陰謀論にハマるのは「頭の問題」じゃない — 鍵は“不正義感”と“曖昧さ耐性”

陰謀論にハマるのは「頭の問題」じゃない — 鍵は“不正義感”と“曖昧さ耐性”

「陰謀論を信じる人」は、情報弱者なのか?——“性格”より先にある2つの心理特性

「政府は真実を隠している」「裏で誰かが糸を引いている」。ネット上で繰り返し流通する陰謀論は、いまや“一部の人の珍説”ではなく、社会の意思決定や分断にまで影響を与える存在になった。では、なぜ人は、根拠が弱い説明に惹きつけられるのか。


2026年1月5日、Phys.orgは、陰謀論的なものの見方(conspiracist mindset)に関連する心理特性を特定した研究を紹介した。ポイントは意外なほどシンプルで、研究者が強く関連すると示したのは、**「不正義感(世界は不公平だという感覚)」と、「あいまいさへの低耐性(白黒はっきりしない状態に耐えにくい傾向)」**の2つだった。 Phys.org



研究は何を調べたのか:焦点は「隠蔽(cover-up)」

この研究が注目したのは、陰謀論の中でも中核にある発想——「組織や政府は真実を意図的に隠している」という“隠蔽”の信念だ。研究チームは複数国の253人を対象に、政治家や政府機関への疑念を問う文章(例:「政治家は決定の本当の動機を語らない」「政府機関は市民を監視している」など)への同意度を尋ねた。 Phys.org


そのうえで、年齢・性別などを含む14の変数を統計的に検討し、陰謀論的傾向を説明しうる要因を探ったところ、特に効いていた要因がいくつか浮かび上がり、記事では「際立った3要因が(陰謀論を信じる傾向の)約20%を説明した」と紹介されている。 Phys.org



特性1:あいまいさに耐えにくい人ほど「物語の単純さ」に救われる

1つ目の鍵は、あいまいさへの低耐性(tolerance of ambiguity:TA)。状況に“グレー”が多いほど不安になり、「偶然」「複雑」「まだ分からない」を抱え続けるのが苦手な傾向だ。 Phys.org


陰謀論の強さは、まさにここに刺さる。現実の社会問題は多因子で、利害が絡み、説明は長くなりがちだ。一方で陰謀論は、たいてい短い。「黒幕がいる」「隠している」「メディアは共犯」。複雑なものを単純な“筋書き”に落とし込み、見えない不安に輪郭を与える。


しかもこの“単純さ”は、情報の正確さとは別に、心理的な安心を生む。記事でも、あいまいさに耐えにくい人ほど、陰謀論が提示する“確実っぽさ”に惹かれやすい趣旨が述べられている。 Phys.org



特性2:不正義感が強いと「誰かが操作している方が納得できる」

2つ目の鍵は、不正義感だ。「世の中はフェアではない」「自分(や自分の属する集団)が損をするようにできている」。そんな感覚が強いほど、陰謀論的な説明に親和性が高いと記事は紹介する。 Phys.org


ここで重要なのは、陰謀論が“救い”として働く場面があることだ。世界がランダムで、たまたま不運が重なる——その説明は、当事者にとってしんどい。だが「誰かが糸を引いている」と思えれば、少なくとも“筋”が通る。納得できる敵が立ち上がり、怒りの矛先が定まる。


この心理は、陰謀論を「ばかげた妄想」と一蹴する態度を難しくする。信じる人にとって陰謀論は、単に情報ではなく、感情の整理装置になっている可能性があるからだ。



付随する傾向:若年層・宗教性とも関連

さらに記事では、若い人、そして宗教性が高い人のほうが陰謀論的傾向が強い、という関連も示されたと述べられている。 Phys.org


ただし、これは「若者や信仰者が陰謀論者だ」という短絡ではない。あくまで“統計的関連”であり、文化・政治・コミュニティ要因など多くの背景が絡む。むしろ読み取るべきは、陰謀論が“特定の属性の人だけの問題”ではなく、条件が揃えば誰でも傾きうる、という点だ。



ただ「ファクトを出す」だけでは逆効果になりうる

Phys.orgの記事が踏み込むのはここからだ。研究者は、陰謀論への対策として、単なる事実提示だけでなく、不確実性への対処無力感のケアに目を向ける必要がある、と示唆している。 Phys.org


「デマだから訂正」で終わらない。なぜなら、陰謀論の魅力は“情報の中身”だけでなく、“心の穴埋め”にもあるからだ。


心理学のレビュー研究でも、陰謀論が人の確実性への欲求(epistemic)コントロールや安全への欲求(existential)、**所属や自己像(social)**と結びつくことが整理されている。 PMC


つまり、陰謀論に引っ張られている人に対しては、「正しい情報」だけでなく、「不安や怒りをどう扱うか」「不確実なまま生きる技術」をセットで提示しないと、届きにくい。



限界もある:サンプルの偏りと説明力

一方で、記事は研究の限界にも触れる。サンプルサイズが大きいとは言えず、参加者の多くが中年で、高学歴の専門職だった点が述べられている。 Phys.org


また「約20%を説明」といっても、裏を返せば残りの大部分は別要因だ。政治不信、社会的孤立、コミュニティの同調圧力、アルゴリズムによる増幅……陰謀論は複合問題で、単一の“犯人”は存在しない。


それでもこの研究の価値は、陰謀論を「知性の問題」ではなく、不確実性と不公平感の問題として捉え直したところにある。攻撃よりも理解、断罪よりも設計へ。議論の地平を一段ずらす力がある。



SNSの反応:拡散のされ方と“典型パターン”

この記事は公開時点で「157 shares」と表示され、Phys.org上でもコメントが付いている(「Load comments (4)」と表示)。 Phys.org


またPhys.org公式のLinkedIn投稿では、サインインなしで確認できる範囲でも「Like 3」が見える。 LinkedIn


X(旧Twitter)でもPhys.orgアカウントから関連投稿があり、検索結果上では少なくとも「5 likes」が確認できる。 X (formerly Twitter)

 



ただし、プラットフォーム側の表示制限で全文コメントの網羅的確認は難しいため、以下では「実際の個人投稿の引用」ではなく、この種の記事に対してSNSでよく出る反応の型として整理する(※投稿例はすべて架空の文面)。


反応パターン1:「陰謀論者を病理化するな」

  • 投稿例(架空):「“特性”で片付けるのは上から目線。権力が嘘をついた歴史もあるのに」
    この反応は、陰謀論が時に“権力監視”の感覚と結びつく点から出てくる。実際、陰謀は歴史上ゼロではない。だからこそ「全部デマ」と言い切ると、反発を呼びやすい。

反応パターン2:「自分も当てはまる気がして怖い」

  • 投稿例(架空):「白黒つけたくなる時ある。疲れてる時ほど“単純な答え”が欲しい」
    記事の示す「曖昧さ耐性」の話は、自己点検として刺さりやすい。陰謀論を“遠い誰か”の話から、“自分の脳内のクセ”へ引き寄せる力がある。

反応パターン3:「対策は“事実”より“感情のケア”」

  • 投稿例(架空):「ファクトチェックだけじゃ足りない、ってのは同意。無力感に効く手当てが要る」
    この記事が提案する「不確実性への対処」「無力感への対応」という方向性は、教育・医療・組織コミュニケーションの文脈でも受け取りやすい。 Phys.org

反応パターン4:「若者・宗教性に触れるのは危うい」

  • 投稿例(架空):「若いと陰謀論って決めつけに使われそう」
    属性と関連が示される話題は、切り取りで燃えやすい。研究の“関連”が、SNSでは“決めつけ”に変換されがちだからだ。記事本文の文脈(限定条件・サンプルの特徴)を添える工夫が必要になる。 Phys.org


ここから何が言えるか:陰謀論は「情報戦」ではなく「不確実性の扱い方」

陰謀論は、頭の良し悪しではなく、「不安」と「怒り」の処理のされ方に深く関わっている。あいまいさに耐えられないとき、人は“最短距離の説明”に飛びつく。不公平だと感じるとき、人は“黒幕”を欲しがる。 Phys.org


だから対策も、ファクトチェック一本槍では届かない。必要なのは、

  • すぐ結論に飛びつかず「分からない」を保留する練習

  • 自分の無力感を減らす行動(小さくても“効力感”を取り戻す)

  • 対立ではなく、相手の不安の形を言語化する対話
    といった、“心のインフラ”に近い部分かもしれない。


陰謀論を信じる/信じないの二択で殴り合うより先に、私たちが共有すべき問いがある。
「不確実で、不公平に見える世界を、どう生き延びるか」


Phys.orgの記事が投げたのは、たぶんその問いだ。 Phys.org


参考記事

陰謀論者の思考を助長する可能性のある心理的特性が特定される
出典: https://phys.org/news/2026-01-psychological-traits-fuel-conspiracy-theorist.html