床から立てますか?「10秒で寿命がわかる」健康テストの本当の意味

床から立てますか?「10秒で寿命がわかる」健康テストの本当の意味

床に落ちた物を拾う。子どもと遊ぶために座る。掃除を終えて立ち上がる。

日常のありふれた動作でも、以前より手をつく回数が増えたり、立ち上がる前に少しためらったりすることがある。そうした変化は、体の状態を見直すきっかけになるかもしれない。

ドイツのニュースサイト「FOCUS online」は2026年10月29日、床への着座と立ち上がりを評価するテストを、「10秒」で死亡リスクがわかるという趣旨の見出しで紹介した。

確かに、この動作と将来の死亡リスクとの関連を示した研究はある。しかし、見出しから受ける印象と、研究が実際に確かめたことの間には距離がある。

床から立ち上がる動作は、体力を知る手がかりになる。ただし、個人の余命を言い当てるものではない。

この違いを押さえると、刺激的な健康ニュースは、暮らしに役立つ情報に変わる。


「座る・立つ」は、いくつもの能力を使う動作

今回取り上げられたのは、「シッティング・ライジング・テスト」、略してSRTと呼ばれる評価法だ。

立った状態から床に座り、そこから再び立ち上がる。その際、どれだけ支えが必要だったか、動作が安定していたかを確認する。

簡単そうに見えるが、脚の力だけでできるわけではない。股関節や膝、足首が十分に動くこと、自分の体重を支えられること、姿勢を崩さずに重心を移せることも必要になる。

たとえば、歩くことには困っていなくても、低い位置まで腰を下ろすのは苦手という人がいる。逆に、体は柔らかくても、そこから立ち上がる力が不足している場合もある。

SRTが捉えようとしているのは、こうした複数の能力が組み合わさった状態だ。血液検査などと競わせるのではなく、普段の診察に身体機能の情報を加えるものとして考えると理解しやすい。


4,282人の追跡で見えた、得点と死亡割合の違い

研究を進めたのは、ブラジルの運動医学クリニック「CLINIMEX」のクラウジオ・ジル・ソアレス・デ・アラウージョ氏らのチームだ。

対象は46〜75歳の4,282人。追跡期間の中央値は12.3年で、解析対象となった自然死は665人、全体の15.5%だった。新型コロナウイルス感染症による死亡や、事故など外的要因による死亡は除外されている。

SRTの得点別に見ると、観察期間中の死亡割合には次の違いがあった。

SRTの合計点観察期間中の自然死の割合
10点3.7%
8.5〜9.5点7.0%
8点11.1%
4.5〜7.5点20.4%
0〜4点42.1%

数字だけを見ると、大きな差に驚くかもしれない。

ただし、これはそれぞれの集団で観察された割合だ。「自分は4点だから、今後12年間に42.1%の確率で死亡する」と、そのまま個人に当てはめることはできない。参加者によって追跡期間も異なる。

年齢、性別、BMI、臨床的な要因などを考慮した解析でも、最低得点群は満点群に比べ、自然死のハザードが約3.8倍、心血管疾患による死亡のハザードが約6.0倍だった。

これは研究上の相対的な指標であり、「余命が何分の一になる」という意味ではない。


「10秒」は制限時間ではない

このニュースを読むうえで、特に注意したいのが「10秒」という言葉だ。

研究の実施方法では、参加者に対して、動作の速さは気にせず、必要だと思う最小限の支えを使って座り、立ち上がるよう指示している。

したがって、10秒以内に終わらせる競争ではない。素早く立ち上がったから高得点になるわけでもない。

採点は、座る動作と立ち上がる動作がそれぞれ5点満点で、合計10点。手、前腕、膝、脚の側面などを支えに使うと減点し、動作中にバランスを崩した場合も減点する。

なお、元記事には臀部を支えに使うことについての記述があるが、原論文の採点説明は「脚の側面」などを挙げている。床に座ってお尻が床につくこと自体を、減点だと理解してはいけない。

正確な評価には、動作と採点基準を理解した人の観察が必要になる。


低い点数は「短命の宣告」でも「病気の診断」でもない

ここで区別したいのが、「関連がある」と「原因である」だ。

今回の研究は、身体機能を評価した人たちを追跡し、その後の死亡との関係を調べた観察研究である。SRTが苦手なことそのものが死亡を引き起こすと証明したわけではない。

また、練習して点数を上げた人の寿命が延びるかどうかも、この結果だけではわからない。

研究対象はブラジルの一つのクリニックで評価を受けた人たちで、テストの実施を妨げる運動器の問題や臨床上の制約がある人は含まれていなかった。膝の痛みや障害がある人、日本の一般住民全体に、同じ数値をそのまま適用することはできない。

低い得点が出たときに考えたいのは、「あと何年生きられるか」ではなく、「何が動作を難しくしているのか」である。

痛みなのか、筋力なのか、関節の動きなのか、バランスなのか。原因によって必要な対応は変わる。点数だけで診断するのではなく、その背景を確かめることに意味がある。


SNSには、満点への関心と膝への不安

このテストは、今回のFOCUSの記事以前から、海外のSNSや掲示板でも話題になってきた。

 

Redditの自重トレーニングに関するコミュニティには、「立ち上がりテストで10点満点に近づくにはどうすればよいか」という趣旨のスレッドがある。

その中では、40代で満点を取れたことを喜んでいたものの、後に膝の問題が出てから、テストやその練習で膝に無理な力がかからないか気になり始めた、という体験が書き込まれている。

別の世代別コミュニティでも、以前は時々テストをしていたが、膝にとってよい動作なのか疑問を持つようになった、という投稿が確認できる。

これらは過去のSRTに関する個人の投稿であり、今回の記事に対する反応を集計したものではない。また、テストが膝の問題を引き起こしたと示す医学的な証拠でもない。

それでも、二つの受け止め方は見えてくる。自分の体力をわかりやすい点数で確認したいという関心と、その点数のために無理をしてよいのかという疑問だ。

健康情報を読む側にも、この両方の視点が必要だろう。やってみたくなる手軽さと、安全に評価できることは同じではない。


研究者も「自己流のチャレンジ」とは位置づけていない

研究責任者のアラウージョ氏は、医療専門メディアTCTMDの取材で、SRTは自己検査や運動そのものではなく、監督のある環境で使うスクリーニングの道具だと説明している。

この点は、「家で今すぐ試そう」という受け止め方を修正するうえで大切だ。

膝や股関節、腰に痛みがある人、めまいやふらつきがある人、床から戻れなくなる不安がある人は、点数をつけるために一人で無理をしないでほしい。気になる場合は、医師や理学療法士などに相談して、自分に適した方法で身体機能を確認するほうがよい。

立ち上がるために手をつくことも、日常生活では安全を確保するための自然な工夫だ。減点を避けようとして支えを我慢する必要はない。

研究で評価するためのルールと、暮らしの中で安全に動くための判断は、分けて考えたい。


日本の暮らしでは「できなくなった変化」に目を向ける

日本には、布団を敷く、座卓を使う、畳に座るなど、床に近い位置で過ごす場面がある。一方、ベッドや椅子を中心に暮らしていれば、床への座り立ちをほとんどしない人もいるだろう。

そのため、家族や友人と一度の点数を比べるよりも、自分の生活の中で何が変わったかを振り返るほうが、相談のきっかけとしては役立つ。

「以前より立ち上がりに時間がかかる」
「手をつかないと不安になった」
「床に座ることを避けるようになった」

そうした変化があれば、どの動作が難しいのか、痛みがあるのかを具体的に伝えられる。

反対に、床から軽やかに立てるからといって、健康上の問題がすべて否定されるわけではない。SRTは、血圧や血糖などの確認、必要な健診や診察に置き換わるものではない。


満点の練習より、体を動かす選択肢を増やす

この研究を日常に生かすなら、SRTの攻略だけを目標にする必要はない。

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、高齢者について、個人差に合わせて強度や量を調整し、今より少しでも多く体を動かすことを勧めている。

そのうえで、筋力・バランス・柔軟性などを組み合わせた多要素の運動を週3日以上、筋力トレーニングを週2〜3日行うことを推奨している。筋力トレーニングは、多要素の運動に含めてもよい。

座りっぱなしの時間が長くなりすぎないようにすることも、推奨事項の一つだ。

ただし、これらは全員が初日から同じ量をこなすためのノルマではない。体力や持病、痛み、転倒の危険に合わせて、できるところから始めることが前提になる。

目指したいのは、画面の向こうの誰かと点数を競うことではなく、自分の暮らしで必要な動作を続けられることだ。


寿命を当てるより、今の体に気づくために

「10秒で死亡リスクがわかる」という表現には、人を振り向かせる力がある。しかし、そこで話を止めてしまうと、低い点数への不安や、満点を取るための無理につながりかねない。

今回の研究が投げかけているのは、健康を考えるときに、筋力、柔軟性、バランスといった体の働きにも目を向けよう、という問いだ。

床から立ち上がることが難しくなったなら、その理由を確かめる。安全にできる運動を探す。必要なときには支えを使い、専門家の力も借りる。

一度の点数から未来を決めつける必要はない。ありふれた動作の変化に気づき、今日の行動を見直す。そのための手がかりとして、このテストを受け止めたい。


出典・参考資料

  1. FOCUS online:
    2026年10月29日掲載。床への着座・立ち上がりと死亡リスクを紹介。本稿では、原論文と照合して時間や評価の位置づけを補足した。
    https://www.focus.de/gesundheit/longevity/in-nur-10-sekunden-bodentest-zeigt-ihnen-ihr-sterberisiko_5d39f273-ee98-46eb-b270-5870f6f7c13f.html

  2. European Journal of Preventive Cardiology:研究の原論文
    対象者、採点方法、追跡結果、解析条件を確認。2025年6月18日オンライン公開。速さを気にせず実施するという指示も記載されている。academic.oup.com
    https://doi.org/10.1093/eurjpc/zwaf325

  3. TCTMD:研究責任者への取材記事
    SRTを監督下で使う評価法とする説明や、得点改善が生存上の利益につながるかは今後の研究課題であることを確認。tctmd.com
    https://www.tctmd.com/news/simple-sitting-rising-test-linked-natural-and-cv-mortality

  4. Reddit・bodyweightfitness:満点を目指す相談と膝への懸念
    検索で取得できた公開投稿の抜粋に基づく紹介。今回のFOCUS記事への直接的な反応ではなく、SRTに関する過去の議論。reddit.com
    https://www.reddit.com/r/bodyweightfitness/comments/1axv2ri/

  5. Reddit・GenX:立ち上がりテストについての体験談
    テストを時々行っていた人が膝への負担を疑問視する投稿を、検索で取得できた公開抜粋から確認。個人の感想として紹介した。reddit.com
    https://www.reddit.com/r/GenX/comments/188fag2/

  6. 厚生労働省:身体活動・運動ガイド2023の高齢者向け推奨事項
    多要素の運動、筋力トレーニング、座りっぱなしへの注意、個人差と安全への配慮について参照。健康日本21アクション支援システム Webサイト
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-004