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いい香り、それとも強制吸入?NYアロマ広告が炙り出す「公共空間の空気」問題

いい香り、それとも強制吸入?NYアロマ広告が炙り出す「公共空間の空気」問題

2025年11月22日 12:08

「あの」NY地下鉄が、ふわっと良い香りに


油と鉄と人いきれ。ニューヨークの地下鉄と聞けば、多くの人がまず思い浮かべるのは、あまり褒められたものではない“あの匂い”だろう。


ところがこのホリデーシーズン、そのイメージを覆すホームが登場した。グランドセントラル駅のシャトルホーム一帯が、バニラとモミの木が混ざったような、まるでクリスマスツリー売り場のような香りに包まれているのだ。The Independent


香りの主は、アメリカで絶大な人気を誇るフレグランス&ボディケアブランド「バス&ボディワークス」。同社が展開するホリデー向けフレグランス「フレッシュ・バルサム(Fresh Balsam)」を使った“嗅覚型広告”、いわばアロマ広告である。リテールダイブ


42丁目シャトルが「グランド・センシャルトラル」に

香りが漂っているのは、タイムズスクエアとグランドセントラルを結ぶ42丁目シャトルのホームと、その連絡通路。ホームの梁や壁には小型ディフューザーがずらりと並び、一定間隔でふわっとミストを噴霧する。11月の1カ月間で、合計20〜30ポンド(約9〜14キログラム)の香料が放出される計画だという。The Independent


ポスターには、ホリデーらしいツリーのビジュアルと共に、香りを意識させるコピー。Bath & Body Works側は、このエリアを「Grand Scentral Station(グランド・センシャルトラル)」と洒落たネーミングで呼び、日常の移動時間をブランド体験に変える狙いを隠さない。LinkedIn


この試みは、ニューヨークの地下鉄を運営するMTA(メトロポリタン・トランジット・オーソリティ)にとっても初めての“香る広告”だ。MTAは新たな収入源を探る中で、昨年クイーンズやブルックリンの駅で試験的にアロマ広告を導入し、安全性や利用者の反応をチェック。その上で今回の本格導入に踏み切った。現時点で公式な苦情は届いていないという。The Independent


香りは「松の木みたい」「柔軟剤みたい」——現地の声

AP通信や英インディペンデント紙の取材によれば、香りに気づいた通勤客からはおおむね好意的な声が多い。ある男性は「普段のトンネルの匂いよりずっといい」と笑い、若い女性は「松の木っぽくて、すごくクリスマス」と表現。別の女性は「好きな柔軟剤の香りを思い出す」と語った。The Independent


一方で、ホームを足早に通り過ぎる人の中には、そもそも香りに気づかない人も少なくない。もしポスターでキャンペーンの説明を見なければ、「誰かの香水かな?」と思って通り過ぎてしまう程度の強さだという報道もある。The Independent


バス&ボディワークスの狙い:日常を“香りでジャック”する

今回のグランドセントラルの施策は、同社が全米で展開するホリデーキャンペーンの一部だ。ブランドは今年、Fresh Balsam/Snowflakes & Cashmere/Twisted Peppermintという3つのシグネチャー香りを、駅やショッピングモール、映画館といった日常空間に“持ち出す”戦略に出た。リテールダイブ


なかでもグランドセントラルは、ニューヨークと世界を象徴する玄関口。毎日膨大な人が行き交うこの場所を、「ブランドに偶然出会うステージ」に変えようというわけだ。マーケティング用語としては、香りを使った“マルチセンサリー体験”“セントテイクオーバー”“センチグレーション(scentigration)”といった言葉が並ぶ。LinkedIn


さらに同社は、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴの一部映画館でも上映前のCMに合わせて香りを噴霧し、劇場全体をフレグランス空間にする企画も展開している。リテールダイブ


SNSは大盛り上がり:#GrandScentral と「マーケ天才」コメント

キャンペーン開始直後から、X(旧Twitter)、TikTok、Instagram、LinkedInなどには現地の様子を映した動画が続々と投稿された。

 


  • マーケティングや小売業界のアナリストは、「通勤時間をブランド体験に変えた好例」としてホームの様子を撮影し、「Grand Central がFresh Balsamの香りで満たされている」とポジティブに紹介。X

  • 「Grand Scentral Station」と書かれたキャンペーン名の写真をアップし、「こんなにオタク心をくすぐる広告は久しぶり」「正直、ちょっと行ってみたい」とコメントするファンも多い。パレード

  • あるマーケティング系メディアは、この施策を「今年いちばんワクワクしたキャンペーン」と絶賛し、「ブランドの世界観を“空気ごと”届けるのがうまい」と評価している。パレード


ハッシュタグ「#GrandScentral」「#SubwaySmellAd」などを追うと、
「NY地下鉄がこんなにいい匂いって、世界線間違えた?」
「普段は最悪の匂いだから、これはご褒美」
といった半分ネタ、半分本気の投稿も目立つ。


批判の声:香料アレルギーと「同意なき嗅覚マーケティング」

だが、SNS上で盛り上がっているのは称賛だけではない。特に香料アレルギーや化学物質過敏症(MCS)、ぜんそくなどを抱える人々からは、強い危機感を示す声が相次いでいる。


ニュースのシェア投稿に寄せられたコメントには、
「香水や柔軟剤の匂いで偏頭痛や呼吸困難になる。ホーム全体が香りで満たされるなら、地下鉄を使えなくなる」
といった切実な訴えが並ぶ。Facebook


実際、オンライン署名サイトでは「グランドセントラルに噴霧されるホリデーケミカルを禁止してほしい」というキャンペーンも立ち上がった。そこでは、香り付きの環境がぜんそくや片頭痛、化学物質過敏症、ロングCovidなど多くの呼吸器系障害者にとってバリアになること、そして公共空間での過剰な香りはADA(障害を持つアメリカ人法)の理念に反するのではないか、と強く批判している。Change.org


テック系メディア「Futurism」は、今回の試みを「心地よいガスを駅に噴き込む企業」と皮肉を込めて紹介し、「好むと好まざるとにかかわらず、公共交通機関を利用する人はこの香りを吸い込むことになる」と問題提起した。記事では「セフォラの店内にいるような匂いが、通勤中の空間にも広がることをどう評価すべきか」と問いかけている。Futurism


そもそも「香りマーケティング」とは何か

香りを使ったマーケティング自体は目新しいものではない。アパレルショップやホテル、カジノ、スーパーマーケットなど、多くの空間で「その場所の匂い」がブランドの一部として設計されている。


心理学・マーケティングの研究によれば、心地よい香りは滞在時間を伸ばし、商品の評価や購買意欲を高める効果があるとされる。一方で、強すぎる香りや好みの分かれる香りは、逆に不快感を与え、店を去る理由になりうることも指摘されている。PMC


過去には、アメリカ西海岸の“Got Milk?”キャンペーンが、バス停の広告に焼きたてクッキーの匂いを漂わせ、牛乳への欲求を喚起しようとした例もある。英国では、じゃがいも料理の匂いを発するバス停広告や、コーヒーの香りを流す鉄道広告など、通行人の嗅覚を刺激する仕掛けが試されてきた。PMC


しかし、これまでは「バス停」や「個別店舗」といった、比較的限定された空間が中心だった。人々はその場を避ける選択肢も持ちうる。今回のNY地下鉄のように、毎日数十万人が通過する巨大な公共交通機関の中枢部を丸ごと香らせるケースは、スケールも影響範囲も桁違いだ。Retail TouchPoints


「香りゼロ」を目指す交通機関もある

その一方で、北米の一部交通機関や公共機関では、利用者の健康への配慮から「無香料ポリシー」を導入する動きもある。例えばカリフォルニア州の地方交通機関では、職員に対して強い香りの香水や芳香剤の使用を控えるよう求めるガイドラインを作成している。wheelsbus.com


カナダ・トロントの地下鉄では、「香りに注意を——空気はみんなで共有するもの」というメッセージを掲げ、乗客に過度な香りの使用を控えるよう呼びかけたこともある。Reddit


こうした流れから見ると、「公共交通の空間に企業が能動的に香りを流し込む」という今回の試みは、時代を逆行しているように見える面もある。


公共空間の「空気」は誰のもの?

今回のグランドセントラルの香りキャンペーンは、単なる“良い匂いの話題”にとどまらず、「公共空間の空気を、誰がどのような目的でコントロールしてよいのか」という根源的な問いを突きつけている。


広告のポスターや音、デジタルサイネージであれば、視線を逸らしたり耳を塞いだり、あるいはスマホに目を落としたりしてある程度は避けることができる。しかし空気に溶け込んだ香りは、呼吸をする限り完全には避けられない。


支持派は「もともと不快な匂いが漂う場所が、少しでも快適になったのだから歓迎すべき」と主張する。長年、地下鉄の臭いと戦ってきたニューヨーカーにとっては、確かに“マシになった”と感じる人が多いのも理解できる。


一方で、香りそのものが健康被害のトリガーとなる人にとっては、「臭いよりマシ」という議論は通用しない。彼らにとって今回のキャンペーンは、「乗るか乗らないか」の選択を迫られるレベルの問題であり、署名活動や抗議の声につながっている。Change.org


もし日本の地下鉄で同じことが起きたら?

では、もし東京メトロや大阪メトロ、JRの主要駅で同じようなアロマ広告が導入されたら、日本ではどのような反応が起きるだろうか。


日本の鉄道は世界でも屈指の清潔さで知られるが、それでも通勤ラッシュ時の“人いきれ”や、車内に残る香水・柔軟剤の匂いに不快感を覚える人は少なくない。一方で、満員電車で体調を崩す乗客も多く、鉄道各社は「車内温度」や「換気」をめぐって常に調整を迫られている。


ここに香り広告が加われば、

  • 「いい匂いで気分が和らぐ」という肯定的な声

  • 「香水アレルギーで乗れなくなる」という健康面の不安

  • 「公共交通が企業の宣伝のために空気を変えていいのか」という規範的な疑問
    が同時に噴出するのは容易に想像できる。


日本でも、職場や公共施設での“香りマナー”を巡る議論が徐々に広がりつつある。NYの事例は、香りマーケティングがこれからどこまで許容されるのかを考える、格好の素材と言えるだろう。PMC


香る地下鉄のその先に

バス&ボディワークスのグランドセントラル・キャンペーンは、ブランドの認知と話題づくりという意味では、すでに大きな成功を収めている。SNSでのバズ、各種メディアでの報道、業界人からの称賛——これらは、テレビCM数本分以上のPR効果を生み出しているはずだ。パレード


しかし同時に、この試みは「広告がどこまで人の感覚に踏み込むべきか」という線引きをめぐる議論の火種にもなっている。香りが視覚や聴覚よりも無防備に私たちの記憶や感情に働きかける感覚であることを考えれば、ルールや倫理的なガイドラインがないまま商業利用が進むのは危うい。


今年のニューヨーク地下鉄の匂いの変化は、単なるホリデー・キャンペーンではなく、「香りと公共性」をめぐる実験でもある。


あなたは、通勤途中の駅が好きなブランドの香りで満たされることを歓迎するだろうか。それとも、「自分の吸う空気くらいは自分で選びたい」と感じるだろうか。


グランドセントラルのホームに立ち、バニラとモミの香りを吸い込む人々の姿を想像しながら、その問いを自分ごととして考えてみたい。



参考記事

「初の『アロマ広告』で地下鉄の刺激臭が心地よい香りに変わる」
出典: https://www.independent.co.uk/travel/news-and-advice/grand-central-bath-body-works-b2869484.html

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