メディア業界で成功するための秘訣:次の上司は、今日の取引先かもしれない ― メディア業界で効く「信頼」のつくり方

メディア業界で成功するための秘訣:次の上司は、今日の取引先かもしれない ― メディア業界で効く「信頼」のつくり方

広告やメディアの世界では、担当者が会社を移り、取引先が同僚になり、昨日までの競合相手と同じプロジェクトに加わることも珍しくない。だからこそ、目の前の案件を成立させる能力と同じくらい、「この人ともう一度働きたい」と思われる関係を築けるかどうかが、長いキャリアを左右する。

豪州の業界誌B&Tが、屋外広告会社QMSの女性リーダー4人に行ったインタビューから浮かび上がったのは、単なる交流術ではない。相手を尊重して耳を傾けること、自分の強みを理解すること、失敗や環境の変化を成長に変えること、そして周囲の成功を喜ぶこと。そうした日々の振る舞いが信頼になり、やがて本人だけでなくチームや企業の力にもなるという、実践的なキャリア論だ。

インタビューは、B&TとQMSによるWomen in Media Awards関連のパートナー企画として公開された。登場したのは、グループ・ビジネス・ディレクターのEsha Nandhra、ニューサウスウェールズ州のエージェンシー営業を率いるHannah Pritchard、セールス・オペレーション責任者のTara O’Keefe、南オーストラリア州のエージェンシー営業責任者Amelia Allanの4人。なかでもTaraは、2026年の同賞でプロジェクトマネージャー部門を受賞した。


「成功」の定義を売上の外側へ広げる

Eshaが語ったのは、成功を数字だけで測らない姿勢だった。商業的な成果はもちろん重要だが、長く残るのは、仕事を通じて築いた関係、得られた信頼、周囲に与えた前向きな影響だという考え方である。

彼女が社内のQ-Cares Awardを誇りに挙げたことも象徴的だ。この評価は、ダイバーシティ、公平性、インクルージョンへの取り組み、女性の後押し、先住民コミュニティへの支援、そして人が尊重される環境づくりと結びついていた。つまり、リーダーの価値を「何を達成したか」だけでなく、「誰が力を発揮できる状態をつくったか」で捉えている。

この視点は、関係構築を打算から切り離す。将来役に立ちそうな相手だけに近づくのではなく、役職や立場にかかわらず相手を尊重する。すぐに見返りがなくても、知識や機会を分かち合う。困っている人を支え、手柄を独占しない。そうした積み重ねは短期の営業指標には表れにくいが、難しい局面で協力を得られる土台になる。

さらにEshaは、若い頃に弱点の克服へ力を注ぎすぎた経験を振り返り、共感力、感情を理解する力、人と本物の関係を築く力こそが自分の強みだったと語っている。弱点を無視するという意味ではない。全項目で平均点を取ろうとするより、自分ならではの価値を見つけ、磨き、必要な場面で発揮する。その自己理解が自信の根になるということだ。


育児休業はキャリアの「空白」ではない

Hannahの経験は、働く親が抱えやすい葛藤に光を当てる。彼女は3年間に2度の育児休業を取得し、復帰時には罪悪感や、以前のキャリアの勢いを失ったのではないかという不安を感じていた。子どもが2人になってからのフルタイム復帰は、仕事と家庭を単純に両立させるという言葉では収まらない現実だった。

転機になったのは、前年のWomen in Mediaのイベントで、活躍する女性や同じ悩みを抱える人々と同じ空間にいたことだという。そこで彼女は、子どもと過ごした時間は能力を止めたのではなく、むしろ更新したのだと捉え直した。家庭で鍛えられた優先順位づけ、予測不能な出来事に対応する粘り強さ、相手の状態を読み取る共感力は、変化の激しい営業組織を率いる際にも使われる力だった。

重要なのは、母親になった経験を無条件に美談へ変えることではない。復帰後の負担や罪悪感は、本人の気合だけで解消できないからだ。本人が経験の意味を再定義することに加え、相談できるコミュニティ、柔軟な働き方、復帰後に責任ある仕事へ戻れる制度、上司や同僚の理解が必要になる。母親であることと野心を持つことを対立させない職場は、個人の強さではなく組織の設計によって生まれる。

Hannahの言葉が伝えるのは、「休んだ分を取り戻す」という発想から離れることの大切さだ。キャリアは一本の直線ではない。仕事から離れた時間に得た判断力や視野も、復帰後のリーダーシップを形づくる。企業側にも、その変化を欠落ではなく新しい能力として見つける目が求められる。


好奇心と傾聴が、変化への耐性をつくる

Taraは、直近12カ月をQMSにとって大きな成長と変革の時期だったと振り返る。彼女が関わった仕事には、顧客対応の原則をまとめた社内施策、冬季オリンピック・パラリンピック関連キャンペーン、営業人材のオンボーディングや能力開発の枠組み、ニュージーランドのチームとの協働、Nineとの統合・活性化支援などが含まれる。

ここで注目したいのは、目立つ企画だけでなく、オンボーディングや能力開発のような「人が成果を出せる仕組み」にも力を注いでいる点だ。優秀な個人の経験則に頼る組織は、その人が異動すれば弱くなる。一方、学び方や協働の基準を共有可能な形にすれば、知識は組織に残り、新しく加わる人も早い段階から力を発揮できる。

若手への助言としてTaraが重視したのは、好奇心を失わないこと、深く聞くこと、そして自分を信じることだった。展開の速いメディア業界で、初日からすべての答えを持つことは不可能であり、10年働いても同じだ。自信とは、何でも知っているように振る舞うことではなく、分からない状況でも学び、適応し、解決へ進めると自分を信頼することだと読み取れる。

なかでも「理解するために聞く」という姿勢は、信頼構築の中核になる。返答の準備をしながら相手の話を待つのではなく、その人が何を見て、どんな制約を抱え、何を大切にしているのかを知ろうとする。広告主、代理店、媒体社、制作会社など立場の異なる人々が関わる仕事では、この傾聴が認識のずれを減らし、対立を協働へ変える。


小さな業界では、今日の振る舞いが明日の評判になる

Ameliaの助言は明快だ。キャリアの初期から、あらゆる階層の人と良い関係を築くこと。豪州のメディア業界は人の移動が多く、現在の取引先や同僚が、将来の上司、部下、顧客、協業相手になる可能性があるためだ。

これは「誰が偉くなるか分からないから、全員に愛想よくしておこう」という処世術とは異なる。肩書が変わっても壊れない関係は、損得だけではつくれないからである。約束を守る、返信を放置しない、問題を隠さない、相手の貢献を正しく伝える。地味に見える行動こそ、長期的な評判をつくる。

Amelia自身、アデレードという比較的小さな市場から、QMSの存在感を地域と全国の双方で高める仕事に取り組み、2025年には社内のPerformance Plus Awardを受賞した。リモートで働く難しさもあったが、チームの支援が前進を可能にしたと話す。個人の成果に見えるものの背後には、相談に応じる人、情報を共有する人、挑戦の機会を渡す人がいる。彼女の経験は、関係性が精神的な支えにとどまらず、成果を生む実務インフラでもあることを示している。


SNSに並んだ「当然の受賞」「一緒に働けてうれしい」

今回のメッセージを裏づけるように、受賞後のLinkedInには祝福が相次いだ。QMS公式はTaraについて、営業活動の連携を動かす中心的な存在であり、事業全体への影響が大きいと紹介した。公開画面で確認できるコメント欄には、「受賞にふさわしい」「素晴らしい結果」「スーパースター」といった趣旨の短い祝福が並んでいる。

本人の投稿は、受賞を個人の手柄として語らなかった。QMSで過ごした9年間を振り返り、会社を変えてきた重要なプロジェクトに携われたこと、日々一緒に働くチームが困難を軽くし、節目を価値あるものにしてくれたことに感謝し、成果はチーム全体のものだと強調した。その投稿にも、同僚のAmeliaから「一緒に働けてうれしい」という趣旨の反応が寄せられたほか、「当然の評価だ」とする声が重なった。

また、QMSが授賞式前に7人の社内ファイナリストを紹介した投稿では、同僚たちから「この人たちと働けるのは光栄」「最高の顔ぶれ」といった応援が集まった。Nineも、同社のAmanda Laingと並べてTaraの受賞を紹介し、豪州メディアの未来を形づくる女性たちへの敬意を示している。

もちろん、これらは主に本人、勤務先、同僚、業界関係者のネットワーク内で確認できる反応であり、社会全体の評価を代表するものではない。SNSの祝福には企業広報の側面もある。それでも、「人との関係を大切にする」というインタビュー上の発言と、「共に働いた経験」に触れるコメントが一致している点は興味深い。表彰の瞬間に表面化したのは、受賞者がそれ以前の仕事で蓄えてきた信頼だったと見ることができる。


関係性を「閉じた人脈」にしないために

一方で、関係構築をキャリアの鍵と呼ぶときには注意も必要だ。非公式なつながりだけで仕事や昇進が決まれば、育児や介護で夜の会合に参加しにくい人、地方やリモートで働く人、業界に入ったばかりで紹介者がいない人は不利になる。信頼を重視する文化が、いつの間にか「知っている人だけを選ぶ文化」に変わる危険がある。

そのため企業は、個人にネットワーキングを求めるだけでなく、機会への入口を公平にしなければならない。募集や昇進の基準を明確にする、メンターやスポンサーとの接点を一部の人に偏らせない、育児休業からの復帰を計画的に支援する、地域を越えた協働に参加できるようにする。Taraが進めたオンボーディングや能力開発の枠組み、Eshaが重視する包摂的な環境づくりは、まさに信頼と制度を結びつける取り組みとして読める。

良い組織文化とは、仲の良い人が集まっている状態ではない。意見が違っても話せること、失敗を隠さず学べること、生活上の制約があっても重要な仕事に挑戦できること、そして貢献が正当に認識されることだ。関係性と公平な仕組みがそろって初めて、多様な人が長く力を発揮できる。


若手が明日から始められること

4人の話を実践へ置き換えるなら、最初の一歩は大げさな「人脈づくり」ではない。

まず、相手の役職ではなく仕事に関心を持ち、質問し、最後まで聞く。次に、自分の強みを言語化し、必要な場面で惜しまず提供する。仕事が終わった後も、成果を一緒につくった人への感謝を伝え、節目には相手の成功を祝う。そして失敗したときは言い訳より先に責任を引き受け、学んだことを次へ渡す。

同時に、自分を過小評価しないことも大切だ。分からないことがあるのは能力不足の証明ではない。育児や別の経験で職場を離れた期間も、必ずしも空白ではない。自信は完璧さから生まれるのではなく、経験を意味づけ、自分なら学びながら進めると理解するところから育つ。

キャリアの先で誰と働くかは予測できない。しかし、今日どのように人と働くかは選べる。QMSの4人が示したのは、華やかな交流会で名刺を集めることよりも、日々の小さな約束を守り、相手の声を聞き、周囲が力を発揮できるようにすることの強さだ。

肩書や会社名は変わる。市場も技術も変わる。それでも、難しい仕事を一緒に乗り越えた記憶と、「この人なら信頼できる」という評価は残る。その積み重ねこそが、変化の速いメディア業界で最も持続するキャリア資産なのかもしれない。


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