若手コーチが続々辞職!?ユーススポーツ崩壊の入口は“保護者対応”だった:SafeSport調査が映す現場

若手コーチが続々辞職!?ユーススポーツ崩壊の入口は“保護者対応”だった:SafeSport調査が映す現場

「子どもを教えるのは楽しい。でも、親を“マネジメント”するのはもう限界だった」――ユーススポーツの現場から、こんな声が消えない。米国のスポーツ安全を担うU.S. Center for SafeSportが公表した全国調査を、ESPNが2026年1月29日付で報じたところ、指導者が“辞める・辞めたい”理由の上位に「保護者対応」が食い込んでいることが明らかになった。


「親対応」がコーチの心を削る

ESPN記事によれば、調査回答者の自由記述には、保護者が「緊張を生み、不信を植え付け、子どもより厄介だった」といった強い表現まで登場する。


もちろん、すべての保護者が問題を起こすわけではない。むしろ多くは協力的で、子どもの成長を願って関わっているはずだ。だが、現場で起きる“少数の過熱”が、日々の指導環境を一気に荒らす。声の大きいクレーム、陰での疑念の拡散、SNSでの晒し、勝利至上の圧力――こうした要素が重なると、コーチは「教える」より「火消し」に時間を吸われていく。


SafeSportのこの調査は、同団体として初めての全国的な“コーチ調査”で、2025年10〜11月に66競技・3,470人のコーチを対象に実施されたという。回答者の多くが10年以上の経験を持ち、9割超がユースを指導している。
つまり「初心者コーチの愚痴」ではなく、現場を長く知る人ほど“限界”を感じている構図が透ける。


退職理由は「親」だけではない――差別・組織課題も

ESPNが紹介する結果では、コーチの不満要因は保護者対応だけではなく、引退(retirement)や組織運営上の課題も挙がる。さらに、性別・年齢・外見などに基づく差別を「他のコーチや保護者から受けた」と答えた人が35%超いる点も重い。


加えて、調査は“他のコーチの不適切行動”にも踏み込み、成人の審判に対して罵声を浴びせるコーチを「知っている」人が過半、年齢に関係なく意図的に審判を辱めるコーチを「知っている」人が約4割という記述もある。


ここで見えてくるのは、ユーススポーツのストレス源が「親 vs コーチ」だけではなく、「大人同士の関係性」と「権力・文化」の問題として広がっていることだ。子どもの前で大人が感情を爆発させれば、スポーツは学びの場から“戦場の縮図”に変質する。


“審判が足りない”の次に来るのは“コーチが足りない”か

コーチの燃え尽きは、競技人口や育成の話に直結する。良い指導者ほど「子どものために」頑張りすぎて限界を超えやすい。一方で、現場が荒れて残るのは“耐性がある人”だけとは限らない。声の大きい保護者に迎合できる人、強圧的な文化に順応できる人が生き残ると、環境はさらに硬直する。


そしてこの構図は、すでに審判の世界でも起きている。ESPNは、2023年にNational Association of Sports Officialsが行った調査で「親が荒れること」が仕事満足度の大きな阻害要因だと示された点を引用している。


NASOの発表によれば、この2023年調査は35,813人のオフィシャルから回答を集めた大規模なものだった。
審判が減る→試合が成立しにくい→コーチの負担が増える→さらに人が去る。そんな負の連鎖が、ユーススポーツの足元で静かに進んでいる。


SafeSportという組織の“いま”

SafeSportは2017年の連邦法に基づき設立された非営利組織で、オリンピック関連競技を中心に虐待や不正の監督を担う。


一方で、その運営や有効性をめぐる批判・混乱も報じられてきた。ESPNは、元CEOのJu’Riese Colónが「昨年」離れ、Benita Fitzgerald Mosleyが“組織の立て直し”を率いると書いている。


APも、Colónの解任や組織の課題、そしてFitzgerald MosleyがCEOとして改革に臨む状況を詳しく伝えている。
つまり今回の調査結果は、SafeSport自身が「現場の実態を可視化し、改革の材料にする」必要に迫られている文脈とも重なる。



SNSの反応:共感と“解決策の知恵”が同時に噴き出す

今回の話題はSNSでも広がり、「それはスポーツだけの話じゃない」という共感が強い。

1) 「教育現場と同じ」――大人の攻撃性が現場を壊す

Redditのスレッドでは、「親は、教師が最初の3年で辞める原因にもなっている」という趣旨のコメントが上位に出てくる。


スポーツも教育も、“子どもと向き合う仕事”が、いつの間にか“大人の感情処理”に置き換わってしまう。現場の疲弊は分野をまたいで共通だ、という肌感覚が共有されている。

2) 「コミュニティの崩れ」が背景では?という診断

同スレッドには「コミュニティ感覚が薄れた」「オンラインの承認・糾弾の輪が現実にも持ち込まれる」といった、社会全体の分断を背景に見る意見もある。


勝敗や評価が“人生の不安”と結びつくほど、サイドラインの熱は上がりやすい。スポーツがストレス解消ではなく、ストレス増幅装置になってしまう皮肉がある。


3) 審判側の“恐怖”――「怒鳴られるくらいならやらない」

Redditでは、成人のレクリエーションリーグですら「脅されるのが嫌で審判をやりたがらない」という体験談や、元審判が「親やコーチがまともなら続けた」という声が並ぶ。


これが象徴するのは、スポーツの運営が“善意の担い手”に依存している現実だ。怒号や威嚇が常態化すると、善意は一瞬で枯れる。


4) “予防”に解がある――「最初の30分で決まる」

LinkedInでは、ユース指導者・関係者が「親とコーチは敵ではなく味方であるべき」「境界線と行動基準が必要」と主張している。


コメント欄には、シーズン開始前に30分程度の保護者ミーティングを行い、「譲れない行動」と「破った場合の結果」を事前に共有することで、トラブルを抑えているという実践知も語られる。


SNSの反応は“怒り”だけではなく、「じゃあ現場はどう守る?」という知恵の持ち寄りになっている点が救いだ。



では、何を変えればいいのか:現場が回り続けるための現実的な打ち手

ここから先は、調査とSNSの声を踏まえた「現実的な処方箋」を整理したい。

打ち手1:保護者の“役割”を言語化し、境界線を先に引く

「応援」と「介入」は違う。ここが曖昧なまま開幕すると、コーチはずっと“後追いの説得”になる。
シーズン前に短時間でもいいので、次を明文化する。

  • 試合中の指示は誰が出すのか

  • 審判・相手・子どもへの言葉のNGライン

  • クレーム窓口(その場で言わない/言うなら誰に、いつ)

  • 逸脱した場合の段階的ペナルティ(警告→退場→参加停止など)

SNSで語られた「最初に非交渉項目を共有する」実践は、まさにこの発想だ。

打ち手2:リーグ/クラブが“盾”になる(個人に背負わせない)

コーチが個人で保護者と対峙すると、関係がこじれやすい。第三者の仕組みが必要だ。

  • 苦情は運営が一次受け

  • ルール違反の処分は運営が執行

  • コーチ評価を「勝敗」だけにしない(育成指標、継続率、チーム文化など)

ESPN記事でも、コーチが「家族対応の支援」を求める声が一貫したテーマとして挙がったとされる。

打ち手3:審判・相手・味方へのリスペクトを“競技スキル”として教える

ユーススポーツは、勝つ練習である前に「社会で生きる練習」だ。大人が審判を罵倒する光景は、子どもに“攻撃が正当化される瞬間”を学習させる。


SafeSport調査が示した、審判への罵声や羞辱をめぐる“認知の広さ”は、文化の問題として扱うべきサインだ。


打ち手4:「辞めたくなる前」に相談できる導線を作る

燃え尽きは突然ではない。

  • コーチ同士のピアサポート(匿名相談含む)

  • “困難保護者対応”のテンプレと同席サポート

  • ハラスメントの記録方法とエスカレーション基準


「我慢できる人が残る」構造を放置すると、現場は必ず荒れる。残るべきは“我慢強い人”ではなく、“良い指導ができる人”のはずだ。



結論:ユーススポーツは「大人の振る舞い」で決まる

今回の調査が突きつけたのは、子どもたちのスポーツ体験が「大人の空気」で簡単に壊れるという現実だ。
そしてSNSの反応が示すのは、「親が悪い」で終わらせず、境界線・仕組み・予防で改善できるという希望でもある。


スポーツは本来、子どもが失敗し、学び、また挑戦する場所だ。その場を守るために必要なのは、最新の戦術よりも先に「大人が子どもの前でどう振る舞うか」という基本かもしれない。



出典