「牛肉を少し減らすだけ」で地球は助かる? — “44%が食を変える必要”という衝撃

「牛肉を少し減らすだけ」で地球は助かる? — “44%が食を変える必要”という衝撃

「食べ過ぎ」と「牛肉」が、気候危機の“盲点”だった——。


カナダ・ブリティッシュコロンビア大学(UBC)の研究チームは、地球の平均気温上昇を2℃以内に抑えるためには、世界人口の約44%が食生活を変える必要があると推計した。しかも「一部の富裕層が贅沢を控えればいい」という話では終わらない。研究では、排出が多い層が確かに存在する一方で、“上限を超えている人”が広い範囲に分布していることが示される。UBC News


この研究を主導したのは、UBCのInstitute for Resources, Environment and Sustainabilityで博士課程に在籍していたフアン・ディエゴ・マルティネス博士。彼らが突きつけるのは、「食の温室効果ガス(GHG)は、誰かの問題ではなく、ほぼ全員の生活圏に入り込んでいる」という現実だ。UBC News



1) 何が分かったのか:「44%」という数字の意味

研究チームの主張はシンプルだ。気温上昇を2℃以内に抑える“世界が許容できる食由来の排出量”に照らすと、2012年時点で世界の約半数、そして**カナダでは少なくとも90%**が、食生活を変える必要がある水準にあるという。さらに将来推計では、2050年を見据えると約90%が“今と同じ食べ方では成り立たない”。つまり「そのうち誰かがやる」ではなく、「時間が経つほど、対象者が増える」構図だ。UBC News


ここで大事なのは、研究が“理想論のお願い”ではなく、予算(バジェット)の発想で組み立てられている点だ。温暖化を2℃以内に抑えるために、食分野にも「これ以上は出せない」という世界合計の上限がある。問題は、その上限を誰が、どれだけ超えているかである。UBC News



2) 研究のやり方:「1人あたり食排出予算」を112カ国で算出

チームは、112カ国(世界の食関連GHGの99%をカバー)について、国ごとの人口を所得10分位に分け、

  • 食の消費(何をどれだけ食べるか)

  • 生産(農畜産の排出)

  • サプライチェーン(輸送・流通など)
    を合わせて、「1人あたりの食排出量」を推計したうえで、2℃目標に整合する「1人あたり排出上限」と照合した。UBC News


このアプローチが面白いのは、「国平均」ではなく同じ国の中の格差まで見ようとしている点だ。国として豊かでも、国内に幅がある。逆に国としては高所得でなくても、国内の上位層が高排出の食生活をしている場合もある。食の排出は“国家”というより、“暮らしの階層”にしみ込んでいる——そんな見取り図が浮かぶ。UBC News



3) 「富裕層だけの問題」ではない、ただし“不平等”でもある

研究は不平等を否定しない。むしろはっきり示す。
排出上位15%が、食由来排出の30%を占める。これは下位50%全体と同じ規模だ。UBC News


ただ同時に、研究者はこう言う。排出上位層は確かに大きいが、上限を超えている人は“もっと広い”。だから、世界全体で見ると「上位だけ変えればOK」にはならず、“半分”が対象になる。カナダでは、なんと所得10分位すべてが上限超えという厳しい結果になる。UBC News


さらに論文側の要旨では、2012年時点で世界人口の40〜45%が上限を超過、2050年人口で計算した将来の上限では89〜91%が上限超過という推計も示される。要するに、「食の排出を減らす努力」は2050年まで“ほぼ全員の生活の一部”になる可能性が高い、ということだ。ResearchGate



4) 「飛行機を減らす」より「食」?——“どっちか”ではない

気候対策の議論では、「飛行機をやめろ」「EVに乗れ」「贅沢を減らせ」といった論点がよく出る。研究者も、こうした議論の妥当性は認める。だが食が強調される理由は明確で、世界の食料システムは人為起源GHGの3分の1超を占めるからだ。UBC News


そしてもう一つ、食の議論が避けづらい理由がある。人は誰でも食べる。つまり、食は「一部の行動」ではなく、全員に関係する“毎日”の選択になる。研究者の言葉を借りれば、飛行機も牛肉も多い人にとっては**“どちらか”ではなく“両方”**を減らすことが求められる。UBC News



5) じゃあ何を変える?:ポイントは「食べ過ぎ」と「牛肉」

研究者が挙げる“シンプルな変更”は大きく2つだ。


① 食べる量を適正化し、食品ロスを減らす

「必要な分だけ食べ、余りは再利用する」。食品ロスが減れば、生産・廃棄・調理の無駄が減り、排出も減る。さらに家計にも効く。UBC News


② 牛肉を減らす(またはやめる)

特に強調されるのが牛肉だ。UBCの紹介では、**平均的なカナダ人の食由来排出のうち、牛肉だけで43%**を占めるとされる。しかも研究者自身、ラテンアメリカで育ち「牛肉が文化の一部」だった経験を語りながら、それでも「データを否定できない」と踏み込む。UBC News



6) 「食の上限」をめぐる、もう一つの視点——“増やすべき人”もいる

ここが議論を複雑にするところだ。論文要旨では、排出削減は単に「みんな減らそう」ではなく、**十分に食べられていない人が“健やかに生きるために増やす余地”**を確保する必要にも触れている。すなわち、上位層の削減は「気候のため」だけでなく、**食の公正(フェアネス)**のためにも意味がある、という発想だ。ResearchGate


この観点に立つと、「牛肉を減らせ」は単なる我慢大会ではなく、

  • いま過剰に排出している層が減らす

  • まだ必要量に届いていない層が満たせる

  • それでも総量は2℃目標に収まる
    という“枠組みの調整”として見えてくる。



7) 日本で置き換えるなら:極端な禁欲より「置き換え設計」

日本の食生活は多様だが、年末年始は特に「ごちそう」が増える。ここで大切なのは、理想を一気に達成しようとして挫折するより、置き換えの設計をすることだ。


たとえば、

  • 牛肉料理を「週1〜2回」減らし、鶏・魚・大豆に置き換える

  • 量を少し減らし、余った分を翌日に回す(ロス削減)

  • “ごちそうの日”を否定せず、普段で帳尻を合わせる


研究者自身も、行動の変更を「政治や制度を動かす入口」と位置づける。彼は「Vote with your fork(フォークで投票しよう)」と呼びかけ、個人の選択が話題になれば、政治家が食品システムの政策に関心を持ちやすくなる、という。UBC News



8) SNSの反応:拡散した“論点”はだいたい4つ(※傾向の再構成)

この話題は、研究機関やメディアの公式アカウント経由でSNS上にも流れやすい。実際にUBC ScienceやSentient Mediaが、「44%が食生活を変える必要」といった要旨でXに投稿していることが確認できる。X (formerly Twitter)

 



(※以下は、個別投稿を引用するのではなく、そうした拡散で起きやすい議論を
編集部が整理・再構成
したものです)

論点A:賛同「やっぱり牛肉が鍵」

  • 「牛肉だけでインパクト大なら、そこからでいい」

  • 「まずは“量”と“ロス”からなら始めやすい」


投稿例(編集部作成)

「月に数回、牛→鶏/豆に変えるだけでも、体感で続く。完璧主義やめよう」


論点B:反発「また個人の努力に押し付け?」

  • 「企業や政策の問題を、個人の皿に載せるな」

  • 「そもそも低所得層に“選べ”は酷」


投稿例(編集部作成)

「“食べ方を変えろ”より、価格と供給を変える政策を先にして」


論点C:現実論「文化・嗜好・栄養は簡単じゃない」

  • 「牛肉は文化。いきなりゼロは無理」

  • 「代替品が高い/好みに合わない」


投稿例(編集部作成)

「食はアイデンティティ。‘正しさ’だけで動かないのが難しい」


論点D:皮肉・ジョーク「結局、年末は食べる」

  • 「ホリデーにそんな話する?(でも耳が痛い)」

  • 「来年から…って毎年言ってる」


投稿例(編集部作成)

「今日だけは地球よりローストビーフを優先させて(明日からやる)」


SNSでは、この4つが混ざり合って議論が回りがちだ。重要なのは、賛否のどちらにも一理あること。だからこそ、話が“炎上”で終わるより、**「何ならできるか」**に落とし込めるかが勝負になる。



9) まとめ:最初の一歩は「食べ過ぎを減らす」+「牛肉頻度を下げる」

研究のメッセージは極端な菜食主義の推奨ではない。

  • 食べ過ぎを減らす(量とロス)

  • 牛肉を減らす(頻度・置き換え)

  • そして、その話を可視化して政策と市場を動かす
    この順番が現実的だ。UBC News


2012年データでもすでに「上限超え」が広がっている。将来はさらに対象が増える。だからこそ、今日の食卓の“小さな修正”が、気候の大きな話につながっていく——研究はそう背中を押している。UBC News


参考記事

Q&A: 食生活の改善がどのように地球を救うのか
出典: https://phys.org/news/2025-12-qa-diet-world.html