シリアスゲームがビジネス力を強化する? 「遊ぶほど賢くなる」は本当か ― ゲームと子どもの認知能力を科学で考える

シリアスゲームがビジネス力を強化する? 「遊ぶほど賢くなる」は本当か ― ゲームと子どもの認知能力を科学で考える

「ゲームばかり」を見直す?計画力と頭の切り替えを支える“遊び”の研究

「ゲームをする時間があるなら、勉強してほしい」

子どもが画面に向かう姿を見て、そう感じる保護者はいるだろう。しかし、その画面の中で子どもが何を考えているかに目を向けると、別の問いが浮かぶ。

先の展開を予測する。失敗した作戦を組み直す。複数の条件を覚えながら、次の行動を選ぶ。こうした作業を含むゲームは、考える力を練習する場になり得るのだろうか。

ドイツのニュースサイト「AD HOC NEWS」は2026年10月3日、学習や訓練を目的とする「シリアスゲーム」と、子どもの認知機能に関する研究を紹介した。

そこで見えてくるのは、ゲームに期待できる可能性と、期待を広げすぎないための境界線だ。


日常の「段取り」を支える実行機能

記事の中心にあるのは「実行機能」と呼ばれる力である。目的に向かって、考えや行動を調整する働きだ。

例えば、宿題を終えるまでには、問題を解く知識だけでなく、取り組む順番を決め、必要な情報を覚え、途中の誘惑を抑え、行き詰まったら方法を変える力も必要になる。

実行機能に関わる主な働きは、次のように整理できる。

働き身近な場面での例
計画提出日から逆算し、作業の順番を決める
認知的柔軟性うまくいかない解き方をやめ、別の方法を試す
ワーキングメモリー指示や途中の結果を覚えながら作業する
抑制制御思いついた行動をすぐに実行せず、一度立ち止まる

ここでいう「柔軟性」は、体の柔らかさではない。状況に応じて、考え方やルールを切り替える力を指す。

シリアスゲームは、こうした働きを使う課題に、目標や達成感、繰り返し挑戦する仕組みなどを組み込んだものだ。単に難しいゲーム、真剣に遊ぶゲームという意味ではなく、娯楽に加えて教育や訓練などの目的を持つ点に特徴がある。


118件の試験が示した可能性

元記事によると、Xiao Liang氏、Ming Chen氏らが医学誌「eClinicalMedicine」に発表した研究は、118件のランダム化比較試験を統合したネットワークメタ分析である。

対象は、ADHDや自閉スペクトラム症、知的発達症など、神経発達症のある子ども・若者5,863人。一般の子ども全員を対象に、家庭でのゲーム習慣を調べた研究ではない。

ネットワークメタ分析は、複数の介入を直接比較した試験だけでなく、共通の比較対象を介した情報も使い、介入同士の効果を推定する方法だ。


元記事が伝える、シリアスゲームと通常のケアとの比較結果は次の通りである。

評価された領域元記事が報じた効果量(SMD)
認知的柔軟性1.30
計画1.34
ワーキングメモリー0.79

SMDは、異なる検査の結果を共通の尺度で比べるための指標だ。「計画力が1.34倍になる」「134%改善する」という意味ではない。

また、118件すべてがシリアスゲームの試験だったわけでもない。運動や各種認知訓練などを含む分析全体の規模と、特定のゲームの効果を支える証拠の量は、分けて考える必要がある。

なお、本稿では原論文の全文を取得できていないため、この研究の人数、効果量、品質評価の数値は、提示された元記事の報告に基づいている。


大きな効果量と、確かな結論は同じではない

元記事には、期待を冷静に受け止めるための情報も掲載されている。

研究の偏りに関する評価では、問題が少ないとされた試験は24.6%。「いくつかの懸念がある」が71.2%、「高リスク」が4.2%だった。研究間の結果のばらつきもあり、証拠の確かさは主に「低い」から「非常に低い」とされたという。

これは、効果が存在しないと決まったという意味ではない。今後、より厳密な試験が増えれば、推定される効果の大きさや、どの方法が有効かという順位が変わる可能性があるということだ。

特に注意したいのは、特定の訓練で得られた結果を、そのまま市販ゲーム全般に広げることだ。研究対象の子ども、課題の内容、実施期間、支援の有無が違えば、同じ効果が得られるとは限らない。


ゲームが上達すると、宿題も進むのか

家庭にとって知りたいのは、検査の点数だけではないだろう。

「朝の準備が進むようになるのか」
「宿題の手順を自分で考えられるのか」
「予定が変わっても対応できるのか」

ここに、認知訓練研究の重要な論点がある。練習した課題での上達が、別の課題や日常生活にも広がるかという「転移」の問題だ。

例えば、画面上で図形の並びを覚える課題が上達しても、翌日の持ち物を忘れなくなるとは限らない。必要な情報や環境、気持ちの動きが違うからだ。

2016年に公表された脳トレ研究の包括的レビューでは、練習した課題そのものの改善を示す証拠は豊富な一方、遠く離れた課題や日常の認知能力への効果を示す証拠は乏しいと整理された。

この古いレビューだけで新しい研究を否定することはできない。ただ、「何の成績が上がったのか」と「暮らしがどう変わったのか」を分けて確かめる必要性は、現在のニュースを読む際にも役立つ。


運動にも注目したい理由

今回の元記事は、ゲームだけを有望な方法として紹介しているわけではない。

大きな介入カテゴリーで比較すると、実行機能全体への効果量は身体運動が0.621、コンピューターを使う認知訓練が0.501と報告されている。また、抑制制御では、判断を伴う運動が有望だったという。

具体例として挙げられたのは、体を動かすゲーム、卓球、柔道、武道などである。相手の動きや変化する状況を見て、行動を選ぶ要素が含まれる。

ただし、これらの数字を、先ほどの計画や柔軟性の数値と単純に並べて勝敗を決めることはできない。評価する領域や比較の条件が異なるためだ。

家庭で受け止めるなら、「認知能力のためには画面に向かう時間を増やすべきだ」という話にはならない。体を動かす活動も含めて、子どもが無理なく続けられる経験を考える余地がある。


「1日82分」は推奨時間ではない

元記事は、オーストリアの「第9回オーバーエスターライヒ州青少年メディア調査2025」も紹介している。

Education Groupの公表資料によると、この調査は同州の11~18歳の若者500人、保護者300人、教育関係者200人を対象に実施された。認知訓練の効果を調べる試験とは別の調査である。

元記事が紹介するコンピューターゲームの利用時間は、1日平均82分だ。

この数字は、調査対象者の利用実態を表している。「82分遊べば認知能力が伸びる」という結果でも、日本の子どもに適した時間を示す基準でもない。

同じ「ゲーム」という言葉で語られていても、訓練の効果を調べる研究と、日常の利用時間を調べる調査では答えられる問いが異なる。両者をつなげて「普段のゲームが脳を鍛えている」と結論づけることはできない。


SNSの反応――期待と慎重論が交わる

今回の記事や原論文に対する直接のSNS反応は、確認できた範囲では十分に集められなかった。そこで、関連する話題への反応として、海外掲示板Redditで公開されている脳トレの議論を紹介する。今回の研究への反応や、日本の世論を示すものではない。

 

認知科学を扱うコミュニティ「r/cogsci」の、脳トレ方法を尋ねる投稿では、利用者から異なる見方が寄せられていた。

一人は、記憶を更新し続ける訓練について、位置や音、色、形の順序を扱う課題、とりわけ複雑なボードゲームで役立ったと、個人的な経験を述べている。

一方で、脳トレの流行に期待するより、読書、学習、人との交流、運動などに取り組むべきだという意見もあった。アプリを楽しみつつ、散歩や友人とのカードゲームなども重視する投稿も見られた。

これらは効果を証明するデータではない。しかし、議論の焦点は興味深い。「役に立った気がする」という実感と、「何に役立ったのかを確かめたい」という慎重さが、同じ場所に存在している。

研究を生活に取り入れる際にも、この二つを両立させたい。


日本の家庭や学校では、何を見ればよいか

今回の報道から日本の家庭や教育現場が考えられるのは、ゲームの評価軸を増やすことだ。

遊んだ時間に加えて、どんな判断をしていたか、失敗したときに何を変えたか、遊び終えた後の生活がどうなっているかを見てみる。

例えば、保護者が「今日は何点だった?」と聞くだけでなく、「どうしてその順番にしたの?」「次にやるなら何を変える?」と尋ねる。これは効果が保証された治療法という提案ではなく、子どもの考え方を知るための会話の工夫である。

学校で教材として扱う場合も、楽しく取り組めたことと、学習目標に近づいたことを分けて評価したい。集中して画面を見ていたという事実だけでは、日常の実行機能が改善したかまでは分からない。

発達上の困りごとへの支援として利用するなら、「ゲームで治る」という宣伝ではなく、対象年齢、調べられた能力、比較試験の有無などを確認し、担当する専門家と目的を共有することが大切になる。

今回の研究紹介は、ゲームを無条件に勧める材料ではない。それでも、遊びの中で子どもが考え、試し、やり直す過程に目を向けるきっかけにはなる。

「何分遊んだのか」に、「何を考えながら遊んだのか」という問いを加える。そこから、家庭での会話も、学びへのつなげ方も変わってくるかもしれない。



出典・参考URL

  1. AD HOC NEWS:
    シリアスゲームの効果量、研究の対象人数・品質評価、青少年のゲーム利用時間に関する報告。
    https://www.ad-hoc-news.de/wissenschaft/serious-games-studien-zeigen-starke-effekte-auf-planung-und-flexibilitaet/70221451

  2. eClinicalMedicine:元記事が取り上げた研究の原論文
    「Non-pharmacological executive function interventions for children and adolescents with neurodevelopmental disorders: a systematic review and network meta-analysis」。原論文の参照先。今回の調査では全文を取得できていない。
    https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2026.104228

  3. Education Group:第9回オーバーエスターライヒ州青少年メディア調査2025
    調査地域、対象年齢、若者・保護者・教育関係者の人数と調査方法を確認した公式資料。Edugroup
    https://www.edugroup.at/forschung/medienstudien/9-ooe-jugend-medien-studie-2025

  4. Simonsほか「Do “Brain-Training” Programs Work?」2016年
    訓練課題の上達と、別の課題・日常生活への効果を区別する「転移」の論点を説明するために参照したレビュー。PubMed
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27697851/

  5. Reddit・r/cogsci「Looking for brain training exercises」
    SNS・掲示板上の関連反応として参照。訓練が役立ったという個人の経験と、読書・運動・交流などを重視する意見を要約した。今回の記事への直接の反応ではない。reddit.com
    https://www.reddit.com/r/cogsci/comments/1hofaka/looking_for_brain_training_exercises/