「REVENGE TAX 撤回」――トランプの“復讐戦略”が崩れた夜、世界税制はどこへ向かう？

「REVENGE TAX」――トランプ政権が振り下ろした“復讐の槌”が、140か国が積み上げた国際課税の枠組みを一夜にして瓦解させた。
ワシントンD.C.の夕映えの下、議会議事堂のドームを背景に、ドナルド・トランプ大統領（以下、敬称略）が掲げた“Section 899”――通称「リベンジ・タックス」は、わずか数日で撤回された。しかしその余波は、OECD/G20が10年以上かけてまとめた〈15％グローバル最低法人税〉合意を空洞化させ、各国財務省と多国籍企業の経営判断を揺るがしている。以下では、法案の舞台裏、G7 土壇場合意、ウォール街・SNS の反応、そして今後の火種を多角的に追う。abc17news.compolitico.eu

1. Section 899 の正体――“差別課税”に報復せよ

「外国が米企業に差別課税をするなら、米国も同じ利率で課税し返す」――この一文が、One Big Beautiful Bill Act に忍ばせられた Section 899 の核心である。デジタル課税や UT-PR（Pillar 2 追加課税）を導入する国を「Discriminatory Foreign Country」に指定し、最大21％もの追徴税を科すという強烈な“交渉カード”だった。ft.com

2. G7 電撃妥結――「米国だけ除外」の衝撃

6月29日未明、カナダ議長国の声明で “米国企業は最低税率適用を免除” という一文が公表された。イタリアのジョルジェッティ財務相はこれを「名誉ある妥協」と評し、各国は“Section 899 発動”を恐れて譲歩した形だ。米国側の見返りは、Bessent 財務長官による「Section 899 撤回要請」のポストである。politico.eu

3. ウォール街と実体経済――安堵と警戒

シティバンクのクレジットノートは「最悪の資本逃避シナリオは回避された」と評価。一方、JPMorgan は欧州上場企業2.1兆ユーロの時価総額が依然“政治リスクに晒される”と警告する。国内では〈追加歳入500億ドル喪失〉を指摘する保守系シンクタンクが「双子の赤字」を問題視し、共和党内の財政保守派が7月4日の最終採決で造反する気配も残る。kiplinger.comft.com

4. SNS の奔流――ハッシュタグ #RevengeTax が急浮上

• @SecScottBessent （米財務長官）

  “We will defend our tax sovereignty and resist extraterritorial taxes.”politico.eu

• @KimGCMoody（カナダ税理士）

  “Great news… the so-called revenge tax is gone, but vigilance is vital.”x.com

• ブルースカイのエコノミスト Dominic Meagher

  “Trump has just destroyed decades of work by 140 countries to prevent tax avoidance.”bsky.app

24時間で X（旧Twitter）の #RevengeTax 関連投稿は15万件を突破。グローバル企業 CFO の LinkedIn 投稿でも「タックス・プランB」の共有が急増し、コンサル各社は緊急ウェビナーを立ち上げている。

5. 国際政治への波紋――EU・カナダ・日本の次手

EU 委員会のパオロ・ジェンティローニ委員は「一方的な譲歩」と不満を滲ませ、フランス財務省は “デジタルサービス税は維持” を示唆。カナダは即日 DST 法案を凍結し米国との通商協議再開をアピールしたが、7月9日の対EU関税引き上げデッドラインを前に綱渡りが続く。theguardian.com

6. 議会内力学――“メディケイド削減”と連動する票読み

Section 899 撤回で税収見込みが消えた穴埋めとして、上院共和党はメディケイド補助金の更なるカット案を提示。これにノースカロライナ選出の T. ティリス上院議員が「公約違反」と反旗を翻し、再選不出馬を表明するなど、法案全体の行方は予断を許さない。theguardian.com

7. 専門家インサイト――「OECDピラー崩壊か、それとも再交渉か」

• マーク・ラスコム（Wolters Kluwer）
  「米国なき Pillar 2 は死文化し、各国は単独課税に回帰する」

• ジェームズ・ナイトリー（ING）
  「これは保護主義ではなく“交渉型リアリズム”。だが予測不能リスクは高まる」abc17news.com

8. 企業フロントライン――“移転価格 vs. 友好国優遇” のジレンマ

アップル、メタ、シェブロンなど主要多国籍企業は〈低税率国への IP 移転〉よりも〈友好国（メキシコ・ポーランド・ベトナム）への追加投資〉を検討し始めた。税制不確実性を嫌う資本が「サプライチェーン友好国化」を加速させる構図だ。

9. 市民社会の声――「復讐より公平を」

全米世論調査（ギャラップ、6/29）は、“国際最低税支持” が民主党系で78％、共和党系で32％。保守派インフルエンサーは「独立記念日前の主権回復」と喝采する一方、Z世代は「国際協調の努力を踏みにじる行為」と批判的だ。

10. 今後のシナリオと日本への示唆

1. OECD 再交渉シナリオ
   米国を除く G6 が「ミラー税制」を導入し、輸出補助金・関税交渉に火種。

2. 米国内再燃シナリオ
   2026 年の中間選挙で民主党が下院奪還すれば Section 899 復活の可能性。

3. デジタル課税多極化シナリオ
   日欧が GAFA 課税を強行→米国が関税で報復→WTO 提訴。

日本企業は、①友好国生産の比率引き上げ、②米子会社のタックス・リザーブ増額、③OECD ピラー2 準拠システム導入計画の凍結――の三段構えが急務となる。金融庁は BEPS 対応ガイドライン改訂を前倒しすべきだ。