赤ちゃんの社会性に男女差はない? 60年分の研究が示した意外な結論

赤ちゃんの社会性に男女差はない? 60年分の研究が示した意外な結論

「男の子は生まれつき不器用で、女の子のほうが人に関心が高い」は本当か

赤ちゃんをめぐる“性差”の話は、驚くほど早い段階から始まる。まだ言葉も話せず、性格も見えない新生児の時点でさえ、「男の子はあまり人を見ない」「女の子は社交的」といったイメージが語られがちだ。だが、最新のレビューは、そうした思い込みにかなり強い疑問符を突きつけている。新生児期の研究を広く集めて検証した結果、男児と女児のあいだに、社会的刺激への関心の決定的な差は確認できなかったというのだ。

この結論を導いたのは、神経科学者リース・エリオット氏らのチームによる系統的レビューとメタ分析だ。研究チームは1960年代以降に発表された文献を洗い出し、生後1カ月以内の赤ちゃんが顔や声などの社会的刺激にどれだけ注意を向けるか、男女別に結果を示している研究を集めた。その結果、31本の査読付き研究、40の実験、約2000人近い新生児のデータが対象となった。特に顔を見る時間に関する分析では、男女差は有意ではなかった。単一の顔を見る課題でも、2つの顔のどちらをより好むかを測る課題でも、傾向は同じだった。

この話が注目されるのは、「女性は男性より共感的」「女の子は生まれつき人に関心が高い」といった通俗的な説明が、しばしば“出生直後から差がある”ことを前提に語られてきたからだ。元記事では、その前提が長らく、わずか102人の新生児を対象にした有名研究に大きく依存してきたこと、しかもその研究には深刻な方法論上の問題が指摘されてきたことが紹介されている。つまり、私たちが「当たり前」だと思っていた性差の物語は、思ったより脆い土台の上に築かれていた可能性がある。

今回のレビューがおもしろいのは、単に「顔を見る時間」だけを比較したわけではない点だ。たとえば、他の赤ちゃんの泣き声を聞いてつられて泣く「伝染泣き」に関する実験もまとめている。昔の研究には女児のほうがやや多いとするものもあったが、複数研究を合わせて解析すると、やはりはっきりした男女差は見つからなかった。また、顔や声などの社会的刺激と、ボールやガラガラのような無生物への反応を比べる研究では、女児がやや多く反応する傾向が見られたものの、それは“人への関心”に限った話ではなく、刺激全般への反応性の差として解釈できる可能性があるという。

ここで重要なのは、「男女差は一切ない」と単純化することではない。研究が示しているのは、少なくとも生後ごく早い段階では、「男の子は人よりモノ」「女の子はモノより人」といった強い二分法を支える証拠は薄い、ということだ。実際、元記事では、5カ月児では男女とも顔をおもちゃの車などより好んで見る研究や、2カ月児ではむしろ男児のほうが顔検出で良い成績を示した研究も紹介されている。生後すぐの社会性を“性別だけ”で語るのは、どうやら雑すぎる。

むしろ、この研究が突きつけるのは、大人の側の先入観かもしれない。新生児の段階から、親は男の子と女の子を別々に見てしまう傾向がある。1995年の研究では、親は新生児の男児をより強くたくましい存在として、女児をより繊細で可憐な存在として記述する傾向を示した。さらに近年の研究では、乳児期から親が与えるおもちゃや経験が、いわゆる“性別らしい好み”に影響しうることも報告されている。生まれつきの差を語る前に、私たちがどれだけ早くから差をつくっているのかを見直す必要がある。

 

SNSでも、このテーマはかなり敏感に受け止められている。公開直後の時点で、検索で確認できる範囲では、X上ではThe Conversation U.S.やSPSPnewsのようなメディア・学術系アカウントが記事の要旨を紹介しており、まずは“研究の共有”が先行している印象だ。大きな炎上というより、「長く信じられてきた通説を更新する研究」として拡散されている段階だと言えそうだ。

一方、育児系のSNS・掲示板では、もっと生活実感に近い反応が目立つ。Redditの育児コミュニティでは、「男の子は元気、女の子はおとなしいと決めつける親族にうんざりする」「一人ひとりの個性のほうがずっと大きい」「性別より、周囲がどう扱うかの影響のほうが早くから効いているのではないか」といった声が見られる。現場感覚として、固定観念に違和感を持つ保護者は少なくないようだ。

ただし、SNSらしく慎重論もある。「差はゼロではなく、大きく重なり合っているだけでは」「平均差があっても個人には当てはまらない」という反応だ。これは研究の読み方としてむしろ健全だろう。性差研究は、平均値の小さな違いが、いつのまにか“男の子はこう、女の子はこう”という大きな物語に膨らみやすい。だからこそ今回のレビューは、差の有無そのもの以上に、「私たちは差をどれくらい誇張してきたのか」を問い返している。

この研究が親や教育の現場に与える示唆はシンプルだ。男の子だから言葉かけは少なめでいい、女の子だから人との関わりが得意なはずだ、そんな前提をいったん脇に置くこと。赤ちゃんは、性別より先に、一人の“人に向かう存在”として生まれてくる。顔を見て、声を聞いて、安心できる相手を探している。その出発点は、どうやら私たちが思うよりずっと平等だ。もし後になって大きな差が見えるのだとしたら、それは生まれた瞬間に決まっていたというより、育つ過程のどこかで少しずつ形づくられていくものなのかもしれない。

この話の本当の価値は、「男の子も女の子も同じだ」と言い切ることではない。そうではなく、最初から決めつけないことにある。泣き方も、笑い方も、目の向け方も、赤ちゃんごとに違う。その違いを、性別ラベルより先に“その子自身”として受け止められるかどうか。今回の研究は、科学の言葉でその大切さを後押ししている。



出典URL

・Phys.org掲載。The Conversation掲載論考の再掲で、研究の要点・背景・主要結論を整理した記事
https://phys.org/news/2026-04-myth-baby-boys-social-girls.html

・元研究論文(新生児の社会的知覚に男女差があるかを検証した系統的レビュー/メタ分析のDOI)
https://doi.org/10.1111/sode.12790

・研究論文の書誌情報確認用(著者名、誌名、DOI、公開時期を確認するために参照)
https://www.mendeley.com/catalogue/bd306503-8ffb-3287-ae17-795c47c03b4c/

・著者リース・エリオット氏の所属先ページ(当該論文が業績として掲載されているページ)
https://www.rosalindfranklin.edu/academics/faculty/lise-eliot/

・X上での共有確認1(The Conversation U.S.による記事紹介の検索結果)
https://x.com/ConversationUS

・X上での共有確認2(SPSPnewsによる記事要旨の共有投稿)
https://x.com/SPSPnews/status/2046257056777195890

・SNS反応の参考1(Redditの育児コミュニティ。性別固定観念への違和感や、個性重視の声が見られるスレッド)
https://www.reddit.com/r/ScienceBasedParenting/comments/1ru0eau/are_there_actual_biologicallydriven_behavioral/

・SNS反応の参考2(Redditの育児コミュニティ。「男の子のほうが育てにくいのか」という通説への懐疑や、社会的期待の影響を語る声が見られるスレッド)
https://www.reddit.com/r/toddlers/comments/1gspa71/is_there_research_showing_boys_are_harder_to/

・SNS反応の参考3(Redditの育児コミュニティ。性別差より個性や社会的期待のほうが大きいという反応が見られるスレッド)
https://www.reddit.com/r/toddlers/comments/1b1215e/are_toddler_boys_and_toddler_girls_really/

・補助資料1(新生児を親が性別ステレオタイプで知覚しやすいことを示した研究)
https://link.springer.com/article/10.1007/BF01547725

・補助資料2(乳児期の玩具経験と親の働きかけが性別化された選好に関わることを扱った研究)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32025083/