「エントリーレベル」に3年経験を求める社会で、若者はどう働き始めればいいのか

「エントリーレベル」に3年経験を求める社会で、若者はどう働き始めればいいのか

「Z世代は甘えている」のか――就活が本当に難しくなった時代の現実

Z世代は、しばしば「職場に適応できない世代」として語られる。週5日の出社を嫌がる、すぐに転職を考える、働く意味を問いすぎる、タイパを重視しすぎる。そんな批判は、企業側や年上世代のあいだで繰り返されてきた。

しかし、就職活動に限っていえば、「Z世代が弱い」のではなく、「入口そのものが狭くなった」と見るべきだろう。

InfoMoneyが紹介したFortuneの記事は、まさにこの点を突いている。Z世代は「仕事を探すのが昔より難しい」と感じているが、その感覚はデータにも裏づけられている。履歴書を書き、求人サイトに登録し、LinkedInを整え、AIに弾かれないようにキーワードを調整し、何十社、何百社に応募しても返事が来ない。これは一部の若者の怠慢ではなく、初職市場の構造変化として起きている。


58%がまだ初職を探しているという衝撃

Kickresumeの調査によると、2024〜2025年に卒業した、または卒業直後の若者のうち、58%がまだ最初の仕事を探している。一方、以前に卒業した世代で同じように卒業後も仕事探しに苦労した人は25%だった。

さらに差が大きいのは、卒業時点でフルタイム職を確保していた人の割合だ。以前の卒業生では約39%が卒業までにフルタイムの仕事を決めていたのに対し、最近の新卒では12%にとどまる。

つまり、Z世代の多くは、大学を卒業してからキャリアを始めるのではなく、卒業後にようやく「スタートラインを探し始める」状態に置かれている。これは心理的にも経済的にも重い。奨学金や学費の負担、家賃、生活費、親元に戻ることへの葛藤、同級生との比較。就職できない期間が長くなるほど、自己評価は下がり、「自分に価値がないのではないか」という感覚に飲み込まれやすくなる。

かつて大学の学位は、少なくとも一定の職業的安定への通行証と見なされていた。もちろん、どの時代にも就職難はあった。しかし現在の問題は、単に景気が悪いというだけでは説明しきれない。採用の仕組み、企業の人員計画、AIの導入、求人要件のインフレが重なり、初職への入口そのものが複雑化している。


「エントリーレベル」なのに経験者を求める矛盾

SNS上で特に強い怒りを集めているのが、「エントリーレベル」と書かれた求人が、実際には3〜5年の経験や専門スキルを求めているという矛盾だ。

Redditの就職関連コミュニティでは、「初級職なのに3〜5年の経験、技術スタック、業界知識、インターン経験、ポートフォリオ、完璧なコミュニケーション能力を求めてくる」という不満が投稿され、多くの共感を集めていた。投稿者は、「経験を得るには仕事が必要なのに、仕事を得るには経験が必要」というループを指摘している。

これはZ世代の不満というより、採用市場の設計不良だ。企業は「育てるコスト」を嫌い、すぐに成果を出せる人材を求める。一方で、その求人を「若手向け」「初級向け」として掲載する。結果として、若者は“初職”のはずのポジションにすら入れない。

SNSのコメント欄では、「それはもはやエントリーレベルではない」「求人サイト側が定義をきちんと管理すべきだ」といった反応も見られる。別のユーザーは、エントリーレベルという言葉が「会社内での階層が低い」という意味にすり替わっており、「未経験でも始められる仕事」ではなくなっていると指摘していた。

この言葉のズレは、若者の混乱をさらに深める。大学では「卒業後はまずエントリーレベルの仕事から始める」と教えられる。しかし実際の求人市場では、そのエントリーレベルがすでに経験者向けになっている。若者にとっては、入口の扉に「新人歓迎」と書かれているのに、開けようとすると「経験者のみ」と言われるようなものだ。


AIは就活を助けるのか、邪魔するのか

現在の就活をさらに複雑にしているのがAIだ。

求職者側は、履歴書の作成、職務経歴書の調整、面接対策、企業研究、自己PR文の作成にAIを使う。LinkedIn上でも、ネットワークづくり、AIツールの活用、求人ごとに履歴書を最適化することを勧める投稿が見られる。ある投稿では、若者が競争を勝ち抜くには「どんな仕事でも人と話し、業界を理解し、AIを使った経験を履歴書や面接で語れるようにするべきだ」と助言していた。

一方、企業側もAIを使う。応募者管理システムは履歴書を自動でふるい分け、キーワードの有無や形式の整合性を見て候補者を選別する。面接前のテスト、性格診断、録画面接、AIによるスクリーニングも広がっている。

この結果、就活は「人間同士の出会い」ではなく、「アルゴリズム同士の競争」に近づいている。候補者はAIで履歴書を最適化し、企業はAIでそれを選別する。応募の数は増えるが、人間が一人ひとりを見る時間は減る。若者は「落ちた理由」さえ分からないまま、無言の不採用を積み上げる。

AIの影響は、採用プロセスだけではない。そもそも新卒が担ってきた仕事の一部が、AIに置き換わりつつある。調査、要約、資料作成、簡単な分析、文章の下書き、カスタマーサポートの初期対応。これらはかつて、若手が経験を積むための仕事だった。しかし企業がAIで処理できると判断すれば、ジュニアポジションを増やす理由は弱くなる。

Burning Glass Instituteは、学士号が以前ほど専門職への確実な道ではなくなり、AIによってジュニア業務の一部が削られていると指摘している。問題は、AIがすべての仕事を奪うという単純な話ではない。むしろ深刻なのは、「経験を積むための最初の仕事」が減ることだ。

若手は経験がないから採用されない。しかし採用されなければ経験を得られない。その循環を、AIと採用効率化がさらに強めている。


SNSでは「怒り」と「現実的な助言」が同時に広がる

SNSの反応を見ると、単なる悲観だけではない。大きく分けると、三つの声がある。

第一に、怒りだ。

 

Redditでは、「初級職が初級職ではなくなっている」「企業は安い給料で経験者レベルの成果を求めているだけだ」という反応が目立つ。これは、Z世代だけでなく、転職中のミレニアル世代や30代の求職者からも共感を集めている。つまり問題は「若者だけ」ではなく、労働市場全体で入口と移動の摩擦が大きくなっているということだ。

第二に、諦めに近い現実認識だ。

「求人に応募しても返事がない」「AIで応募数が増え、企業側も見切れない」「誰もが完璧な候補者を探している」という声がある。ここでは、就活は努力すれば必ず報われるものではなく、確率のゲームになっている。だからこそ、1社ごとに丁寧に応募するだけではなく、大量応募、ネットワーキング、紹介、SNS発信、副業、インターン、イベント参加など、複数の経路を同時に使わざるを得ない。

第三に、実践的な助言だ。

LinkedInでは、「まずはネットワークをつくる」「どんな仕事でも実務経験を得る」「履歴書を求人ごとに調整する」「AIを使えることを示す」といったコメントが見られる。中には、マクドナルド、販売、接客、サーバーなどの仕事でも、時間を守る、対人対応をする、責任感を示す経験として価値があるという意見もあった。

この助言は現実的だが、同時に厳しい。大学を出た若者が、専門職の入口を求めているのに、「まずは何でもいいから働け」と言われる。もちろん、最初の仕事が理想通りである必要はない。しかし、専門教育を受け、学費を払い、スキルを磨いてきた若者にとって、それは「約束が違う」と感じられても不思議ではない。


LinkedInが履歴書ボードから“就活インフラ”になった

Kickresumeの調査では、最近の新卒の57%がLinkedInを就職活動に使っている。以前の卒業生では29%だった。また、SNSを就活に使う割合も、以前の卒業生の7%から、最近の新卒では26%へと大きく増えている。

これは、就活の舞台が変わったことを示している。求人サイトに履歴書を置いて待つだけでは足りない。企業の採用担当者に見つけてもらうためには、プロフィールを整え、投稿し、つながりを増やし、業界の言葉で自分を説明する必要がある。

言い換えれば、若者は仕事を探しているだけでなく、「働ける自分」を常に発信し続けなければならない。これは、就活と個人ブランディングが融合した状態だ。

しかし、この流れには格差もある。人前で発信するのが得意な人、英語で自己表現できる人、都市部に住みイベントへ参加できる人、親や大学のネットワークを使える人は有利になる。一方で、そうした文化資本を持たない若者は、実力以前の段階で見えにくくなる。

SNS時代の就活は、開かれているようでいて、実は「見せ方」を知っている人に偏りやすい。


“奇策”でしか突破できない若者たち

InfoMoneyの記事では、通常の応募では埋もれてしまう若者たちが、目立つために奇策を使う例も紹介されている。

ある若者は、ドーナツの箱に履歴書を忍ばせ、企業に届けることで面接機会を得た。別の若者は、マーケティング系のイベントでウェイターとして働きながら、休憩時間に参加者へ履歴書を配り、フィードバックを求めた。やがて、その行動が仕事につながったという。

こうした話は、一見すると前向きなサクセスストーリーに見える。創意工夫、行動力、粘り強さ。たしかに、それらは重要だ。

しかし同時に、ここには別の問題も見える。通常の採用ルートが機能していれば、若者がドーナツ箱やイベントの裏方仕事を使って自分を売り込む必要はない。奇策が称賛される社会は、裏を返せば、普通に応募して普通に評価される道が細くなっている社会でもある。

「目立てる人」だけが入口に立てるなら、それは公平な就職市場とは言いにくい。


企業にとっても損失になる

この問題は、若者だけの問題ではない。企業にとっても長期的な損失になる。

若手を採用しない企業は、短期的にはコストを抑えられる。AIで資料を作り、経験者だけを採り、少数精鋭で回すこともできるだろう。しかし、ジュニア人材を育てなければ、数年後の中堅人材はどこから来るのか。

経験者を奪い合うだけの市場では、人材の総量は増えない。誰かが若手を育てなければ、企業全体が将来の管理職、専門職、リーダー候補を失う。エントリーレベルの仕事は、単なる低スキル労働ではない。それは、未来の熟練者を育てる訓練の場でもある。

AIによって一部の初級業務が不要になるなら、企業はなおさら、若手が経験を積める新しい設計を考える必要がある。AIを使って若手を減らすのではなく、AIを使いながら若手を育てる仕組みを作るべきだ。


大学も「就職できる学位」を再設計する必要がある

大学側にも課題がある。

学位を取れば自然に就職できるという時代は終わりつつある。学生は、卒業間際になって初めてキャリアを考えるのでは遅い。大学は、低学年の段階から、インターン、実務プロジェクト、職業理解、AIリテラシー、ポートフォリオ作成、ネットワーキングを教育に組み込む必要がある。

ただし、これは「大学は職業訓練校になるべきだ」という意味ではない。問題は、学問と職業の橋渡しが弱すぎることだ。知識を学ぶことと、それを社会でどう使うかを接続しなければ、学生は卒業後に突然、巨大な採用市場へ放り出される。

若者に「もっと努力しろ」と言う前に、社会は「努力が届くルート」を整備する必要がある。


Z世代は本当に働きたがらないのか

Z世代は、働きたがらないのではない。むしろ、働き始めるために、以前より多くのことを求められている。

履歴書を書く。ATSに通るように調整する。LinkedInを整える。SNSで存在感を出す。AIを使う。AIに弾かれないようにする。ポートフォリオを作る。インターンを探す。イベントに参加する。ネットワークを広げる。面接練習をする。副業やアルバイトで経験を作る。何百社にも応募する。

これだけの作業をしても、返事が来ないことがある。

その現実を前にして、若者が不安や怒りを感じるのは当然だ。むしろ、問題は「若者の根性」ではなく、「社会が最初の一歩をどれだけ不安定にしてしまったか」にある。

もちろん、Z世代にも戦略は必要だ。理想の仕事だけを待つのではなく、最初の仕事を「終身刑」ではなく「出発点」と捉えることは大切だろう。LinkedInやSNSを活用し、AIを道具として使い、応募書類を磨き、実務経験を少しずつ積むことも必要になる。

しかし、それを若者だけの責任にしてはいけない。

企業は、本当に未経験者を育てる枠を用意しているのか。大学は、学生を現実の労働市場へつなげているのか。採用プラットフォームは、求人の「エントリーレベル」という言葉を適切に扱っているのか。社会は、若者に学費を払わせたあと、最初の経験を得る場を奪っていないか。

Z世代の就職難は、世代論ではなく、制度の問題だ。

「最近の若者は甘い」と片づけるのは簡単だ。しかし、データとSNS上の声を合わせて見ると、浮かび上がるのは別の景色である。Z世代は、壊れた入口の前で立ち尽くしている。そして、その入口を直さない限り、次の世代もまた同じ場所で足止めされることになる。


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