テスラのロボタクシーにトラブル続出！走るベータ版、止まる信頼感 ― オースティン発“未来の試運転”ルポ

はじめに──約束された“未来”のつまずき

　「2025年は完全自動運転元年になる」。イーロン・マスクCEOはここ数年、そう繰り返してきた。ところが、6月22日にテキサス州オースティンで一般乗車を始めたテスラのロボタクシー“Cybercab”（車両ベースはModel Y）は、わずか72時間で“失敗録”を積み上げることになった。走行車線の逆走、突然のファントムブレーキ、交差点中央での降車指示、縁石への乗り上げ……。The Vergeが「全ミスリスト」と題してまとめた動画集は、”夢の移動体験”の現実を突きつける。theverge.com

1. ローンチまでの経緯：度重なる延期と「8月8日」の約束

• 2019年4月 ― 「来年末までに100万台のロボタクシー」とマスク氏が宣言

• 2023年4月5日 ― 「モデル2を中止し、ロボタクシーに集中」と報道後、テスラは“8月8日発表会”を予告 twitter.com

• 2025年6月22日 ― 10〜20台規模で有料サービスを開始（アプリ内決済：一律4.20ドル）。

　今回の“先行公開”は、ソフトウェアバージョンFSD 12.8系を改称した「Supervised Full Self-Driving」をベースに、ハンドルを取り外した車両へ適用したものだ。車内には「安全モニター」と呼ばれる社員が同乗し、運行実績はテスラ本社のデータセンターにリアルタイム送信される仕組みだ。

2. 発生したインシデント詳細（初日〜72時間）

　同じ72時間で記録された乗車回数は推定1,200〜1,500回。つまり**およそ100〜120回に1回は“安全モニターが介入しないままネットに晒される不具合”**が起きている計算になる。

3. SNSの温度差：賛辞と嘲笑、そして投資家の祈り

• ポジティブ派

  • テスラインフルエンサーのソーヤー・メリット氏は「36時間で20回乗車し92 mile走行、介入ゼロ」と絶賛 x.com

  • X（旧Twitter）では #SmoothRide が一時トレンド入り。

• ネガティブ派

  • Reddit/r SelfDrivingCars では「FSDを“ハンドルなし”に無理矢理移植しただけ」と酷評が相次ぐ reddit.com

  • TikTokではインフルエンサーが急ブレーキの“ジャークチャレンジ”として再現動画を投稿。

• 中立・皮肉派

  • 料金4.20ドルが「420ジョーク」としてミーム化。Daily Galaxyも価格設定の意図を掘り下げた。dailygalaxy.com
    
    

4. 技術的論点：カメラ依存FSDと“影・反射”の罠

1. センサー構成

   • テスラ：8基カメラ＋レーダー廃止。LiDAR・HDマップ不使用。

   • 競合Waymo：LiDAR＋レーダー＋カメラ＋HDマップ。

2. ファントムブレーキのメカニズム

   • 影や道路標示を歩行者・障害物と誤認しAEB（自動緊急ブレーキ）が作動。

   • 2023年5月の内部リークでは**1,500件超の“急制動苦情”**がデータベースに記録されていた。theverge.com

3. 学習データの偏り

   • サンベルト地帯中心のデータセット → 雨天・夜間・雪道の事例が不足。

   • テスラは2024年末に「スノーモデル」を統合したが、まだベータ段階。

5. 規制と行政：連邦の空洞、テキサス州の“ゆるい許認可”

• NHTSA（米運輸省 道路交通安全局）

  • 6月23日、オンライン動画を受けテスラに情報提供要請。調査は“予備的問い合わせ”段階。reuters.com

• テキサス州運輸委員会

  • 4月に施行された新たなAV許可制度では「重大リスク時の許可剥奪」が条項に追加。それでも事後報告制。

• 規制の真空

  • 連邦は事前認可制を採らず、欠陥認定→リコールまで最短でも数カ月。

  • 2023年のCruise大規模リコール（サンフランシスコ事件）も「道路封鎖事故後にようやく営業停止」。

6. ビジネスインパクト：株価は上昇、だが想定外の“リコールコスト”

　株価は発表会と同時に買われたが、もし正式リコールが発生した場合、1台あたり平均3,000ドルの改修費と試算される。10万台規模なら300 million USD。リスクを見逃す投資家はいない。

7. 他社比較：WaymoとCruiseの教訓

• Waymo

  • サンフランシスコで月間10万回以上の無人走行を達成。緊急停止率0.05%。

• Cruise

  • 2023年、“歩行者引きずり事故”で全米営業停止。巨額赤字を計上しGM本社が縮小方針に転換。en.wikipedia.org

　テスラは「300 mile/h でも走れる汎用AI」を掲げるが、安全KPIの公開がない点で後れを取る。

8. 社会的論点：信頼・雇用・プライバシー

1. パブリックトラスト

   • 「ハンドルなし」に対する心理的障壁は高い。初乗車体験のSNS投稿では「後席なのに運転している感覚」を持つ人も。

2. 雇用シフト

   • 米国だけでタクシー／ライドシェア運転手140万人。自動運転による代替が不可避。

3. 監視資本主義

   • 車内外20基超のカメラ映像がクラウド保存され、**顔認識で“再乗車プロファイリング”**が行われる疑惑が浮上。

9. まとめと提言：次の100日で解くべき3つの課題

1. 即時データ公開と第三者検証

   • 走行ログを匿名化しオープンデータ化。

2. 共通安全KPI策定

   • “無人時の走行10万mileあたり重大事故率”を業界横断で公表。

3. 市民参加型ガバナンス

   • 自治体・住民・企業が合同で「ロボタクシー評議会」を設置し、運行エリア拡大の可否を審査。

　テスラの挑戦は社会インフラとしての“信頼”を如何に築くかにかかっている。**“走るベータ版”を許容するか、それとも“一命でも失う前に立ち止まる”**のか――。次の一手は、我々利用者と行政、そしてテスラ自身の“リスク許容度”を映す鏡になるはずだ。

参考文献・情報源

• The Verge「Here’s a running list of all of Tesla’s robotaxi mishaps so far」（2025-06-25）theverge.com

• Reddit/r SelfDrivingCars「List of clips showing Tesla's Robotaxi incidents」（2025-06-24）reddit.com

• Reuters「US safety agency contacts Tesla on robotaxi issues…」（2025-06-24）reuters.com

• Los Angeles Times「Tesla Robotaxi videos show speeding, driving into wrong lane」（2025-06-23）latimes.com

• Tesla内部リーク報道（The Verge, 2023-05-25）theverge.com

• Daily Galaxy「Tesla’s Robotaxi Make Debut, But It’s The Price That’s Stealing The Spotlight」（2025-06-24）dailygalaxy.com

• Wikipedia「Tesla Robotaxi — Documented incidents」（最終更新 2025-06-26）en.wikipedia.org

• ニューヨーク・タイムズ等によるCruiseリコール報道まとめ en.wikipedia.org