「完璧な食事」を目指す前に知りたい、長寿と栄養の本当の関係

「完璧な食事」を目指す前に知りたい、長寿と栄養の本当の関係

「45・25・10」で長生きできる?ドイツ発の食事法を、日本の食卓で読み解く

健康のために、炭水化物を減らすべきなのか。それとも、たんぱく質を増やすべきなのか。

食事について調べるほど、正反対に見える助言に出合う。そこに登場したのが、ドイツのFOCUS onlineが紹介する「45・25・10」という数字だ。

2026年10月11日付の記事は、生物学者で著者のニーナ・ルーゲ氏の書籍から、健康的に年を重ねるための食べ方を紹介している。中心にあるのは、植物性食品を多く取り入れ、脂質の質を選び、食物繊維を確保するという考え方である。

ただし、「この比率を守れば長生きできる」と受け取る前に、確認したい点がある。元記事は新たな臨床試験の報告ではなく、書籍の抜粋だ。紹介された数値や助言すべてが、日本人に共通する最適解というわけではない。


「45・25・10」は、足して100になる公式ではない

元記事が示すのは、1日の摂取エネルギーに占める次の割合だ。

  • 炭水化物:45~60%
  • 脂質:25~30%
  • たんぱく質:10~20%

つまり、「45・25・10」はそれぞれの範囲の下限を並べた表現であり、固定された配分ではない。実際、45+25+10では80%にしかならない。

また、これは食品の重量や皿の面積の割合でもない。「皿の45%を野菜にする」といった意味ではなく、栄養素から得るエネルギーの比率である。

日本の「食事摂取基準(2025年版)」では、18~49歳の目標量は炭水化物50~65%、脂質20~30%、たんぱく質13~20%。重なる部分はあるが、完全には一致しない。

数字を覚えるより先に、自分に必要な食事量を確保したうえで、主食・主菜・副菜の組み合わせを見るほうが、日常では使いやすいだろう。


ごはんを敵にするより、炭水化物の「中身」を変える

元記事で注目したいのは、炭水化物を一律に排除していないことだ。

一方で、野菜を強く推し、全粒穀物は控えめにするよう勧めている点は、そのまま一般化する必要はない。WHOは、炭水化物の主な供給源として全粒穀物、野菜、果物、豆類を挙げている。

日本の食卓なら、ごはんをすべて抜く方法以外にも選択肢がある。白米の一部を麦や玄米に置き換える。麺だけで済ませがちな昼食に、豆腐や野菜の小鉢を加える。甘い飲み物を無糖のお茶に替える。

同じ「炭水化物を含む食品」でも、清涼飲料水と麦ごはん、菓子と豆類では、一緒に摂れる栄養が異なる。

長寿食を考えるときに役立つのは、炭水化物という分類だけで判断せず、食物繊維などを含めて食品を選ぶ視点だ。


油は「健康によさそうなものを追加」する前に、置き換えを考える

元記事では、オリーブ油や菜種油、ナッツ、魚などを勧めている。

脂質については、量と同時に種類を見ることが大切だ。WHOも、飽和脂肪酸の多い脂肪より、魚やナッツ、植物油などに含まれる不飽和脂肪酸を優先する考え方を示している。

ただし、オリーブ油やナッツであってもエネルギーはある。普段の食事を変えずに大量に追加する方法では、全体の食べすぎにつながりかねない。

バターを使う料理の一部を植物油に替える。肉料理が続いたら、次の食事は魚や豆腐にする。間食の一部を少量の無塩ナッツに替える。

「よい油を足せば安心」と考えるより、普段の何と入れ替えるかを決めると実践しやすい。


たんぱく質は、年齢を無視して減らさない

元記事で特に慎重に読みたいのが、たんぱく質の量だ。

記事は一般的な目安として、体重1kg当たり1日0.7~0.8gを挙げ、60~65歳以降はより多く必要になるとしている。体重60kgなら、前者は計算上42~48gに当たる。

しかし、この値を誰にでも適用できる「長寿の正解」と考えるべきではない。

日本の食事摂取基準では、フレイル予防を考慮し、65歳以上のたんぱく質の目標量の下限を総エネルギーの15%に設定している。年齢とともに、筋力や身体機能を維持する視点が欠かせなくなるためだ。

植物性食品を増やすことと、たんぱく質そのものを減らすことも別である。納豆、豆腐、豆類を取り入れながら、魚、卵、乳製品なども組み合わせる方法がある。

元記事には、たんぱく質の大部分を1回の食事で摂るという助言も登場する。ただ、その紹介だけを根拠に、朝食や昼食から主菜を抜く必要はない。

腎臓病などで食事療法を受けている人は、こうした一般向けの数字より、個別に受けている指示を優先したい。


野菜600gを目指す前に、日本の「350g」を出発点に

元記事は1日600gの野菜、200gの果物、少なくとも30gの食物繊維を提案している。さらに、週に25種類を目指すなど、植物性食品の多様性も重視する。

さまざまな食材を取り入れる発想は参考になる。ただ、これらをすべて達成しなければ健康になれないわけではない。

日本の健康日本21(第三次)が掲げる目標は、野菜の平均摂取量350g、果物200gだ。これは国民全体の食生活改善の目標であり、個人の食事を考える際にも一つの参考になる。

普段ほとんど野菜を食べない人なら、まず昼食か夕食に一皿増やす。生野菜だけで量を確保しにくければ、温野菜や煮物を使う。買った野菜を使い切れないなら、冷凍野菜を取り入れる。

「毎週25種類」を義務にするより、いつもの小松菜に、きのこや豆類を加えるくらいから始めてもよい。食材の種類を数えることが負担になるなら、色や調理法を少し変える方法もある。


果物の糖と、甘い飲み物の糖を一緒にしない

元記事は果糖が脂肪に変わることに触れ、甘い果物を大量に食べることへの注意を促している。

食べすぎを避けることは大切だが、ここから「果物は太るから避けたほうがよい」と結論づけるのは早い。

日本の公的な情報では、果物は1日200gを目標とし、ジュースよりも生のまま食べることが勧められている。WHOも、果物そのものと、果汁に含まれる制限対象の遊離糖を区別している。

日本で取り入れるなら、特別なベリー類を買いそろえる必要はない。みかん、りんご、キウイなど、手に入りやすい果物を適量選べばよい。

「果物を食べる代わりにジュースをたくさん飲む」ことと、「食後に果物を食べる」ことは、同じ習慣として扱わないほうがよい。


「加工食品ゼロ」は、日本の暮らしに必要なのか

元記事には、加工食品をゼロにすることや、原材料が7種類を超える食品を避けるという助言もある。

しかし、加工の有無や原材料の数だけで、栄養面の良し悪しは決まらない。

豆腐や納豆、無糖ヨーグルトも加工を経て作られる。冷凍野菜や缶詰は、調理の負担や食品ロスを減らす助けになる。WHOも、砂糖の添加や過剰なナトリウムがなければ、冷凍・缶詰の野菜や果物を選択肢に含めている。

原材料が少なくても塩分や糖分が多い食品はある。反対に、さまざまな野菜や豆が入った食品なら、原材料の数は増える。

買い物では、材料の数だけで判断せず、食塩相当量や栄養成分、食事全体での位置づけを見るほうが役に立つ。

忙しい日に冷凍野菜と豆腐を使った食事を選ぶことまで、「長寿食に失敗した」と考える必要はない。


SNSでは「長寿と筋肉をどう両立するか」に戸惑う声

今回のFOCUS記事そのものに対するSNSの反応は、確認できた範囲では十分に把握できなかった。ここでは、関連する長寿食・たんぱく質をめぐる過去の公開議論を紹介する。最新記事への直接反応や、世論全体の傾向を示すものではない。

 

海外掲示板Redditの栄養学コミュニティーでは、2023年の投稿で、著名な長寿分野の発信者が一方では高たんぱく食を勧め、他方では植物中心の食事と高たんぱく食への懸念を語っているとして、混乱する気持ちが述べられていた。

同じスレッドには、細胞内で起こる仕組みの説明を、そのまま人の健康結果の証拠として扱わないよう求めるコメントもある。

また、2020年の別の投稿では、長寿を目指しながら筋肉量や筋力も増やしたいが、両者をどう両立すればよいのかという問いが出されている。

これらは、長寿への関心が「何歳まで生きられるか」だけではないことをうかがわせる。歩く力や活動する力を保ちたいという希望も、食事選びに関わっている。

ただし、SNSの体験談や助言は、食事法の効果を証明するものではない。自分の年齢、活動量、体調と、公的な栄養指針を照らし合わせて読む必要がある。


日本の食卓なら、こんな組み合わせから始められる

元記事の考え方を日本の暮らしに取り入れるなら、特別な「長寿食品」を買うより、普段の献立を整える方法がある。

例えば、次のような組み合わせだ。これは栄養量を計算した治療食ではなく、食品の選び方を示す例である。

  • 朝食:麦ごはん、納豆、小松菜のおひたし、果物
  • 昼食:ごはん、魚または豆腐の主菜、野菜の副菜
  • 夕食:主食、豆や鶏肉を使った料理、きのこ入りの温野菜
  • 間食:必要に応じて無糖ヨーグルトや少量の無塩ナッツ

食べる量は、年齢や活動量、食欲などに合わせて調整する。和食であっても、しょうゆ、みそ、漬物などが重なると塩分が増えるため、味つけにも目を向けたい。

健康的に年を重ねるための食事は、毎回同じ数字に合わせる作業ではない。野菜や豆を増やし、主食を選び、必要なたんぱく質を確保する。その工夫を、自分の生活の中で続けられる形にすることが大切だ。


出典・参考資料

  1. FOCUS online:ニーナ・ルーゲ氏の食事提案。「45・25・10」、野菜・果物の量、加工食品に関する記述。
    https://www.focus.de/gesundheit/longevity/das-ist-der-perfekte-ernaehrungsplan-fuer-ein-langes-leben_0d5faa88-d737-4d88-a786-b21fd2a13958.html

  2. 厚生労働省・e-ヘルスネット「エネルギー産生栄養素」:日本の三大栄養素の目標比率と、高齢者のたんぱく質確保について。健康日本21アクション支援システム Webサイト
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/food/ye-013

  3. WHO「Healthy diet」:全粒穀物・豆類などの選択、脂質の質、果汁の遊離糖、冷凍・缶詰食品の活用、減塩に関する国際的な指針。who.int
    https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/healthy-diet

  4. 国立健康・栄養研究所「健康日本21(第三次)目標一覧」:野菜350g、果物200gという日本の目標値。nibn.go.jp
    https://www.nibn.go.jp/eiken/kenkounippon21/kenkounippon21/mokuhyou3rd.html

  5. 厚生労働省・e-ヘルスネット「果物1日200gのすすめ」:果物摂取の考え方と、ジュースより生の果物を選ぶことについて。健康日本21アクション支援システム Webサイト
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-01-003.html

  6. Reddit・2023年の公開議論:長寿分野の発信者によるたんぱく質の助言の違いに戸惑う投稿と、健康結果の根拠を求めるコメント。医学的根拠ではなく、SNS上の反応例として参照。reddit.com
    https://www.reddit.com/r/ScientificNutrition/comments/14v7phu/peter_attia_v_david_sinclair_on_protein/

  7. Reddit・2020年の公開議論:長寿と筋肉量・筋力向上を両立する食事への疑問。今回の記事への直接反応ではない。reddit.com
    https://www.reddit.com/r/ScientificNutrition/comments/jkbd74/