陰謀論は「事実」で倒せない ― 「論破」が逆効果になる瞬間 : 陰謀論に効くコミュニケーションの条件

陰謀論は「事実」で倒せない ― 「論破」が逆効果になる瞬間 : 陰謀論に効くコミュニケーションの条件

陰謀論は「間違い」ではなく「居場所」になる

「それ、陰謀論だよ。ファクトチェック見て」。私たちはつい、こう言って終わらせたくなる。けれど現実には、訂正しても訂正しても消えない話がある。むしろ訂正が燃料になり、信じる人の結束が強まることすらある。


1月7日にPhys.orgが伝えたのは、その“厄介さ”を正面から扱った研究プロジェクトの結論だ。欧州の国際共同研究 REDACT(Researching Europe, Digitalisation and Conspiracy Theories) は、オンライン陰謀論の形・中身・社会的影響を調べ、独語圏(ドイツ・オーストリア・スイス)では陰謀論がしばしばローカルに発生し、代替ニュースサイトや印刷メディア、政治領域の一部まで含む“複雑な生態系”を形成していると報告した。 フィジ.org


ポイントはここからだ。研究チームを率いたミヒャエル・バターは、陰謀論を「偽情報」や「フェイクニュース」と一括りにすることに慎重だという。陰謀論は単に誤った情報ではなく、信じる人に所属感を与え、アイデンティティ形成に働く。だから「事実で直す」だけではほどけない――この見立ては、陰謀論対策の前提をひっくり返す。 フィジ.org



6百万件の投稿が示した、“論破”の限界

REDACTの独語圏チームは、陰謀論に関連するキーワードから投稿をたどり、2019〜2024年の X(旧Twitter)、Facebook、Instagram、Telegram から 約600万件 を収集。数量的分析のあと、文学研究の手法も含む質的分析で「言葉のニュアンス」まで掘り下げたという。 フィジ.org


ここで重要なのは、陰謀論を“情報の正誤問題”だけで見ない姿勢だ。陰謀論には「説明しているつもりで世界を単純化する力」がある。敵と味方を分け、偶然を意図に変換し、複雑な社会不安に「わかりやすい物語」を与える。そしてその物語は、コミュニティの合言葉になる。事実を突きつけられても、世界観そのものが守られる構造になっている。


さらに研究は「陰謀論は全部が同じ危険度ではない」とも指摘する。独語圏では議論がしばしばアラーミスト(過度に危機を煽る)で一面的になり、そのことが対策プロジェクトに悪影響を及ぼうる、とバターは述べる。何でもかんでも同じ熱量で叩けば、対策が“正義中毒”になり、疲弊と反発を生む。 フィジ.org


「閉鎖すれば終わり」ではない——原因は“社会の条件”にある

では、どうすればいいのか。REDACTの結論は拍子抜けするほど現実的だ。万能のモデルはない。だからこそ「国や地域の文脈」「信じる層の年齢」「流通するメディア環境」に合わせて作戦を変えなければならない。 フィジ.org


キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のまとめ記事では、陰謀論が広がる背景に メディア報道、政治的な便乗、抗議運動、SNSアルゴリズム の“フィードバックループ”があると説明される。報道が「間違いだ」と扱うだけでも、可視化と拡散を促し、アルゴリズムが増幅し、政治家や運動体が利用し、さらに報道が追う——この循環が起きる。 kcl.ac.uk


またKCLの記事は、陰謀論が「不信」だけで生まれるのではなく、当事者が抱える正当な不安(自由の制限への懸念など)が、別の物語へ“変換”されることも指摘する。つまり陰謀論の採用は原因ではなく、より複雑な社会状況の“症状”として捉えるべきだ、という考え方だ。 フィジ.org


対策現場を苦しめる「短期資金」と「事務地獄」

研究チームは、各国で陰謀論・偽情報対策に取り組む組織(政府機関、教育団体、家族支援のイニシアチブ等)にもインタビューし、現場の実態を分析した。そこで浮かんだ課題は、地味だが致命的だ。


バターが挙げるのは、(1)古い前提に基づくプロジェクトがある、(2)資金が短期で硬直的、(3)報告書や官僚的手続きに時間が取られすぎる——という構造問題だ。対策は「良いこと」なのに、設計が悪いと“続けられない”。 フィジ.org


さらに、ドイツでは高校生向けのプログラムが多い一方、高齢層のほうが陰謀論に影響を受けやすい ので、他の学校種別や年長者向けにもプログラムを広げるべきだ、と研究者マラ・プレコマは述べる。 フィジ.org


ここは日本の読者にとっても他人事ではない。情報教育を「子ども向け」に閉じ込めると、家庭内・地域内での誤情報の連鎖を止めにくいからだ。


SNSの反応:拡散は少ないが、論点はハッキリ割れる

まず事実として、Phys.orgの当該ページは取得時点でコメント欄は0件、ページ内表示のシェアも0で、記事そのものはまだ大きく拡散している様子ではない。 フィジ.org


ただし、テーマ(陰謀論対策)自体はSNSで繰り返し議論されてきた領域でもあり、今回の記事が投げた論点に沿う形で、反応はだいたい次の方向に分かれやすい。

  • 「ファクトで殴るのは逆効果」派
    「訂正より関係づくり」「相手の不安や所属欲求に触れないと届かない」という主張。陰謀論が世界観・生活様式に結びつくという研究の説明と相性がいい。 フィジ.org

  • 「対策が“検閲”の口実になる」懸念派
    「陰謀論対策」の名のもとに、異論や少数意見まで一括で抑え込む危険がある、という警戒。KCLが述べるように、政治やメディアの関与がループを強めるなら、規制や運用の透明性が問われる。 kcl.ac.uk

  • 「現場の制度設計が先」派
    短期助成と硬直した評価指標で現場が疲弊する、という問題意識。研究が挙げた“資金と事務負担”の課題に直結する。 フィジ.org

  • 「若者より大人/高齢者こそ」派
    学校教育だけでは足りず、地域・職場・医療介護の場も含めた“生涯の情報リテラシー”が必要だという声。研究側も対象拡大を明確に提案している。 フィジ.org


※上の箇条書きは、当該Phys.org記事への個別投稿を引用したものではなく、「この記事が扱う論点に対してSNSで起こりやすい反応」を編集部要約として整理したものです(ページ自体の反応量が限定的なため)。 フィジ.org

じゃあ私たちは、どう話せばいいのか——「勝つ」より「ほどく」

REDACTが突きつけるのは、陰謀論対策を“正解の押し付け”から解放せよ、というメッセージだ。相手が守っているのは、情報の断片ではなく「自分の居場所」かもしれない。ならば、必要なのは論破の快感ではなく、ほどける環境づくりだ。


そしてそれは、個人の努力だけに任せるべきでもない。国・地域ごとの文脈に合わせた支援、継続可能な資金、現場を回す制度設計。陰謀論の「原因」を社会の側に探すという姿勢は、気持ちよく断罪して終わる態度より、ずっと難しい。だが、おそらくそれが近道だ。 フィジ.org


参考記事

陰謀論に対処するには、その理論と同様に多様な戦術が必要です。
出典: https://phys.org/news/2026-01-tackling-conspiracy-theories-requires-tactics.html