「ごっこ遊びの“ピーク”は開始10〜15分後」その“ちょっと退屈”が育つ:幼児の自由遊びに必要な時間とは

「ごっこ遊びの“ピーク”は開始10〜15分後」その“ちょっと退屈”が育つ:幼児の自由遊びに必要な時間とは

「遊びなさい」と言われた瞬間、子どもはすぐに全開で遊び出す——。私たちはつい、そんなイメージで“遊び時間”を考えがちだ。ところが最新の研究は、幼児のごっこ遊びには“助走”があり、最も没頭するピークが訪れるのは 開始から10〜15分後 だと示している。短い遊び時間で区切ってしまうと、ちょうど面白くなってきたところで終わってしまうかもしれない。


研究は「自然な園の遊び」をのぞいた

今回紹介するのは、SWPS大学(ポーランド)とイスタンブール大学の研究者らによる、ごっこ遊び(pretend play)の観察研究だ。ポイントは、実験室のような“作られた場”ではなく、子どもたちが普段から過ごす園の環境で、同じ園の仲間同士が遊ぶ様子を記録したことにある。


先行研究では、きょうだい2人や親子など少人数のやりとりを扱うものが多かった。だが現実の園では、遊びはもっと雑多で、同時多発的で、途中参加や離脱も起こる。研究者はそこにこそ、自己調整(self-regulation:気持ちや行動を状況に合わせて整える力)の発達を読み取る手がかりがあると考えた。


93人・30分・「指示しない」設計

観察されたのは、3〜6歳の子ども93人。30分の遊び時間に、園内に3つの“ごっこ遊びステーション”が用意された。

  • 衣装で変身できる「なりきり」コーナー

  • LEGO Duploなどで作る「構成(建設)」コーナー

  • おままごと用の食器や食べ物がある「キッチン」コーナー


ここで重要なのは、子どもに対して 「こう遊んでね」という促しをしなかった 点だ。大人は“見守り”、子どもは“自由”。その30分間を撮影し、遊びの質を次の3つの観点で分析した。

  1. 組織化(organization):物語の筋立て、役割分担、展開のまとまり

  2. 精緻化(elaboration):設定の細部、役割演技の丁寧さ、状況の作り込み

  3. 想像力(imagination):物の見立て、創造的な道具の使い方、空想の広がり

いちばん面白くなるのは「10〜15分後」

最大の発見は、遊びの没頭にはリズムがあり、開始直後ではなく10〜15分後に活動が最高潮に達することだった。年齢や性別にかかわらず、この“ピーク帯”は共通して現れたという。


考えてみると、これは直感にも合う。遊び始めは「今日は何する?」「これ使っていい?」といった探索や交渉の時間になりやすい。役割を決め、小道具を集め、舞台を整え、ストーリーが立ち上がるまでには時間がかかる。大人でいえば、会議の冒頭5分は雑談や前提のすり合わせで、ようやく議論が走り出すのは少し後——あの感じに近い。


研究はさらに、男女で“没頭の形”が少し違う可能性も示した。男児はある程度まで上がった活動水準を、比較的最後まで維持する傾向があった一方、女児は立ち上がりが速く、その後やや下降して男児と同程度に落ち着く傾向がみられたという。つまり、「女の子は最初から熱量が高く、男の子は一定のテンションで続く」といったイメージに近いが、これは平均的傾向であり、個人差が大きい点は忘れてはいけない。

女児は“物語の設計”が得意、男児は“動き”が多い

3つの観点(組織化・精緻化・想像力)では、女児が総じて高得点だった。特に、ストーリー構造への注意細部の作り込みが目立ち、複雑な物語を組み立てる遊びが多かったという。

一方、男児は アクションや移動に重心を置いた遊びが多い傾向があった。


ただし面白いのは、想像力の差が最も小さかった点だ。つまり、空想を広げたり、物を見立てたりする力は、男女で大きくは変わらない。差が出やすいのは「物語を整理して運営する力」や「細部を詰める力」のほうで、ここには普段の遊び経験や周囲の期待(ジェンダー規範)の影響も入りうる。研究結果を「女の子の方が上」「男の子は劣る」と短絡させるのではなく、得意の出方が違うと捉えた方が建設的だ。


年齢差:3歳は“瞬発型”、5〜6歳は“持久型”

年齢による変化もはっきりしている。年齢が上がるほど、遊びはより構造化され、集中が続きやすくなる。
特に研究者は 4〜5歳が重要な節目になり得ると述べている。3〜4歳では、最初は勢いがあっても関心が揺れやすく、時間が経つにつれて飽きが見えやすい。対して5〜6歳は、最初から入り込みやすく、30分を超えても続けられる可能性がある。


ここで大切なのは、「飽き」は失敗ではない、という点だ。研究者は、遊びは「没頭→展開→やり尽くす→飽きる→次を探す」という一連のサイクルを持つと捉えている。飽きるところまで行けたら、それは“ちゃんと遊びきった”サインかもしれない。


「遊びはムダ」ではなく、自己調整力のトレーニング

研究者が強調するのは、就学前教育は“学習活動”と“ごっこ遊び”のバランスが必要だということだ。ごっこ遊びの中では、子どもは役割を引き受け、相手の反応を見ながら言動を調整し、物語を維持するために我慢したり譲ったりもする。つまり、学校生活で求められる自己調整の基礎を、遊びの中で自発的に練習している


だからこそ「時間」が効いてくる。

短い枠で切られた遊び時間では、舞台装置を整えたところで終わってしまう。ピークに入る10〜15分後を迎える前に片付けの合図が鳴れば、子どもは“物語が走り出す感覚”を十分に味わえない。研究は、中断されない十分な遊び時間を確保することが、発達支援として合理的だと示唆している。


保育・家庭での「時間設計」へのヒント

この研究から、現場や家庭で使える示唆をいくつか引き出してみよう。なお、ここから先は研究結果に基づく“応用のアイデア”であり、個々の子どもの特性や環境によって調整が必要だ。


1)遊びを短く刻みすぎない
「自由遊び10分→次の活動へ」のように刻むと、ちょうど10分で“ピークの入口”。可能なら、自由遊び枠はもう少し長く取り、片付けを急がせない工夫をしたい。


2)遊びの“立ち上げ”を邪魔しない
開始直後は、子どもたちが役割や道具、場所を試している。ここで大人が「それは違う」「こうしなさい」と介入しすぎると、遊びのエンジンがかかりにくくなる。安全確保を最優先にしつつ、設定づくりの試行錯誤は尊重したい。


3)“飽きた”を次の学びに接続する
飽きは悪ではない。飽きたら、次の遊びへ移る、別のコーナーへ行く、道具を変える——それ自体が自己調整の練習になる。大人ができるのは「終わり」を急がせるのではなく、「次どうする?」と選択肢を増やすことだ。


4)ジェンダー差は“伸ばしどころ”として扱う
女児が物語構造に強みを示しやすいなら、男児にも“物語を組み立てる楽しさ”に触れる機会を。男児が動き中心になりやすいなら、女児にも“動き”や“制作”のダイナミズムに触れる機会を。得意の違いを固定せず、経験の幅を広げる視点が大切だ。


SNSの反応:まずは「公式発信」が拡散、議論の焦点は“時間”へ

 

今回の研究は、大学側の公式発信としてSNSにも流れた。SWPS Universityの公式X(旧Twitter)投稿では、「自由遊びの没頭は開始10〜15分後にピーク」「女児は組織化(まとまり)が高い」といった要点が短く共有され、研究内容の入口として機能している。研究論文そのものは専門的だが、SNSではこの“数字のわかりやすさ”が目を引く。


また、SNSで目立つ論点は大きく2つに分かれやすい。

  • 「だから遊び時間を削るのは逆効果では?」
    10〜15分でピークが来るなら、遊び枠が短い園・習い事・家庭スケジュールは見直し対象になり得る、という問題提起。

  • 「性差の解釈に注意」
    「女の子の方が上手」と受け取られがちな表現に対して、環境要因や期待の影響、個人差を踏まえるべきだという指摘。研究が示したのは平均傾向であり、ラベリングは危険だ、という反応だ。


ここで注意したいのは、SNSは要点が圧縮されるため、「10〜15分後にピーク」だけが独り歩きしやすいことだ。研究が言っているのは“その時間帯が最も没頭しやすい傾向”であって、「どの子も10分でスイッチが入る」「15分で必ず最高になる」と断言するものではない。大事なのは、子どもの遊びに“立ち上がりの時間”があることを大人が理解し、時間設計を工夫する余地がある、という点だ。


まとめ:遊びは「後で役立つ」ではなく「今ここで育つ」

ごっこ遊びは、将来の学力のための“準備運動”というだけではない。子どもが自分で役割を引き受け、相手と折り合いをつけ、物語を走らせ、時に飽きて次を探す——その一連のプロセス自体が、自己調整力や社会性の発達のど真ん中にある。


そして研究が突きつけるのは、時間に追われる大人の焦りだ。


「遊びの時間を確保したい」と思いながら、現実には短く切ってしまう。だが、子どもが本気になり始めるのは10分後かもしれない。もし私たちができることがあるとすれば、それは新しい教材を足すことではなく、“邪魔しない時間”を守ることなのかもしれない。



出典