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子どもの初めてのデバイスが、最初の「インフルエンサー訓練所」になっている件 ― 中国スマートウォッチが映す承認欲求社会の未来

子どもの初めてのデバイスが、最初の「インフルエンサー訓練所」になっている件 ― 中国スマートウォッチが映す承認欲求社会の未来

2025年11月23日 22:04

スマートウォッチの中で始まっている「いいね格差社会」

――中国発・子ども向けウェアラブルが映す、もうひとつのSNS戦争


1. 子どもの腕から始まる「承認欲求ゲーム」

中国では、子どもが初めて持つネット接続デバイスがスマホではなく「スマートウォッチ」になりつつある。とくに「小天才(Little Genius)」というブランドの人気は圧倒的で、子ども向けスマートウォッチ市場では世界シェアの約半分を握ると言われている。WIRED


親がこのウォッチを買う理由はシンプルだ。電話やビデオ通話で連絡が取れ、位置情報で子どもの居場所もすぐ分かる。学校によってはスマホ持ち込み禁止でも、ウォッチならOKというケースも多い。


しかし、子どもたちが夢中になっているのは安全機能ではない。ウォッチの中に広がる「いいね」とランキングの世界――いわば、ミニ版インスタ+ゲーム+電子マネーが一体化した、子ども専用SNS空間だ。WIRED


そこで彼らは、友だちとチャットし、短い動画を投稿し、ポイントを貯めてアバターの服を買う。そして一番重要なのは、自分のプロフィールにどれだけ「いいね(Like)」が集まっているか。数字がステータスになり、教室のヒエラルキーすら左右してしまう。


2. 「経験値」と「ランク」が友情を決める

Little Geniusの世界では、ほぼあらゆる行動がポイント化されている。運動をすると歩数やジャンプ回数がカウントされ、ミッションをクリアすると経験値が増える。レベルが上がるほど一日に送れる「いいね」の数が増え、貢献度の高い友だちほど価値のある存在になる。WIRED


ただし、友だちの上限は150人。だから子どもたちは「レベルの高い友だち枠」を奪い合う。

  • レベルが高い子ども:

    • 1人に一日20いいね送れる

    • 自分にたくさんのいいねを返してくれる仲間を優先する

  • レベルが低い子ども:

    • 1人に5いいねしか送れない

    • 「役に立たない」と判断されればフレンドから外されるリスク

この構図はまさに、ソーシャルゲームのギルドや、インフルエンサー経済の縮図だ。「いいねの相互フォロー」を巡って、水面下で駆け引きが行われる。


Wiredの記事では、昔は友達作りが苦手だった18歳の女性が、中学生の頃にLittle Geniusコミュニティに入り、一気に100万いいねを集めて“クラスの人気者”になったエピソードが紹介されている。彼女はそこで知り合った複数の恋人と付き合うようになったが、その一部は性的な写真を要求してきたため別れたという。WIRED


「いいね」がコミュニケーションの入口になると同時に、危うい関係の扉にもなり得ることが分かる。


3. エンゲージメントを「盛る」裏ワザとボット市場

当然のように、こうした数字競争には“攻略法”が生まれる。

中国版Instagramとも言われる「小紅書(RED)」には、Little Geniusのいいね上限を回避するハウツー動画が多数投稿されている。タイトルは「世界初!無限いいねテク」「新ホーム画面で制限を突破する方法」など、まるで大人向けグロースハック講座のミニチュア版だ。WIRED


さらに、人気ユーザーの間では次のようなビジネスも生まれている。

  • 使い込んで高ランクになった自分のアカウントを売却

  • 自動でいいねを送り続ける「ボット」を販売

  • 授業中に本人の代わりにアカウントを動かしてくれる“代行サービス”

ある17歳の少女は、200万いいね以上を持つ“ビッグショット”として知られ、古いアカウントやボットを販売することで1年で約8000ドル(約120万円)稼いだと報じられている。だが、彼女は他の人気ユーザーとのケンカやサイバーいじめに疲れ、最終的にはプラットフォームから離脱したという。WIRED


子ども向けのはずの玩具が、いつのまにか「フォロワー経済の入門編」になっている現実が垣間見える。


4. 親たちの葛藤:「安全のため」が「依存装置」に変わる瞬間

親側も、この仕組みを完全に理解しているわけではない。

北京に住む48歳の母親・林さんは、近視の娘にスクリーンを長時間見せたくないと、しばらく購入をためらっていた。しかし周りの友だちが次々とLittle Geniusを持ち始め、娘が「自分だけ仲間外れだ」と泣くようになり、結局8歳の誕生日に買い与えた。WIRED


予感は的中する。娘は朝目を覚ますとまずウォッチを探し、アバターの着せ替えをし、友だちにいいねを送り、ポイントを稼ぐために縄跳びをする。大人が布団からスマホを手に取るのと同じ行動を、9歳前の子どもが繰り返しているのだ。


林さんは使用時間を制限するが、娘は親からの通話をうるさがり、「いま遊んでるからかけないで!」と電話を切るようになったという。安全のために与えたウォッチが、親子のコミュニケーションをむしろ阻害してしまうアイロニーだ。WIRED


5. 政府と専門機関が危険信号を鳴らし始めた

こうした状況を受け、中国の子どもの安全を扱う団体「中国児童安全緊急対応(CCSER)」は、2025年9月にLittle Geniusウォッチのリスクについて警告を発表した。危険な出会いや詐欺、過度な課金、依存といった問題を指摘し、保護者に注意を呼びかけている。WIRED


政府も動き始めた。子ども向けスマートウォッチ全般を対象にした国家レベルの安全基準の策定が進められており、コンテンツ規制や支出上限、時間制限などが検討されていると報じられている。WIRED


この動きは、ゲームのプレイ時間やオンライン配信への規制を強めてきた中国の流れとも連続している。だが、スマートフォンよりも“おもちゃ”に近いイメージがあるウォッチは、これまで見落とされてきた「盲点」でもあった。KrASIA


6. SNS上の反応:

「テックに育てられる子どもたち」への驚きと既視感

Wiredの記事が公開されると、海外のSNSでもさまざまな反応が広がった。WIRED

  • Redditでは、「結局、大人が作った“いいね経済”に子どもが巻き込まれているだけだ」「テック企業に社会のルールづくりを任せてはいけない」といった怒りの声。

  • X(旧Twitter)では、「中国の話に見えるけど、数字に縛られているのはどの国のティーンも同じ」「子ども用Apple Watchでも似た世界は簡単に作れる」という“他人事ではない”という指摘。

  • 中国のSNSでは、親世代から「安全のために買ったのに、これでは依存症の温床だ」「でも持たせないと友だちの輪から落ちる」という葛藤の投稿が目立つという報道もある。#SixthTone


なかには、「子ども同士の世界に大人がガチガチのルールを持ち込むと、逆に地下化してもっと危険になる」「プラットフォーム側が“成績ではなく遊び”としての設計をやり直すべきだ」といった、デザインの問題を指摘する意見もあった。


SNSの議論を眺めていると、この問題は単なる「中国の特殊事例」ではなく、世界中の親・子ども・プラットフォーム運営を巻き込んだ、大きな問いの一部であることが分かる。


7. 「友情のゲーミフィケーション」はなぜ危険なのか

心理学的に見ると、Little Geniusの仕組みは次の三つの要素を組み合わせたものだ。

  1. 社会的比較
    いいね数やランクによって、自分がクラスの中でどの位置にいるかが常に見えてしまう。

  2. 可視化された報酬
    「いいね」やバッジ、アバターのアイテムなど、すべてが数値化・アイテム化されている。

  3. 変動比率報酬(スロットマシン型)
    どの投稿がどれだけバズるか分からない。たまに大きく数字が伸びると、脳が強く補強される。


これらは大人向けSNSやソーシャルゲームでもおなじみの設計だが、自己コントロールがまだ十分に育っていない子どもにそのまま適用すると、依存傾向や承認欲求の肥大を招きやすい。


さらに問題なのは、「友情」がゲームのリソースとして扱われる点だ。

  • 数字の少ない友だちは“弱いカード”として切り捨てられる

  • いいねを交換するためだけの“取引関係”が生まれる

  • オンラインでの人気が、オフラインのいじめや孤立につながる

Wiredが引用している専門家も、Little Geniusの世界を「友情のコモディティ化(商品化)」と表現し、子どもたちの関係性があまりにも取引的になっていると懸念を示している。WIRED


8. 日本も「ウォッチ前提社会」になるのか?

日本ではまだ、中国ほど子ども向けスマートウォッチが普及しているわけではないが、同様の流れが起こる可能性は高い。

  • スマホ持ち込み禁止の学校が多い

  • 共働き家庭の増加で「子どもの居場所を知りたい」ニーズが強い

  • キャッシュレス決済やポイントサービスに子どもも慣れ始めている


これらの条件が整えば、「安全」と「ちょっとした遊び」を売りにしたウォッチ型端末が一気に広がる土壌はある。実際、国内外のメーカーはキッズ向けスマートウォッチ市場を成長分野と見ており、位置情報・見守りカメラ・学習アプリなどを組み込んだモデルを次々と投入している。TrendWatching


もしそこに、Little Genius型の“いいね経済”やボット市場が乗ってきたらどうなるか。今日の中国は、数年後の日本や他国の姿を映す「早送りされた未来」なのかもしれない。


9. それでもテクノロジーを完全に否定しないために

では、親はただ禁止すればいいのだろうか。

極端な「ノーテク」主義は、子どもを同年代のコミュニケーションから切り離し、逆に孤立を深める可能性がある。大切なのは、テクノロジーそのものではなく設計とルールだ。


親ができる現実的な対策の例

  • 一緒に初期設定をする
    友だちの追加範囲やタイムラインの公開範囲を確認し、「この数字は何を意味するのか」を子どもと話しながら設定する。

  • 「いいね」よりも「会話」に価値を置く
    「今日は何いいねもらった?」ではなく、「今日はどんな遊びをした?」「誰と話した?」と聞く。

  • ボットや裏ワザの話題をタブーにしない
    「そんなことしてる子はいない」と否定するのではなく、「数字を増やすためだけの関係って、どんな気持ち?」と一緒に考える。

  • 自分自身のスマホ依存を振り返る
    子どもは親の背中を見て育つ。ベッドの中でスマホを触る時間を少し減らすだけでも、説得力は増す。

そして、プラットフォーム側には「子どもに合わせたデザイン」ではなく、「子どもの発達を守るデザイン」が求められる。ペアレンタルコントロールや時間制限だけでなく、ランキングやいいねの可視化をどこまで抑えるか、他人と比較しない遊び方をどう提供するか――それはもう、教育とプロダクトデザインが交わる領域の課題だ。


10. 子どもの手首は、社会の“未来のダッシュボード”

Little Geniusをめぐる一連の騒動は、「技術的には小さなガジェット」が、どれほど大きな社会実験になり得るかを教えてくれる。

  • 子どもの日常を切り取るミニSNS

  • ゲーミフィケーションされた承認欲求

  • 数字とランキングに依存する友情

  • ボットや闇取引が入り込む余地

これらはすべて、私たち大人がすでに経験してきたSNS時代の縮図であり、その“次の世代版”が子どもの腕の上で展開されているに過ぎない。


だからこそ、この問題を「中国の極端な事例」として眺めて終わるのではなく、次の問いを自分ごととして考える必要がある。

10年後、この子どもたちが社会人になったとき、
「数字で他人を評価する世界」とどう向き合えるように育てられているだろうか。


その答えを決めるのは、ウォッチを作る企業だけではない。親、学校、そして同じデジタル世界に生きる私たち一人ひとりだ。



参考記事

中国の子どもたちは、スマートウォッチでより人気者に見せるためにボットやエンゲージメントハックを利用しています。
出典: https://www.wired.com/story/kids-in-china-are-scheming-and-buying-bots-to-win-clout-on-their-watches/

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