米国、中国バッテリー材料に93.5%関税を課す決定、業界に与える影響とは？

1. イントロダクション

「EV時代の石油」とも呼ばれるグラファイト。その最大供給国である中国に米国が突きつけたのは、実効160％という桁外れの関税だった。米商務省は7月18日、アノード活性材料（AAM）に93.5％の反ダンピング課税を暫定決定し、年末までに最終判断を下す。NDTV Profit本稿では政策の背景、産業・市場・環境への影響、そしてSNSで渦巻く賛否の声を徹底的に追う。

2. グラファイトとは何か――EVバッテリーの“負極”

リチウムイオン電池の負極には現在も約95％の割合でグラファイトが使われる。IEAは2030年代前半まで主流素材の座は揺るがないと予測し、サプライチェーンの多様化を「最優先課題」と位置づける。NDTV Profit

3. 93.5％関税に至る経緯

• 2024年12月 ― 米国AAM生産者協会が商務省とITCに提訴。

• 2025年5月 ― カウンターベーリング調査で6.55％の補助金相殺関税を暫定決定。

• 2025年7月18日 ― 反ダンピング調査で93.5％を暫定適用、12月5日に最終判断予定。エネルギーニュース

4. コスト試算：EV 1台あたり＋200～450ドル

CRUグループの試算では、160％の総合関税は電池セル1kWhにつき7ドルのコスト増。平均60kWhの乗用EVなら約420ドルが上乗せされ、テスラ・モデル３相当の原価を1～2四半期分圧迫するという。NDTV Profit

5. 産業界の賛否

• テスラ・パナソニック：「米国内で品質を満たすサプライヤーはまだ皆無」

• 西側グラファイト企業：豪Syrah Resources 22％高、加Nouveau Monde 26％高など株価急騰。フィナンシャル・タイムズ

• 再エネ開発企業：FluenceやEnphaseは下落。蓄電コスト増でプロジェクト利回り悪化を懸念。NDTV Profit

6. ソーシャルメディアの“温度差”

6‑1. X（旧Twitter）

• @business（Bloomberg公式）「バッテリーメーカー株が急伸」X (formerly Twitter)

• @globaltimesnews（環球時報）「経済的いじめだ。中国は必要な措置を取る」X (formerly Twitter)

• 米EVファン：「これでまた車が高くなる。IRAの税額控除が吹き飛ぶ！」

• 米労組系アカウント：「ようやく中国のダンピングにメス。国内雇用に追い風」
  （いいね数・リポスト数は発表翌日で約1万に達した）

6‑2. LinkedIn

エネルギー投資家 Ashley Zumwalt‑Forbes 氏は「国内合成グラファイト企業に朗報」と投稿し、業界関係者から賛同コメントが相次いだ。LinkedIn

6‑3. Weibo

中国国内では「米国が先にEV補助金で保護主義を強めた」という批判的論調が拡散。中国商務部は公式声明で「WTOルールに違反」と強く反発した。

7. 環境・サステナビリティ視点

短期的にはEV価格上昇で普及ペース鈍化が懸念される一方、「環境影響の大きい中国の製錬工程を避け、よりクリーンな北米・豪州産に置き換える好機」と評価する声もある。ノルウェーの調査会社Rystad Energyは「ライフサイクルCO₂排出で最大18％削減余地」と分析する。フィナンシャル・タイムズ

8. 政治・地政学的含意

バイデン政権は2024年に100％のEV完成車関税を導入済み。今回の素材関税は「ミッシングリンク」補強と位置づけられる。一方、中国はレアアース・グラファイトの輸出承認制度を強化しており、「報復合戦」の長期化は必至との見方も。The Times of India

9. 今後のシナリオ

1. 関税恒久化シナリオ

   • 北米の新工場（Westwater、Novonix等）が2030年前後に量産。本格的なサプライチェーン移転へ。

2. 妥協シナリオ

   • 最終関税率を引き下げ、米OEM が部分的に中国以外へデュアルソーシング。

3. 対抗関税・資源カード激化

   • 中国がレアアースや前駆体で追加規制。EV価格と普及台数が想定を下回るリスク。

10. まとめ

93.5％という数字は、EVシフトを支える基礎素材の供給網がいかに脆弱かを浮き彫りにした。最終決定まで残された約5か月で、米中は交渉のテーブルにつくのか、それともエスカレートの道を選ぶのか――。アノード材という“黒い粉”をめぐる闘いは、地球の脱炭素レースにとって決して小さくない分水嶺となる。