検査技術が進んでも“偽物の食”が消えない理由 — 蜂蜜・香辛料・オリーブ油の裏側

検査技術が進んでも“偽物の食”が消えない理由 — 蜂蜜・香辛料・オリーブ油の裏側

「技術が進むほど、偽物も進化する」食の現場で起きていること

食品の真贋を見分ける技術は、年々高度になっている。レーザーによる光分析、DNAプロファイリング、携帯型の検査機器、膨大なデータを整理して異常を察知する機械学習——。それでも食品偽装(フードフロード)はしぶとく残り続ける。むしろ“本物そっくりの偽物”が増え、消費者はもちろん、検査すらすり抜けるケースが出ているという。


食品犯罪は「表に出ない」ことが多い。企業にとっては信用問題、行政にとっては人手や予算の制約があり、被害の全体像はつかみにくい。混ぜ物でかさ増しする、別の原料に置き換える、原産地や製法の書類を改ざんする、未承認の工程を通す——手口は古典的だが、狙う対象は現代の食卓の中心へと広がっている。


ねらわれるのは「日常食品」と「高付加価値食品」

詐欺師が好むのは、よく食べられる食品(乳製品など)と、高値がつく食品(オリーブ油など)だ。さらに、アルコール、魚介、食用油と並んで“偽物が多い食品”として頻繁に名前が挙がるのが蜂蜜である。


蜂蜜は自然物であり、花や地域、季節で成分が変わる。つまり「これが蜂蜜の標準」という物差しを作りにくい。国際的に合意された“蜂蜜の定義”すら存在しないという事情もある。ここが、偽装の温床になる。


蜂蜜の偽装が難敵な理由——成分が複雑で、偽物も巧妙

蜂蜜の偽装でよく使われるのは、サトウキビ由来のグルコースシロップなど植物性シロップの混入だ。価格が本物の半額以下になることもあり、混ぜれば混ぜるほど“儲かる”。しかも厄介なのは、見た目や香り、味で分かるような粗悪品だけではないことだ。技術が進めば、粘度や香りを整え、見た目も味も“本物っぽい蜂蜜”を作れてしまう。


さらに、化学分析をすり抜けることさえある。蜂蜜とシロップは糖の構成が似ているため、検査項目によっては差が出にくい。化学結合の特徴を比べたり、同位体を解析して原産地を推定したり、複数の手法が存在するが、「この一発で偽物と断言できる」万能検査はまだない。専門家は、新しい判定法の必要性を訴える。


ここで重要なのは、偽装側が“検査の癖”を学ぶ点だ。ある検査を導入すれば、それを避ける混ぜ方・原料・製法が選ばれる。いたちごっこは、技術が高度化するほど激しくなる。


被害は「生産者の生活」だけではない——健康被害の火種

蜂蜜の偽装は主に養蜂家の生計を圧迫する。正直に作った人ほど割を食う構造だ。しかし食品犯罪の危険は、経済被害にとどまらない。アレルゲン混入や有害物質の混入が起きれば、人命に関わる。


象徴的なのが、2008年に中国で起きたメラミン混入粉ミルク事件だ。乳児が腎障害で死亡し、関与者が死刑に処された。それでも“子どもを狙う”行為が起きた事実は、倫理や罰則だけでは止められないことを突きつける。


昆虫食・スーパーフード——「新しい流行」ほど詐欺師は入り込みやすい

近年は昆虫食のように、新しい食品カテゴリも注目される。認可された食用昆虫の種をDNAで識別する取り組みが進む一方で、別種を混ぜたり、別種を“認可種”として売ったりする余地が生まれる。特にアレルギーの問題は深刻だ。甲殻類アレルギーに似たタンパク質が関わる可能性があり、未承認種が混ざれば健康リスクが跳ね上がる。


さらにSNS時代は、スーパーフードやサプリ的食品が一気に流行し、一気に市場が膨らむ。ブームの立ち上がりは速いが、監視や規制、検査の整備は追いつかない。その“時間差”が、詐欺師にとってのチャンスになる。


香辛料は「色」でだまされる——工業染料、鉛の混入という現実

香辛料の偽装は、世界的に根深い。パプリカに工業染料を混ぜる、シナモンに鉛化合物(鉛クロム酸塩)を混ぜて色を鮮やかに見せる/かさ増しする——。こうした手口は、見た目の“赤さ”“鮮やかさ”に価値が乗ることを逆手に取っている。


そして、この領域では「検出技術がない」のが問題ではない。低濃度でも検出できるほど方法は確立しているのに、監視する側(規制当局)が人手不足・予算不足で、検査が点になり、線にならない。2023年に米国で、輸入シナモンが原因で子どもたちが鉛中毒になった事例は、監視の“穴”が健康被害に直結することを示した。


「追跡技術さえあれば解決」は幻想——QRもブロックチェーンも万能ではない

食品のトレーサビリティは進歩している。QRコード、マイクロチップ、ブロックチェーン。だが現場には2つの壁がある。


1つ目は、「買う側が確認しない」壁だ。どれほど精緻な履歴があっても、消費者がスキャンしなければ意味が薄い。しかも、QRラベル自体を偽造することもできる。


2つ目は、「コストと複雑さ」の壁だ。例えば単一原料に近いバナナのような商品ならサプライチェーン追跡は現実的でも、50種類の原料が世界中から集まる冷凍食品や加工食品では、全てを追うコストが跳ね上がる。最先端技術を“現実の生産工程”に落とし込むのが難しい。


結果として、理屈では強い仕組みでも、普及しなければ抑止力にならない。技術は“導入されて初めて武器”だ。


現場が求めるのは「速さ」——しかし速い検査は精度とトレードオフ

不正が疑われる食品を止めるにはスピードが必要だ。国境での検疫、流通の差し止め、店舗からの撤去は時間との勝負になる。ところが、精度の高い検査ほどラボが必要で時間がかかる。逆に、携帯型の迅速検査は現場向きだが、感度・特異度が十分でない場合もある。


最近はターメリックにX線蛍光分析器、オリーブ油に携帯DNAキットなど、現場向け技術も出てきた。さらに機械学習でデータを分類し、早期警戒につなげる動きもある。とはいえ「全部を検査する」ことはコスト的に不可能で、どこに網を張るかという運用が鍵になる。


だからこそ効く“低テク対策”——価格と距離が最大のヒント

専門家の提案は意外とシンプルだ。蜂蜜なら地元の養蜂家から買う。値段が“安すぎる”なら疑う。米国で蜂蜜やオリーブ油が3ドル程度なら赤信号かもしれない——という目安は、私たちが日常で使える危険センサーになる。


ここで大事なのは、「偽物を完全に見抜く」より「偽物の確率を下げる」発想だ。
・生産者の顔が見える流通を選ぶ
・相場より極端に安い商品は避ける
・原産地や品種表示がやたらと盛られているものを疑う
・加工度が高いほど“混ぜ物の余地”が増えることを意識する

こうした行動は、技術より先に今日からできる。

SNSの反応(典型的な論点・声)

この記事の内容は、SNSでも複数の方向から反応を呼びやすいテーマだ。実際に起きがちな反応を、論点別に整理すると次のようになる(※以下は記事内容から想定される“典型的な声”のまとめ)。


1)「結局、安さには理由がある」派

  • 「安い蜂蜜はやっぱりそれなりなんだな」

  • 「特売のオリーブ油、ちょっと怖くなった」
    価格を“危険信号”として受け取り、日々の買い物を見直す動き。


2)「規制当局の人手不足が本丸」派

  • 「検査技術があっても監視が薄いなら意味ない」

  • 「取り締まりの予算を増やすべき」
    技術より制度・運用の問題として捉える意見。


3)「ブロックチェーン万能論への反省」派

  • 「ブロックチェーンで解決って言ってた人、息してる?」

  • 「結局は現場コストと運用なんだよね」
    “テック礼賛”から現実への揺り戻し。


4)「子ども被害が出ると一気に温度が上がる」派

  • 「粉ミルク事件の話、胸が痛い」

  • 「食の偽装はただの詐欺じゃなくて傷害だ」
    健康被害の側面に強く反応。


5)「消費者に自衛を丸投げするな」派

  • 「“地元から買え”って、都市部だと難しい」

  • 「確認コストを消費者に負わせすぎ」
    低テク対策の有効性を認めつつ、構造的な限界を指摘。


6)「日本も他人事じゃない」派

  • 「輸入食品が多いほど混入リスクは上がるよね」

  • 「表示偽装のニュース、たまに見るし」
    国内の表示や流通の話題に接続する反応。


SNSでは、結論として「技術がある=安心」ではなく、「技術+監視+運用+買い手の行動」がセットでないと効かない、という現実的な受け止めが広がりやすい。

なくならない理由は“犯人の悪意”だけではない

食品偽装が根絶しないのは、倫理が欠けた人がいるから——だけでは説明しきれない。

  • 混ぜれば儲かる(経済インセンティブ)

  • 検査や監視はコストがかかる(体制の制約)

  • 食品は複雑で、標準化しにくい(科学的難しさ)

  • 流通は広域で、加工度も高い(追跡の難しさ)

  • ブーム商品は制度整備が遅れる(時間差)
    こうした条件が重なると、どこかで“抜け道”が生まれる。


技術は重要だ。しかし、技術だけでは勝てない。勝負は、現場で回る仕組みと、監視の密度と、価格の誘惑に負けない市場環境づくりにある。

私たちにできること——「買い方」を少し変える

最後に、消費者としての現実的な対策をまとめておきたい。

  • 相場より極端に安い蜂蜜・オリーブ油・香辛料は避ける

  • 可能なら生産者が明確な商品(地域の養蜂家など)を選ぶ

  • “効能が盛られすぎ”な流行食品は慎重に

  • 子どもが口にする食品は、価格より信頼性を優先する

  • 不審な食品情報が出たら、回収情報や行政発表を確認する習慣を持つ

「完璧に見抜く」必要はない。“引っかかりにくい買い方”に寄せるだけで、リスクは確実に下がる。



出典URL

  • BBC News「Why food fraud persists, even with improving tech」:食品偽装がなくならない理由、蜂蜜・香辛料・オリーブ油・昆虫食などの事例、検査技術と監視体制の課題
    https://www.bbc.com/news/articles/c2e102vw1z2o