40代の妊娠は“無謀”なのか? 卵子凍結、IVF、パートナーの年齢…“遅い子ども”を選ぶ時に知っておきたいこと

40代の妊娠は“無謀”なのか? 卵子凍結、IVF、パートナーの年齢…“遅い子ども”を選ぶ時に知っておきたいこと

「いつかは子どもがほしい」。そう思いながら、仕事や住居、パートナーシップ、心身の準備、経済的不安…いくつもの条件が整うのを待っているうちに、気づけば年齢が上がっていた。ドイツのメディアは、近年「遅い子ども(später Kinderwunsch)」が珍しくなくなった一方で、年齢が妊娠の“成功確率”に与える影響は厳然として存在するとまとめている。記事は「20代・30代・40代で妊娠しやすさはどう変わるか」「男性側の年齢」「不妊治療の成功率」「リスク妊娠の考え方」「遅い出産のメリット」など、論点を章立てで整理している。


「何歳から厳しい?」—“壁”というより“傾き”が増す

妊娠のしやすさは、ある日突然ガクンと落ちるというより、ゆるやかな下り坂が続き、後半で傾きがきつくなるイメージに近い。産婦人科領域では長く「35歳」が一つの目安として語られてきた。実際、年齢とともに妊娠率が下がり、流産や染色体異常のリスクが上がることは、多くの公的・専門機関が共通して注意喚起している。


目安のわかりやすさの一方で、「35歳の壁」という言い方が独り歩きしやすいのも事実だ。35歳を境に“突然無理”になるわけではない。けれど確率の話としては、年齢が上がるほど「同じ期間がんばっても結果が出にくい」方向へ動く。たとえば米国産科婦人科学会(ACOG)は、40歳では月経周期あたり妊娠する人は「約10人に1人」と説明している。
(ここで言うのは“平均的な確率”で、個人差・健康状態・性交頻度などで上下する点は大前提だ。)


男性の年齢は“無関係”ではない

妊活の話題は、どうしても女性の年齢に注目が集まる。しかし男性側も年齢とともに生殖能力が変化する可能性があり、ACOGも「男性の妊娠への寄与(妊娠しやすさ)も年齢で低下するが、女性ほど予測可能な形ではない」と述べる。

 
SNSで反発が出やすいのは、こうした「現実の非対称性」を“責め”として受け止めてしまう瞬間だ。後述するが、「女性だけが期限付きの存在として扱われるのは不公平」という怒りは繰り返し噴き上がる。


不妊治療(IVF等)は“万能”ではない。でも選択肢は広がった

遅い出産を後押ししている要因の一つが、生殖医療の発達だろう。体外受精(IVF)を含む生殖補助医療(ART)の実績は毎年蓄積され、米CDCも治療成績のサマリーや成功確率の推定ツールを公開している。

 
ただし、ここでも最大の変数は「年齢(とくに卵子の年齢)」だ。英NHS系の資料でも、治療成功率は年齢の影響を強く受け、年齢が上がるほど下がること、ドナー卵子が成績を押し上げうることが説明されている。


この点はSNSでも誤解が生まれやすい。ドラマやニュースでは「40代後半で妊娠」「50代で出産」といった例が目立ち、希望を与える一方で、“それが一般的に可能”という錯覚も生む。現実には、個別の条件(卵子提供、治療回数、身体状況など)で成立していることが多い。確率の話と「ゼロではない」を混同すると、期待と現実の落差で当事者が深く傷つく。


「リスク妊娠」という言葉が刺さる理由

年齢が上がると、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産などのリスクが上がる可能性が指摘されることがある。医療現場ではリスクを管理するために分類するが、当事者からすると「あなたの妊娠は危険」「あなたの選択は無謀」と烙印を押されたように感じる場合がある。


ここで重要なのは、“リスクがある=不可能”ではないこと、そして“リスク評価=人格評価”ではないことだ。言葉の選び方一つで、必要な情報提供が「脅し」になってしまう。


SNSの反応:共感と反発が同時に起きる

今回のテーマが荒れやすいのは、医学の確率論が、人生の価値判断に直結して聞こえてしまうからだ。SNSや掲示板では、大きく分けて次のような反応が見られる。


1)「もっと早く知りたかった」派:情報は“恐怖”ではなく“武器”

妊活掲示板では、35歳を前後して焦りや不安を吐露する投稿が多い。たとえば「初めての子どもで35歳が近づいている」「何周期か挑戦しているがうまくいかず、計画Bを考え始めた」という声が出ている。

 
このタイプの反応は、社会が“年齢と妊娠”を正面から語らず、学校教育でも体系的に扱われにくいことの裏返しでもある。「早く知っていれば、パートナー選びや働き方、貯蓄、受診タイミングを変えられたかもしれない」という悔しさが滲む。


2)「焦らせるな」派:確率の話が“女性への圧”に変換される

一方で、年齢の話題はすぐに「産め」「急げ」「自己責任」と結びつく。掲示板でも「40で母になるのはどうか」「若い頃はパートナーがいなかった、今はいるが年齢が…」といった相談があり、他者の価値観が押し寄せやすい。

 
ここで起きているのは、医学情報そのものへの反発というより、“それを振りかざす空気”への抵抗だ。「妊娠確率が下がる」の事実が、「遅いあなたが悪い」という道徳にすり替わる瞬間、人は情報を敵として認識してしまう。


3)「男性の年齢も語れ」派:不公平感への怒り

投稿の中には「私たちの世代は長く若くいられると思い込んでいた」「自分に言い聞かせている」といった、社会的な“若さ信仰”への自嘲もある。

 
そして同時に、「男性側の加齢はなぜ軽く扱われるのか」「子育ての負担が女性に偏っているのに、タイムリミットだけ女性に突きつけられる」といった不公平感が噴出する。実際、男性の生殖面での加齢影響も“無関係ではない”ことは指摘されているため、議論を女性だけに押し込めるほど反発は強くなる。


4)「治療があるから大丈夫」派と「治療でも厳しい」派のすれ違い

生殖医療の存在は希望だが、同時に“期待のインフレ”も起こす。治療の成功率は年齢要因に左右され、NHS系資料も年齢で成績が変化し得ることを明確にしている。

 
そのためSNSでは、「IVFがあるから何とかなる」という励ましと、「治療してもダメだった人がいる」という現実が衝突する。励ましのつもりの言葉が、当事者には“努力不足の指摘”に聞こえてしまうこともある。ここは、外野ほど慎重になりたいポイントだ。


じゃあ、結局どうすればいい?—「正しい年齢」ではなく「正しい準備」

この記事(sternの整理)から受け取れるメッセージを、私はこう言い換えたい。
“何歳が正しい”ではなく、“年齢が変数である”ことを前提に、選択肢を早めに並べる


具体的には、次の3つが現実的だ。

  1. 情報の棚卸しを早める
    妊娠確率・流産率・治療成績など、年齢に依存する要素を「怖い話」として避けるほど、意思決定は遅れる。ACOGが示すように、40歳での自然妊娠確率は“平均”としては高くない。だからこそ、知った上で希望の持ち方を設計できる。

  2. パートナーと“いつか”を具体化する
    「いつか子ども」ほど危ういものはない。期限を切れという意味ではないが、ライフプランの優先順位をすり合わせないと、時間だけが過ぎる。年齢の影響を女性だけの責任にしないためにも、共同プロジェクトとして扱うことが重要だ。

  3. 受診のハードルを下げる
    妊活は“自己流で長引かせる”ほど苦しくなることがある。早めに相談し、検査で現状を把握するだけでも、無用な不安や遠回りが減るケースがある。治療をする・しないは別問題として、「現状把握」は多くの人にメリットがある。

最後に:この話題で本当に守りたいもの

「年齢で妊娠が難しくなる」という事実は、冷たい。けれど、冷たい事実を“冷たい社会”に変えてしまうのは、たいてい私たちの言葉だ。


誰かにとっては、今まさに努力している途中の話。誰かにとっては、もう叶わなかった話。誰かにとっては、子どもを持たないという選択を肯定したい話。


だからこそ、確率の話は“裁き”ではなく“準備”のために使いたい。遅い出産を選ぶ人にも、早い出産を選ぶ人にも、そして選ばない人にも、必要なのは「正しさ」より「尊重」だ。



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