同時に進む、収益の集中という問題だ。


「初の逆転」は視聴時間ではなく売上高

FOCUSが紹介した予測では、2026年のドイツのストリーミング売上高は約86億ユーロとなり、対象となる音声・映像メディア市場の52%を占める見通しだ。2019年には26%だった構成比が、7年間で倍になる計算になる。

市場全体の売上高は、前年比1.8%増の約163億ユーロ。成長を支えるのは、動画・音声ストリーミングの収入増だという。

ここで押さえておきたいのは、数字の意味である。

この「52%」は、視聴率や利用者数、視聴時間の割合ではない。広告や有料サービスなどを通じて得られる売上高についての予測だ。また、新聞・出版などを含むメディア産業全体が対象というわけでもない。

したがって、「人々がメディアに使う時間の半分以上が配信になった」「テレビの社会的な役割が半分以下になった」と読み替えることはできない。

それでも、収益の中心が動くことの意味は大きい。広告を売り、コンテンツを仕入れ、新しい番組を作るための資金が、どの領域に集まるかが変わるからだ。


放送広告は減少、配信広告は二桁成長へ

元記事に掲載された主な予測値を整理すると、従来型サービスと配信の勢いの違いが見えてくる。

分野2026年の売上高予測前年比
テレビ広告約31億ユーロ6%減
ラジオ広告約6億3,600万ユーロ6%減
動画ストリーミング広告約25億ユーロ15%増
音声ストリーミング広告約1億4,700万ユーロ10%増
有料動画オンデマンド約37億ユーロ4.5%増
有料音声サービス約22億ユーロ5%増
従来型の有料テレビ約19億ユーロ4%減

※いずれもFOCUSが報じたVAUNETの予測。金額は丸められている。

注目したいのは、配信市場の拡大が月額課金だけによるものではないことだ。動画配信広告は15%増、音声配信広告は10%増と、いずれも二桁の伸びが見込まれている。

配信は、利用者が料金を払うサービスであると同時に、広告主が視聴者に接触する場所でもある。

利用者から見ると、安いプランを選びやすくなる可能性がある一方、料金と広告の関係が複雑になる。サービスに加入するための料金と、広告を減らして快適に見るための料金が、別々に意識されるようになるからだ。

配信が広がるほど、視聴者にとっては「何が見られるか」に加え、「どの条件で見られるか」が大切になる。


配信広告の72%が4社へ――市場拡大の恩恵は均等ではない

今回の報道で、過半数という数字と同じくらい重要なのが「72%」だ。

元記事によると、ドイツの動画ストリーミング広告売上高の72%は、Alphabet、Amazon、ByteDance、Metaの4社に集中している。

これは動画配信の売上全体でも、すべてのサブスクリプション収入でもなく、動画ストリーミング広告という区分における割合である。

VAUNETのフランク・ギアースベルク専務理事が指摘するのも、民間メディア事業者が広告市場の成長を十分に取り込めていないという問題だ。

ここから考えられるのは、「放送から配信に移れば解決する」という戦略の難しさである。

番組をネットで見られるようにすることと、その視聴から十分な収益を得ることは同じではない。視聴者を集める入口や広告の販売経路を他社が握っていれば、コンテンツが人気を得ても、制作する側の収益が同じ割合で増えるとは限らない。

配信への対応は必要でも、それだけで経営が安定するわけではない。むしろ、どこで視聴者とつながり、どのように収入を確保するかが、以前にも増して問われる。


日本でもネット広告が過半数に。ただし、ドイツとは別の指標

この変化は、日本の読者にとっても遠い国の話ではない。

電通が2026年3月に発表した「2025年 日本の広告費」によると、日本のインターネット広告費は4兆459億円。総広告費に占める構成比は50.2%となり、初めて過半数に達した。

ただし、ドイツの「52%」とは集計対象が異なる。ドイツの数字は音声・映像分野の広告や課金を含む売上高の構成比で、日本の数字は広告費全体に占めるインターネット広告費の割合だ。両者を並べて、配信への移行がどちらの国で進んでいるかを判断することはできない。

それでも、広告の重心がネットへ移っている点には共通性がある。

国内の詳細分析では、2025年の動画広告は前年比21.8%増の1兆275億円となり、初めて1兆円を突破。2026年はさらに14.7%増の1兆1,783億円になると予測されている。

一方、テレビ由来のコンテンツにも成長の余地はある。電通の集計では、2025年のテレビメディア関連動画広告費は805億円で、前年比23.3%増だった。

つまり、テレビ番組が配信で見られるようになることは、テレビの制作力そのものが不要になることを意味しない。日本でも焦点になるのは、放送か配信かという二者択一より、作ったコンテンツをどこで届け、どう収益につなげるかだろう。


SNSの反応:月額料金に広告まで、という戸惑い

市場が成長していることと、利用者の満足度が高まっていることは別である。

 

海外掲示板型SNSのRedditでは、配信サービスの料金や広告への不満が投稿されている。

2026年9月9日の「r/Anticonsumption」の投稿では、月額料金を払っているのに広告も見せられる仕組みに、利用者が疑問を示していた。投稿の主旨は、配信がかつて期待された手軽さや快適さから離れているのではないか、というものだ。

一方、「r/nosurf」の別の投稿では、契約を見直したところ、複数サービスを合わせて月50ドル超を支払いながら、直近1カ月の視聴時間は合計で約6時間だったという体験が紹介されている。

この投稿者は、普段使う音楽サービスを残してほかを解約し、今後は動画サービスを一つずつ月単位で契約し、見たいものを見終えたら切り替える方針を述べていた。

ここには、二つの違う不満がある。

一つは、支払っている金額と視聴体験が見合わないという不満。もう一つは、見たい作品を逃したくないために、あまり使わない契約まで維持してしまうという負担だ。

ただし、これらは今回のドイツの予測記事に直接寄せられた反応ではなく、配信サービス全般についての公開投稿である。また、個人の体験や意見であり、日本やドイツの利用者全体を代表する調査結果ではない。

その限界を踏まえても、「サービスを契約していること」と「十分に楽しめていること」の間に隔たりが生まれうる点は、日本の視聴者にも身近な問題だ。


「解約しない人」を待つより、「また戻りたい」と思えるサービスへ

SNSに見られる月ごとの契約切り替えは、配信事業者にとって考えるべき利用行動だ。

視聴者が一つのサービスに長くとどまるとは限らないなら、契約者数を増やすだけでなく、利用している期間に十分な満足を届ける必要がある。

見たい作品を探しやすいか。料金と広告の条件がわかりやすいか。継続して支払う理由があるか。いったん離れた人が、次の作品のために戻ってきたいと思えるか。

こうした点が、コンテンツの本数と同じくらい重要になっていく。

日本の視聴者にとっても、配信を楽しむためにすべてのサービスを常時契約する必要はない。自分が実際に見ているものと、請求されている料金を照らし合わせるだけで、利用の仕方は変わる。

配信の強みである「自分で選べること」は、作品の選択だけでなく、契約の持ち方にも当てはまる。


過半数の先にある、本当の競争

ドイツで配信売上高が従来型サービスを上回るという予測は、メディア市場の節目を示している。ただ、それを「テレビの敗北、ネットの勝利」と捉えるだけでは、肝心な部分を見落とす。

配信市場が伸びても、収益は一部の大手に集中しうる。広告収入が増えても、視聴者の不満が増える可能性がある。作品にアクセスしやすくなっても、契約や料金の管理が負担になることはある。

日本のメディア企業やコンテンツ制作者にとっての課題は、配信すること自体から、その先へ移りつつある。

視聴者が納得して使い続けられること。そして、作品や番組を作る側にも、次の制作へつながる収入が届くこと。

配信が主役になった後の競争を左右するのは、売上高の大きさだけではなく、その二つを両立できるかどうかだ。


出典・参考資料

  1. FOCUS「Prognose: Streaming überholt erstmals klassische Medien」
    2026年10月21日掲載。VAUNETの秋季予測に基づくドイツの配信市場規模、各分野の増減率、巨大テック4社への広告収入集中の出典。
    https://www.focus.de/panorama/welt/prognose-streaming-ueberholt-erstmals-klassische-medien_7ba7c80c-12ff-4cec-ae20-58ed8584baf0.html

  2. 電通「2025年 日本の広告費」
    日本のインターネット広告費4兆459億円、総広告費に占める50.2%という構成比、テレビメディア関連動画広告費の出典。
    https://www.dentsu.co.jp/news/release/2026/0305-011003.html電通ウェブサイト

  3. 電通デジタルほか「2025年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」
    2025年の国内動画広告市場1兆275億円と、2026年の予測値1兆1,783億円の出典。
    https://www.dentsudigital.co.jp/news/release/services/2026-0305-000300電通デジタル

  4. Reddit・r/Anticonsumption:有料配信と広告への疑問を述べた投稿
    月額料金と広告の両方を負担することへの不満を紹介するために参照。個人の意見であり、世論調査ではない。
    https://www.reddit.com/r/Anticonsumption/comments/1wc0xmh/if_were_already_paying_for_streaming_why_are_we/reddit.com

  5. Reddit・r/nosurf:配信契約の支出と利用時間を見直した投稿
    月50ドル超の支出、約6時間の月間視聴、サービスを月単位で切り替える方針という体験談の出典。記述は投稿者の自己申告。
    https://www.reddit.com/r/nosurf/comments/1q3k0wx/cancelled_all_my_streaming_subscriptions_and/