“猫糞コーヒー”は本当に特別なのか — 腸内発酵のサイエンスが高級豆を変えた?コピ・ルアク「乳製品のような香り」の正体

“猫糞コーヒー”は本当に特別なのか — 腸内発酵のサイエンスが高級豆を変えた?コピ・ルアク「乳製品のような香り」の正体

「高級は腸でつくられる?」最新研究が投げかけた問い

“猫糞コーヒー”として知られるコピ・ルアク(ジャコウネココーヒー)。10月23日に公開された論文は、この高級豆の「化学的な違い」を初めて定量的に示した。研究チームは、インド・カルナータカ州のコーヒー農園で2025年1月に採取した糞便由来の生豆と樹上から手摘みした完熟豆(いずれもロブスタ)を比較。未焙煎の状態でガスクロマトグラフィー/質量分析(GC–MS)を行い、糞便由来の豆で総脂質が有意に高いこと、さらにカプリル酸メチルエステルとカプリン酸メチルエステルという2つの脂肪酸メチルエステル(FAME)が有意に多いことを示した。Nature


これらのFAMEは食品のフレーバー剤として広く用いられ、乳製品を思わせる香味に結びつくとされる。論文は、ジャコウネコの消化・発酵過程が豆の化学組成を変え、風味に影響する可能性を示唆している。Nature


それでも「焙煎が本体」—過度な一般化にブレーキ

ただし研究は未焙煎豆での比較であり、「焙煎によって脂質や揮発成分は大きく変化するため、今回の差がそのままカップに現れるとは限らない」と注意書きも添える。つまり、腸内発酵の“化学的フットプリント”は見えたが、最終的な香味の答えは焙煎・抽出で左右される、という冷静な立場だ。Nature


価格・流通と“アラビカ問題”

コピ・ルアクは1kgあたり1000米ドル超で取引されることもある。にもかかわらず、今回の対象はロブスタで、商流の中心とされるアラビカとは異なる点も押さえておきたい。研究自体も「分析はロブスタの未焙煎豆」に限っており、普遍化には追加研究が必要だ。Phys.org


メディアが伝えた要点

Nature系ニュースや一般紙もこの発見を「乳製品のような風味に関わる成分が多い」点を強調しつつ、「たとえ化学的差があっても、風味の大半は焙煎が作る」という専門家コメントを並記。タンパク質やカフェインの差については今回の研究では有意差なしとの報道で概ね一致している。Nature


倫理の論点:野生採取か、飼育か

論文の調査地では野生のジャコウネコの糞から豆を採取している。一方、市場では飼育施設で強制的にコーヒーチェリーを与える実態がたびたび告発され、動物福祉への懸念は根強い。高級嗜好品であるがゆえの倫理コストは、今回の科学的発見があっても解消しない。Nature


SNSの反応——“味”と“倫理”の綱引き

今回の報道を機に、日本含む各国のSNSでもコピ・ルアクが再燃。日本のテック系メディアもXで記事を流し、関心の高さがうかがえる。X (formerly Twitter)
コミュニティでは、概ね次の3系統の反応に分かれた。

  • 「味は過大評価」派:インドのコーヒー掲示板では「泥っぽい・焼き過ぎ」「他のスペシャルティのほうが上」とする実飲派の声。化学的差があっても味の優位は保証されないという現実的な反応だ。Reddit

  • 「野生採取であるべき」派:フィリピンのコーヒーコミュニティでは、**野生個体が完熟果実を選別する“選別効果”**こそ価値で、飼育は品質も倫理も損なうとの指摘。Reddit

  • 「思ったより良いが例外的」派:モカポット愛好家では、「ミルクチョコやキャラメルのように滑らかだった」と肯定的レビューも。ただし“ユニークな体験”としての希少性に寄る面も強い。Reddit

同時に、Redditなどでは**「倫理的にNG」**という強い拒否感も根強い。過去から続く動物福祉批判の文脈は、今も議論の背景にある。Reddit


研究が示した「化学差」の意味をどう飲み込むか

要するに、今回の論文は**“腸内発酵のサイン”を化学的に拾ったことに価値がある。脂質は香気成分の“運び屋”でもあり、FAMEの増加は乳感・コク**の一因となり得る。だが、

  • 未焙煎での比較であること

  • 品種がロブスタに限定されていること

  • ローストのプロファイルや抽出法が風味を左右すること
    を踏まえると、「コピ・ルアク=必ず旨い」という単純化はできない。Nature


買うなら“3つのチェック”

  1. 野生採取か(施設飼育・強制給餌は避けるのが筋)

  2. トレーサビリティ(採取地・採取方法・ローストプロファイル)

  3. テイスティング情報(焙煎度と抽出レシピ、官能評価の開示)

この3点が満たされない高額豆は、価格に見合う価値を提供できない可能性が高い。


結論

「腸がつくる風味の差」は、たしかに化学的に存在する。だが、最終杯の出来を決めるのは焙煎と抽出、そして私たちの倫理的選択だ。コピ・ルアクをめぐる最新研究は、単に“珍味”の裏側を暴いただけでなく、科学・味・倫理の三角形をどう折り合い、何にお金を払うのかを問い直している。Nature


参考記事

シベットコーヒーの鍵は化学にあります。
出典: https://phys.org/news/2025-10-key-civet-coffee-chemistry.html