1日1粒はアリ? ブラジルナッツのセレンとラジウムを“体に入る量”で評価する

1日1粒はアリ? ブラジルナッツのセレンとラジウムを“体に入る量”で評価する

「セレン爆弾」ブラジルナッツ、実は“怖いのは量”より“溶け方”だった

ブラジルナッツは、栄養好きの界隈で「天然のサプリ」として定番だ。特に注目されるのがセレン(Se)。免疫や抗酸化に関わる必須微量元素で、ブラジルナッツは“少量で大きく稼げる”食材として知られてきた。一方で、同じナッツがバリウム(Ba)や放射性のラジウム(Ra)も含み、土壌条件によっては“放射能が高い食品”として紹介されることもある。


ここで多くの人がハマる落とし穴がある。
「含まれている」=「体に入る」ではない。
食べ物に含まれる元素は、消化で溶けて初めて小腸で吸収されうる。どれだけ“溶けるか”(bioaccessibility:消化で溶出して吸収可能になる割合)を見ないと、健康影響は評価できない。


この“溶け方”を、研究者がかなり本気で測りにいった。ドイツのヘルムホルツ・ドレスデン=ロッセンドルフ研究センター(HZDR)とVKTAのチームが、ブラジルナッツに含まれる栄養・有害の両方の元素について、消化過程で体に入りうる割合を系統的に調べたのだ。 phys.org



実験は「口→胃→腸」を試験管で再現:見るのは“総量”ではなく“溶出量”

研究チームは、人工唾液・胃液・膵液・胆汁などを段階的に加え、体温条件で攪拌しながら消化を模擬する方法(UBMプロトコル)で、ブラジルナッツ(研究では脱脂したブラジルナッツ粉も使用)から各元素がどれだけ溶け出すかを測定した。 MDPI


さらに、「何がどんな化学形で存在しているか(スペシエーション)」まで踏み込んだ点が今回の肝。

  • 元素濃度:ICP-MS(質量分析)

  • 放射性核種:ガンマ線・アルファ線スペクトロメトリ

  • セレンの主要形:NMR(核磁気共鳴)

  • 金属イオンの結合状態:レーザー蛍光(TRLFS)
    …と、食品分析というより“化学・放射線化学の総力戦”である。 phys.org


結果が鮮やか:セレンは約85%が溶ける、でもバリウムとラジウムは約2%しか溶けない

結論を先に言うと、ブラジルナッツの評価は「栄養的には強い」「放射性・金属的には想像より入りにくい」に寄った。


  • セレン:消化で約85%が溶出(吸収されうる状態になる) phys.org

  • バリウム:消化で約2% phys.org

  • ラジウム(^226Ra, ^228Ra):消化で約2% phys.org


そしてセレンの“形”も重要だ。NMR解析などから、主要なセレン化学種は**セレノメチオニン(SeMet)**で、一般に体内で利用されやすい形とされる。研究は「高価値のセレン化合物を供給する」という方向でブラジルナッツの強みを裏付けた。 phys.org



なぜブラジルナッツにラジウムが? 鍵は“カルシウム不足の土壌”

そもそも、なぜブラジルナッツの木はラジウムをため込みやすいのか。Phys.orgの記事は、南米熱帯雨林の土壌が相対的にカルシウムが少なく、化学的に似たバリウムやラジウムがカルシウムの“代役”として植物体内に取り込まれうる、と説明している。 phys.org
(この「アルカリ土類金属は似た者同士で置換しやすい」という話は、元素化学としても直感的だ。)


ただし取り込むことと、ヒトが食べて吸収することは別問題。そこを切り分けたのが今回の研究だ。



“吸収されにくさ”の黒幕:フィチン酸が金属をがっちり掴む

研究チームは、低溶出の理由として**フィチン酸(phytic acid / phytate)**の存在を挙げている。フィチン酸は種子がミネラルを貯蔵する形としてよく知られ、金属イオンを強く結合し、結果としてヒトの吸収を抑える方向に働くことがある。Phys.orgの記事でも、フィチン酸が鉱物・金属を強く結合し吸収を妨げる可能性が述べられている。 phys.org


面白いのは、研究論文側では「バリウムが“硫酸バリウムのような難溶性塩”として存在するだけでは説明しきれないかもしれない」と議論しつつ、フィチン酸のような有機物との結合を“有力候補”として掘っている点。食品の中の元素は、単純な無機塩としてだけ存在しているわけではない——という、地味だけど重要な教訓がある。 MDPI



放射線量はどれくらい? 「毎日1粒」で年2.4µSvという見積もり

“放射性のラジウムが入っている”と聞くと身構えるが、今回の推計はかなり小さい。


研究チームの計算では、1日1粒の長期摂取で追加被ばくは年あたり約2.4マイクロシーベルト(µSv)。これは、ドイツの平均的な自然放射線(年2.1ミリシーベルト=2,100µSv)と比べて約1000分の1だという。さらに自然放射線のうち**食事由来が約10%**という説明も添えられ、「ブラジルナッツ由来ラジウムの影響は従来考えられていたより小さい」と位置づける。 phys.org


ここで大事なのは、“ゼロかどうか”ではなく“比較の中でどこにあるか”。このサイズ感は、少なくとも「ラジウムが入っているから即アウト」という単純な話から私たちを遠ざけてくれる。



とはいえ「食べ過ぎ注意」の主役はセレン:上限は国・機関で違う

「放射能よりセレンの摂り過ぎが現実的」というのは、昔から言われてきたが、今回は“85%溶ける”が効いてくる。


セレンは必須だが、摂取範囲の“幅が狭い”栄養素でもある。NIH(米国)のサプリ情報では、成人の耐容上限量(UL)を400µg/日としており、慢性的な過剰では脱毛や爪の脆弱化など(セレノーシス)が起こりうるとする。ブラジルナッツは特にセレンが多く、1オンス(6〜8粒)で平均544µgというデータも示される。 栄養補助食品オフィス


一方、EFSA(欧州食品安全機関)は評価に基づき、成人のULを255µg/日とする(米国の400µgより低い)。日本語で参照できる要約情報でも、この255µg/日が示されている。 efsa.onlinelibrary.wiley.com


つまり、「何粒が安全か」は、

  • ナッツ1粒のセレン量のブレ(産地・土壌で変動)

  • その人の食生活(魚・肉・卵・サプリでの追加)

  • どの基準(米国400か欧州255か)を採るか
    で答えが揺れる。


今回の研究論文では、1日1粒(約5g)という前提で、セレン含有量の幅と85%溶出を織り込んでも推計上は欧州のUL(255µg/日)未満に収まる範囲を提示している。とはいえ、現実の市販ナッツは変動が大きいので「毎日ドカ食いしない」「サプリと併用するなら総量を見る」が落としどころだろう。 MDPI



そのほかの元素:ストロンチウムは溶けやすいが量が少ない/レアアースは微量

研究ではストロンチウム(Sr)、ランタン(La)、ユウロピウム(Eu)も測定。

  • **ストロンチウム:溶出(バイオアクセシビリティ)約50%**だが含有量が小さく毒性学的に問題になりにくい phys.org

  • ランタン・ユウロピウム:溶出約25%、検出量は極小で、摂取量は既存の限度値を十分下回る phys.org


「もし汚染されたら抜く薬」は効くの? 食品マトリクスの影響は小さめ

やや専門寄りだが、この研究は“除染(デコーポレーション)剤”にも触れる。放射性物質などが体内に入った場合に排出を促すキレート剤(EDTA、DTPA、HOPO系など)について、ブラジルナッツ由来成分が効き目を弱めるかをTRLFSで検討したところ、食品マトリクスの影響は小さいと示唆された。日常の食卓からは遠いが、「食品と元素の結合」が医療側の戦略に影響するかを、同じ実験系で確かめたのは面白い。 MDPI



SNSの反応(観測できた範囲+反応パターン)

観測できた範囲(公開直後の“数字”)

  • 研究機関HZDRの公式LinkedIn投稿は、公開から約19時間時点で**15件のリアクション(Like)**が表示されている。 LinkedIn

  • Phys.orgの記事ページ上では、取得時点でシェア表示が0、コメント欄も0となっていた。 phys.org

現状、“炎上”や大規模拡散というより、科学・栄養系の関心層に静かに届き始めた初動、といった温度感だ。

反応パターン(※以下は実際の投稿引用ではなく、記事内容から想定される典型例)

  • 安心派:「ラジウムが“入ってても吸収されにくい”なら、怖がりすぎなくていいのか」

  • 実用派:「結局、毎日何粒がいいの? サプリと併用は?」

  • 懐疑派:「試験管の消化と、人間の腸内環境は違うよね?」

  • ネタ化派:「“セレン爆弾”って言い方が強すぎる(でも覚えやすい)」


今回の研究の良さは、まさにこの論点(不安/実用/懐疑)を“溶け方”という共通指標に引き寄せて整理できるところにある。「量」だけで語ると永遠に平行線になりがちな議論を、一段だけ前に進めるデータだ。



まとめ:ブラジルナッツは“価値のあるセレン”を、リスクは“溶けにくさ”が抑える

  • セレンはよく溶け、主要形はSeMetで“使われやすい”。 phys.org

  • バリウム・ラジウムは溶けにくく、推計被ばくは年2.4µSv程度と小さい。 phys.org

  • ただし日常で注意すべきはセレン過剰。ULは基準により差があり、食生活全体で総量を見るのが現実的。 栄養補助食品オフィス


「健康食品か、危険食品か」という二択ではなく、**“どの成分が、どれだけ体に入りうるか”**で再評価する。ブラジルナッツは、その視点を学ぶのにちょうどいい教材になった。



参考記事

ブラジルナッツはどれほど健康的か?新しい研究が種子中の微量元素を解明
出典: https://phys.org/news/2025-12-healthy-brazil-nuts-elucidates-elements.html