「友達がいなかった」17歳が語るメディア依存、治療現場で何が起きているのか

「友達がいなかった」17歳が語るメディア依存、治療現場で何が起きているのか

1日8時間、画面の中だけで過ぎていく青春

学校から帰っても、誰かと会う予定はない。部活もない。外に出る理由もない。部屋に入り、パソコンを起動し、ゲームを始める。気づけば夜になり、また翌日も同じことを繰り返す。

ドイツ・ニュルンベルクに住む17歳の少年、ヨナスの生活は、かつてそんな日々だった。多い日は1日8時間を画面の前で過ごした。ゲーム、動画、SNS。最初は単なる暇つぶしだった。だが、それはいつの間にか、友人関係、学校生活、趣味、生活リズムをのみ込んでいった。

きっかけはコロナ禍だった。外出が制限され、学校生活も不安定になり、子どもたちの生活から「偶然の出会い」や「外に出る理由」が消えた。ヨナスもまた、空白の時間を埋めるようにゲームを始めた。そこには達成感があり、仲間がいるような感覚があり、現実よりもわかりやすい報酬があった。

しかし、画面の中で過ごす時間が増えるほど、現実の生活は細っていく。友人はいなくなり、趣味も消え、学校での前進も止まった。本人の言葉を借りれば、自由時間はすべてコンピューターの中にあった。

メディア依存は、単に「スマホを見すぎる」「ゲームをしすぎる」という軽い話ではない。問題は、画面の時間が長いことそのものだけではなく、その結果として、眠る、食べる、学ぶ、体を動かす、人と関わる、自分を整えるといった生活の土台が崩れていくことにある。


治療現場に増える「メディアに生活を奪われた若者」

ヨナスが生活を立て直す転機になったのは、母親に促されて受けた3か月の治療だった。ニュルンベルクの病院で、個別面談やグループセラピーに参加し、少しずつ画面以外の時間を取り戻していった。

彼が治療の中で決めた目標は、定期的にフィットネスジムへ通うことだった。いきなりゲームを完全にやめるのではなく、空いた時間を別の行動で埋める。生活の中に責任や予定を増やす。画面の外に、小さな達成感を作り直す。そうした積み重ねによって、ヨナスは以前のように何時間もゲームを続ける生活から離れていった。

現在もゲームをまったくしないわけではない。ただし、かつてのように8時間続けることはない。ミニジョブを持ち、恋人ができ、学校生活にも向き合えるようになった。これは「依存からの卒業」というより、「依存に飲み込まれない生活の再設計」と言った方が近い。

ニュルンベルクの専門家によれば、問題のあるメディア利用で相談に来る若者は、パンデミック以降増えている。特にリスクが高いとされるのは、14〜15歳前後の男子、ADHD傾向がある子ども、抑うつや社会不安を抱える子ども、いじめや学校での失敗経験を抱える子どもたちだ。

依存は、本人の意志の弱さだけで説明できるものではない。現実で孤立している子ほど、画面の中の即時的な反応や承認に引き寄せられる。学校でうまくいかない子ほど、ゲーム内の勝敗やランキングに居場所を見つける。友人関係が不安定な子ほど、SNSの通知やメッセージを手放せなくなる。


生活の崩れは、歯磨きやシャワーにも表れる

メディア依存の深刻さは、成績低下や夜更かしだけでは測れない。専門家が注目するのは、日常生活の細部だ。

友人と会わなくなる。学校を休む。宿題をしない。寝る時間が遅くなる。食事が不規則になる。歯を磨く頻度が減る。シャワーを浴びることすら後回しになる。こうした変化は、単なる反抗期や怠けではなく、生活全体が画面中心に再編成されているサインでもある。

ベルヒテスガーデンのリハビリ施設でも、メディア依存のある若者向けのプログラムが行われている。そこでは、ゲームやSNS、動画配信を利用するために学校を休んでいた子どもたちも少なくないという。治療では、スポーツ、芸術療法、陶芸、グループ活動などを通じて、感情との付き合い方や自由時間の使い方を学ぶ。

ここで重要なのは、治療が「スマホを取り上げること」だけを目的にしていない点だ。子どもたちは、なぜ画面に逃げ込んでしまうのか、現実のどんな不安を避けているのか、何をしているときに落ち着くのかを少しずつ言葉にしていく。依存の背後にある孤独や不安を見ずに、端末だけを奪っても、根本的な解決にはなりにくい。


アルコール依存と違い、「完全な断絶」が難しい

メディア依存の治療が難しい理由の一つは、デジタル機器を完全に断つことが現実的ではない点にある。

アルコールや薬物であれば、治療後に「完全に摂取しない」という目標を設定しやすい。しかし、現代社会ではスマホやパソコンを完全に使わずに生活することは難しい。学校の連絡、宿題、友人とのやり取り、アルバイト、行政手続き、ニュース、地図、交通情報。生活のあらゆる場面にデジタル機器が入り込んでいる。

つまり、メディア依存からの回復は「使わない」ではなく、「どう使うか」を学ぶことになる。これは非常に難しい。なぜなら、依存の対象が毎日ポケットの中にあり、通知を鳴らし、暇な数秒を狙って入り込んでくるからだ。

しかも、SNSや動画サービス、ゲームアプリは、ユーザーが長く滞在するように設計されている。次の動画が自動再生される。勝利報酬が出る。ログインボーナスがある。通知が届く。短い動画が途切れなく流れる。本人の努力だけでこうした設計と戦うのは、子どもにとって非常に負担が大きい。


SNSでは「禁止すべき」と「禁止では解決しない」が対立

 

若者のメディア依存をめぐって、SNS上では大きく二つの反応が見られる。

一つは、年齢制限やスマホ利用制限を支持する声だ。親世代を中心に、「家庭だけで制限するのは限界がある」「学校や社会全体でルールを作ってほしい」「子どもが友人から取り残される不安を理由にスマホを手放せないなら、全体で制限した方がよい」といった意見が出ている。

特に、オーストラリアで16歳未満のSNSアカウント保有を制限する制度が始まったことを受け、欧州でも同様の議論が広がっている。SNS上では「完璧な制度でなくても、親が子どもに説明する材料になる」「子どもがSNSをやめる口実になる」「依存を個人や家庭の責任だけにするのは無理がある」といった反応が見られる。

一方で、強い反対意見もある。多くのユーザーが懸念するのは、年齢確認のために身分証や顔認証が必要になる可能性だ。子どもを守る名目で、すべての利用者に本人確認を求めるようになれば、プライバシーや匿名性が損なわれるのではないか、という不安がある。

また、「禁止しても子どもは抜け道を見つける」という声も多い。VPN、年齢詐称、別アカウント、親の端末の利用など、技術的な回避策はいくらでもある。あるSNSユーザーは、学校の生徒たちのスクリーンタイムを見ると、かなり長時間使っている子が少なくないと指摘し、単純な禁止よりも実態把握と教育が必要だと訴えていた。

Redditなどの掲示板では、さらに生々しい親の声も目立つ。「夜中までメッセージを送り続ける」「スマホを取り上げると激しく反発する」「制限アプリを入れても、子ども同士で抜け道を共有している」「親が厳しすぎると言われるが、午前3時にメッセージをする必要はない」といった投稿が相次いでいる。

中には、SNS禁止後に子どもが強い不安を示したという親の投稿もある。通知が来ないことに落ち着かず、友人が何をしているのか分からないことに焦り、取り残される恐怖を感じる。これは、依存の問題が単に「楽しいからやめられない」だけではなく、同調圧力や孤立不安とも深く結びついていることを示している。


「親が悪い」で済ませられない理由

SNS上では、「親がしっかり管理すればいいだけ」という意見も根強い。もちろん、家庭のルールは重要だ。食卓でスマホを使わない。寝室に端末を持ち込まない。充電場所をリビングにする。夜間は通知を切る。こうした具体的なルールは、子どもの生活を守るうえで効果がある。

しかし、問題をすべて親の責任にするのは現実的ではない。なぜなら、子どもが使っているサービスは、家庭内だけで完結していないからだ。友人関係、学校内の空気、流行、ゲーム内イベント、インフルエンサー、アルゴリズム、広告、課金設計。これらはすべて家庭の外側から子どもに働きかけてくる。

親が一人で制限をかけると、子どもは「自分だけが取り残される」と感じる。友人が使っているアプリを使えないことが、仲間外れの不安につながることもある。だからこそ、多くの親は「家庭のルール」と「社会的なルール」の両方を求めている。

一方で、親自身の使い方も問われている。専門家は、子どもは朝食のテーブルでスマホを見る親の姿を見ていると指摘する。子どもにだけ「スマホを置きなさい」と言っても、大人が常に通知に反応し、会話中も画面を見ていれば、説得力は弱くなる。

メディア依存は、子どもだけの問題ではない。家庭全体、学校、プラットフォーム、社会の設計が絡み合った問題だ。


危険なのは「時間」よりも「生活が置き換わること」

1日何時間から依存なのか。これは多くの人が気にする問いだ。しかし、時間だけで判断するのは難しい。

たとえば、同じ3時間でも、友人と創作活動をしているのか、宿題の調べものをしているのか、目的もなく動画を見続けているのかでは意味が違う。ゲームでも、友人と決めた時間だけ楽しむ場合と、学校を休んでまで続ける場合では深刻度が異なる。

より重要なのは、メディア利用が生活の何を奪っているかだ。

睡眠が削られていないか。学校に行けているか。食事や入浴、歯磨きができているか。友人と直接会う時間があるか。体を動かしているか。画面を使っていないときに強い不安やイライラが出るか。注意されたときに暴言や激しい反発が起きるか。

こうした変化が見られる場合、単なる「使いすぎ」ではなく、支援が必要な段階に入っている可能性がある。


必要なのは、禁止か自由かの二択ではない

若者のメディア依存をめぐる議論は、しばしば「禁止すべきか」「自由に使わせるべきか」という二択になりがちだ。しかし、現実にはその中間にこそ解決策がある。

子どもに必要なのは、デジタルから完全に隔離されることではない。これからの社会で生きる以上、SNSやAI、動画、ゲーム、オンラインコミュニティと無関係ではいられない。だからこそ、使い方を学ぶ必要がある。

ただし、「自分で学べ」と放置するには、プラットフォームの設計はあまりにも強力だ。子どもの注意を奪い、滞在時間を伸ばし、感情を揺さぶる仕組みが組み込まれている以上、家庭だけでなく、学校教育、医療、行政、プラットフォーム規制が連動する必要がある。

具体的には、寝室へのスマホ持ち込みを避ける、食事中は家族全員が端末を置く、学校でスマホ利用のルールを明確にする、依存傾向のある子には早期相談の窓口を用意する、SNS企業には未成年向けの設計制限を求める、といった複数の対策が必要だ。

ヨナスの回復が示しているのは、画面から離れるためには、画面の外に戻りたい場所を作る必要があるということだ。彼の場合、それはジムであり、仕事であり、恋人であり、学校生活だった。単に「やめなさい」と言われるだけでは、人は空白に耐えられない。依存から抜け出すには、空白を埋める別の時間、別の関係、別の達成感が必要になる。


画面の中に逃げ込む子どもたちに、大人は何を差し出せるか

メディア依存の問題は、子どもがスマホに負けた話ではない。むしろ、現実の世界が子どもにとって居づらくなったとき、画面の中が最も手軽で、最も反応が早く、最も傷つきにくい逃げ場所になっているという話だ。

そこで必要なのは、子どもから端末を奪うことだけではない。現実の側に、安心できる居場所を増やすことだ。失敗しても戻れる学校、比較されすぎない友人関係、画面以外で達成感を得られる活動、親子で対立する前に相談できる医療や支援の窓口。そうした受け皿がなければ、子どもはまた画面に戻っていく。

SNSでは、規制を求める声、自由を守るべきだという声、親の責任を問う声、プラットフォームの設計を批判する声が交錯している。どれか一つが完全な答えではない。だが、少なくとも共通しているのは、多くの人が「今のままでよい」とは感じていないことだ。

ヨナスは今もゲームをする。ただし、もう8時間続けることはない。これは小さな変化に見えるかもしれない。しかし、依存からの回復とは、劇的な断絶ではなく、生活を少しずつ取り戻す過程なのだろう。

問題は、子どもたちが何時間スマホを見ているかだけではない。画面を閉じたあとに、戻っていける現実があるかどうかだ。


出典URL

ドイツ・TZによる、17歳の少年ヨナスのメディア依存体験、ニュルンベルクの治療現場、専門家コメント、SNS年齢制限議論に関する記事
https://www.tz.de/welt/bis-zu-acht-stunden-taeglich-mediensucht-mit-dramatischen-folgen-zr-94306232.html

DAK-Gesundheit:ドイツの子ども・若者のメディア利用行動、SNS・ゲーム・動画視聴に関する調査の概要
https://www.dak.de/dak/gesundheit/psychische-gesundheit/sucht/mediensucht-bei-jugendlichen_46682

DAK-Gesundheit:2026年のメディア依存・AIチャットボット利用に関する調査発表
https://www.dak.de/presse/bundesthemen/kinder-jugendgesundheit/dak-suchtstudie-untersucht-jugendtrend-ki-chatbots-erhoehen-riskanten-medienkonsum_164470

Klinikum Nürnberg:子ども・若者向けメディア利用治療、グループ療法、親の関与に関する公式情報
https://www.klinikum-nuernberg.de/behandlung/seelische-gesundheit/kinder-/-jugendpsychiatrie/medientherapie

Charité Berlin:子ども・若者のメディア依存に対するリハビリ構想「MeKi」プロジェクトの概要
https://medizinsoziologie-reha-wissenschaft.charite.de/forschung/rehabilitationsforschung/medienabhaengigkeit_bei_kindern_und_jugendlichen_meki

オーストラリア eSafety Commissioner:16歳未満のSNSアカウント制限、実施状況、年齢確認・プライバシー懸念を含む公式情報
https://www.esafety.gov.au/about-us/industry-regulation/social-media-age-restrictions

オーストラリア政府:SNS最低年齢制度に関する公式説明
https://www.infrastructure.gov.au/media-communications/internet/online-safety/social-media-minimum-age

Reuters:オーストラリアを含む各国の未成年SNS規制の動向に関する報道
https://www.reuters.com/legal/government/australia-europe-countries-move-curb-childrens-social-media-access-2026-05-13/

Reddit:SNS年齢制限、親の管理、スクリーンタイム、依存への不安に関する公開投稿・コメントの傾向確認
https://www.reddit.com/r/australia/comments/1sov0xs/frustrated_parents_of_under16s_look_for_help_to/
https://www.reddit.com/r/perth/comments/1pmvcml/my_14yo_is_losing_it_over_the_social_media_ban/
https://www.reddit.com/r/Parenting/comments/1n6hrg5/parents_of_older_teens_what_were_your_rules_on/
https://www.reddit.com/r/AskAnAustralian/comments/1sk3kjs/what_are_the_effects_of_social_media_bans/