マダニ感染症 SFTS――油断が招く“かぜ”との誤診と急激な重症化

マダニ感染症 SFTS――油断が招く“かぜ”との誤診と急激な重症化

目次

  1. SFTSとは何か――基本情報と世界的分布

  2. 2025年の日本で何が起きているか

  3. 症例詳細:誤診から重症化に至るまで

  4. 診断が難しい4つの理由

  5. 予防の原則――衣服・忌避剤・セルフチェック

  6. 日本の医療体制と検査フロー

  7. 在日外国人・旅行者が取るべきステップ

  8. 気候変動・高齢化・生態系変化とSFTS拡大リスク

  9. 国際比較:アジア各国の対策とワクチン開発動向

  10. 結論と今後の展望



1. SFTSとは何か――基本情報と世界的分布

1-1 ウイルスの正体

SFTSウイルス(SFTSV)はブニヤウイルス科に属し、主な媒介はフタトゲチマダニなどの硬ダニ属。日本、中国、韓国、台湾で報告され、致死率は約10〜30%とされる。TBS NEWS DIG

1-2 潜伏期間と症状

刺咬後6〜14日で発熱、悪寒、筋肉痛、嘔吐、下痢が出現し、重症例では血小板減少・多臓器不全を来す。初期が軽い風邪症状のため受診が遅れやすい。



2. 2025年の日本で何が起きているか

2025年7月9日の報道によれば、愛知県では除草作業をしていた50代女性と90代男性が死亡、静岡県でも80代男性の死亡が確認された。他に香川県、宮崎県でも死者が出ている。テレ朝NEWS
静岡県の届け出数は過去最速で4例目の死者に達し、前年同時期を上回るペースだ。TBS NEWS DIG



3. 症例詳細:誤診から重症化に至るまで

3-1 「風邪ですね」と言われた後に急変

愛知県の50代女性は発熱と倦怠感でクリニックを受診し、感冒薬だけ処方されたが、数日で意識障害が進行。救急搬送後にSFTSと判明した時には多臓器不全を起こしていた。テレ朝NEWS

3-2 共通点

  • 草むらでの農作業・除草・登山など屋外活動歴

  • 60歳以上または基礎疾患持ち

  • 刺咬痕を自覚しないまま発症



4. 診断が難しい4つの理由

  1. 症状が非特異的:発熱・嘔吐は感冒や食中毒と区別困難。

  2. 刺咬痕が小さい:日本のマダニは2〜4 mmと小さく、髪や衣服に隠れる。愛知県ペストコントロール協会の実証でも「白布でこすってようやく点に気づく」程度。テレ朝NEWS

  3. 屋外歴を申告しない患者心理:軽微な山歩きや庭仕事を“外出”と認識しない高齢者が多い。

  4. 検査体制が限定的:PCR検査は感染症指定医療機関に集中。初診段階での血液検査だけでは診断確定できない。



5. 予防の原則――衣服・忌避剤・セルフチェック

厚生労働省は「長袖・長ズボン・明るい色の服」「ズボンの裾を靴下にイン」「DEETやイカリジン配合忌避剤」を推奨し、帰宅後は入浴と全身確認を行うよう示している。厚生労働省

5-1 具体的な装備チェックリスト

項目推奨仕様ワンポイント
上衣襟付き長袖シャツ袖口をゴムで絞ると◎
下衣撥水性ナイロンパンツ裾を靴下イン
足首を覆うトレッキングシューズサンダル厳禁
忌避剤DEET 30%以下 or イカリジン 15%肌と衣服両方に


6. 日本の医療体制と検査フロー

  1. 地域のクリニックで血算・肝酵素チェック→血小板低下と白血球減少がヒント

  2. SFTS疑い例は保健所経由でPCR検査へ

  3. 陽性なら二類感染症に準じた対応。隔離は不要だが血液暴露に注意

  4. 対症療法主体(リバビリン等は国内未承認)



7. 在日外国人・旅行者が取るべきステップ

  • 保険確認:在留外国人は国民健康保険か海外旅行保険で救急搬送費用をカバー

  • 多言語ホットライン:厚労省「AMDA国際医療情報センター」☎ 03-6233-9266(英・中など)

  • アウトドア日誌を付ける:行動歴をメモし医師に提示

  • 帰国時の申告:発熱がある場合は空港検疫の健康相談室へ



8. 気候変動・高齢化・生態系変化とSFTS拡大リスク

温暖化でヒトスジシマカの北上が注目される一方、マダニも冬季活動を延長。高齢者の就農支援ボランティア増加、里山でのレジャーブームがリスクを押し上げている。



9. 国際比較:アジア各国の対策とワクチン開発動向

韓国は野山での軍訓練後に定期的な血液検査を実施し、台湾ではワクチン前臨床試験が2024年に開始。中国ではmRNAワクチン候補が動物試験で中和抗体を獲得し2026年治験入り予定。日本もAMEDが2025年度から組換えワクチン開発費を拡充。



10. 結論と今後の展望

SFTSは「かぜ様症状+屋外歴」で疑うかどうかが生死を分ける。医療者と患者が共有すべきキーワードは「マダニを見たか」「山に行ったか」。在日外国人や旅行者は、日本特有の高温多湿の夏を安全に過ごすため、服装・忌避剤の徹底と発熱時の早期受診が必須だ。行政の啓発と検査拡充が進めば、致死率の低減は十分可能である。



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