「古い順に売る」は逆効果?惣菜売り場の常識をひっくり返す“LIFO戦略”

「古い順に売る」は逆効果?惣菜売り場の常識をひっくり返す“LIFO戦略”

「古い順に売る」が常識だった惣菜売り場で、逆転現象が起きる理由

スーパーの惣菜・ロティサリーチキン・寿司・サラダなど、いわゆる“店内調理の出来合い食品(premade foods)”は、忙しい家庭の味方であり、売り場の集客装置でもある。入口付近に即食コーナーを置く店もあれば、目玉商品(たとえばロティサリーチキン)をあえて奥に置き、ついで買いを狙う店もある。


だが、出来合い食品は管理が難しい。時間が経つほど品質が落ち、売れ残りは廃棄になりやすい。ある大手小売は、調理済み食品の9%を廃棄していたという。


この悩みに対し、スタンフォード大の研究チーム(Dan Iancu / Erica Plambeck ら)が「棚に並べる順番」「棚に置く時間(実質的な棚寿命)」「作った時刻を表示するか(タイムスタンプ)」をまとめて考えるモデルを作り、直感に反する結論を示した。


結論を先に言うとこうだ。

  • 売り場は“古い順(FIFO)”より、“新しい順(LIFO)”=新しいものを先に売る方が、売上も伸びて廃棄も減りうる

  • タイムスタンプ(調理時刻の表示)は、必ずしも店にも社会にも優しくない(条件によっては“表示しない”方がよい)

  • しかも、LIFOは「棚に置く時間を長めに取る」こととセットで効く(片方だけだと成立しにくい)

なぜ、そんな逆転が起きるのか。



なぜLIFO(新しいものを先に売る)で、廃棄が減るのか

多くの売り場は「古い商品を前へ」=FIFO(First In, First Out)で回している。常識的には、古いものから売れば期限切れが減り、廃棄が減るはずだ。実際、棚寿命(何時間で下げるか)が固定なら、FIFOは廃棄・機会損失を抑えやすい、という整理もある。


ところが出来合い食品は「品質が時間で落ちる」だけでなく、「品質が落ちると買いたくなくなる」商品だ。研究が示したキモはここにある。
LIFOは平均的に“買われる品質”を押し上げる。すると消費者の満足が上がり、次も買おうという期待値が上がる。結果として需要が増え、売れ残りが減る——つまり廃棄が減る、という“逆説”が成立する。


Phys.orgの記事では、Plambeck教授が「棚の奥の一部は期限切れになるかもしれないが、LIFOは平均品質を上げ、需要が増えることで結果的に捨てる量が減る」と説明している。


言い換えると、出来合い食品は“在庫回転の最適化”だけでは語れない。「体験の質(当たり外れ)」が需要に跳ね返るからだ。



タイムスタンプは“親切”だが、売り場を短命にする

消費者は基本的に新しいものを選びたい。だから「何時に作りました」と表示されると安心する。だが、それが逆効果になる場面がある。


記事では、「1時間前に出たチキンがあると、2時間前のチキンに客が鼻を鳴らす(ほぼ同等でも)」という例で説明される。
タイムスタンプがあると、客は“最新ロット一点集中”になりやすい。すると少し古い商品が売れ残り、実質的な棚寿命が短くなる。棚寿命が短くなると、廃棄が増えやすい。


研究論文でも、タイムスタンプは(価格を時間で変えるなどの工夫があっても)「棚寿命を縮める方向に働き、廃棄増・売上減につながりうる」という整理になっている。


一方、タイムスタンプを出さない場合、客は個々の商品の鮮度を見分けられないため、購入判断は「これまで買ってきた平均的な満足」で決まりやすい。


ここでLIFO(新しいものが売れやすい並べ方)を組み合わせると、“平均的に当たりが増える”→“また買う”→“売れ残りが減る”の循環が作れる、というわけだ。


もちろん、店側は安全管理のために時間を把握する必要がある。記事では、パン袋の色タブのように従業員だけが読める符号で管理する発想も紹介されている。



“ロティサリーチキン”が象徴する、棚寿命の設計思想

研究論文はロティサリーチキンを例に、実店舗の運用も挙げている。

  • ある“運用効率で有名な多国籍小売(匿名化)”は、顧客向けのタイムスタンプは出さず、従業員だけが分かるラベルで年齢を判別し、棚に4時間置いたら廃棄していた。

  • Costcoは、目玉の**$4.99ロティサリーチキン**を武器に来店を促し、店の奥に配置して“ついで買い”を狙う、という文脈が紹介される。

  • 論文ではさらに、Costcoが2024年に(従来と逆に)チキンへタイムスタンプを付け始めたこと、Sprouts Farmers Marketもタイムスタンプをしていることが触れられている。


ここが面白い点だ。実務の世界では「鮮度情報の提示」は強い要望がある一方で、モデル上は“提示しない”方がうまく回る場合がある。つまり、現場は今も試行錯誤の最中で、正解は“全店一律”ではなく、客層や商品の性質、棚寿命、価格戦略とセットで決まる



寄付義務化は善意でも、廃棄を“下流”へ押し流すことがある

食品ロスを減らす政策として「売れ残りの寄付」を義務化する動きがある。Phys.orgの記事は、カリフォルニアが“食べられる未販売品”の寄付を求め始めたことに触れつつ、フランス(2016年に類似法)では監査で「寄付の品質が落ち、店舗あたりの寄付量も減った」と報じている。


研究チームは、ここにも“逆インセンティブ”が生まれうると説明する。寄付の物流や仕分けはコストがかかるため、店が「売り切るより寄付に回す」設計に寄ると、賞味期限(売り時)を引き延ばす誘惑が生まれ、結果としてフードバンクに届く頃には品質が落ち、結局捨てられる——つまりロスが下流に移る。


「良いことをしたい」だけではシステムは回らない。ここでも“現場のオペレーション設計”が政策の成否を左右する。



日本の惣菜売り場に置き換えると何が起きる?

日本のスーパー・コンビニの惣菜は、商品数も回転も非常に細かい。ここに今回の示唆を当てはめるなら、論点は3つに絞れる。

  1. “見える鮮度”をどこまで出すか
    「製造時刻」を見せるほど、客は最新に集中する。これは安心の裏返しとして、古い在庫を一気に難しくする。

  2. 並べ方は“先入れ先出し”だけが正義ではない
    出来合い食品は「平均体験の底上げ」が需要に効く。新しいものが前に来る時間帯を意図的に作ることで、当たり体験を増やし、リピートを取りに行く発想が出てくる。

  3. 棚寿命の設計(何時間で下げるか)が戦略そのもの
    LIFOは棚寿命を長く取ることとセットで効く、という指摘がある。
    つまり「何時に下げるか」「値引きのタイミング」「補充の波」まで含めて、惣菜売り場は“オペレーションがマーケティング”になっている。



SNSの反応:議論は「公平さ」より「体験の平均値」へ

今回のPhys.org記事自体は公開直後で、記事ページ上はコメント欄が動いていない状況も見える。

ただし、関連する研究は以前から話題になっており、たとえばSubstackのニュースレターでは「出来合い食品のLIFOは、FIFOより平均的な体験を良くする」という趣旨のコメントが付き、牛乳陳列など別の棚でも似た戦略を見たという声が出ている。


また別のコメントでは、行列が長くなるほど“自分が新鮮サンプルをもらえる確率”はむしろ下がるのでは、というツッコミもあり、LIFOが“全員にとっての体験”をどう設計するかが論点になっていた。


ここから透けて見えるのは、SNS的な関心が「FIFO/LIFOの正しさ」そのものより、

  • 当たり外れの体感(“今日は当たりだった”が増えるか)

  • 不公平感のコントロール(“いつも古いのをつかまされる”と思われないか)

  • 情報開示のジレンマ(安心とロス削減のトレードオフ)
    に向かいやすい、ということだ。



まとめ:「新しいものを先に売る」は、ロス削減の“心理×オペレーション”だった

出来合い食品は、単なる在庫ではなく“食体験”である。だから売り方の最適化は、廃棄率だけでなく、顧客の期待値(次も買うか)まで含めて設計する必要がある。


LIFOと棚寿命の最適化、そしてタイムスタンプの扱い——この3点を“まとめて”見直すことが、売上と食品ロスの両方を動かす鍵になる。



参考記事

調理済み食品の販売方法を改善することで、廃棄物を削減し、売上を向上させることができる可能性があります。
出典: https://phys.org/news/2026-01-premade-food-boost-sales.html