子育てで減るのは給料だけではない ― 積立の空白が生む「将来のお金」の差

子育てで減るのは給料だけではない ― 積立の空白が生む「将来のお金」の差

子どもが生まれ、働き方が変わる。毎月の収入が減る一方で、おむつや衣類など、新たな出費が増えていく。

そんなとき、家計の調整対象になりやすいのが、将来のための積立だ。「今は少し減らして、復職したら元に戻そう」。無理のない生活を守るための、自然な判断だろう。

ただ、その一時的な減額が、数十年後の資産額にも影響することがある。

BUSINESS-PANORAMAが2026年10月24日に伝えたドイツの試算は、この見えにくい差を数字にしたものだ。比較サイトVerivoxのモデル計算によると、出産後の仕事の中断に伴ってETFへの積立を減らしたり止めたりすると、67歳時点の資産に約22万2,000ユーロの差が生じるケースがあるという。

大きな金額だが、まず押さえたい。これは「子どもを持つと必ず失う金額」でも、「育休中に請求される費用」でもない。一定の条件で投資を続けた場合と、中断した場合を比べた将来の資産差だ。


「22万2,000ユーロの差」は、どんな条件で生まれるのか

試算では、25歳から毎月300ユーロをETFに積み立て、67歳まで運用する人を想定している。ETFは、証券取引所に上場する投資信託のことだ。

仮定した年間の運用利回りは7.5%。積立を中断しなければ、67歳時点の資産は約99万1,000ユーロになるとされる。

比較するのは、この人が30歳で出産し、育児のために仕事を休むケースだ。

最初の1年間は、育児に伴う給付によって従来の収入の65%が補われると想定し、積立額も35%減らす。毎月300ユーロだった積立を195ユーロにする計算である。

1年間に積み立てる元本の差は、105ユーロの12カ月分、計1,260ユーロ。この後、毎月300ユーロの積立に戻しても、67歳時点では約1万7,700ユーロの差になるという。

仕事を休む期間が長くなるケースでは、モデル上、2年目から給付がなくなり、積立を停止する。3年間の休業なら約10万8,000ユーロ、6年間なら約22万2,000ユーロの資産差になると報じられている。

ここでいう6年間は、育児に伴う仕事の中断期間を想定したものだ。日本の育児休業制度や給付期間に、そのまま置き換えられるわけではない。


積み立てなかったお金だけでなく、「増える時間」も変わる

この試算の中心にあるのが、複利の効果だ。

投資で得た利益を再び運用に回すと、その利益も次の収益を生む元になる。運用期間が長いほど、最初に投じたお金以上に、再投資した利益の積み重なりが結果を左右する。

今回の6年間のケースでは、積み立てなかった元本の合計は1万9,260ユーロだ。それに対し、67歳時点の資産差は約22万2,000ユーロとされる。

違いが大きくなるのは、30代前半に投じなかったお金について、その後の数十年間に得られたと仮定する運用益まで計算しているからだ。

復職して積立を元に戻すことには意味がある。ただ、同じ毎月の金額に戻すだけでは、過去に積み立てなかった分と、その分の運用期間まで取り戻せるわけではない。

育児期の家計では目先の収支に意識が向きやすいが、この試算は、時間を通じて広がる差にも目を向けている。


年7.5%は約束ではない――数字を読むときの注意点

一方で、「最大22万2,000ユーロ」という数字だけを見て不安になる必要はない。

まず、年7.5%は計算上の仮定である。現実の投資は毎年同じように増えるわけではなく、価格が下がる年もある。積立を中断した時期や、その後の市場の動きによって結果は変わる。

また、元記事は税金を考慮していないと明記している。数十年先の金額は、物価上昇によって現在と同じ購買力を持つとは限らない。

そして「最大」という言葉も、あらゆる家庭についての上限を示すものではない。この記事で紹介されたモデルのうち、6年間の仕事の中断を想定したケースの数字だ。

この試算は、投資口座の将来残高を比較している。子どもと過ごす時間の価値、親の健康、保育環境、家庭ごとの事情まで評価したものではない。

したがって、ここから「積立を守るために早く復職すべきだ」と結論づけるのは飛躍がある。読み取るべきなのは、休業に伴う経済的な影響には、毎月の給与明細だけでは見えない部分もあるということだ。


SNSでは「育児をする側の積立を、パートナーが補う」という声も

育児と資産形成の関係は、海外のSNSでも話題になっている。

 

ただし、ここで紹介するのは今回の記事に直接寄せられた反応ではなく、育児休業中の家計や資産形成をめぐる公開投稿だ。投稿者の経験や意見であり、社会全体を代表する調査結果ではない。

ドイツ語圏のRedditの育児コミュニティでは、育休中の経済的な埋め合わせについて、夫が自分のETF積立に拠出しているという投稿が確認できる。

別の投稿では、2年間の育児期間中、夫が家計のほとんどを負担し、自分は給付から老後向けの投資や子どもの積立を続けていると説明されている。

また、金融コミュニティでは、育休に伴ってパートナーの収入が減り、老後への備えも少なくなることを不公平だと感じ、補う方法を考える相談もある。

これらに共通するのは、「今月の生活費が足りればよい」という視点だけではないことだ。家族のために働く時間を減らした人が、将来の備えまで減らすことをどう考えるか。その点が議論になっている。

家計を一つにまとめる家庭でも、別々に管理する家庭でも、この問いは残る。生活費を分担するルールと、長期の資産形成を支えるルールは、必ずしも同じではない。


日本では、まず給付の仕組みと「実際に使えるお金」を確認したい

日本の家庭が参考にする際には、ドイツのモデルと日本の制度を分けて考える必要がある。

日本の育児休業給付金は、一定の受給要件を満たす場合、原則として休業開始から180日までは休業前賃金の67%、その後は50%を基に計算される。給付には上限があり、休業中に支払われる賃金などによっても金額が変わる。

さらに、2025年4月に始まった出生後休業支援給付金では、出生直後の一定期間に、原則として両親がともに14日以上の育休を取得するなどの条件を満たすと、最大28日間、13%が上乗せされる。

既存の給付と合わせた給付率は80%となり、給付の非課税や社会保険料免除などを加味して「手取り10割相当」と説明される。ただし、育休の全期間に適用されるわけではなく、支給条件や上限にも注意が必要だ。

こうした制度を踏まえると、「収入が何割減るから積立も同じ割合で減らす」という単純な計算だけでは、実際の家計を捉えきれない。

必要なのは、給付の見込み、入金時期、住居費、日々の生活費、出産後の支出を並べ、手元のお金がどう動くかを見ることだ。投資の継続を優先しすぎて、当面必要な現金が不足してしまっては本末転倒になる。


夫婦で話すなら「生活費」「将来資金」「再開時期」を分けて

今回の試算を家庭で役立てるなら、話し合うテーマは三つある。

一つ目は、休業中の生活費だ。どの支出を共同で負担し、収入が変わったときに分担をどう見直すのか。出産前の収入比率のまま負担を続けると、一方だけが預貯金を取り崩す形になることも考えられる。

二つ目は、それぞれの将来資金である。

家計全体では積立を続けられていても、働き続ける側の資産だけが増え、育児を担う側の積立が止まっているかもしれない。合計額を見るだけでなく、それぞれがどのような備えを持てるかまで確認すると、話し合いは具体的になる。

三つ目は、積立を見直す時期だ。

「余裕ができたら再開する」だけでは、判断が先延ばしになることがある。復職後、保育料や勤務時間が分かった段階など、家計を再確認する機会をあらかじめ決めておけば、その時点の状況に合わせて調整しやすい。

大切なのは、積立額を何が何でも維持することではない。減らす場合も止める場合も、その判断を育休を取る人だけに背負わせないことだ。


育児のための時間を、個人の「資産の穴」にしない

今回の試算は、子育てを金銭的な損得だけで判断するためのものとして読むべきではない。

むしろ考えたいのは、家族のために使う時間の影響が、なぜ一人の収入や投資口座に集中してしまうのかという点だ。

子どもの世話を担う人がいるからこそ、もう一方が仕事を続けられる場合もある。その関係を踏まえれば、休業中の生活費だけでなく、将来への備えも家族全体で考える余地がある。

積立を一時的に休むことは、家計管理の失敗ではない。必要なのは、休む判断を責めることではなく、その先も含めて支え合う仕組みだ。

「育休中、いくら受け取れるか」に加えて、「育児を担う人の将来資金をどう守るか」。出産前の家計の話し合いに、この問いを一つ加えてみたい。


出典・参考資料

  1. BUSINESS-PANORAMA/dts通信:
    2026年10月24日公開。VerivoxによるETF積立のモデル試算、月300ユーロ・年7.5%という前提、休業期間別の資産差、税金を考慮していない点を参照。
    https://business-panorama.de/news.php?newsid=6715757

  2. 厚生労働省「Q&A~育児休業等給付」
    日本の育児休業給付、出生後休業支援給付の計算方法、給付上限、「手取り10割相当」の考え方を確認するための公式資料。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158500.htmlmhlw.go.jp

  3. 厚生労働省「出生後休業支援給付の簡易診断(要件確認)ツール」
    原則として両親とも14日以上の育休取得、最大28日間の13%上乗せ、配偶者の取得を要件としない例外などを確認するための資料。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/syussyougo_kanishindan_00001.htmlmhlw.go.jp

  4. Reddit・r/Eltern「Finanzieller Ausgleich für Elternzeit?」
    育休中の経済的な補填についての公開投稿。パートナーによるETF積立への拠出や、生活費の負担調整に関する投稿を、検索で確認できた範囲で要約。今回のニュースへの直接の反応ではない。
    https://www.reddit.com/r/Eltern/comments/1wj17xs/finanzieller_ausgleich_für_elternzeit/reddit.com

  5. Reddit・r/Finanzen「Familienfinanzen: Ausgleich Partnerin während Elternzeit & Handhabung Finanzen」
    育休による収入減と老後の備えへの影響を、パートナー間でどう補うかという相談。検索で確認できた投稿内容を要約。今回のニュースへの直接の反応ではない。
    https://www.reddit.com/r/Finanzen/comments/nnsk3j/