宮本茂の証言が面白すぎる - ドンキーコング誕生の裏側、再発見 法廷資料が暴いた任天堂の発想と強さ

宮本茂の証言が面白すぎる - ドンキーコング誕生の裏側、再発見 法廷資料が暴いた任天堂の発想と強さ

image : Donkey Kong arcade / Photo by Joshua Driggs (ZapWizard) / via Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0

ドンキーコングをめぐる昔話は数多いが、今回あらためて面白いのは、「あのゲームは最初から今のような“完成されたキャラクター”ではなかった」と、40年以上前の法廷資料が生々しく語ってしまっていることだ。Polygonが取り上げたのは、1980年代のユニバーサル対任天堂訴訟に関する公開資料で、これらはThe Gaming HistorianことNorman Caruso氏が整理し、インターネット上で参照可能になった文書群に支えられている。今回の再注目は、単なる懐古ではなく、任天堂のキャラクター作りがどれだけ手探りで、同時にどれだけ強靭だったかを示す再検証でもある。

そもそもの争点は、ユニバーサルが「ドンキーコング」の名称やキャラクター、物語が「キングコング」にただ乗りしていると主張したことにあった。だが1983年の連邦地裁判決では、ユニバーサルの請求は退けられ、控訴審でも地裁判断は維持された。判決文を読むと、争点は単純な“似ている・似ていない”にとどまらず、ユニバーサルが本当にキングコングの商標的権利を主張できるのか、そして消費者が両者を混同する蓋然性があるのか、というかなり本格的な知財論争だったことが分かる。

今回の資料公開でとりわけ強烈なのは、宮本茂氏の供述だ。供述記録では、宮本氏はドンキーコングを「普通のゴリラに比べて、より人間に近いものにしようとした」と説明し、さらに後段では、それが「ゴリラの着ぐるみを着て人間のように振る舞う人間」という意味だったと明確に言い直している。加えて、彼は“ドンキーコング”という名称自体に強いこだわりがあったわけではないと答え、ゲーム名として自分が最も気に入っていた案は「Build-On」だったとも証言している。さらに、訴訟準備の文脈を除けば、誰かから「ドンキーコングがキングコングを連想させる」と言われたことはない、とも述べている。

この証言が面白いのは、ドンキーコングというキャラクターの核が、単なる“巨大な類人猿”ではなく、かなり演劇的で、コミカルで、どこか人間臭い存在として出発していたことを示しているからだ。後年のシリーズで育ってきたファンほど、ドンキーコングを「力強い野生」と「愛嬌」の混合物として捉えがちだが、その原型には最初から“着ぐるみめいた芝居っ気”が埋め込まれていた可能性がある。これは法廷での言葉尻以上に、任天堂のキャラクター造形の原点を読み直すヒントになる。これは資料から導ける解釈であって断定ではないが、今回の公開文書は、少なくともその読みを十分に許す。

そして、この裁判は単なる珍エピソードでは終わらない。1985年の関連判決では、地裁は任天堂の反訴について、ユニバーサルの行為により任天堂側に損害が生じたとして、任天堂に判断、費用、損害賠償を認めている。つまりこの一件は、“任天堂が大手映画会社の圧力を耐え抜いた”というだけでなく、アメリカ市場で自社IPを守る企業としての輪郭をはっきりさせた出来事だった。いま読み返すと、ドンキーコングはゲーム史の名作であると同時に、任天堂の企業史を支えた法廷の象徴でもあったことが見えてくる。

 

SNSの反応も興味深い。確認できる範囲では、初動の反応は怒りや対立よりも、まず“ネタとしての強さ”に集約されている。Redditでは「Build On」という旧案に対して、要点だけ抜き出して共有する軽いノリの投稿が見られ、そこに「助かった」「ありがとう」といった反応が付いていた。一方で、すぐさま「1983年は裁判や移植版の文脈であって、アーケードの初出は1981年だ」と年表を正す書き込みもあり、レトロゲーム界隈らしい細かさも同時に表れている。要するに、今回の話題は“爆笑できる小ネタ”でありながら、“歴史の厳密さを試す材料”にもなっている。

また、ニュース拡散アカウントやゲームメディア系アカウントでは、「人間がゴリラの着ぐるみを着た存在」という一節がもっとも拡散力の高いフレーズとして扱われている。GamesRadarの見出しも、まさにその一点と「Build On」を前面に押し出しており、Bluesky上のGoNintendo投稿要約でも同じ箇所が抽出されていた。つまり世間がこの資料群から受け取った第一印象は、“法廷の勝敗”そのものより、“宮本氏の発想が思った以上に変で面白い”という驚きにあったようだ。

さらに面白いのは、この新資料が、ここ数年くすぶっていたドンキーコングのデザイン論争にも燃料を投下しそうなことだ。Redditでは以前から、「宮本的な、明るく表情豊かなDK」と「Rare時代に完成した、より野性的でタフなDK」のどちらを支持するかで意見が割れていた。今回の証言は、その対立を単純に決着させるものではないが、少なくとも“原点のDK”がいま多くの人が思うよりずっと人間寄りで、演技的で、記号的だったことを補強している。今後この話は、単なる裁判裏話ではなく、「ドンキーコングとは何者か」というデザイン史の話としても消費されていくだろう。

だから今回の公開資料の価値は、トリビアの量ではなく、“任天堂の原点は思った以上に曖昧で、だからこそ強かった”と見せてくれるところにある。法廷では、その曖昧さは模倣の証拠ではなく、むしろ別物であることの証左として働いた。しかも皮肉なことに、かつて法廷で争ったユニバーサルと任天堂は、2025年に「Untitled Donkey Kong Project; Motion Picture」の著作権登録で並び立つ関係にもなっている。昨日の係争相手が今日のパートナーになる。この反転まで含めて、ドンキーコングの歴史はやはり任天堂史の中でも飛び抜けてドラマチックだ。


出典URL

Polygonの記事本体。今回の原稿のベースになった、ドンキーコング訴訟資料の再紹介記事。
https://www.polygon.com/donkey-kong-lawsuit-king-shigeru-miyamoto-deposition/

1983年の地裁判決。ユニバーサル側の請求が退けられた経緯の確認に使用。
https://law.justia.com/cases/federal/district-courts/FSupp/578/911/2363221/

1984年の控訴審判決。地裁判断が維持されたことの確認に使用。
https://law.justia.com/cases/federal/appellate-courts/F2/746/112/30961/

1985年の関連判決。任天堂の反訴と損害・費用認定の文脈確認に使用。
https://law.justia.com/cases/federal/district-courts/FSupp/615/838/1515073/

宮本茂氏の1983年1月11日付デポジションPDF。「人間がゴリラの着ぐるみを着たような存在」「Build-On」発言の確認に使用。
https://ia801607.us.archive.org/view_archive.php?archive=%2F16%2Fitems%2Funiversal-v-nintendo-court-documents%2FUniversal+vs.+Nintendo+Court+Documents.zip&file=82-4259+%28Universal+vs+Nintendo%29%2FDepositions%2F1983-01-11+Shigeru+Miyamoto+%28Nintendo%29+Deposition+%2882-4259%29.pdf

The Gaming Historianによる資料公開が広く再注目されたこと、および資料群の概要確認に使用。
https://www.pcgamer.com/games/beloved-youtuber-the-gaming-historian-moves-on-from-making-videos-with-a-parting-gift-a-ton-of-ancient-nintendo-court-docs-you-can-browse-on-the-internet-archive/

資料公開後の注目点として、「gorilla costume」と「Build On」が前面化していることの確認に使用。
https://www.gamesradar.com/games/donkey-kong/massive-nintendo-court-document-reveal-shows-shigeru-miyamoto-saw-donkey-kong-as-a-man-in-a-gorilla-suit-and-wanted-his-original-arcade-game-to-be-called-build-on/

Reddit上の反応例。「Build On」をネタ化する反応や、1981年/1983年の年表補足の確認に使用。
https://www.reddit.com/r/donkeykong/comments/1sbt0kt/original_name_pitches_for_1983s_donkey_kong/

Bluesky上でのニュース拡散例。ニュースアカウントがどの論点を抽出しているかの確認に使用。
https://bsky.app/profile/gonintendo.com

現在の文脈として、任天堂とユニバーサルがドンキーコング映画企画で並んでいることの確認に使用。
https://intellectual-property-helpdesk.ec.europa.eu/news-events/news/nintendo-and-universal-pictures-register-copyright-donkey-kong-project-eu-trade-mark-dispute-i-red-2025-07-21_en

同じく、任天堂とユニバーサルのドンキーコング映画企画を報じたPolygon記事。締めの対比に使用。
https://www.polygon.com/entertainment/612877/donkey-kong-movie-nintendo-universal