病気の90%は“環境次第”?DNAより大事なのは空気と仕事と財布:環境要因が病気リスクの主役に

病気の90%は“環境次第”?DNAより大事なのは空気と仕事と財布:環境要因が病気リスクの主役に

遺伝か環境か──長年の論争が「両方正しい」に変わりつつある

「この病気は体質だから仕方ない」「家系だから諦めている」。
そんなフレーズは、私たちの日常に当たり前のように存在してきました。


ところが近年、「遺伝よりも、むしろ環境のほうが大きい」という研究結果が相次いでいます。2025年11月末にUPI/HealthDayが配信した記事も、その一つ。タイトルは「環境トリガーは疾患の発症において遺伝要因に匹敵する」というものです。Upi


単一の遺伝子が病気を決める、という分かりやすい物語は、どうやら現実を十分に説明してはいません。私たちが毎日吸う空気、飲む水、食べるもの、働く環境、ストレス、収入、住む地域──そうしたあらゆる「環境曝露」の積み重ねが、病気のリスクを大きく動かしていることが見えてきたのです。ERS Publications


「90%が環境要因?」エクスポゾーム研究が示すインパクト

環境要因の重要性を象徴する数字があります。
欧州議会の報告や国際的なレビューによれば、病気リスクの最大90%が環境要因に関連している可能性がある、といいます。欧州議会


さらに、エクスポゾーム(exposome)と呼ばれる概念を用いた研究では、ある慢性疾患ではリスクの7〜9割が環境曝露で説明できる可能性があるとされました。ABC


エクスポゾームとは、

「受胎から死に至るまでの、生涯にわたるすべての環境曝露の総体」ERS Publications

を指します。大気汚染や騒音、職場ストレスや夜勤、食事、化学物質、気候変動由来の熱波など、目に見えるものも見えないものも、すべて含まれます。


一方、英国バイオバンクの50万人規模のデータを用いた研究では、早死のリスクを説明する要因のうち、環境・生活習慣は約17%、遺伝は2%程度という結果も報告されました。オックスフォード大学


もちろん病気によって割合は異なりますが、少なくとも「全部DNAで決まる」というイメージは、現実からかなりズレていると言えそうです。


どんな「環境トリガー」が病気を引き起こすのか

環境要因と聞くと、まず思い浮かぶのは大気汚染かもしれません。実際、微小粒子状物質(PM2.5)や窒素酸化物の濃度が高い地域では、心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが上昇し、場合によっては認知機能や骨の健康にも影響することが示されています。ドイツ心血管研究センター


しかし、「環境トリガー」はそれだけではありません。

  • 化学物質:農薬やプラスチック由来の内分泌かく乱物質は、ホルモンバランスを乱し、肥満、不妊症、発達障害との関連が指摘されています。ウィキペディア

  • 仕事と収入:失業や長時間労働、低所得は、うつ病や心疾患、糖尿病など多くの病気のリスクを押し上げます。オックスフォード大学

  • 生活習慣:喫煙や運動不足、極端な飲酒、加工食品中心の食生活は説明不要でしょう。これらはほぼすべての主要な慢性疾患と結びついています。オックスフォード大学

  • 居住環境:交通量の多い幹線道路沿い、緑地の少ない地区、騒音の多い地域に住む人は、そうでない人に比べて慢性疾患リスクが高くなります。オックスフォード大学


これらが個々に作用するだけでなく、“ミックス”として同時に襲いかかることが、問題をさらに複雑にしています。


遺伝子と環境は「足し算」ではなく「掛け算」

UPI/HealthDayの記事タイトルが示すように、研究者たちは「遺伝と環境のどちらが勝っているか」を競わせたいわけではありません。むしろ重要なのは、両者の相互作用です。


ある自己免疫疾患の研究では、「高い遺伝的リスク+高い大気汚染」にさらされた人の発症リスクが、どちらか一方だけの場合よりも何倍も高くなることが示されました。Health


このような「掛け算効果」は、

  • ある化学物質に反応しやすい遺伝型

  • ストレスホルモンが出やすい体質
    などと組み合わさることで、病気のスイッチを押してしまうと考えられています。


一方で、「環境を改善すると、たとえ遺伝的リスクが高くても影響を打ち消せる」ケースも見えてきました。これが、エクスポゾーム研究がもたらす最大の希望かもしれません。

SNSにはどんな反応が想像できるか

この記事のテーマがSNSに流れてきたとき、タイムラインにはきっとこんな投稿が並ぶでしょう(実際の投稿ではなく、典型的な反応イメージです):

  • 「親も祖父母も糖尿病だから覚悟してたけど、環境を変えればまだ間に合うのかも…ちょっと希望がわいた」

  • 「遺伝じゃなくて“住む場所と収入”で病気リスクが決まるって、もはや個人の努力じゃどうにもならない問題では?」

  • 「環境がそんなに大事なら、企業と政府はもっと空気と水をきれいにする義務があるよね。個人にだけ“自己責任”を押しつけるのはフェアじゃない」

  • 「エクスポゾーム研究すごい。自分の一日の行動ログと組み合わせて、将来のリスクを予測できるサービスとか出てきそう」


X(旧Twitter)やThreadsでは、

  • 「怖さ」(自分のコントロール外の要因が多い)

  • 「怒り」(環境政策の不十分さへの不満)

  • 「期待」(予防やヘルスケアの新しい可能性)

の三つが、複雑に入り混じった議論になるだろうと想像できます。

「自己責任」では説明できない健康格差

環境トリガーの話が厄介なのは、社会的不平等と強く結びついている点です。


大気汚染がひどい工業地帯の近くに住まざるを得ない人、夜勤や長時間労働で睡眠時間を削られる人、安価だが栄養価の低い加工食品に頼らざるを得ない人──。研究によれば、こうした人々は、裕福な地区に住む人に比べて複数の環境リスクに同時にさらされる傾向があり、その結果、慢性疾患の負担が偏っていることがわかっています。オックスフォード大学


病気を「自己管理ができていない個人の問題」とみなす視点は、こうした構造的な要因を見えにくくしてしまいます。遺伝よりも環境の影響が大きいとするデータは、“個人の努力”に対してだけでなく、都市計画、労働政策、気候変動対策などのマクロな政策を変える圧力にもなりうるのです。


私たちが今日からできること

とはいえ、国家レベルの政策を今すぐ変えることは難しくても、個人でコントロールできる環境要因も確かに存在します。研究や専門機関の提言を踏まえると、次のようなポイントが現実的なスタートラインになります。オックスフォード大学

  1. 空気の質を意識する

    • 交通量の多い道路沿いを避けた通勤ルートに変える

    • 大気汚染がひどい日は屋外の激しい運動を避け、屋内での運動に切り替える

  2. 「小さな習慣」の積み上げ

    • 一駅だけ歩く、エレベーターではなく階段を使う

    • 喫煙を減らす(完全禁煙が理想ですが、「減らす」だけでもリスク低下に寄与)

  3. 食環境をアップデートする

    • 加工食品・揚げ物を毎日から「週に数回」へ

    • 家で料理する回数を少し増やす(食材を自分で選べるという意味での環境改善)

  4. メンタル環境の整備

    • SNSやニュースの「浴びすぎ」を減らし、睡眠時間を確保する

    • 孤立を避け、信頼できる人とのつながりを維持する

  5. 声を上げるという選択肢

    • 地域の大気汚染や騒音、ヒートアイランド対策を求める署名や市民運動に参加する

    • 企業の環境配慮や労働環境を重視した消費行動をとる


これらは一見ささやかですが、エクスポゾームの視点から見ると、「毎日の小さな選択」が生涯スケールで大きな差を生む可能性があります。

遺伝子検査の“その先”へ

日本でも遺伝子検査サービスが普及し、「がんのなりやすさ」「肥満リスク」などを手軽に知ることができるようになりました。しかし、環境要因の影響がこれほど大きいのであれば、「遺伝子の結果を見て終わり」ではもったいない時代に入りつつあります。


これから重要になるのは、

  • 遺伝情報(どんな体質を持っているか)

  • エクスポゾーム情報(どんな環境にさらされ続けているか)

を組み合わせ、個々人に最適化された予防戦略を設計することです。すでに世界では、衛星データやセンサー、スマホの位置情報などを使って環境曝露を高精度に推定するプロジェクトも動き始めています。Nature


UPI/HealthDayの記事タイトルが示す「環境トリガーは遺伝要因に匹敵する」というメッセージは、遺伝子検査ブームの“次のフェーズ”──**「環境を変える医療」**への入り口と言えるかもしれません。


おわりに──未来は「書き換え可能」かもしれない

生まれ持った遺伝子は基本的に変えられません。一方で、

  • 住む場所

  • 働き方

  • 使うエネルギー

  • 街のデザイン
    といった環境の多くは、個人・地域・社会の意思決定によって変えていくことができます。


病気のリスクを決めるのが遺伝子だけではなく、環境に大きく依存しているのだとしたら、それは**「未来が書き換え可能だ」という希望のメッセージ**でもあります。


SNS上のざわめきを眺めながら、私たち一人ひとりもまた、自分の「小さなエクスポゾーム」を今日から少しずつ変えていけるのかもしれません。



参考記事

病気の発症において、環境要因は遺伝と同じくらい重要
出典: https://www.upi.com/Health_News/2025/11/29/environmental-disease-triggers/8061764426431/