タリバン支配下で会社を持つ女性たち ― 奪われた未来を“商い”でつなぐアフガンの現実

タリバン支配下で会社を持つ女性たち ― 奪われた未来を“商い”でつなぐアフガンの現実

タリバン支配下で会社を持つ女性たち――奪われた未来を“商い”でつなぐアフガンの現実

アフガニスタンで、女性たちが次々と事業を始めている。

それだけを聞けば、希望のあるニュースに聞こえるかもしれない。女性起業家が増え、工房が生まれ、商品が市場に並び、家計を支える収入が生まれている。だが、その背景にあるのは、自由な経済参加の広がりではない。むしろ逆だ。学校に通えず、大学に進めず、多くの職場から締め出され、移動や接客にまで制限がかかるなかで、女性たちは「ほかに残された道がない」から商いへ向かっている。

ニューヨーク・タイムズが報じたのは、タリバン統治下で事業を営むアフガン女性たちの姿だ。そこにあるのは、単純な成功物語ではない。希望と屈辱、工夫と恐怖、経済的自立と男性依存が複雑に絡み合った、極めて矛盾した現実である。

タリバンは2021年に政権を再掌握して以降、女性と少女に対して世界でも最も厳しい部類の制限を課してきた。女子は中等教育以上から事実上排除され、大学教育も閉ざされ、多くの職業への道も断たれた。美容院は閉鎖され、女性が医療や教育、NGO、行政などで働く機会も大きく狭められている。外出や長距離移動には男性親族の同伴が求められる場合があり、単に「働きたい」と思うだけでは、職場に向かうことすら難しい。

それでも、タリバンは女性の事業活動を完全には禁じていない。経済崩壊と国際的孤立を避けるため、一定の条件のもとで女性の起業を認めているからだ。結果として、女性が持つ事業免許は過去5年で大きく増えたとされる。さらに、免許を持たずに小規模な仕事をしている女性も多数いる。絨毯、手工芸、石けん、化粧品、蜂蜜、食品加工、縫製、職業訓練。アフガン女性たちは、許される範囲のぎりぎりで仕事をつくり出している。

ただし、それは「女性活躍」と呼ぶにはあまりに苦い。

たとえば、北部マザーリシャリーフで絨毯工房を営む19歳のナシラ・アジジさん。彼女はタリバンが復権した2021年、まだ14歳だった。多くの少女と同じように、教育の道を断たれ、家に閉じ込められる日々を経験した。彼女にとって工房は、収入源であると同時に、社会とつながる数少ない場所でもある。そこでは女性たちが糸を結び、模様を織り、商品を生み出す。会話があり、役割があり、今日やるべき仕事がある。

彼女の事業は、女性の雇用を生む場にもなっている。工房や在宅で働く人を含め、多くの女性が関わっている。しかし、販売や男性顧客との交渉、外部との調整には、父や兄弟など男性家族の存在が欠かせない。事業免許の名義は女性にあっても、市場との接点は男性が担う。ここに、タリバン下の女性起業の核心がある。女性が働くことは許されても、女性が完全な主体として市場に立つことは、なお許されにくい。

西部ヘラートでは、21歳のロキア・レザイさんが石けんブランドを立ち上げた。彼女はかつて鉱山技師を夢見ていた。しかし、その道は閉ざされた。英語を教えようとしても、私塾への締め付けで生徒は減った。そこで始めたのが、サフランやターメリックなどを使った石けんづくりだった。

彼女の工房は、最新設備の整った工場ではない。大きな鍋で材料を煮て、型に流し、商品にしていく。だが、彼女の視線はすでに国外市場に向いている。イランやタジキスタンへの展開、2030年までの国際ブランド化。制限だらけの環境にありながら、経営書や心理学の本を読み、商品改良や販路拡大を考える姿は、起業家そのものだ。

しかし、彼女も自由に首都カブールへ出張できるわけではない。男性の同伴が必要になる。自分のブランドを自分の足で売り込み、自分の言葉で交渉することができない。事業を持つ女性が増えても、移動、金融、顧客対応、取引先との関係に制限が残れば、成長の天井は低くなる。

さらに象徴的なのが、養蜂家のゴンチャ・カリミさんだ。彼女は「アフガニスタンの蜂の女王」として知られる存在になった。50の巣箱を管理し、蜂蜜を生産し、家族の重要な収入を支えている。だが、彼女は郊外へ蜂の世話に行く際、時に男性のような服装をするという。女性として移動するだけで視線や危険が増すからだ。

彼女の商売は、男性客への対応を禁じられたことで打撃を受けた。さらに過去には、女性への制限をめぐるトラブルの後、拘束された経験もあるという。働くことは家族を支える手段であるはずなのに、その行為自体が処罰や嫌がらせのリスクを伴う。彼女の物語は、タリバン下の女性起業が「許可された自由」ではなく、「いつでも奪われ得る例外」にすぎないことを示している。

国連開発計画などの報告も、この現実を裏付けている。アフガニスタンでは女性の就労機会が大きく減り、女性が収入を得る道は限られている。女性が運営する零細・小規模事業は、家計を支える重要な柱になっている一方、資金調達や市場アクセス、移動の制約に苦しんでいる。女性起業家の多くは銀行融資を受けにくく、友人や親族からの借金に頼らざるを得ない。市場へ行くにも男性保護者が必要で、売りたい商品があっても売り場に立てないことがある。

つまり、アフガン女性の起業は「解放」ではなく「封じ込めの中の生存戦略」なのだ。

 

SNS上でも、この報道には複雑な反応が見られる。Xでは、記事を共有しながら女性たちの粘り強さを称える投稿が確認できる。特に、アフガン女性の権利を訴えてきた人権関係者や研究者、地域メディア関係者の間では、「残された希望がビジネスだけ」という言葉が重く受け止められている。ある種の称賛はある。彼女たちは閉ざされた環境の中でも収入を生み、雇用をつくり、家族を支えているからだ。

しかし同時に、SNSでは「これを成功談として消費してはいけない」という警戒感も目立つ。女性が起業しているという事実だけを切り取れば、タリバンが女性の経済参加を認めているかのように見えてしまう。だが実際には、教育、移動、雇用、言論、身体の自由を大きく制限したうえで、限られた範囲の商いだけを認めているにすぎない。称賛すべきは女性たちの忍耐と創造力であって、彼女たちをその状況へ追い込んだ制度ではない、という反応が多い。

また、国際社会への不満もにじむ。アフガン女性の状況は、何年も前から繰り返し報じられてきた。女子教育の停止、大学からの排除、NGO職員への就労制限、公共空間からの締め出し。SNSでは「また同じことが起きている」「世界は怒るが、すぐに忘れる」という諦めにも似た声が見られる。特にアフガン国外に暮らすディアスポラの人々にとって、こうした記事は遠い国のニュースではない。家族、友人、かつての同級生の人生と直結する現実である。

一方で、女性起業を支援する具体的な方法を求める声もある。商品を買う、職業訓練を支援する、女性向けのデジタル教育や金融アクセスを広げる、国際機関の支援を継続する。SNS上の議論は、単なる怒りだけではなく、「では何ができるのか」という問いにも向かっている。

ただし、支援にも難しさがある。女性たちが国際市場にアクセスするには、決済、物流、品質管理、輸出手続き、オンライン販売、言語、デジタル環境が必要だ。だがタリバン下では、女性が自由に学び、移動し、銀行口座を持ち、男性と商談すること自体が制約される。支援の入口をつくっても、制度の壁が出口をふさいでしまう。

この問題を「女性の起業支援」だけで解決することはできない。根底にあるのは、女性を公的空間から退ける政治構造である。教育を奪われた少女が、数年後に高度な経営者、技術者、医師、法律家になることは難しい。今日の営業制限は、明日の経営規模を制限する。銀行に行けないことは、資金調達を制限する。声を出せないことは、交渉力を奪う。タリバンの規則は、個々の場面では細かな生活規制に見えるが、積み重なると女性の未来全体を小さくしていく。

それでも、女性たちは完全には沈黙していない。

絨毯を織る手、石けんを混ぜる鍋、蜂蜜を採る巣箱。そこには、政治的スローガンとは違う形の抵抗がある。家の外へ出ること、仲間と働くこと、収入を得ること、自分の名義で事業を持つこと。どれも当たり前の権利であるはずなのに、今のアフガニスタンでは、それ自体が大きな意味を持つ。

もちろん、彼女たちに「強い女性」という美しいラベルだけを貼ることは危険だ。苦境の中で働く人を称える言葉は、ときに制度の残酷さを見えにくくする。彼女たちは強いから働いているのではない。強くならざるを得ない状況に置かれている。夢だった職業を諦め、学びを断たれ、男性親族を介さなければ商売もできない社会で、それでも家族を食べさせ、他の女性に仕事をつくろうとしている。

この報道が突きつけるのは、アフガン女性の「起業ブーム」という明るい見出しではない。むしろ、女性が商売に希望を見いださざるを得ないほど、他の道が閉ざされているという事実である。

ビジネスは彼女たちに収入を与える。居場所を与える。仲間との会話を与える。自分で何かを決める感覚を与える。だが、それは教育の代わりにはならない。自由な就労の代わりにもならない。政治参加の代わりにもならない。人間としての尊厳を保障する制度の代わりにはならない。

アフガニスタンの女性たちは、規則の隙間に仕事をつくっている。だが、本来問われるべきなのは、なぜ彼女たちが隙間でしか生きられないのか、ということだ。

SNSで称賛される彼女たちの物語は、勇気の記録であると同時に、世界が見過ごしてきた失敗の記録でもある。蜂蜜の瓶、石けんの香り、絨毯の模様。その一つひとつの背後には、奪われた教室、閉ざされた職場、検問で止められる身体がある。

「残された希望はビジネスだけ」。この言葉が希望として語られ続ける限り、アフガン女性の自由はまだ回復していない。



出典URL

New York Times:本稿の主題となった、タリバン支配下で事業を営むアフガン女性たちへの取材記事。絨毯工房、石けん事業、養蜂などの事例、女性起業家の増加、規制の実態を参照。
https://www.nytimes.com/2026/06/21/world/asia/women-taliban-restrictions-jobs-education.html

UNDP Afghanistan:アフガニスタン女性の経済活動低下、女性主導の零細・小規模事業支援、女性雇用への影響を補足するために参照。
https://www.undp.org/afghanistan/stories/afghan-women-entrepreneurs-persevere-despite-restrictions

UNDP “Resilience and Opportunity”:女性雇用率、女性主導企業の収入依存度、移動・就労制限下での女性事業の役割を補足するために参照。
https://www.undp.org/asia-pacific/publications/resilience-and-opportunity

Reuters:女性起業家が資金調達や市場アクセスに苦しんでいること、銀行融資へのアクセス不足、男性保護者なしで市場へ行けない制約などを補足するために参照。
https://www.reuters.com/world/asia-pacific/afghan-women-turn-entrepreneurship-struggle-access-capital-2024-04-17/

UN Women Australia:タリバン復権後の女性の教育、移動、公共空間、就労に関する制限の全体像を補足するために参照。
https://unwomen.org.au/faqs-afghan-women-three-years-after-the-taliban-takeover/

UN Women “Gender Index 2024: Afghanistan”:アフガニスタン女性の労働参加、金融包摂、政治参加、教育機会の制限に関する背景データを補足するために参照。
https://www.unwomen.org/sites/default/files/2025-06/gender-index-2024-afghanistan-en.pdf

X / The Straits Times:NYT記事の共有例として、SNS上で記事が拡散されていることを確認するために参照。
https://x.com/straits_times/status/2068559125328355434

X / Saad Mohseni:NYT記事の共有例として、アフガニスタン関連メディア関係者による反応を確認するために参照。
https://x.com/saadmohseni/status/2068722749657297020

X / Shaharzad Akbar:アフガン女性の権利に関する文脈で、記事中の「女性に残された希望はビジネス」という趣旨の言及が共有されていることを確認するために参照。
https://x.com/ShaharzadAkbar

X / Heather Barr:人権分野の視点から、同記事の問題提起が共有されていることを確認するために参照。
https://x.com/heatherbarr1