ビートルズの遺産を背負うドラマー、ザック・スターキーの解雇に迫る:音楽界の裏側

ビートルズの遺産を背負うドラマー、ザック・スターキーの解雇に迫る:音楽界の裏側

Photo by Kubacheck, “Zak Starkey1.jpg”, via Wikimedia Commons, CC BY 2.0 (changes made if applicable).


「解雇された」——そう聞けば、たいていは人間関係の破綻や音楽性の対立が想像される。だが今回の話は、もう少し奇妙で、そして現代のロックバンドらしく“情報の揺れ”がそのまま炎上の燃料になった。


主役はザック・スターキー。ビートルズのドラマー、リンゴ・スターの息子であり、ザ・フーのツアードラマーとして1996年以降ほぼ30年を共にした人物だ。彼は米NYのロック局Q104.3のインタビューで、バンドからの離脱について「僕もまだ混乱してるし、たぶん彼らも混乱してる」と語り、世間の“決裂ストーリー”とは少し違う温度感を示した。 American Songwriter


発端は“初披露”の夜——曲が止まった瞬間

American Songwriterが描く発端は、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催されたTeenage Cancer Trustのチャリティ公演。バンドが1971年の楽曲「The Song Is Over」を“初めてライブ演奏した”その最中、フロントマンのロジャー・ダルトリーが歌の入りを見失い、曲を止めてしまった。記事によれば、聴覚の問題を抱えるダルトリーは「ドラムが大きすぎる」と不満を口にしたという。 American Songwriter


この“演奏中断”は象徴的だ。ザ・フーほどのレジェンドが、しかも「初披露」を止める。映像が断片的に拡散しやすい今、その瞬間は切り取られ、解釈が増殖する。「年齢と聴覚」「ステージのモニター環境」「リハ不足」「ドラマーの音量」——どれもあり得るが、どれも決定打ではない。


解雇→復帰→再解雇——説明が揺れたこと自体が“事件”になった

混乱に拍車をかけたのは、その後の発表が一枚岩ではなかった点だ。バンドは4月にスターキーとの決別を発表したが、その3日後には復帰が報じられ、ピート・タウンゼントは当初の外し方について「コミュニケーションの問題」を理由に挙げた。ところが5月には再び「離脱」が発表され、今度は「別の音楽活動に集中するため」と説明された。 American Songwriter


だがスターキー本人は、その説明を否定する。「自分の意思で辞めたわけではない」と主張し、バンド側から“辞める声明”を出すよう求められたが、それは嘘になるから出さなかった——とInstagramで述べている。 Instagram


この食い違いは、外野から見れば「どっちが本当なのか」という単純な対立構図に見える。しかし、当事者の発言を並べると、もっと厄介だ。Entertainment Weeklyなどは、ダルトリーとの電話で「クビではなく“retired(退いた)”と説明された」という趣旨も報じており、言葉の選び方ひとつで受け止めが変わる状態が続いていた。 EW.com


要するに「決定事項」としてスパッと終わったのではなく、発表が揺れ、ニュアンスが揺れ、当事者の言い回しも揺れた。その“揺れ”こそが、SNS時代の炎上に最も相性が悪い。


後任はスコット・デヴォーズ——ツアーは“終章”へ

スターキーの後任としてドラムを務めたのは、長年ダルトリーのソロバンドで演奏してきたスコット・デヴォーズ。彼はイタリア公演に続き、北米フェアウェル・ツアー「The Song Is Over Tour」に参加したとAmerican Songwriterは伝えている。 American Songwriter


英Guardianも、スターキーが「1か月の間に二度目の解雇」を通告された流れや、タウンゼントのSNS発信を報じ、“お別れツアー直前の交代”という衝撃を強調した。 The Guardian


ここで重要なのは、単なる“人事”ではなく「最後のツアー」と結びついてしまった点だ。ファンにとっては「終わり方」の問題になる。レジェンドバンドのラストランに、29年のドラマーがいない——それは感情を刺激する。


本人は“恨み”ではなく“困惑”を選んだ

ではスターキーは怒っているのか。少なくともAmerican Songwriterに引用されたインタビューでは、彼は怒りよりも困惑を前面に出している。「ロジャーとは友人のままだ」「敵になったわけじゃない」と語り、さらに「彼らは変えたかったり、変えたくなかったり、また変えたかったり……とにかく混乱した。彼らも混乱してるし、僕も混乱してる」と皮肉交じりにまとめた。 American Songwriter
そして決定的なのが、「友情を埋めるつもりはない。これは“バンド・ビジネス”だ」という姿勢だ。 American Songwriter


この“割り切り”は大人の対応に映る一方で、ファンにとっては逆にモヤモヤを増幅させる。「理由がないの?」「説明は?」「29年の功労者にそれでいいの?」——疑問が残れば、人はSNSに答えを探しに行く。


SNSの反応:同情・怒り・現実論が三つ巴に

今回の騒動は、SNS上で大きく3タイプの反応に分かれた印象だ(以下は公開投稿やコミュニティ反応の“傾向”の整理)。


1)スターキー擁護:「29年への敬意が足りない」
RedditのThe Whoコミュニティでは、スターキー本人の主張(“辞めた声明を求められたが拒否した”)が引用・共有され、功労者の扱いに憤る声や、交代劇のドタバタを嘆く声が目立つ。 Reddit


また、NMEの投稿(X上)でも「驚きと悲しみ」といった反応が拡散され、“ショック”を共有する空気ができた。 X (formerly Twitter)

 



2)バンド側・事情推測:「聴こえないなら現場は過酷」「音量問題は現実」
一方で、発端が「歌い手が聴こえない」状況だったと伝えられている以上、現場判断として“変化”が必要だったのでは、という見方もある。実際、バンド公式側は「コミュニケーションの問題」など、対立というより運用面の問題を示唆する発信も行っている。 Instagram


3)後任評価・割り切り:「誰が叩くかより、ツアーを成立させることが大事」
“フェアウェル・ツアーを止めない”ことを優先する現実論も一定数あった。タウンゼントの声明がメディアに引用される形で広がり、そこに賛同・反発がぶつかる構図が生まれた(声明そのものは複数メディアに引用されている)。 Stereogum


この三つ巴を生んだ最大の理由は、やはり「説明が確定しなかったこと」だろう。Billboardがこの件を「It’s a mess(めちゃくちゃだ)」と表現したのは象徴的で、ファン心理としては“解像度の低いまま終章に突入した”感覚が残る。 ビルボード


“スターの息子”という肩書きは、助けにも呪いにもなる

スターキーの場合、父がリンゴという事実は、注目を集める武器であると同時に、ドラマ化を促進する装置でもある。「ビートルズの血」「レジェンドの息子」「レジェンドバンドの解雇」——見出しとして強い。だからこそ、些細な情報の揺れが、巨大な物語として膨らむ。


だが当の本人は、少なくとも今回のインタビューでは“物語化”から距離を取ろうとしている。友情を強調し、恨みを否定し、「本当は最後までやりたかったけど、できなかった」と淡々と語る。 American Songwriter


ロックの歴史は解雇劇に事欠かない。けれど、最後の最後に起きた交代は、ファンにとって“音”の問題以上に“礼節”と“説明”の問題として残る。


次の一手:スターキーは“語り部”へ

American Songwriterによると、スターキーは2026年2月20日にNYのグラマシー・シアターで「Zak Starkey … Who?」というワンマンショーを予定している。キャリアを語り、演奏し、映像やゲストも交える構成だという。 American Songwriter


つまり彼は、沈黙ではなく“語る”方向へ進む。混乱の当事者が、混乱を材料に次の表現へ向かう——この動き自体が、今回の騒動の“アンサー”になるかもしれない。


そしてファンが本当に知りたいのは、誰が正しいかという裁定よりも、「納得できる終わり方」なのだろう。ザ・フーのツアーが今後2026年へ延長されるのか、あるいは完全に幕を下ろすのか。もし再び何らかの発表があるなら、今度は“揺れない言葉”が求められる。 American Songwriter



参考記事

ビートルズの伝説的メンバーの息子、バンドで約30年活動した後に2度解雇され、「まだ混乱している」と語る
出典: https://americansongwriter.com/son-of-beatles-legend-says-hes-still-confused-by-being-fired-twice-after-nearly-three-decades-with-his-band/