子育てにスマホ、あり？ ――親の“ファビング”が世界の子どもに及ぼす影響とデジタル・ウェルビーイングの実践

1. 何が問題なのか――スマホと育児の現在地

1-1 かつて無かった“24時間接続”

2025年、世界のスマートフォン普及率は約76％。日本を含むOECD加盟国では、親世代の93％がスマホを所有している。移動時間や夜間授乳中に情報を得られるのは大きな恩恵だが、「手の中の小さな画面」が親子の対話の時間を奪うという指摘が増えている。

1-2 “ファビング”とは

ファビングは “phone”＋“snubbing” の造語で、相手を無視してスマホに没頭する行為を指す。米ミシガン大の国際比較調査（2024）では、**68％の親が「子どもと一緒にいる時でも通知が来ればすぐ画面を見てしまう」**と回答した。乳幼児は視線合わせと応答的発話の往復で情緒を学ぶため、親が視線を下げるだけで子どもはストレスを感じるpsychologytoday.com。

2. 科学は何を語るか――最新研究レビュー

2-1 情緒面への影響

米国・中国・欧州10都市を対象にした縦断研究（JAMA Network Open, 2024）は、親のテクノフェレンスが増えると 1 年後の12歳児の抑うつスコアが平均18％上昇、攻撃行動も12％増加することを報告したjamanetwork.com。研究者は「親の注意が奪われる断続的ストレスこそ問題」と指摘する。

2-2 言語・認知発達

家族の食卓を8カ国で録画した観察研究（Family Dinners & Technology, 2024）は、親が食事中にスマホを取り出した家庭では、幼児の発話数が36％減少。食事終了後1時間の語彙学習テストでも平均得点が低かったtandfonline.com。

2-3 学業・集中力

Seattle Children’s Research Institute（2025）の調査では、中高生のスマホ使用が授業時間中平均90分に達し、スクリーン依存度の高い群は1学期後の数学・国語の成績が0.4〜0.6ポイント低下したseattlechildrens.org。

2-4 視力・睡眠・肥満

WHOは乳幼児期の過度なスクリーン視聴が睡眠不足・近視・肥満リスクを高めると警告。特に夜間ブルーライトがメラトニン分泌を抑制し、入眠を遅らせるメカニズムが報告されているwho.int。

3. 泣く子にスマホ――“静けさ”の裏側

「外食中に子どもが泣き出し、即座に動画を流して黙らせる」――多くの親が経験する場面だ。短期的には静かになるが、米心理学誌『Developmental Psychology』の2024年研究は、**「自己調整（セルフレギュレーション）能力が鍛えられない」**と指摘。

親が抱っこや言葉がけで“情動のコーチ”をする機会が奪われ、逆に癇癪頻度が増えるというpsychologytoday.com。

4. 各国ガイドラインを比較する

各国とも**「時間」より「質」「親の関与」**を重視する点で一致するが、2歳未満はほぼゼロ推奨が共通している。

5. スマホのポジティブ活用――“悪者”にしない視点

1. 遠隔育児
   　海外赴任や単身赴任の家庭では、ビデオ通話で祖父母と毎日会話することで語彙量が増加したという国内パイロット研究がある。
   
   
   

2. 特別支援教育
   　自閉スペクトラム症児の社会的ターンテイキングを学習するアプリは、対面指導と組み合わせると共同注意行動を44％改善。
   
   
   

3. 災害時・多文化家庭
   　翻訳アプリを使った避難所運営、日本語習得支援など、スマホは命綱になる場合も多い。
   
   

6. デジタル・ウェルビーイング７か条（家庭で実践）

1. 家族メディア計画を紙で共有する（誰が・いつ・何を視聴するか）
   
   

2. 食卓・寝室・浴室は“スマホゼロゾーン”に指定
   
   

3. 2歳未満はビデオ通話以外ゼロ――泣いたらまず抱っこ、次に歌や絵本
   
   

4. **スクリーンは「静かにさせる最後の手段」**に位置づける
   
   

5. 夜8時以降はリビングで充電――親も同じルールを守る
   
   

6. 週末は“アナログ2時間チャレンジ”――外遊びやボードゲームで代替
   
   

7. スクリーンタイム計測アプリで親自身の使用を見える化
   
   

7. 政策と企業の動き

• EUデジタルサービス法は13歳未満へのターゲティング広告を禁止し、スクリーン依存設計の見直しを要求。

• メタ、ティックトック、LINEなど主要SNSはペアレンタルコントロール強化を表明。

• 日本では2025年4月から、小学校におけるスマホ持ち込みを自治体判断で全面禁止できる改正学校保健安全法が施行予定。
  
  

8. まとめ――“質”がカギ

スマホを取り上げれば万事解決、という単純な話ではない。
子どもはスクリーンよりも、親と目を合わせて言葉を交わす時間を必要としている。

テクノロジーは適切な枠組みの中でこそ、学びと安心をもたらす。今夜の夕食から“スマホゼロゾーン”を試し、子どもの一言ひと言に耳を傾けてみよう。

参考記事一覧

1. World Health Organization. Guidelines on Physical Activity, Sedentary Behaviour and Sleep for Children Under 5 Years of Age (2019).

2. American Academy of Pediatrics. Screen Time Guidelines (2024).aap.org

3. Folkhälsomyndigheten. No screens before age of two (2024).theguardian.com

4. Catherine Vautrin, French Ministry of Health. Proposal to outlaw screens for under-threes (The Times, 2025-06-17).thetimes.co.uk

5. JAMA Network Open. Perceived Parental Technoference and Adolescent Mental Health (2024).jamanetwork.com

6. Psychology Today. Parental Phubbing Is a Powerful Form of Disregard (2025-06-15).psychologytoday.com

7. Family Dinners & Technology Study. Journal of Family Studies (2024).tandfonline.com

8. Seattle Children’s Research Institute. Teen Smartphone Use During School Hours (2025-02-04).seattlechildrens.org

9. 日本小児科医会. 「親子でスマホから離れた時間をつくりましょう」リーフレット (2024).jpa-web.org