消える老舗、伸びるチェーン ― ドイツの「外食淘汰」は日本の未来なのか

消える老舗、伸びるチェーン ― ドイツの「外食淘汰」は日本の未来なのか

街からレストランが消えている。

ドイツでは近年、飲食店、カフェ、パブの閉店が相次いでいる。2025年には約2900の飲食関連事業者が法的な倒産手続きに入り、前年から約3割増加したと報じられた。これは2011年以来の高水準だという。

しかし、倒産件数だけを見ても実態のすべては分からない。資金が完全に尽きる前に、経営者が赤字の拡大を避けて自主的に店を閉めるケースもある。後継者がいない、設備更新ができない、長時間労働に耐えられないといった理由で、表面上は「倒産」にならない廃業も少なくない。

新型コロナウイルスの流行が終息した後、客足そのものは一定程度戻った。ところが、飲食店の経営は以前の状態には戻らなかった。

理由は単純だ。客は戻っても、来店頻度が戻らなかったからである。

月に4回外食していた家庭が2回に減らす。毎週レストランを利用していた人が、誕生日や記念日だけにする。ランチを店内で食べていた会社員が、スーパーやベーカリーで購入する。消費者は完全に外食をやめるのではなく、回数を間引き始めた。

外食は生活に欠かせない支出ではあるが、自炊や総菜、冷凍食品などで代替しやすい。家賃、電気代、保険料などを簡単には削れない状況では、外食費が家計調整の対象になりやすい。

ドイツの飲食市場で起きているのは、「食べることへの関心の消失」ではない。「なんとなく店に入る」という消費の消失なのである。


値上げしても苦しく、値上げしなくても苦しい

飲食店側のコストは、消費者の節約とは逆方向に動いている。

食材、エネルギー、人件費、家賃、決済手数料、修繕費など、ほぼすべての負担が上昇した。もともと飲食店は、売上に対する最終利益が大きい業種ではない。わずかなコスト増でも、利益が簡単に消えてしまう。

そこで価格を上げると、客数が減る。価格を据え置くと、売るほど利益が薄くなる。

しかも、値上げの影響はすべての店に同じように現れるわけではない。

「ここでなければ食べられない」と思われる店は、一定の値上げを受け入れてもらいやすい。一方、近隣に似た店が多く、料理やサービスに明確な違いがない店は、数ユーロ、数百円の値上げでも比較対象から外される。

これまで多くの飲食店は、立地、価格、常連客との関係によって経営を維持してきた。しかし現在は、地図アプリや口コミサイトを開けば、価格、評価、写真、混雑状況まで簡単に比較できる。

消費者にとっては便利になったが、店にとっては「平均点では選ばれない市場」になった。

料理が平均的で、接客も普通で、価格も特別安くない。かつては地域の日常を支えたそのような店が、現在は最も厳しい立場に置かれている。


伸びているのは、料理ではなく「仕組み」を売る店

ドイツで成長しているのが、チェーン店を中心とするシステムガストロノミーである。

ここでいうシステム型の飲食店は、ハンバーガーやフライドチキンだけを指さない。コーヒーショップ、ベーカリー、ピザ・パスタ店、ボウル専門店、ドネルケバブ店、持ち帰り専門店なども含まれる。

共通するのは、料理のジャンルではなく、業務が仕組み化されていることである。

食材をまとめて仕入れる。調理工程を単純化する。メニュー数を管理する。アプリで注文を受ける。セルフレジやモバイルオーダーを使う。店舗ごとの販売データを集め、売れない商品を素早く入れ替える。

こうした企業は、一店舗だけでは導入が難しい技術や設備にも投資できる。

ドイツの業界団体が公表した2025年のデータでは、システム型飲食店への来店数は2019年を13%上回った。一方、個人経営を中心とする独立系飲食店への来店数は、2019年を28%下回ったままだった。

システム型の売上高は360億ユーロで、外食市場の約41%を占める。来店数では約47%に達した。

注目すべきなのは、チェーンが単に安いから選ばれているわけではない点だ。

消費者は、価格が事前に分かること、注文方法が簡単であること、待ち時間を予想できること、味に大きな外れがないことにも価値を感じている。

つまり、システム型飲食店が提供しているのは料理だけではない。「失敗しにくい外食」という安心である。


SNSで目立つ「高い」より深刻な不満

 

ドイツ語圏のSNSや掲示板を見ると、外食に対する不満は価格だけではない。

「値段が上がったのに、料理の質が下がった」「高い料金を払っても、接客が遅く不親切だった」「以前は毎週ピザを注文していたが、今は年に数回になった」といった投稿が見られる。

外食回数を減らした理由として、単に支払能力がなくなったのではなく、「価格に対して得られる満足が少なくなった」と説明する利用者もいる。

一方で、飲食店側を擁護する反応もある。

食材費だけを見て「値上げしすぎだ」と批判しても、実際には家賃、人件費、光熱費、借入返済などが増えている。飲食店の原価は、皿の上に載っている食材だけではないという指摘だ。

議論は、消費者と経営者のどちらかが一方的に正しいという構図ではない。

消費者は「高くなったうえに価値が落ちた」と感じ、経営者は「価格を上げても利益は増えていない」と感じている。双方が苦しいからこそ、不信感が強まる。

さらに、キャッシュレス決済やデジタル注文への対応を求める声も多い。価格が高い店ほど、注文、会計、予約などの手続きが不便だと、顧客の不満は大きくなる。

SNSの投稿は統計的な世論調査ではない。しかし、現在の消費者が求めているものが「安さだけ」ではないことは読み取れる。

客は値上げそのものよりも、「値上げした理由が体験から理解できないこと」に強く反応しているのである。


日本もすでに同じ分岐点に立っている

ドイツの出来事は、遠い国の特殊な話ではない。

日本では2025年の飲食店倒産が900件となり、過去最多を更新した。負債5000万円未満の小規模倒産が全体の約8割を占めており、地域の小さな店ほど厳しい状況に置かれている。

業態別では、酒場・ビヤホールが204件で最多だった。町中華、ラーメン、焼肉、カレーなどを含む中華・東洋料理店は179件、日本料理店は97件となった。

2026年上半期も飲食店倒産は473件に達し、上半期として過去最多となった。酒場・ビヤホールは125件、中華・東洋料理店は91件を記録している。

背景には原材料高、人件費上昇、光熱費、賃料、宴会需要の変化がある。特に居酒屋は、企業の大規模宴会、二次会、若者の飲酒機会といった、かつての需要構造に依存してきた。

日本でも大手チェーンは、共同仕入れ、セントラルキッチン、価格改定、店舗データの活用によってコスト上昇に対応できる。一方、小規模店は仕入れ価格の交渉力が弱く、値上げによる客離れを恐れ、コスト増を十分に価格へ転嫁できない。

帝国データバンクの調査では、2025年時点の飲食店業界の価格転嫁率は32.3%で、全業種平均を下回った。

店が100円値上げしたからといって、コスト増の100円すべてを回収できているとは限らない。むしろ、値上げを行ってもなお不足分を店側が負担しているケースが多い。


売上が伸びていても安心できない日本の外食市場

日本フードサービス協会の会員企業を対象とした調査では、2025年の外食売上高は前年比107.3%となった。客数は102.9%、客単価は104.3%だった。

ファストフードは107.5%、ファミリーレストランは107.2%、喫茶は109.8%と売上を伸ばした。

数字だけを見ると、日本の外食市場は好調に見える。

しかし、売上の増加には価格改定による客単価上昇が大きく影響している。持ち帰り米飯・回転寿司や焼肉など、一部では客数が前年を下回った。売上が増えていても、来店者が同じ勢いで増えているとは限らない。

また、この調査は協会会員社を中心とした全店データであり、街の小規模な個人店すべてを表しているわけではない。

「大手の売上は伸びているのに、飲食店の倒産も増えている」という一見矛盾した現象は、集計対象の違いではなく、業界の二極化そのものを示している。

資本力、仕入れ力、採用力、デジタル投資力のある企業には売上が集まり、規模の小さい店ほどコスト上昇を吸収できない。

市場全体が縮小しているというより、消費者の支出先が集約されているのである。


日本のSNSでも交錯する「値上げ容認」と「もう行かない」

日本のSNS上でも、飲食店の値上げを巡る反応は大きく二つに分かれる。

 

一つは、「原材料、人件費、光熱費が上がっている以上、値上げは当然だ」「好きな店を残すためには適正価格を払いたい」という反応である。

値上げを拒み続ければ、店は食材の質を落とすか、従業員を減らすか、営業時間を短縮するしかない。最終的に閉店すれば、消費者も選択肢を失うという考え方だ。

もう一つは、「ある価格を超えたら行かない」「値段だけ上がり、量やサービスが落ちた」という反応である。

消費者にとって重要なのは、店の経営事情ではなく、支払った金額に対して満足できたかどうかだ。値上げの事情を理解していても、家計に余裕がなければ来店頻度は下げざるを得ない。

スマートフォン注文を巡る議論も象徴的だ。

人手不足を補い、価格上昇を抑えるための効率化だと評価する人がいる一方、アプリやLINEへの登録を求められることを負担に感じる人もいる。店側には省人化でも、客側には作業の移転と受け取られる場合がある。

デジタル化すれば無条件に満足度が高まるのではない。注文が簡単になり、待ち時間が減り、価格が抑えられるなど、利用者にも利益が見えなければならない。

効率化によって失われた接客を、何らかの別の価値で補えるかが問われている。


「チェーン対個人店」という単純な話ではない

この構造変化を、チェーン店が個人店を駆逐する物語として捉えるだけでは本質を見誤る。

個人店にも強みはある。

地域の食材を使う。店主の技術を前面に出す。客の好みを覚える。メニューを柔軟に変える。小さな空間で独自の雰囲気をつくる。

これらは大規模チェーンが簡単には再現できない価値だ。

問題は、独自性が店主の頭の中だけにあり、顧客に伝わっていない場合である。

「昔からこの方法でやっている」ことと、「客がその方法に価値を感じる」ことは同じではない。メニュー数が多すぎて仕込みが複雑になっている、使われない席のために広い店舗を維持している、現金会計に時間を取られるといった非効率は、味へのこだわりとは別の問題だ。

生き残る個人店は、個性を残しながら、裏側を標準化していくだろう。

予約管理、在庫管理、会計、仕入れ、シフト作成はデジタル化する。メニューを絞り、廃棄を減らす。営業時間を需要の高い時間帯に集中する。テイクアウトや冷凍商品を組み合わせる。

表側は個性的に、裏側は合理的に。

この二つを分けて考えられる店ほど、規模が小さくても競争力を持てる。


生き残る店に必要な五つの条件

今後の外食市場で重要になる第一の条件は、何の店なのかを一言で説明できることだ。

料理の種類が多いことより、「この料理ならここ」と認識されることの方が強い。専門性は、仕入れと調理の効率化にもつながる。

第二は、価格の理由が伝わることである。

高い食材を使っているのか、量が多いのか、接客や空間に価値があるのか。価格の根拠が体験として理解できれば、単純な最安値競争から離れられる。

第三は、待たせないことだ。

注文、料理の提供、会計のどこかで長く待たされると、客は価格以上に損をしたと感じる。タイムパフォーマンスは、低価格店だけの課題ではない。

第四は、常連客だけに依存しないことである。

長年の固定客は大切だが、年齢や生活環境の変化によって来店頻度は低下する。検索、口コミ、SNS、予約サイトなどを通じ、新しい客が入り続ける仕組みが必要になる。

第五は、すべての客を取ろうとしないことだ。

安さを求める客、特別な体験を求める客、短時間で食事を済ませたい客、家族でゆっくり過ごしたい客では、必要な店づくりが異なる。

対象を曖昧にすると、価格、メニュー、接客、内装のすべてが中途半端になる。


消えるのは外食ではなく、「選ぶ理由のない店」

ドイツでも日本でも、人々が外で食べることを嫌いになったわけではない。

友人や家族と過ごす時間、料理を作らずに済む便利さ、自宅では味わえない料理、旅先での体験。外食が持つ価値は今後も残る。

ただし、外食の一回当たりの重みは増している。

消費者が回数を減らせば、一回の選択は慎重になる。口コミを確認し、価格を比較し、失敗しにくい店を選ぶ。日常の外食は便利なチェーンに集まり、特別な外食は明確な個性を持つ店に集まる。

その間にある「少し高いが、特別ではない店」が最も苦しくなる。

これからの飲食店に必要なのは、大手と同じ規模になることではない。大手が得意な効率性の一部を取り入れながら、大手にはつくれない来店理由を明確にすることだ。

外食産業で起きているのは、料理文化の終わりではない。

客に選ばれる理由を説明できないビジネスモデルの終わりである。



出典URL

n-tv:ドイツの飲食店倒産、実質売上の低迷、独立系とシステム型飲食店の明暗を扱った記事
https://www.n-tv.de/wirtschaft/Welche-Restaurants-sterben-und-welche-boomen-id31131076.html

ドイツ連邦統計局:2025年の宿泊・飲食サービス業の実質売上に関する公式統計
https://www.destatis.de/DE/Presse/Pressemitteilungen/2026/02/PD26_054_45213.html

ドイツ・システムガストロノミー連盟:2025年の売上、来店数、独立系飲食店との比較データ
https://www.bundesverband-systemgastronomie.de/die-systemgastronomie/branchendaten.html

ドイツ・システムガストロノミー連盟:今後の出店、投資、雇用計画に関する発表
https://www.bundesverband-systemgastronomie.de/aktuelles/nachricht/neue-tourismusstrategie-setzt-starke-impulse-fuer-die-systemgastronomie.html

帝国データバンク:2025年の日本国内における飲食店倒産件数、業態別内訳、価格転嫁率
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260113-insyokuten2025/

帝国データバンク:2026年上半期の飲食店倒産件数と、大手・中小飲食店の規模間格差
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260722-insyokuten2026fh/

日本フードサービス協会:2025年の外食産業売上高、客数、客単価、業態別動向
https://www.jfnet.or.jp/wp/wp-content/uploads/2026/01/nenkandata-2025.pdf

Reddit・r/de:ドイツの外食価格、品質、接客、利用頻度を巡る利用者の反応例
https://www.reddit.com/r/de/comments/1m5dx9a/deutsches_gastgewerbe_erleidet_st%C3%A4rksten/

Reddit・r/Finanzen:飲食店の値上げと、食材費以外の経営コストを巡る議論
https://www.reddit.com/r/Finanzen/comments/1m9airp/preiserh%C3%B6hungen_in_restaurants_f%C3%BChren_zu/

X:飲食店の値上げを、店舗存続のための判断として支持する日本の投稿例
https://x.com/f_bby__shota/status/2009838561026289676

X:居酒屋のスマートフォン注文を巡る、利便性と顧客負担についての反応概要
https://x.com/i/trending/2071084388943896689