抹茶クライシス:世界的ブームが日本の茶畑を干上がらせる日

抹茶クライシス:世界的ブームが日本の茶畑を干上がらせる日

1 LAのカウンターで始まる物語

ロサンゼルス・ハイランドパークのミニマリストな抹茶バー。竹製茶筅の“シャカシャカ”という軽快な音が響く横で、20代の客がスマホを構え、鮮やかな緑のラテをスローモーション撮影している。価格は一杯12ドル(約1,900円)。それでも週末は行列が絶えない。「映えるし、カフェインクラッシュが少ないから」と客は語る。sg.news.yahoo.com


2 爆発的需要を生んだ“映え”アルゴリズム

TikTokで「#matchalatte」を検索すると再生回数は100億回超。3Dラテアートや和菓子コラボ動画が次々とバズり、関連タグ「#matchashortage」も急上昇。なかには「抹茶パウダーがどこにも売ってない!」と泣き叫ぶ動画が200万いいねを獲得した。トレンド解説系クリエイターの @TeaSavvy は「色・健康・文化ストーリーの三拍子がSNSアルゴリズムと相性抜群」と分析する。tiktok.com


3 輸出3倍、国内消費は右肩下がり

農林水産省の統計では抹茶(碾茶)輸出額は2015年比で約3.1倍に増加。一方、日本茶全体の国内葉茶消費量は同期間で2割減。輸出単価は国内卸の6〜8倍となり、京都・宇治や三重・伊勢の農家は相次いで碾茶栽培へシフトした。背景には円安とインフレで「外貨を稼げる作物」への期待がある。maff.go.jp


4 “抹茶難民”と卸値急騰

京都の老舗茶商は「昨年1kg 8,000円だった原料が今年は1万4,000円」と嘆く。高級薄茶用の“一番碾茶”は限られ、オークションでは中国・米国バイヤーがオンライン参戦し、価格は過去最高を更新中。茶道教室の先生からは「稽古用が確保できず生徒を増やせない」と悲鳴が上がる。


5 品質リスクと“混ぜ物”疑惑

抹茶ブームの影で「他産地の緑茶粉末をブレンドして日本産と表示」とする告発がRedditのr/teaコミュニティに投稿され、4,000超のコメントを集めた。茶商有志は産地・ロットを追跡できるブロックチェーン共同システムを検討中だ。reddit.com


6 環境負荷という落とし穴

抹茶用の茶葉は直射を避けるため20〜30日間ネットで覆う。遮光率を高める黒い寒冷紗の下では光合成不足を補うため窒素肥料を多用し、また遮光資材の大量廃棄が問題になっている。三重県度会町の若手農家・川上紘一さん(32)は「輸出需要を追い遮光面積を倍に増やしたが、夏場の地下水ポンプ稼働が電気代を圧迫する」と語る。


7 政府の「大規模化」プランと小農家の反発

農水省は2024年度補正で「茶業スマートアグリ支援事業」を新設、大面積ほ場へのドローン散布や自動摘採機導入を補助。しかし1ha未満の家族経営は「機械投資が重荷」と尻込み。伝統的な手摘み品質を守る奈良・月ヶ瀬の茶園主は「量より質を評価するラグジュアリーマーケットに活路がある」と語り、クラフト抹茶ブランドをD2Cで立ち上げた。


8 茶道界とカフェ文化の“ねじれ”

東京・表参道のカフェで提供される“濃厚抹茶モンブランラテ”は砂糖30g超。一方、茶道裏千家の教授は「本来の『点てる』体験を知らずに味だけが独り歩きしている」と懸念する。それでもカフェ利用者は「作法は難しい。甘さがカジュアルでいい」と笑う。文化継承と大衆化のせめぎ合いが際立つ。


9 海外発サステナビリティ認証の波

米スタートアップ「MatchaMark」は独自のサステナ認証で日本の有機農家と直接契約。LA店舗の壁には産地の空撮とCO₂削減量がARで表示され、客がスマホをかざすと農家のメッセージ動画が再生される。「透明性が価格プレミアムを生む」とCEOのエラ氏。日本茶業界は“外圧”で変革を迫られている。vogue.com


10 SNS世論――歓喜と怒号のコントラスト

TikTokでは抹茶スイーツの“爆速レシピ”動画が人気を博す一方、「高価格すぎる」「京都産と書いてあるのに香りが薄い」と批判も噴出。ハッシュタグ #めちゃ抹茶できない はわずか2週間で再生数1.1億回に到達した。インスタでは“偽宇治”検証リールが拡散し、投稿者は「透明性なきブームは続かない」と訴える。tiktok.cominstagram.com


11 伝統産地の矜持――宇治と八女

宇治の茶師は「色より香り」と言い、八女の茶農家は「濃厚な旨味」を誇る。だが海外ユーザーの多くは“派手な緑色”を高品質と誤解。宇治茶会の調査では「味より色」を重視する海外消費者が65%。茶師は「過度な着色嗜好が品質基準をゆがめる」と危惧する。


12 若手農家が挑む“第三の道”

鹿児島・知覧の若手農家グループ「Green Frontier」は、Shade(覆い)期間を半分にした“ライト抹茶”を提案。渋味と旨味のバランスでコーヒー愛好家を取り込み、クラウドファンディングで目標の250%を調達した。エイジレスな新市場開拓の萌芽が見える。


13 専門店の台頭と“第三波抹茶”

米国のサードウェーブコーヒー文化を引き継ぐ形で、NYやSFに“サードウェーブ抹茶バー”が登場。バリスタならぬ“チャリスタ”が石臼挽き、シングルオリジン、点て方選択など体験型サービスを提供し、「体験価値」で13ドルでもリピート率75%を誇るという。vogue.com


14 茶会×メタバースの可能性

日本のスタートアップが手がけるVR茶室「MetaChashitsu」は、NFT茶碗を購入すると仮想空間で点前体験ができ、リアルの抹茶パウダー50gが郵送される。海外ユーザー比率は7割。「メタ体験が本場への旅行意欲を掻き立てる」と観光庁も後押しする。


15 茶農家の未来シナリオ

人口減で耕作放棄地が増える中、抹茶は救世主か破壊者か。

  • シナリオA:輸出依存型モノカルチャー化――大規模化と機械化が進み価格競争へ。

  • シナリオB:多品種・観光複合モデル――茶摘み体験や宿泊を絡めたアグリツーリズムで高付加価値化。

  • シナリオC:クラフト抹茶エコシステム――小規模農家が地域ブランドを束ね、EUのPDO的保護制度を目指す。

16 消費者にできること

  1. 産地表示と加工地表示を確認

  2. 農家直販やトレーサビリティQRを選ぶ

  3. 適正価格を支払うことが産地支援に

フードジャーナリストの伊藤真由美氏は「“安く大量に”の欲望が巡り巡って茶畑を枯らす。フェアトレードと同じ視点が今こそ抹茶にも必要」と語る。

17 結語――“点てる”行為の再定義

茶道では一杯を点てる所作に「一期一会」の精神が宿る。SNS時代、私たちはその1クリックで地球の裏側の畑に影響を与える。一服の抹茶がもたらす静寂を想像しながらスマホを握る――それこそが、新しい“点前”なのかもしれない。


参考記事

「世界的な抹茶ブームで日本の茶農園が干上がる」
出典: https://www.ibtimes.com.au/global-matcha-obsession-drinks-japan-tea-farms-dry-1859394