70歳からでも遅くない。毎日の“音楽タイム”が認知症リスクを下げるかもしれない話

70歳からでも遅くない。毎日の“音楽タイム”が認知症リスクを下げるかもしれない話

「好きな音楽」が、老後の脳を守るかもしれない

高齢化が進み、認知症はもはや“誰か遠くの人の病気”ではなくなりました。ドイツだけでも約180万人が認知症を抱えており、2050年には230〜270万人に増えると予測されています。DIE WELT


決定的な治療薬がまだない今、「どうすれば少しでも発症を遅らせられるのか」は、多くの人にとって切実なテーマです。

そんな中、「音楽」が認知症リスクを下げるかもしれない、というニュースが世界で話題になりました。ドイツのニュースサイト「WELT」が紹介したのは、オーストラリア・モナッシュ大学による大規模な疫学研究です。DIE WELT


70歳以上1万人超のデータで見えた「音楽」と認知症リスク

研究チームは、ASPREE(ASPirin in Reducing Events in the Elderly)研究に参加した70歳以上の地域在住高齢者1万893人を対象に、音楽との関わり方とその後の認知症発症との関連を解析しました。research.monash.edu


調査したのは大きく3つのポイントです。

  1. どのくらいの頻度で音楽を聴いているか

    • 「ほとんど聴かない/たまに」「ときどき」「いつも」のように頻度を区分。

  2. 楽器を演奏しているか(頻度)

  3. 聴く+演奏する、両方に関わっているかどうか


そのうえで、年齢・性別・教育歴などの要因を統計的に調整し、十数年にわたる追跡データから「誰が認知症と診断されたか」を追いました。research.monash.edu


結果として、

  • 「いつも音楽を聴く」人は、
    ほとんど聴かない/たまにしか聴かない人に比べて、認知症リスクが39%低かった。DIE WELT

  • 「しばしば/いつも楽器を演奏する」人は、
    認知症リスクが35%低かった。DIE WELT

  • 聴く+演奏の両方をよく行う人では、
    認知症リスクが33%、軽度認知障害などのリスクも約2割下がっていたと報告されています。research.monash.edu


さらに、音楽に積極的に関わる人は、

  • 全体的な認知機能テストの成績がよく、

  • 日常の出来事を思い出す「エピソード記憶」のスコアも高かった
    ことが示されました。research.monash.edu


研究の責任著者であるジョアン・ライアン教授は、「現在、認知症を完全に治す治療法がない以上、発症を遅らせる、あるいはリスクを下げる生活習慣を見つけることが極めて重要だ」とコメントしています。DIE WELT


なぜ音楽が脳に良いのか

音楽が脳に良いらしい、という話は以前からありましたが、なぜそんなことが起こるのでしょうか。

  • 音楽を聴くとき、聴覚野だけでなく、

    • リズムに合わせて身体を動かしたくなる「運動系」

    • 楽しさや懐かしさを感じる「報酬系・感情系」

    • 歌詞の意味を理解する「言語系」
      など、広いネットワークが同時に刺激されます。ScienceAler

  • 特に、人生の出来事と強く結びついた曲は、
    「エピソード記憶」と呼ばれる記憶システムと深く関わっています。高校時代に聴いていた曲を耳にした瞬間、その頃の景色や匂いまでよみがえる──あの感覚です。The Washington Post


このように、音楽は複数の脳領域を一度に動かす“全身運動”のような刺激になり、長期的には認知機能の低下スピードをゆるやかにする可能性があります。ただし、今回の研究は「観察研究」であり、音楽そのものが直接の原因とまでは断定できません。Wiley Online Library


SNSでの反応:「うちの祖母も音楽が大好き」「でも、音楽だけじゃないよね」

WELTの記事やモナッシュ大学のプレスリリースが出ると、SNS上でもさまざまな声が飛び交いました。ここでは、印象的だった反応の“傾向”をいくつか紹介します(具体的な投稿は要約です)。


1. 共感と「うちの家族もそうだった」系の声

  • 「音楽好きだった祖父は、90歳を過ぎても歌詞をスラスラ覚えてた。あの記事読んで『やっぱりな』って思った」

  • 「認知症の母も、若い頃に踊っていたタンゴの曲を流すと、急に笑顔になって歌い出す。音楽の力は本当に大きい」

こうした“体験談”は、日本でも海外でもかなり多く見られました。介護の現場では、すでに音楽が「本人の機嫌や不安を和らげるツール」として広く使われていることもあり、「ようやくデータが追いついてきた」と感じる人も多いようです。arXiv


2. 「相関と因果は違う」という冷静なツッコミ

一方で、X(旧Twitter)ではこんな意見も散見されました。

  • 「音楽が好きな人はもともと社交的だったり、収入や教育水準が高い傾向があるんじゃ? それも影響してそう」

  • 「音楽を聴くだけで認知症が防げるなら苦労しない。あくまで“リスクを下げる可能性がある要因の一つ”と理解したい」

実際、研究でも年齢・性別・教育歴などを統計的に調整してはいるものの、「音楽好きな人は他の生活習慣も健康的である可能性」は完全には排除できません。研究チーム自身も「因果関係は証明されていない」と慎重な姿勢を示しています。research.monash.edu


3. 「じゃあ今日からやってみる」実践宣言の数々

ポジティブだったのは、「だったら今日から始めてみよう」という投稿がかなり多かったことです。

  • 「朝のニュースの代わりに、親の世代の歌謡曲プレイリストを流してみる」

  • 「祖母の好きだった童謡だけで1時間のプレイリスト作った。今週末、一緒に聴いてみる」

  • 「通勤中はポッドキャスト派だったけど、これ読んでから音楽の日を作った」

“完璧な根拠”がそろっていなくても、「副作用が少なく、今すぐできること」だからこそ、多くの人が行動を起こしやすいテーマだと言えそうです。ニュース.com.au


「音楽さえ聴いていれば大丈夫」ではない

ここまで読むと、「とにかく音楽を聴きまくれば認知症は防げる!」と思いたくなりますが、そこには注意も必要です。

  • 音楽の研究は観察研究であり、「音楽が認知症を防いだ」と因果関係を証明したわけではありません。

  • 認知症リスクには、高血圧・糖尿病・喫煙・運動不足・難聴・社会的孤立など、多くの要因が絡み合っています。ニュース.com.au

  • 専門家も「音楽はあくまで予防策の“ひとつのピース”であり、運動や睡眠、食事、社会参加と組み合わせて考えるべき」と強調しています。The Sun


それでもなお、音楽が注目される理由はシンプルです。

  1. コストがかからない(あるいは比較的安い)

  2. 喜びや癒やしをもたらす「ごほうび的な習慣」である

  3. 高齢者本人だけでなく、家族や介護者にとっても楽しみになり得る


「やらなければならない」予防策ではなく、「ついやりたくなる」予防策であることは、実はとても重要なポイントです。


今日からできる「音楽習慣」の取り入れ方

では、日常生活に音楽をどう組み込めばよいのでしょうか。研究は具体的な“正解メニュー”を示しているわけではありませんが、SNSの声や音楽療法の現場での知見から、こんな実践アイデアが見えてきます。ニュース.com.au


1. 「ながら聴き」からでOK

  • 朝、新聞やニュースを見ていた時間の一部を、ラジオやプレイリストに置き換える

  • 家事や散歩中のBGMとして、好きなジャンルの音楽を流す

無理に「座って集中して聴く」必要はありません。むしろ、日常の習慣とセットにすることで続けやすくなります。


2. 高齢の家族には「その人の若い頃」の曲を

  • 10代〜30代に聴いていた曲は、エピソード記憶と強く結びついていることが多く、「あの頃の自分」にアクセスする鍵になります。The Washington Post

  • 昔の写真アルバムを見ながら、「この頃どんな曲を聴いてた?」と会話し、思い出の曲でプレイリストを作るのもおすすめです。


3. 歌う・口ずさむ・身体を動かす

  • 歌詞を見ながら一緒に歌う

  • 手拍子や簡単なステップをつける

  • 椅子に座ったままリズムに合わせて足踏みする

リズムに合わせて声や身体を動かすことは、脳への刺激をさらに増やし、気分の改善にもつながります。ScienceAlert


4. 余裕があれば「楽器」にもチャレンジ

  • ハーモニカや鍵盤ハーモニカ、ウクレレなど、比較的始めやすい楽器から試してみる

  • 完璧に弾けなくても、「指を動かし、音を出し、耳で聴く」という複合的な活動自体が脳への刺激になります

モナッシュ大学の研究でも、「演奏する」人たちには35%のリスク低下が見られており、聴くことにプラスして取り入れる価値は大きいと言えます。research.monash.edu


それでも不安なら、専門家に相談を

最後に大事なことをひとつ。

  • 物忘れが増えた

  • 言葉が出てこないことが続く

  • 人や予定を頻繁に間違える

こうした変化が気になる場合、音楽だけに頼らず、必ず医師や専門家に相談することが重要です。音楽はあくまで「脳を守るための味方の一人」であって、「診断や治療の代わり」にはなりません。


とはいえ、音楽はほとんどの人にとってリスクの少ない選択肢であり、「今日からできる小さな一歩」です。


イヤホン一つ分のささやかな投資

認知症リスクが39%下がる、という数字だけを見るとセンセーショナルに感じますが、そこにある本質はもっと静かで、日常的なものかもしれません。


  • 好きな曲を1日数曲聴くこと

  • 思い出の音楽をきっかけに、家族と昔話をすること

  • 新しい音楽に触れて「まだこんな世界があったのか」とワクワクすること

その積み重ねが、10年後・20年後の自分の脳を、ほんの少しタフにしてくれるかもしれない。今回の研究とSNSでの反響は、そんな希望を私たちに投げかけています。Monash University


参考記事

「高齢者の定期的な音楽鑑賞が認知症リスクに与える影響 - WELT」
出典: https://www.welt.de/wissenschaft/article692437530f2241537f41a84b/wie-sich-regelmaessiges-musikhoeren-im-alter-auf-das-demenz-risiko-auswirkt.html