「給料のために働く」は悪いことか? ドイツの59%が映す、日本にも身近な仕事観の変化

「給料のために働く」は悪いことか? ドイツの59%が映す、日本にも身近な仕事観の変化

「仕事はお金のため」と言う人を、冷めていると決めつけられるか

月曜日の朝、仕事へ向かう理由を聞かれたら、何と答えるだろう。

成長したい。誰かの役に立ちたい。好きなことを続けたい。その一方で、家賃を払い、食事をし、家族を支えるためという答えも、ごく自然だ。

ドイツで報じられた職業意識調査は、この生活に直結する理由が、働く人のなかで強まっていることを示している。

Fehmarn24が掲載したdpaの記事によると、保険会社HDIの年次調査で、就業者の59%が「お金のためだけ、または主にお金のために働いている」と回答した。前年より17ポイント高く、2019年のコロナ禍前と比べると、ほぼ2倍の水準だという。

調査はYouGovが6月10日から7月3日に実施し、就業者3,844人が回答した。元記事によれば、HDIはドイツ全体と各州について代表性を持つ調査だと説明している。

ただし、59%を「仕事に一切やりがいを感じない人の割合」と読み替えることはできない。「お金だけ」と「主にお金」がまとめられた数字だからだ。

給料を最優先しながら、顧客に誠実に対応する人もいる。生活のために働きながら、技術に誇りを持つ人もいる。収入を求めることと、責任を持って働くことは両立する。


「辞めたい」は若者だけの話ではない

もう一つ目を引くのが、経済的な必要がなくなった場合の回答だ。

15〜54歳では54%が、金銭的に働く必要がなくなれば、できるだけ早く職業生活を終えたいと答えた。55〜64歳では、その割合が63%に達した。

元記事では、前年にはどちらの年齢層も仕事への意欲がより高く、とりわけ年長層で仕事の重要性が大きく低下したと伝えている。

この結果は「最近の若者は働きたがらない」という説明に収まらない。仕事との距離を見直しているのは、退職が視野に入る世代も同じなのだ。

もっとも、この調査だけで、その理由を疲労や職場への失望と断定することはできない。家族と過ごしたい、健康なうちに旅行したい、別の活動に時間を使いたいなど、考えられる背景は複数ある。

さらに、54歳以下では「仕事のない人生は想像できない」と答えた人も54%いた。

同じ割合でも、同じ回答者が両方を選んだかどうかは、記事からは分からない。それでも、働く人の気持ちを「仕事が好きか、嫌いか」の二択にする難しさは見えてくる。

今の働き方から離れたいことと、社会との関わりや役割を失いたくないことは、必ずしも矛盾しない。


日本でも「お金のため」が6割超。ただし、日独の順位はつけられない

日本に目を向けると、この話は遠い国の特殊な現象とは言い切れない。

内閣府の「国民生活に関する世論調査」令和7年8月調査では、働く目的に「お金を得るために働く」を選んだ人は63.5%だった。「生きがいをみつけるため」は13.1%、「社会の一員として、務めを果たすため」は10.7%、「自分の才能や能力を発揮するため」は7.1%だった。

ただし、ドイツの59%と日本の63.5%を並べて「日本のほうが仕事への愛着が低い」と結論づけるのは不適切だ。ドイツ側は就業者を対象とする調査であり、内閣府調査とは対象や設問が異なる。「主にお金のために働く」ことと、選択肢のなかから働く目的を一つ選ぶことも同じではない。

共通して読み取れるのは、収入を得るという目的を、仕事観の周辺に追いやれないという点だ。

日本の職場を考える際にも、給与への希望を「やりがいが足りない」「会社への思いが弱い」と受け止めてしまうと、話がずれてしまう。

例えば、仕事そのものは好きでも、残業で家族との時間がなくなる人がいる。意義を感じていても、収入の見通しが立たず将来を描けない人もいる。これらは想定例だが、仕事の内容への評価と、労働条件への評価を分けて聞く必要性を示している。


SNSの関連議論には「生活を守りたい」と「意味もほしい」が共存する

今回のドイツの記事に対する直接のSNS反応は、確認できた範囲では見つからなかった。ここでは、同じ「お金と仕事のやりがい」を扱うRedditの公開投稿を紹介する。今回の調査への反応でも、世論を代表する集計でもない。

 

2026年8月11日の「情熱のために働くか、お金のために働くか」というスレッドでは、生活費を賄える仕事を選び、余暇を好きなことに使いたいという意見が見られた。好きなことを収入源にすると、かえって嫌いになってしまうのではないかという懸念も書かれていた。

これらの発言からうかがえるのは、仕事以外の時間にも価値を置く姿勢だ。職場で自己実現のすべてを満たす必要はなく、趣味や人間関係を支える収入が得られればよい、という考え方である。

同じスレッドには、できれば収入と情熱の両方を得たいが、お金だけを理由に続けた仕事もあったという回答もあった。現実の仕事選びは、理想か妥協かという単純な区分には収まらない。

一方、2025年12月11日のシンガポール関連コミュニティの投稿では、好きだった仕事を離れて休んだ後、その仕事が自分に目的意識と幸福感を与えていたと気づいた、という経験が語られている。

仕事は生活を支える手段であると同時に、誰かから必要とされる感覚を得る場にもなり得る。関連投稿には、その両方が表れていた。

日本の読者にとっても、どちらが正しいかを決めるより、自分は仕事に何を求め、何を仕事の外に求めているのかを整理するほうが役に立ちそうだ。


AIへの期待と、「自分は必要とされるのか」という不安

HDIの調査では、AIも主要なテーマだった。

定型業務の負担軽減、個人の仕事の成果の改善、生産性向上という三つの分野では、それぞれおおむね4人に1人が、好影響を期待しているか、すでに経験しているとされた。

一方で、42%はAIの利用が人員削減につながると予想し、9%は身近な環境ですでにそうした経験があったと回答した。

ここで注意したいのは、42%が実際に職を失ったわけではないことだ。9%についても、回答者自身が失業した割合ではない。

また、「AIによって不要になると思う職業」としてIT開発者を挙げた人が41%、金融・税務アドバイザーが38%、広告・マーケティングが36%、事務職が35%だった。料理人は3%にとどまった。

これも、職業ごとの消滅確率を計算した数字ではなく、回答者の認識である。「IT開発者の41%が失業する」「料理人は絶対に安全」といった読み方はできない。

日本の職場への示唆を考えるなら、AI導入を働く人にどう説明するかが焦点になる。

例えば、同じ作業時間の短縮でも、空いた時間を学習や休息、顧客対応の改善に使える場合と、追加の業務が積み上がる場合では、受け止め方が変わるだろう。

これは調査が直接証明した因果関係ではなく、結果を踏まえた考察だ。AIへの期待と不安が同時に存在する以上、効率化の目的や、その成果を誰がどう受け取るかを曖昧にしたままでは、安心にはつながりにくい。


「やりがいを持て」と言う前に、職場が確かめたいこと

この調査から、日本の企業が考えられることは何か。

まず、待遇について話しやすい職場になっているか。給与への要望を口にすると意欲まで疑われる環境では、働く人の本音は見えなくなる。

次に、仕事への意義を感じる機会があるか。自分の成果が誰に届き、何を改善したのかが見えれば、仕事の受け止め方が変わる可能性がある。ただし、それを適正な報酬の代わりにしてはいけない。

そして、仕事以外の生活を保てるか。家族、健康、趣味、学びに時間を使うことは、職業への責任感と対立するものではない。

「お金があれば辞めたい」という答えには、仕事そのものへの拒否だけでなく、今の条件を変えたいという気持ちが含まれる可能性もある。だからこそ、その言葉だけで人物像を決めるのではなく、何が負担で、何が変われば続けたいのかを聞く意味がある。

働く理由の中心に給料があっても、よい仕事はできる。仕事に誇りがあっても、人生のすべてを職場に差し出す必要はない。

59%という数字を前に問いたいのは、「なぜもっと仕事を愛せないのか」だけではない。

この職場は、働く人が安心して暮らし、納得して時間を使える場所になっているだろうか。


出典URL

  1. Fehmarn24/dpa「Berufestudie: Viele Menschen arbeiten nur noch fürs Geld」
    HDI・YouGov調査の59%、年齢別回答、調査人数・期間、AIに関する数値の出典。
    https://www.fehmarn24.de/wirtschaft/berufestudie-viele-menschen-arbeiten-nur-noch-fuers-geld-zr-94517077.html

  2. 内閣府「国民生活に関する世論調査(令和7年8月調査)」
    日本の働く目的に関する63.5%などの回答割合の出典。
    https://survey.gov-online.go.jp/living/202509/r07/r07-life/

  3. 内閣府・同調査の調査票
    働く目的の設問・選択肢を確認する資料。日独の調査を単純比較できない点の参照先。
    https://survey.gov-online.go.jp/living/202509/r07/r07-life/questionnaire/

  4. Reddit/r/AskReddit「What do you believe in? Working for passion or working for money?」
    2026年8月11日の関連議論。生活費・余暇を重視する声や、収入と情熱の両立を望む声の出典。今回のドイツ記事への直接の反応ではない。
    https://www.reddit.com/r/AskReddit/comments/1vlelvr/what_do_you_believe_in_working_for_passion_or/

  5. Reddit/r/askSingapore「Do you work for passion or work solely for money?」
    2025年12月11日の投稿。離れた仕事に目的意識や幸福感を感じていたと振り返る経験談の出典。今回のドイツ記事への直接の反応ではない。
    https://www.reddit.com/r/askSingapore/comments/1pk2ss9/do_you_work_for_passion_or_work_solely_for_money/