「ゲーム=悪」はもう古い?子どもの心と学びを支える“動く遊び”としてのビデオゲーム

「ゲーム=悪」はもう古い?子どもの心と学びを支える“動く遊び”としてのビデオゲーム

「ゲーム=不健康」は本当か?子どものウェルビーイングを支える“デジタル遊び”の新しい見方

子どもがゲームをしている姿を見たとき、多くの大人はつい同じ言葉を口にする。

「いつまでやっているの?」
「目が悪くなるよ」
「外で遊びなさい」
「ゲームばかりしていると勉強できなくなるよ」

もちろん、長時間のプレイや睡眠不足、課金、暴力的・年齢不適切なコンテンツ、オンライン上のトラブルなど、保護者が心配すべき点は少なくない。だが、ゲームをしている子どもを「ただ画面の前に座っているだけ」「受け身で刺激を浴びているだけ」と見なすのは、少し単純化しすぎかもしれない。

英シェフィールド大学の研究者らによる新しい研究は、その見方に一石を投じている。研究チームは、7〜12歳の子どもとその家族20組を対象に、家庭でのビデオゲーム体験を観察した。その結論は、従来の「ゲーム=座りっぱなしで不健康」というイメージとはかなり違う。子どもたちはゲーム中、感情を表し、体を動かし、問題を解き、家族やきょうだいとやり取りしながら、さまざまなデジタルスキルを身につけていたという。

この研究が注目したのは、単に「ゲームを何時間したか」ではない。子どもがゲームをしているとき、体や感情、言葉、手の動き、視線、姿勢、家族との会話がどのように結びついているかである。研究者らはこれを「身体の中のリテラシー」として捉えた。つまり、デジタルリテラシーはキーボード操作やプログラミングのような“頭の中だけの能力”ではなく、身体を通じて表れる実践でもある、という考え方だ。


子どもはゲーム中、本当に「受け身」なのか

家庭でゲームをしている子どもを観察すると、そこには多くの動きがある。コントローラーを握る指の動き、画面に合わせて前のめりになる姿勢、失敗した瞬間の悔しさ、クリアした瞬間の歓声、きょうだいに攻略法を教える言葉、親に「見て!」と成果を共有する表情。

大人から見ると、それは単なる遊びかもしれない。しかし、子どもにとっては、画面の中の世界と自分の体がつながる体験でもある。たとえば、ブロックを組み立てるゲームでは、空間を理解し、素材を選び、手順を考え、失敗したら別の方法を試す。謎解きゲームでは、ヒントを読み取り、画面上の情報を整理し、パターンを見つける。協力型ゲームでは、相手と役割を分担し、タイミングを合わせ、時には衝突しながらも目標に向かう。

こうした行為は、学校でよく評価される読み書きや計算とは異なる。しかし、それもまた現代の子どもにとって重要な「読み解く力」であり「表現する力」だと見ることができる。ゲーム内の地図を読む、アイコンの意味を理解する、操作方法を試行錯誤する、キャラクターや物語の文脈を把握する、チャットや音声で協力する。これらはすべて、デジタル環境で生きるためのリテラシーにつながっている。

研究チームは、子どもたちがゲームを通じて、操作的・文化的・批判的なデジタルスキルを発揮していると捉えた。操作的スキルとは、ゲーム内で移動したり、情報を見つけたり、道具を使ったりする力。文化的スキルとは、家族や友人と共有される遊び方、ジャンルへの理解、ゲームをめぐる会話や習慣。批判的スキルとは、ゲーム内のルールや表現、オンライン空間での振る舞いを見つめ直す力である。


「楽しい」は軽視してよい感情ではない

この研究が興味深いのは、子どものウェルビーイングを二つの側面から捉えている点だ。

一つは、ゲームをしているその瞬間に感じる楽しさ、興奮、喜びである。難しいステージを突破したときの達成感、友達と笑い合う時間、自分で作った世界を家族に見せる誇らしさ。これは、いわば「いま感じる幸福」だ。

もう一つは、長い目で見た成長や自己形成に関わる幸福である。難題に挑戦して乗り越える、自分の得意なことを見つける、仲間と協力する、自分らしい表現をする。こちらは「自分はできる」「自分には役割がある」「自分の好きなものには意味がある」という感覚につながる。

大人はしばしば、子どもの活動を「将来役に立つか」で評価しがちだ。読書なら語彙力が伸びる、スポーツなら体力がつく、習い事なら技能が身につく。ではゲームはどうか。従来の見方では、ゲームは「将来の役に立ちにくい娯楽」として扱われやすかった。

だが、子どもにとって「楽しい」という感情は、決して軽いものではない。楽しいから続ける。続けるから工夫する。工夫するから上達する。上達するから自信が生まれる。自信があるから誰かに教えたくなる。そこには、学びの循環がある。

もちろん、どんなゲームでも自動的に良い影響をもたらすわけではない。しかし、ゲームの中にある喜びや達成感を最初から「無駄」と決めつけてしまうと、子どもがそこで何を感じ、何を学び、どんな関係を築いているのかを見逃してしまう。


SNSでは「やっぱりそうだ」と「でも時間制限は必要」が交差

この研究に対するSNS上の反応は、公開検索で確認できる範囲ではまだ大規模な議論に広がっている段階ではない。ただし、研究者のLinkedIn投稿や、子どものゲーム・スクリーンタイムをめぐる関連投稿では、いくつかの典型的な反応が見られる。

まず目立つのは、教育・メディアリテラシー関係者からの歓迎の声だ。ゲームを「悪いもの」として一括りにするのではなく、子どもがどのように考え、動き、表現しているのかを丁寧に見る姿勢に共感する反応がある。特に、デジタルリテラシーを単なる技術習得ではなく、身体や感情を含む実践として捉える視点は、教育現場にとって新鮮に映る。

一方で、保護者目線の反応はより複雑だ。SNSでは以前から、スクリーンタイムをめぐって「ゲームにも学びはある」「創造性や忍耐力が育つ」とする声と、「結局はやりすぎが問題」「依存性の高い設計が心配」「親が管理しないと生活リズムが崩れる」とする声がぶつかってきた。今回の研究も、その対立の中に置かれるだろう。

たとえば、子育てコミュニティでは、ゲームが子どもの問題解決力や忍耐力を育てると評価する投稿がある一方、ゲーム会社が子どもの注意を長く引きつけるように設計していることへの警戒も根強い。ゲームを肯定的に捉える研究が出ると、「やっぱりゲームにも価値がある」と安心する人もいれば、「都合よく解釈して長時間プレイを正当化してはいけない」と釘を刺す人もいる。

この温度差は自然なものだ。なぜなら、ゲーム体験は家庭によって大きく異なるからだ。親子で一緒に楽しむゲーム、友達と協力するゲーム、創作を促すゲーム、短時間で区切りやすいゲームもあれば、終わりどころが難しく、課金やランキングで過度に競争をあおるゲームもある。研究が示すのは「ゲームはすべて子どもに良い」という単純な結論ではない。むしろ、「ゲーム中の子どもをもっとよく見よう」という提案に近い。


問題は「ゲーム時間」だけではない

保護者が最も気にしやすい指標は、やはり時間だ。1日30分ならよいのか、1時間ならよいのか、2時間は長すぎるのか。スクリーンタイムの議論では、どうしても時間制限が中心になる。

時間は重要である。睡眠、食事、運動、学習、対面での人間関係を削ってまでゲームを続けるなら、見直しは必要だ。夜遅くまでプレイして朝起きられない、やめる約束を守れない、負けたときに激しく怒る、課金を隠す、オンライン上で嫌な思いをする。こうした兆候があれば、ゲームとの距離を調整しなければならない。

しかし、時間だけで判断すると見えなくなるものもある。30分のプレイでも、暴言を浴び続けるオンライン環境なら負担は大きい。逆に、1時間のプレイでも、親子で相談しながらパズルを解いたり、友達と協力して作品を作ったりするなら、豊かな体験になることもある。

大切なのは、「何を」「誰と」「どのように」「どんな気持ちで」遊んでいるかだ。ゲームの種類、年齢への適合性、オンライン機能の有無、課金要素、プレイ後の子どもの様子、家庭内のルール、親の関わり方。これらを見ずに、ただ時間だけで善悪を決めるのは不十分だ。


家庭でできるゲームとの付き合い方

この研究を家庭で生かすなら、まず保護者はゲームを完全な敵として扱わないことが出発点になる。子どもが何に夢中になっているのかを知るために、横で少し見てみる。一緒にプレイしてみる。どこが難しいのか、何が面白いのか、なぜそのキャラクターが好きなのかを聞いてみる。

このとき、尋問のように聞く必要はない。「それ、どうやってクリアするの?」「今のすごいね」「このゲームは何をするゲームなの?」という程度でよい。子どもは、自分の好きなものを理解しようとしてもらえると、ゲームについて話しやすくなる。すると、トラブルや困りごとが起きたときにも相談しやすくなる。

次に、ルールを一方的に押しつけるのではなく、生活全体の中で位置づけることが重要だ。宿題、睡眠、食事、運動、家族の時間をどう守るか。そのうえで、ゲームをどこに置くかを話し合う。単に「1時間まで」と決めるよりも、「寝る1時間前はやめる」「オンラインプレイはリビングで」「課金は必ず相談」「怒りが強くなったら休憩」など、具体的なルールにした方が実践しやすい。

また、ゲーム後の子どもの状態を見ることも役立つ。プレイ後に満足して切り替えられるのか、イライラが続くのか、もっとやりたい気持ちを自分で調整できるのか。ゲームの内容だけでなく、子どもの反応を観察することで、その家庭に合った距離感が見えてくる。


学校はゲームをどう見るべきか

研究者らは、学校教育に対しても問いを投げかけている。学校では、子どもの身体はしばしば「きちんと座る」「静かに聞く」「決められた形で書く」といった規範の中で評価される。もちろん、集団で学ぶための秩序は必要だ。しかし、その枠に収まらない身体の動きや感情表現を、すぐに「落ち着きがない」「学んでいない」と見なしてしまうと、子どもの多様な学び方を見落とす。

ゲーム中の子どもは、声を上げ、身を乗り出し、試行錯誤し、友達と作戦を立てる。そこには、学校的な静けさとは違う学びがある。とくに、デジタルメディアが日常化した現代では、子どもがどのように画面を読み、操作し、意味を作り出しているのかを理解することは、教育にとって避けて通れない。

これは「授業を全部ゲームにしよう」という話ではない。ゲームを無条件に教材化すればよいわけでもない。むしろ、子どもが家庭や友人関係の中で育てているデジタルな経験を、学校が軽視しないことが大切だ。ゲームの話題をきっかけに物語を書く、攻略手順を説明する、ゲーム内の選択やルールについて議論する、キャラクター表現やオンラインマナーを考える。そうした活動は、読み書き、論理的思考、倫理、協働学習につながる可能性がある。


研究の限界も見ておく必要がある

今回の研究は、ゲームと子どものウェルビーイングを考えるうえで重要な視点を提供している。ただし、注意点もある。

対象は英国の20家族であり、世界中のすべての家庭にそのまま当てはまるわけではない。ゲームの種類、家庭環境、文化、経済状況、親の関わり方、子どもの性格によって、体験は大きく変わる。また、この研究は家庭での具体的な様子を丁寧に観察する質的研究であり、「ゲームをすれば必ず幸福度が上がる」といった単純な因果関係を証明するものではない。

さらに、近年のゲームには多様な設計がある。創造性を促すものもあれば、課金や報酬設計によってプレイ時間を引き延ばすものもある。オンライン上の人間関係が支えになる場合もあれば、いじめや暴言、排除の場になる場合もある。だからこそ、ゲームを肯定する研究を読むときにも、「どんなゲームか」「どんな環境か」という条件を外して考えるべきではない。


「禁止」よりも「理解」へ

この研究の価値は、ゲームを単純に称賛している点にあるのではない。むしろ、子どものゲーム体験を大人の不安だけで塗りつぶさず、そこにある身体性、感情、創造性、関係性、学びを見ようとしている点にある。

ゲームをしている子どもは、ただ画面の前で固まっているわけではない。指を動かし、状況を読み、予測し、失敗し、やり直し、喜び、悔しがり、誰かと共有している。そこには、子どもなりの世界との関わり方がある。

もちろん、ゲームを放任してよいという意味ではない。むしろ、大人が関心を持つことが必要だ。何を遊んでいるのかを知る。ルールを話し合う。困ったときに相談できる関係をつくる。生活のバランスを守る。年齢に合わないコンテンツや危険なオンライン環境から守る。そのうえで、ゲームの中にある学びや楽しさを認める。

これからのスクリーンタイム論争に必要なのは、「ゲームは悪か善か」という二択ではない。子どもがデジタルな世界で何を経験しているのかを、より細かく、より人間的に見る視点である。

ゲームをやめさせる前に、まず少しだけ隣に座ってみる。
子どもが何を見て、何に笑い、どこで悩み、何を達成しようとしているのかを見る。
そこから、ゲームとのよりよい付き合い方が始まるのかもしれない。



出典URL

Phys.org。シェフィールド大学による研究紹介として、7〜12歳の子ども、20組の英国の家族、ゲーム中の身体性、快楽的ウェルビーイングと自己実現的ウェルビーイングについて説明している。
https://phys.org/news/2026-04-reveals-video-games-children.html

シェフィールド大学の公式ニュース。研究の概要、研究者名、家庭でのゲームが子どもの感情・身体・デジタルリテラシーと関係するという主張を確認するために参照。
https://sheffield.ac.uk/education/news/new-study-reveals-how-video-games-support-childrens-well-being

研究論文本文。Fiona Scottらによる「Reimagining the “Well” (Digitally) Literate Body」。研究対象、方法、デジタルリテラシーとウェルビーイングの理論的整理、家庭での観察内容を確認するために参照。
https://eprints.whiterose.ac.uk/id/eprint/240152/1/Reading%20Research%20Quarterly%20-%202026%20-%20Scott%20-%20Reimagining%20the%20%20Well%20%20%20Digitally%20%20Literate%20Body%20%20Lessons%20From%20Children%20s.pdf

研究者Fiona Scott氏のLinkedIn投稿。研究発表後のSNS上の反応、教育・デジタルリテラシー関係者の受け止めを確認するために参照。
https://www.linkedin.com/posts/fionalouisescott_new-publication-from-our-team-reimagining-activity-7451947772326465536-gsDR

UNICEF Innocentiの発表。ゲームが子どもの自律性、能力感、創造性、アイデンティティ、感情調整、人間関係に寄与し得る一方、ゲーム設計が重要であるという補足情報として参照。
https://www.unicef.org/innocenti/press-releases/video-games-can-have-positive-impact-children-if-they-are-designed-right-says-new

大阪大学の研究紹介。日本の大規模データを用いたゲームとメンタルウェルビーイングの研究例として、今回のテーマの文脈整理に参照。
https://resou.osaka-u.ac.jp/en/research/2024/20240827_1

米国NIHの発表。ビデオゲームと子どもの認知パフォーマンスに関する研究例として、ゲームをめぐる議論が単純な善悪ではないことを補足するために参照。
https://www.nih.gov/news-events/news-releases/video-gaming-may-be-associated-better-cognitive-performance-children