Z世代を追うほど遠ざかる成長市場 : 「若い=憧れ」はもう通用しない ― 長寿時代のブランド戦略

Z世代を追うほど遠ざかる成長市場 : 「若い=憧れ」はもう通用しない ― 長寿時代のブランド戦略

広告から消えた、最も力のある消費者

広告の世界では、50歳を境に人間の生活が急に単純になるらしい。

若い世代は、恋をし、旅に出て、新しい仕事を始め、服や車やテクノロジーを選ぶ。ところが年齢が上がると、広告の中で与えられる役割は急に狭くなる。孫を見守る祖父母、薬や保険を必要とする人、スマートフォンの操作に戸惑う人、あるいは老後の不安を抱える人。そもそも画面に登場しないことも多い。

しかし現実の50代、60代は、広告が想定するほど静かでも、均質でもない。仕事を続ける人がいれば、起業する人もいる。子どもの住宅購入を支えながら、自分自身の旅行や健康、学び、趣味にもお金を使う。恋愛をし、離婚をし、新しいパートナーを見つけ、スポーツを始め、最新のデバイスを買う。

B&Tが提起した「ブランドは今も年齢差別的で、年長の“スーパーコンシューマー”を無視している」という問題は、単なる表現上の配慮ではない。企業が、自らの成長を支え得る顧客を見誤っているという経営上の問題である。


“スーパーコンシューマー”とは誰か

オーストラリアのマーケティング業界で注目されてきた「スーパーコンシューマー」は、主に55~64歳の層を指す。NineとKantarが2021年に発表した調査では、この年代の世帯支出は週23億豪ドル規模とされた。比較的高い可処分所得を持ち、住宅ローンや子育て費用の負担が軽くなり、商品やサービスを価格だけでなく品質や価値で選べる人が多い。

その後の調査でも、50代以上の経済的重要性はむしろ高まっている。生活費や住宅費の上昇が若い世代の消費余力を圧迫する一方、資産を持つ年長層は旅行、外食、健康、金融、テクノロジー、住宅、ファッションなど幅広い分野で支出を続ける。2025年の関連分析では、65歳以上の支出の伸びが全国平均を上回ったと報告されている。

さらに、オーストラリアでは今後20年間に5兆豪ドルを超える規模の世代間資産移転が見込まれている。年長層は単に自分のために買うだけではない。子や孫の住宅、教育、車、事業、生活費にも影響を与える。つまり、一人分の購買力ではなく、複数世代の選択を動かす存在でもある。

それにもかかわらず、広告は若者の「影響力」を追い、年長者の「購買力」を見落としてきた。


なぜブランドは若者ばかりを見るのか

理由の一つは、長年使われてきた年齢区分にある。広告のターゲットは「18~34歳」「25~54歳」などで切られ、55歳を超えると一つの大きな箱にまとめられやすい。55歳の現役経営者も、70歳の旅行愛好家も、85歳で介護を必要とする人も、同じ「シニア」として扱われる。

だが、年齢だけで人の欲望や行動を説明することはできない。所得、健康状態、家族構成、就業状況、価値観、居住地、デジタル習慣によって、生活は大きく異なる。むしろ50代以降は、歩んできた人生の差が積み重なり、若い年代以上に多様性が広がる。

もう一つの理由は、「若い人を描けばブランドも若く見える」という思い込みだ。若さは新しさ、成長、未来、格好良さと結び付けられ、年齢は衰え、停滞、過去と結び付けられる。その結果、実際の顧客より何十歳も若い人物だけが広告に登場する。

しかし、50代以上を描くことと、ブランドを古く見せることは同じではない。古く見える原因は出演者の年齢ではなく、表現が古いことだ。生き生きと働き、遊び、学び、消費する人物を現代的に描けば、年齢に関係なく魅力的な広告になる。


「登場させる」だけでは解決しない

年長者を広告に出せば、それだけで年齢差別が解消されるわけではない。

英国の広告基準当局に関する調査では、広告に登場する55歳以上の人々が、気難しい、孤独、裕福、テクノロジーに弱いといった固定観念で表現されることへの不快感が示された。調査参加者の多くは、年長者がファッション、テクノロジー、家庭用品などの広告で十分に表現されていないと感じていた。

特に問題なのは、年齢を笑いの装置にする表現だ。スマートフォンを使えない、若者の言葉が分からない、変化についていけないという役割を年長者に与えれば、短い時間で分かりやすい笑いは作れる。しかし、その笑いは「年を取ると能力や感覚が失われる」という前提を繰り返し社会に刷り込む。

美容広告にも落とし穴がある。「年齢に負けない」「若く見える」「祖母ではなくガールフレンドの気分」といった言葉は、一見すると前向きに見える。だが裏側には、「年齢相応に見えることは望ましくない」という価値判断が残る。

本当に必要なのは、年齢を隠したり、若さに近づけたりすることではない。年齢を持ったまま魅力的である人物を描くことだ。


SNSで広がる共感――「不快」ではなく「悪い経営」

LinkedInなどのSNSでは、年齢差別的なマーケティングを「ブランドが今も許されている最後の偏見の一つ」と批判する投稿が繰り返し注目を集めている。

公開投稿やコメントで目立つのは、「50代以上は、ただ存在しているのではなく、働き、支出し、組織や家庭の意思決定に影響している」という反応だ。広告の中では透明人間にされている一方、現実には企業の売上を支える中心層であるという矛盾に、多くのマーケターや起業家が共感を示している。

住宅業界に関する反応では、若い家族だけを前提に住宅や広告を設計することへの疑問も出た。多世代同居、将来の身体変化、在宅勤務、親族への支援などを考えれば、50代以上の視点は一部の特殊需要ではなく、これからの標準的な商品設計に関わる。

また、「年齢差別は広告表現だけでなく、広告を作る組織の中にもある」という指摘も強い。若いチームが悪いのではない。問題は、似た年齢、似た経歴、似た文化圏の人だけで判断し、別の世代の生活を想像で補ってしまうことだ。年齢の多様性がない会議では、「自分たちに刺さらないものは文化的に古い」という誤解が生まれやすい。

SNSでは、50代以上の人々を「これから縮小する顧客」ではなく、「今後の利益を支える基盤」と見るべきだという主張も見られる。年長層だけを対象にした“シルバーキャンペーン”を作るのではなく、通常のブランド活動の中に自然に存在させるべきだという考え方である。


反論もある――作り手と顧客は同じ年齢である必要はない

一方、SNS上の議論は全面的な同意だけではない。

有力な反論の一つは、「顧客が60代だから、広告を作る人も60代でなければならないわけではない」というものだ。これはもっともな指摘である。優れたマーケターに必要なのは、自分と同じ人だけを理解する能力ではなく、自分とは違う人を調査し、観察し、理解する能力だ。

若いマーケターでも、丁寧なリサーチと市場志向があれば年長層に響く仕事はできる。逆に、年長のマーケターであっても、自分の体験を世代全体の代表だと思い込めば失敗する。

したがって解決策は、単純な年齢合わせではない。チームの多様性を高めることに加え、企画、商品開発、ユーザーテスト、表現確認の段階に当事者を参加させることが重要になる。

別の反論として、企業が若者を重視するのは差別ではなく、長期的な顧客獲得を狙う合理的な判断だという見方もある。若いうちに接点を作れば、その後何十年も購入してもらえるという「顧客生涯価値」の発想だ。

ただし、この理屈は年長層を無視する免罪符にはならない。ブランドスイッチが起きるのは若者だけではない。生活環境、健康、家族、仕事、資産状況が変われば、50代以降にも新しいカテゴリー需要が発生する。旅行、住宅改修、資産管理、健康機器、モビリティ、学習、起業支援など、後半人生で初めて本格的に検討される商品も多い。

若者の将来価値を評価しながら、年長者の現在価値をゼロに近く見積もるのは、合理性ではなく計測の偏りである。


Redditで見える、より複雑な世代間感情

 

Redditの年齢差別を巡る議論では、「年長者の意見はもう関係ない」「若い世代に席を譲るべきだ」といった表現そのものが、差別として認識されにくいという問題が語られている。

一方で、政治や組織の権力が高齢者に偏り、若者の将来が軽視されているという不満も投稿されている。ここには、マーケティングだけでは片づけられない世代間の資産格差や権力格差がある。

重要なのは、こうした不満と、年齢による一括排除を区別することだ。能力を発揮できない個人を役職から外す議論と、「高齢だから退くべきだ」という議論は同じではない。若者の参画を増やすことと、年長者の声を無価値とすることも同じではない。

広告も同様だ。若い消費者を描くことが問題なのではない。若さだけを未来の象徴とし、それ以外の年代を過去として処理することが問題なのである。


年齢を正しく描くための5つの転換

ブランドが最初に変えるべきなのは、「高齢者向け施策を増やす」という発想ではない。年齢を理由に顧客を単純化する仕組みそのものを見直すことだ。

第一に、55歳以上を一つの市場として扱わない。年齢ではなく、生活段階、収入、健康、家族、関心、価値観、購買目的で分ける。

第二に、広告の役割を広げる。年長者を介護、医療、保険、終活だけに登場させず、ファッション、テクノロジー、恋愛、旅行、仕事、スポーツ、住宅、娯楽の中心人物として描く。

第三に、「年齢の割に若い」という褒め方をやめる。若く見えるから価値があるのではなく、その人自身の選択、能力、魅力に価値があるという表現に変える。

第四に、当事者を制作過程に入れる。完成後に不快表現がないか確認するだけでなく、企画前の調査、商品設計、メディア選定、コピー開発から参加してもらう。

第五に、広告配信の仕組みも監査する。クリエイティブが多世代を描いていても、年齢設定やアルゴリズムによって特定世代に届かなければ意味がない。逆に、年長層に終活や健康不安をあおる広告ばかりが配信されていないかも確認すべきだ。


「シニアを攻略する」から「人間を理解する」へ

年長層を新しい金脈としてのみ扱うことにも注意が必要だ。

購買力があるから尊重する、資産を持つから広告に出す、という論理だけでは、経済力の低い高齢者は再び不可視化される。年齢差別の解消は、高所得層を効率よく獲得するためだけの手段ではない。

それでも、企業にとって経済的な事実は強い動機になる。倫理的に正しいだけでなく、売上、商品開発、ブランド成長の面でも合理的だと分かれば、変化は進みやすい。

鍵になるのは、「シニアらしさ」を演出することではなく、年齢によって失われない人間の欲求を見ることだ。認められたい。楽しみたい。新しいことを知りたい。自分で選びたい。誰かを支えたい。美しくありたい。便利に暮らしたい。社会とつながっていたい。

こうした欲求に年齢制限はない。


若者を追うブランドが、未来を見失う

人口が長寿化する社会で、50代以上を周辺市場として扱い続けることはできない。しかも、この層は単に人数が増えるだけではない。働く期間が延び、健康への投資が増え、テクノロジーを使い、家族の経済を支え、資産の移転を左右する。

ブランドが問われているのは、年長者専用の広告を作れるかではない。多世代が同じ社会で生きている現実を、どれだけ正確に表現できるかである。

年齢差別的な広告は、人を傷つける。同時に、市場を読み違え、商品を狭くし、優良顧客との接点を捨てる。

50歳を過ぎた消費者が広告から消えるのは、その人たちが消費をやめたからではない。ブランドの想像力が、そこで止まっているからだ。

次の成長を生むのは、若者だけを追い続ける企業ではない。人生の後半を「衰退」ではなく「変化と選択の時間」として理解できる企業である。


出典URL

※SNSの反応は、公開投稿とコメント欄に見られた代表的な論点を整理したものです。世論全体を示す統計調査ではありません。

・B&T。ブランドが年長の「スーパーコンシューマー」を見落としているという問題提起。
https://www.bandt.com.au/were-surprisingly-ageist-brands-continuing-to-neglect-older-super-consumer/

・Nine「Super Consumers: Welcome to the Halftime Show」。50~64歳の意識、健康、仕事、遊び、資産移転に関する調査。
https://www.nineforbrands.com.au/research/super-consumers-welcome-to-the-halftime-show/

・NineとKantarによる2021年の調査。55~64歳の週当たり世帯支出や、広告業界の年齢ターゲティングの盲点を説明。
https://www.nineforbrands.com.au/media-release/new-research-reveals-a-blind-spot-marketers-missing-the-new-super-consumers/

・ADMA「Marketing’s $2.5 trillion blind spot」。スーパーコンシューマーの購買力、広告への理解不足、年齢による表現ギャップを解説。
https://adma.com.au/resources/marketings-2.5-trillion-blind-spot

・Nine「Succession」。オーストラリアで予測される大規模な世代間資産移転と、消費・ブランド選択への影響。
https://www.nineforbrands.com.au/research/succession-a-deep-dive-into-the-impact-of-the-great-wealth-transfer/

・B&Tの関連特集。年長の消費者、特に50歳以上の女性を巡る市場機会と、広告業界の構造的な盲点を紹介。
https://www.bandt.com.au/are-brands-missing-the-powerful-opportunity-presented-by-older-consumers/

・The Guardianによる英国Advertising Standards Authority調査の報道。広告における年長者の固定観念、不可視化、テクノロジー表現などを紹介。
https://www.theguardian.com/media/2025/jun/19/uk-advertising-standards-authority-criticises-offensive-portrayal-older-people-adverts

・LinkedIn公開投稿。年齢差別を「表現上の問題」だけでなく「ビジネス上の損失」と見る意見、およびコメント欄の反応。
https://www.linkedin.com/posts/maddydychtwald_ageism-inclusiveadvertising-marketingstrategy-activity-7345828598445985793-ly4Q

・LinkedIn公開投稿。マーケティング業界の若者偏重、制作チームの多様性、市場志向を巡る賛否。
https://www.linkedin.com/posts/lottie-unwin-she-her-7b577742_marketing-is-wildly-ageist-weve-built-activity-7309178285576368128-Byzf

・LinkedIn公開投稿。50代以上へのマーケティングで、固定観念を避け、年齢を正面から扱うべきだとする議論。
https://www.linkedin.com/posts/carl-honor%C3%A9-81806ab3_bolder-growbolder-growingbolder-activity-7349021048073342976-wJJA

・Redditの公開スレッド。年齢差別が社会で正常化されているという意見と、若者の参画や世代間権力を巡る反論。
https://www.reddit.com/r/Aging/comments/1r65l0l/acceptable_ageism/