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日本のウナギの珍味、世界の保護圧力に揺れる──「うな重」の未来はどうなる?

日本のウナギの珍味、世界の保護圧力に揺れる──「うな重」の未来はどうなる?

2025年11月24日 13:32

1. いま、なぜ「ウナギ」が国際問題になっているのか

東京近郊の老舗ウナギ店。
友人同士や家族が「自分へのごほうび」にうな重を囲む光景は、日本ではおなじみです。


しかし、その食卓の裏側で、ウナギ資源をめぐる国際的な緊張が高まっています。

最新の報道によると、世界のウナギ消費の約85%が東アジア、それも日本を中心に行われており、日本が輸入した量は、東アジアで消費された約6.1万トンのうちの約4分の3を占めています。Phys.org


一方で、世界中のウナギの個体数は減少傾向にあり、汚染や湿地の破壊、水力発電ダムの建設、そして漁業など、人間活動に起因する要因が複合的に影響していると科学者は指摘します。Phys.org


ウナギは「川魚」のイメージがありますが、実際には産卵の場が深海の外洋にあり、幼生期や回遊ルートがいまだ謎だらけの「不思議な魚」です。
そのため正確な資源量の推定が難しく、「どの程度獲ったら危ないのか」が判断しにくい、という管理上の問題もあります。Phys.org+1

つまり、「日本の食文化の象徴」と「絶滅リスクの高い野生動物」という二つの顔を持つのが、いまのウナギなのです。



2. 日本人とウナギ──「スタミナ食」から高級珍味へ

日本で「ウナギ」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、タレをまとった香ばしい蒲焼きです。

江戸時代から続くといわれるウナギ文化は、

  • 串打ち三年、裂き八年、焼き一生といわれる職人技

  • 暑い夏を乗り切るためのスタミナ食(いわゆる「土用の丑の日」)

  • ハレの日やお祝い事のごちそう

として、長く日本の食文化を支えてきました。


しかし近年、誰もが気軽に食べられる大衆的なスタミナ食から、「ちょっと頑張った時にだけ食べるラグジュアリーな一皿」へと位置づけが変わりつつあります。


取材された料理店では、うな重の価格が約15年前の2倍以上、約5,000円超になっているといいます。Phys.org
それでもお客は「高級だけれど、それだけの価値がある」と受け入れている、という証言も紹介されています。


背景にあるのは、

  • シラスウナギの不漁と価格高騰

  • 乱獲や環境悪化による資源の減少

  • 絶滅危惧種指定による規制強化の動き

などです。

日本のウナギ文化は、すでに「守らなければ失われるかもしれないもの」になっています。



3. ウナギの一生と、なぜ資源評価が難しいのか

ウナギの資源管理を語るうえで欠かせないのが、独特のライフサイクルです。


ニホンウナギの場合、

  • 産卵場所は日本列島から約2,000〜3,000kmも離れたマリアナ諸島西方の海域

  • そこで生まれた幼生(レプトセファルス)が海流に乗って移動

  • 日本や東アジアの沿岸に近づくと「ガラスウナギ(シラスウナギ)」と呼ばれる透明な稚魚に変態

  • 川や湖に入り、5〜15年ほど淡水で成長

  • 成熟後、ふたたび外洋の産卵場に向かい、そこで産卵して一生を終える

という、気の遠くなるような旅をします。Phys.org+1


この長く複雑なライフサイクルのため、

  • どこでどれだけの卵が産まれているのか

  • 海での生存率がどう変化しているのか

  • 川への加入(シラスウナギとしてやってくる数)が環境変化でどう影響されているのか

などの把握が非常に難しいのが現状です。


そのうえ、ウナギは「カタドロマス魚類(海で産卵し、川で成長するタイプ)」であり、
川のダム建設や河川改修、干潟・湿地の埋め立てといった人間の活動は、
回遊ルートを物理的に遮断してしまうことがあります。Phys.org+1


つまり、
「どの段階で、どのくらいウナギが減っているのかすら、はっきり分からない」
というのが一番の問題なのです。



4. IUCNレッドリストが示す危機感

こうした状況を受け、IUCN(国際自然保護連合)は、

  • ニホンウナギ(Anguilla japonica)を「絶滅危惧(Endangered)」

  • ヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla)を「深刻な絶滅危惧(Critically Endangered)」

としてレッドリストに掲載しています。ウィキペディア+1


ヨーロッパウナギについては、過去数十年で資源量が90%以上減少したとされ、
EUは2010年以降、ヨーロッパ域外への輸出を禁止しています。FishSec+1


ニホンウナギも、資源の減少や人為的影響、回遊ルートの不確実性などを理由に、2014年に絶滅危惧種に指定されました。iucn.org+1


日本政府はその後、

  • 内水面漁業振興法の改正

  • 特定水産動植物の適正な取引を確保するための法律(いわゆる「ウナギ取引規制法」)

  • 無許可でのシラスウナギ採捕に対する罰則強化

など、国内法の整備を進めています。ウィキペディア


それでもなお、
「絶滅危惧種を大量に食べ続けているのではないか」
という国際世論の目は厳しく、
今回のCITES会議での議論は、その象徴的な場となっています。



5. CITES(ワシントン条約)とは?附属書Ⅱに載るとどうなる

CITES(ワシントン条約)は、
「野生動植物の国際取引によって種が絶滅に追い込まれないようにする」
ことを目的とした国際条約です。

今回焦点となっているのは、
附属書Ⅱ(Appendix II)への掲載です。


附属書Ⅱに載ると、

  • 「国際取引は可能だが、輸出国が『この取引は種の存続を脅かさない』と証明した場合に限る」

  • 各国は輸出許可証(と必要に応じて輸入許可)を発行し、取引の量やルートが記録される

というルールが適用されます。Oceans North+1


つまり、
「完全な輸出入禁止」ではないものの、手続きや監視が格段に厳しくなる」
と理解するのがよいでしょう。


今回、EUやパナマ、ホンジュラスなどが提出した「提案35」では、
ニホンウナギ、アメリカウナギ、ヨーロッパウナギを含む**全17種のウナギ属(Anguilla)**を附属書Ⅱに一括掲載することが求められています。sustainableeelgroup.org+1


その狙いは、

  • 見た目がよく似ているウナギ種の間での「すり替え」を防ぐこと

  • ある地域で輸出禁止になった種が、別の地域の種として偽装されるのを防ぐこと

  • すべての種を同じ枠組みで追跡し、トレーサビリティ(追跡可能性)を高めること

にあります。



6. 日本の立場:規制強化に慎重な理由

一方、日本政府はこの提案に反対の立場をとっています。Phys.org+1


主な理由として、

  1. すでに国内外で一定の管理措置を導入していること

    • 漁獲枠の設定やシラスウナギ採捕の許可制

    • 養殖業者への許可・登録制度

    • 中国・韓国・台湾など、ニホンウナギが分布する地域との協調管理

  2. 最新の科学的評価では「絶滅リスクは低い」とされたこと

    • FAO(国連食糧農業機関)の専門家パネルは2025年の報告書で、
      「国際取引によってニホンウナギやアメリカウナギが直ちに絶滅するリスクは低い」
      と結論づけ、CITES掲載による保全メリットよりも負の影響(モニタリングの後退や違法取引の増加など)が大きくなりうると指摘しました。CITES+2国際漁業団体連合+2

  3. 附属書Ⅱ掲載が、かえって密輸を助長しかねないという懸念

    • 許可手続きが複雑化すれば、正規の業者が市場から撤退し、闇取引が増える可能性

    • 小規模な沿岸漁業者や養殖業者への経済的打撃

などが挙げられています。


また、日本の水産庁は、東京海洋大学などの研究を引用し、
「1990年以降、東アジア全体で見たニホンウナギの資源量は3倍に回復している」と主張しています。Phys.org


もちろん、この数値の解釈には議論があり、
「一定の回復が見られるからこそ現在の管理を続けるべき」という立場と
「回復傾向は一部の指標にすぎず、依然として長期的には危機的」とする立場がぶつかっています。PLOS+1



7. NGO・科学者の視点:「世界最大の野生動物犯罪」

一方、欧州を拠点とするNGO「サステナブル・イール・グループ(SEG)」などは、
「ウナギ取引の最大の問題は、違法な密輸とトレーサビリティの欠如だ」
と指摘しています。Phys.org+2sustainableeelgroup.org+2


彼らが特に問題視するのは、
ヨーロッパからアジアへのガラスウナギの密輸です。

  • EUは2010年からヨーロッパウナギの対外輸出を禁止

  • それにもかかわらず、EUROPOL(欧州警察機構)の推計では、
    毎年約100トン、3億〜3億5,000万匹に相当するガラスウナギが違法にアジアへ流れている

  • 闇市場の規模は、一部では薬物取引に匹敵するレベルだとも報じられています。The Week+3sustainableeelgroup.org+3The Freshwater Blog+3


密輸組織は、

  • 偽造書類やシェルカンパニーを使って出荷国や種名をごまかす

  • アフリカや北米を経由地にして、追跡を困難にする

  • 既存の合法取引に紛れ込ませる

など、非常に巧妙な手口を用いています。ガーディアン+1


SEGは、
「ウナギは見た目が似ているため、検査官は種を見分けにくい。だからこそ全種を附属書Ⅱに載せ、世界共通の管理枠組みを作る必要がある」
と主張します。SeafoodSource+1


彼らにとって今回のCITES会議は、
「世界最大の野生動物犯罪に本気でメスを入れるチャンス」
なのです。



8. 養殖に頼る日本の現実──「完全養殖」だけでは足りない

日本で流通するウナギのほとんどは、
**「養殖ウナギ」**です。


しかし、ここには大きな誤解があります。

「養殖だから野生に負荷をかけていないのでは?」
と思いがちですが、実際のところ現在の養殖は、

  • 海から川へ上がってきたシラスウナギ(ガラスウナギ)を大量に捕獲し

  • それを養殖池で育てて出荷する

という仕組みに頼っています。Phys.org+1


つまり、
養殖業も野生個体の捕獲に全面的に依存しているのです。

日本国内のシラスウナギの漁獲量は、1960年代と比べて1割未満にまで落ち込んだとされ、
その不足分を海外からの輸入で補ってきた、という歴史があります。Phys.org+1


記事では、

  • あるハイテク養殖場には約8万匹のウナギが30℃前後の水温で飼育されている

  • 約10カ月間で体重は1,000倍に増え、店で提供されるサイズになる

という具体的な様子が紹介されています。Phys.org


日本の研究者は、ウナギの**完全養殖(卵から成魚まで人工的に再現する技術)**でも大きな成果を上げてきましたが、
まだ商業ベースで大量供給できる段階にはなく、コストや技術面の課題が残っています。ウィキペディア+1

そのため、
当面は**「野生由来のシラスウナギ+養殖」という構図が続く**と見られています。



9. 「ウナギを食べる権利」と「守る責任」のあいだで

ここまで見てきたように、

  • 日本は世界最大級のウナギ消費国であり

  • ウナギ文化は日本のアイデンティティの一部でもあり

  • 同時に、ウナギは国際的に絶滅危惧種として扱われている

という深いジレンマを抱えています。

では、日本の私たちは、この問題にどう向き合えばよいのでしょうか。



9-1. 「毎日食べる魚」から「ハレの日のごちそう」へ

すでに実感している人も多いように、
うな重はかつてのような「手頃なスタミナ食」ではなくなりました。


価格高騰という現実は、
ある意味でウナギを**「ハレの日の特別な料理」に戻す動き**ともいえます。Phys.org

一部の研究者や環境NGOは、
「完全に食べるのをやめるのではなく、消費量を大幅に減らすこと」が現実解だと提案しています。The Week+1


具体的には、

  • 日常的にスーパーで安価なウナギを買う習慣を見直す

  • 土用の丑の日も、家族で一人前をシェアするなど、量を抑えて楽しむ

  • 代わりにサンマやアナゴ、ナマズなど、比較的資源状態が良い魚の蒲焼き・かば焼き風メニューを広める

といった選択肢が考えられます。



9-2. トレーサブルなウナギを選ぶ

もう一つ重要なのは、
「どこで、どのように獲られたウナギなのか」を意識して選ぶことです。


将来的には、

  • 産地情報

  • 養殖場の管理状況

  • シラスウナギの捕獲が合法かどうか

などが表示されたウナギ製品が増えていくと期待されます。WWFジャパン+1


消費者としては、

  • きちんと情報を開示している店やブランドを選ぶ

  • あまりにも安すぎる価格には疑問を持つ

  • 「絶滅危惧種であること」を頭の片隅に置きながら注文する

といった意識が求められます。



10. 国際ルール作りの「試金石」としてのウナギ

ウナギをめぐる今回のCITES会議は、
単なる一つの魚種の話にとどまりません。


  • 絶滅危惧種を抱える国(日本や欧州各国)

  • 伝統的な食文化を守りたい消費国

  • 生物多様性保全を最優先とするNGO

  • 違法取引と闘う法執行機関

など、多様なアクターが交差する**「グローバル・コモンズ(地球規模の共有資源)」のガバナンスの試金石**だからです。


FAOの専門家パネルは、
「附属書Ⅱ掲載そのものが即座に資源保全につながるわけではなく、
 誤った設計をすれば、かえって違法取引を助長する可能性がある」
と警鐘を鳴らしています。CITES+2国際漁業団体連合+2


一方で、
IUCNの専門家や多くの研究者は、
「現状の管理では十分ではなく、国際的な枠組みでの監視強化が必要」
と訴えています。PLOS+1


つまり、

  • **「守りすぎて生活や文化を壊す」**のも

  • **「ゆるすぎて野生動物を絶滅させる」**のも

どちらも避けなければならない。

そのギリギリのバランスを、どのように国際社会でデザインするかが問われているのです。



11. 日本発の「サステナブルなウナギ文化」は実現できるか

最後に、日本人としての選択肢を整理してみます。

  1. 完全養殖技術の実用化を後押しする

    • 研究開発への投資を続け、コストを下げる

    • 完全養殖ウナギにプレミアム価格をつけ、「守るウナギ」としてブランド化する

  2. 資源状態に応じた「自発的な節約」を広げる

    • 飲食店や量販店が、資源状態が悪い年には自主的に販売量を絞る

    • 消費者も、土用の丑の日の代替メニューを受け入れる文化を育てる

  3. 違法取引に加担しない市場をつくる

    • 行政がトレーサビリティのルール作りを進める

    • 業界団体が認証制度などを整備し、「クリーンなウナギ」であることをアピールする

    • メディアや市民が、違法な密輸問題に対する関心を持ち続ける

  4. 国際議論の「場」に積極的に参加する

    • 日本の研究者や行政が、科学的データを国際社会と共有する

    • 文化的価値を説明しつつ、その代わりにどんな管理を受け入れるのか、折衷案を提示する

ウナギを「悪者」にする必要はありません。


大切なのは、
「これからも食べ続けたいからこそ、守る努力をする」
という発想を、日本の消費者・産業界・行政が共有できるかどうかです。

ウナギ問題は、私たちの食卓が地球の生態系とどれほど密接につながっているかを教えてくれます。
一杯のうな重の向こうにある、川や海、そして世界のルール作りに思いをはせること──。
それが、これからの時代の「粋なウナギの食べ方」なのかもしれません。



参考記事

日本のウナギの珍味、世界的な保護圧力に直面
出典: https://phys.org/news/2025-11-japan-eel-delicacy-global-pressure.html

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