『バカになる食品』は誤解か事実か:色、甘さ、旨み ― “おいしさの仕掛け”は脳に何をするのか

『バカになる食品』は誤解か事実か:色、甘さ、旨み ― “おいしさの仕掛け”は脳に何をするのか

イントロ――強い見出しの向こう側

「脳の便秘――この食品は人を“バカ”にする」。にぎやかな見出しほど、私たちの不安とクリック欲を刺激する。2025年9月5日付で配信されたドイツ記事は、砂糖からアゾ色素、MSG(グルタミン酸)、アスパルテーム、ビタミン剤、クエン酸まで“犯人”を列挙し、記憶力低下や認知症リスクまで示唆した。だが、科学は見出しよりいつも地味だ。そこで本稿は、元記事の主張を一次研究や公的機関の評価に照らして「何が分かっていて、何が誇張か」を整理する。Op-Online



砂糖・超加工食品:脳には“静かな逆風”

ポイント:過剰糖分と超加工食品(UPF)の偏った食事は、血管・代謝・炎症・腸脳軸を通じて、注意・気分・記憶に不利に働くという示唆が増えている。


ドイツの脳の専門財団は、UPFの摂り過ぎが脳卒中や認知症・パーキンソンのリスクを押し上げ得ると啓発する。観察研究中心で確定因果とは言い切れないが、総体として「控えめが無難」というコンセンサスは強まっている。hirnstiftung.orgHealthcare in Europe



アゾ色素(タートラジン等):EUは“警告表示”で管理

2007年のサウサンプトン研究は、六つの合成色素+安息香酸ナトリウムの混合摂取で、一部の子どもに活動性・注意への小さな影響を示唆。EFSAは「限定的な証拠」としつつ、EUは現在も対象色素に“子どもの活動と注意に影響を及ぼす可能性”の警告文を義務づけている(禁止ではなく表示)。「ノルウェーは禁止」といった古い断片情報は、EU域内の表示ルールで実務的に収斂している。EFSAEPHA



MSG(グルタミン酸):“旨み”と安全域の話を混同しない

MSGは自然界にも体内にも存在するアミノ酸由来の“旨み”。EFSAは2017年、E620–E625(グルタミン酸およびその塩類)の総合評価でグループADIを設定し、通常摂取域での遺伝毒性懸念は見当たらず、問題は“多量摂取による短期的症状(感受性の個人差を含む)”に集約されるとした。長期的な神経毒性・認知症因果は確立していない。誤解が広まりやすい領域ゆえ、摂りすぎ回避情報のアップデートが大切だ。EFSAEFSA Journal



アスパルテーム:IARCの「可能性」vs. JECFA/FDAの「線量管理」

2023年、IARCはアスパルテームを2B(発がんの可能性)に分類。一方で同時公表のJECFAはADI 0–40 mg/kg体重/日を維持し、FDAも同趣旨の立場を表明した。要は「ハザード(可能性)の指摘」と「リスク(実際の暴露量)の管理」を分けて見るべき事例。日常的にADIを超えるケースは稀で、PKUなど特定条件を除けば、量に気を付ければリスクは低いという整理になる。世界保健機関IARCU.S. Food and Drug Administrationがん情報センター



ビタミン剤:足りないより“過ぎる害”に注意

脂溶性ビタミン(A・D・E・K)は体内に蓄積しやすい。医師の指示なく高用量サプリを継続することは、神経・肝機能・出血傾向など逆効果リスクを招く。元記事の“人工ビタミンは有害”という一刀両断は不正確だが、「必要時に適切量」が基本である点は臨床でも一致する見解だ(本稿では総論に留める)。



クエン酸とアルミニウム:理屈はあるが“日常量”の議論を

クエン酸はアルミニウム錯体を作りやすく、動物・細胞モデルでは血液脳関門を介する輸送に関与するという報告がある。ただし、それが日常食レベルの暴露でヒトの認知症リスクにどの程度影響するかは、エビデンスが乏しい。可能性を語る研究と、実生活の量をめぐる“リスク評価”は区別したい。PubMeduknowledge.uky.eduサイエンスダイレクト



SNSの反応――“警鐘”と“扇情”の綱引き

今回の見出しはSNSで議論を呼び、主に三つの声に分かれた。

  • 支持派:「UPFはメンタルや認知に悪い影響が出る前に生活全体で抑えたい」とする啓発的な声。ドイツの財団や学会が世界脳デーに合わせてUPFへの注意喚起を行った事実も“後押し”に。hirnstiftung.orgHealthcare in Europe

  • 懐疑派:「IARCの“可能性”と、摂取量を加味したJECFA/FDAの“リスク評価”をごっちゃにして恐怖を煽っている」との指摘。アスパルテームをめぐる国際機関の併記を求める声が多かった。世界保健機関U.S. Food and Drug Administration

  • 実務派:「ヒト介入研究は難しい。だからこそ“過度な単品批判”ではなく食事全体を見よう」と、地中海食や未加工中心のパターンに話を戻す議論も伸びた(議論例:r/scienceの関連スレでは“動物研究の限界”や“守れる生活習慣”が繰り返し論点に)。Reddit


では、私たちは何をすればいい?――“恐れず・盛りすぎず”の実践集

1) 甘い飲み物・お菓子は“習慣”にしない
平日は無糖飲料、週末だけ甘味など“頻度の設計”から。マックス・プランク協会


2) 色とラベルを読む
EUで警告表示の対象になる合成色素は、国内外製品でも採用されがち。成分表で「タートラジン(Yellow 5)」「サンセットイエロー(Yellow 6)」などは要チェック。敏感な子どもはとくに“様子見+置き換え”を。EPHA


3) 旨みは“濃度”で管理
MSGの可否は白黒ではなく全体食。外食・加工食品が重なる日は“追い旨み”のスナックを足さないなど、総量の見える化を。EFSA


4) ダイエット飲料は“ADIの感覚”を持つ
日常的に大量摂取しない、子どもや妊娠中は控えめなど、用量の意識を家族内で共有。世界保健機関U.S. Food and Drug Administration


5) サプリは“不足の補填”に限定
検査や医療者の助言があるときに適切量を。マルチビタミンの“念のため日課”は見直し候補。


6) 食事全体の“設計”を先に決める
未加工・最小加工の食材、魚・オリーブ油・ナッツ・豆・発酵食品・全粒・果物と野菜――“地中海食に近い型”を軸に、加工品は脇役へ。Reddit



まとめ――“見出しより静かな対策”が、脳には効く

元記事は、加工食品と脳をめぐる正当な懸念誇張が入り交じっていた。砂糖やUPF過多が脳に逆風となる可能性は、疫学・機序研究の両輪で強化されつつある。一方、MSGやアスパルテームは、**「存在=危険」ではなく「用量とコンテクストの問題」**として各国機関が管理している。SNSの熱は冷めやすいが、私たちの毎日は続く。恐れすぎず、しかし静かに生活を設計し直す――それが“脳の便秘”を防ぐ最短ルートだ。hirnstiftung.orgEFSA世界保健機関


参考記事

脳の詰まり - これらの食品は頭を鈍くする
出典: https://www.op-online.de/welt/verstopfung-im-gehirn-diese-lebensmittel-machen-dumm-zr-93919621.html