ファンクラブ開設ラッシュの背景――体験マーケティング時代の芸能戦略

ファンクラブ開設ラッシュの背景――体験マーケティング時代の芸能戦略

目次

  1. はじめに

  2. 日本で起きている「ファンクラブ開設ラッシュ」とは

  3. 体験マーケティングの台頭――“推し活”経済の拡大

  4. プラットフォームの進化と低コスト化

  5. 具体的事例(日本)

  6. 海外動向と比較

  7. 共通点と相違点を整理

  8. 収益モデルと経済インパクト

  9. 今後の展望と課題

  10. まとめ



1. はじめに

2020年代半ば、世界のエンタメ収益構造は「マス向けストリーミング」から「スーパー・ファン課金」へ明確に舵を切った。日本でもこの流れが顕著で、公式ファンクラブが“体験マーケティング”の中核インフラとして再評価されている。




2. 日本で起きている「ファンクラブ開設ラッシュ」とは

Yahoo!ニュースのエキスパート解説は、2024年末から2025年にかけての開設数増加を「第二次ファンクラブ元年」と位置付ける。背景は三つ。①コロナ禍で興行収入が不安定になり、固定収益源が不可欠になった。②Z世代を中心とした“推し活”の爆発で「推しに直接貢献したい」ニーズが拡大。③低コストで決済・会員管理が可能なSaaS型プラットフォームの台頭で参入障壁が下がった。x.com




3. 体験マーケティングの台頭――“推し活”経済の拡大

経済産業省の報告書によると、国内「オタク市場」は2023年度で8,101億円。特にアイドル・VTuber・2.5次元舞台はファンクラブ経由のイベント課金比率が高い。会員限定のオンラインくじ、バックステージ配信、バスツアー婚活など、“体験”に紐づく新サービスが次々生まれている。meti.go.jp




4. プラットフォームの進化と低コスト化

  • 国内: FaniconやBitfanは月額500円ほどから開設でき、チケット抽選・グッズEC・コミュニティをワンストップ提供。

  • 海外: Weverseは2025年6月にHD動画アップロードを強化し、年間30ドル前後でGlobalメンバーシップを販売。weverse.io
    本質は「決済 × CRM × デジタル体験」を統合した“プラットフォーム化”で、タレント側は初期費用を抑えつつ世界中のファンにアクセスできる。



5. 具体的事例(日本)

事例料金体系体験型特典備考
Ado公式ファンクラブ年額4,400円VRライブ先行視聴、ボイスメッセージ2024年9月開設
村上虹郎 Official月額880円映画撮影現場レポ、手書き日記俳優系ファンクラブの成功例
にじさんじ“NIJIメイト”年額5,500円限定グッズ抽選、リアル握手会VTuber独自のハイブリッド運営


これらは「会員限定の没入体験」がコア・バリューとなり、単なる情報発信を超えた関係性ビジネスへ進化している。




6. 海外動向と比較

  • 韓国: Weverseを通じた“メンバーシップキット”が標準。BTS ARMYは年22USDの基本コースと150USDのMerch Packコースが併存し、配送グッズ+ライブストリームが軸。usbtsarmy.com

  • 欧米: Spotify×UMGの新契約で“Superfan”有料層に先行リリース等を提供予定。theverge.com

  • 共通点は「デジタル優先」「グローバル同時運営」「物理+デジタルのハイブリッド体験」。相違点は①課金頻度(日本は年額が多く、海外は月額/階層制)、②オフライン接触(日本は握手・ハイタッチ文化が強い)、③決済手段(クレカvsコンビニ・キャリア決済)。




7. 共通点と相違点を整理

観点日本韓国欧米
課金モデル年額+更新グッズ年額+Merch Pack月額+階層パス
主な特典先行チケット/現場イベントメンバーシップキット/ライブ配信デジタル先行音源/VIPミート&グリート
決済コンビニ・キャリア◎グローバルEC◎クレカ・PayPal◎




8. 収益モデルと経済インパクト

MIDiAは「拡張権利(Expanded Rights)」収入が世界音楽売上の1割(35億ドル)に達したと報告。“ファン経済”への移行で、レーベルや芸能事務所は**LTV(顧客生涯価値)**を最大化する設計が急務になる。musicman.co.jp


日本のファンクラブ会員数は大手だけで延べ1,500万口を超え、1口平均4,000円とすると粗収益6,000億円規模。加えてチケットEC手数料、グッズ、PPVライブが上乗せされる。




9. 今後の展望と課題

  1. AR/メタバース連動:海外のTravis Scott in Fortnite型イベントが日本でも標準化するか。

  2. AI翻訳・同時字幕:多言語展開で“国境なきファンクラブ”を実現。

  3. 二次流通連携:公式リセールで“ダイナミックプライシング”と「推しの証明」NFT化が鍵。

  4. コンプライアンス:データ利活用と若年層課金、景表法の整理が不可欠。




10. まとめ

ファンクラブは「物販+チケット販売チャネル」から、継続的かつデータドリブンな“体験マーケティング”プラットフォームへ変貌している。日本はオフライン体験の豊富さで優位性を持つ一方、海外はデジタル施策の俊敏さで先行する。両者が融合する次世代モデルを構築できるかが、グローバル市場での競争力を左右するだろう。




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