「注射のない未来」へ — 豪発“スマートインスリン錠”が来年臨床入り

1　はじめに：100年越しの夢

1922年のインスリン発見から1世紀。テクノロジーは注射針を細くし、ポンプやCGMを実用化したが、「飲むインスリン」は依然として実現していない。胃酸で分解されやすいタンパク質という壁を越え、ついにヒト試験寸前までこぎ着けたのがシドニーの Endo Axiom だ 9news.com.au。

2　Endo Axiomの技術：三層ナノキャリアと“スマート”制御

同社の錠剤は①外殻：胃酸耐性ポリマー、②中間層：酵素感受性膜、③内核：リポソーム封入インスリン、の三層構造。血糖が高い時に活性化されるグルコース応答性酵素をトリガーに殻が開き、門脈系を経由して肝臓でインスリンを放出する設計だ。ニコラス・ハントCEOは「高血糖時だけオン、低血糖時はオフになる“スマートインスリン”を世界で初めて経口化した」と胸を張る 9news.com.au。

3　臨床計画と公的支援

フェーズ1a（健常者）→1b（T1D患者）の二段階で安全性と薬効を確認。政府のBioMedTech Horizons プログラムは同社に100万豪ドルを助成し、総額1200万豪ドルで14社を支援する 9news.com.au。ヘルス・バトラー大臣は「国内イノベーションの成果を海外に流出させない」と強調する。

4　なぜ経口インスリンが難しいのか

歴代の挑戦（Oramed、BioconのTregopil など）は吸収率の低さと個体差、低血糖リスク制御に苦戦 clinicalresearchnewsonline.comen.wikipedia.org。Endo Axiomは肝門脈経路へのターゲティングでファーストパス効果を活かし、全身暴露を抑制して低血糖を防ぐ点が新しい。

5　SNS の反応を読み解く

• 歓喜派：「注射から解放される日が来るなんて！」「子どもに針を刺す罪悪感が減る」

• コスト注目派：「薬価が高ければ意味がない」「PBS（豪医薬品給付制度）に載るかがカギ」

• 慎重派：「胃腸疾患持ちは吸収に差が出るのでは」「長期的な免疫応答が心配」
  Diabetes Australia公式Xは「世界クラスの研究が次段階へ進むのは素晴らしい」と歓迎 twitter.com。一方、米国のDIY糖尿病コミュニティでは「本当に“オンデマンド”で止まるのか？ CGMデータと突き合わせたい」と技術評価が続く。

  • 
    

6　競合技術の現在地

• 吸入型 Afrezza：小児でも注射同等のHbA1c改善を報告 reuters.com

• 週1回型 インスリン（Efsitora、Icodec）：アドヒアランス向上と体重増抑制が示唆 reuters.comen.wikipedia.org

• 細胞療法 （Stem Cell derived islets, Lantidra）：インスリン不要化例が報道される一方、免疫抑制の課題 nypost.comen.wikipedia.org

これらは「投与頻度」「投与経路」「β細胞補充」という別々の戦略で、経口剤は最小侵襲かつ自己管理を容易にする点で独自の位置付けとなる。

7　経済性とアクセス

世界のインスリン市場は2020年約229億ドル、うちバイオシミラーは23億ドル規模 en.wikipedia.org。注射器やポンプ、CGMを含む総コストを考慮すると、常温保存・大量生産が可能な錠剤は低中所得国にもスケールしやすい可能性がある。

8　規制と倫理

生体由来タンパクの経口投与は生物学的製剤ライセンス申請（BLA）の簡略パスが期待されるが、自己免疫背景を持つT1Dでは安全性監視が必須。患者会からは「高い効果を示しても低血糖一件で開発が止まる恐れ」を指摘する声。

9　今後のマイルストーン

10　結語：注射ゼロ社会へのロードマップ

インスリン注射の痛みや心理的負担は、治療アドヒアランスを損なう最大要因の一つ。経口インスリンが実用化すれば、自己管理の敷居を劇的に下げ、生活・就労の質を高め得る。ただし**「夢の錠剤」の実装には安全性・一貫した吸収性・価格**の3条件を同時に満たす必要がある。2025年後半から始まるヒト試験は、その実現可能性を測る真の試金石となるだろう。