経済⁉ 政局⁉ 1.5%成長の崖っぷちに立つタイと“辞任”コールの熱狂

経済⁉ 政局⁉ 1.5%成長の崖っぷちに立つタイと“辞任”コールの熱狂

1. 6月20日――「電話リーク」が引き金になった政治ショック

6月20日朝、ロイターの速報が流れた。「タイ経済は崖っぷち。政治混乱が回復努力を頓挫させる恐れ」 reuters.com。発端は前々日に流出したペートーンターン・チナワット首相とカンボジア元首相フン・セン氏の私的通話音声だ。首相が国軍司令官を「相手(オポーネント)」と呼び、フン・セン氏を「叔父さん」と持ち上げたことで、ナショナリストや軍保守派が激怒し、連立第2党ブムジャイタイが離脱を表明した。


2. “二重の待った”がかかった3.78兆バーツ予算

経済の命綱とも言える2026年度予算(3.78兆バーツ、約11.5兆円)は、10月1日の年度開始までに上下両院を通過しなければならない。しかし議会解散が現実味を帯びれば、審議は白紙に戻り、公共投資の空白が生まれる reuters.com。すでに政府歳出は4〜5月に前年同月比▲38%と急減しており、OCBCは「輸出停滞と財政の二重減速=ダブルパンチ」と警告する。

3. 高止まりする家計債務と米36%関税の衝撃

家計債務はGDP比90%台で推移し、タイ中央銀行の金融正常化で変動金利ローンの返済負担が膨らむ。そこへ米トランプ政権が表明した最大36%の報復関税が追い打ちをかけ、「年1%成長」の最悪シナリオが現実味を帯びる investing.combloomberg.com

4. 数字で見る現在地――冷え込む指標

  • SET指数:年初来-23.4%(6/20終値) reuters.com

  • 消費者信頼感:2025年5月=27カ月ぶり低水準

  • JSCCIB GDP予測:1.5〜2.0%へ下方修正 jetro.go.jp

  • 自動車生産:21カ月連続マイナス jtbf.info

数字が示すのは、需要・投資・輸出という3本柱すべてがきしむ姿だ。

5. 旅行・サービス業に忍び寄る「デモリスク」

観光はGDPの15%を稼ぐ屋台骨だが、野党系学生団体と右翼勢力の双方が首都でデモを計画している reuters.com。タイホテル協会の会長はロイターに「街頭衝突が起きれば宿泊キャンセルが一気に出る」と危機感を語った。コロナ禍からの立ち直りが遅れたタイ観光にとって、政治デモはまさに「最後の凶器」だ。

6. 企業トップ100人アンケート――政権支持率の急落

Nation Thailandの速報調査によると、CEOの83%が「首相は辞任または議会解散で信任を問うべき」と回答した nationthailand.com。企業セクター側の不安は、公共事業遅延や通商交渉停滞で「投資判断ができない」ことに尽きる。

7. SNSに吹き荒れるハッシュタグ戦争

  • #IngResign / #แพทองธารลาออก(ペートーンターン辞任)

  • #SaveThaiEconomy(経済を救え)

  • #BudgetNow(早く予算を)

タイ語圏X(旧Twitter)では一時、1時間当たり5万件超のポストが流れたとBusiness Todayが報じた。

 



保守派は「軍を侮辱した」と糾弾し、若年層リベラルは「経済政策の遅れ」を槍玉に挙げる。タイ Examinerは「SNS上の罵倒合戦が現実の街頭衝突の火種になる」と警鐘を鳴らす thaiexaminer.com

8. 海外投資家の“つま先立ち”撤退

ブルームバーグは「5月に海外資金が11.2億ドル流出し、ASEAN最大規模の資本逃避となった」と指摘する bloomberg.com。JPモルガンはSET指数の年末目標を1600から1450に引き下げ、政治リスクプレミアムを1.5ポイント上乗せした。

9. 歴史の亡霊――クーデター再来の不安

タイは1932年以降13回のクーデターを経験し、そのうち2回はシナワット家を標的にした theguardian.com。今回も軍上層部が「民主主義の枠内で解決を」と声明を出す一方、民間では「再びタンクが街を走るのか」と黒いジョークが飛び交う。

10. シナリオ別に読む「6カ月後のタイ」

| シナリオ | 政治展開 | 2025年成長率 | 為替(THB/USD) | 投資家心理 |   |
|---|---|---|---|---|
| A: 早期妥結 | 与党再編+予算可決 | 2.0% | 34 | 改善 |
| B: 選挙実施 | 下半期選挙→予算遅延 | 1.2% | 35.5 | 不透明 |
| C: クーデター | 軍政移行 | 0.5% | 37 | リスクオフ極大 |

*成長率は筆者推計(外部機関のレンジを参考)。

11. 海外企業への影響――サプライチェーン揺らぐ

日系自動車メーカーは「在庫は1.5カ月分確保」としているが、電子部品・化学品のJIT(ジャスト・イン・タイム)型サプライチェーンは交通封鎖に弱い。2014年クーデター時は港湾物流が4日間停止し、完成車4.3万台が出荷遅延した前例がある。

12. 変わるか財政運営――デジタルウォレット給付の行方

ペートーンターン政権の看板施策「1万バーツデジタル給付」は景気浮揚カードだが、財源裏付け法案が議会に止まったまま。野党は「バラマキ」と批判し、与党内でも財政規律派が反旗を翻す reuters.com

13. 国境問題の根深さ――カンボジアとの“歴史再燃”

AP通信は「Ubon Ratchathani州の前線視察は軍との歩調を合わせる演出」と報じた apnews.com。だがカンボジア側SNSでは「タイは謝罪を」と逆に強硬論が渦巻き、ASEAN外交の火種になりつつある。

14. 市民生活への波紋――物価と雇用

最低賃金据え置きで実質所得は2年連続マイナス。屋台の汁そばは1杯50バーツが60バーツに上昇し、労働省統計では非正規労働の19%が「副業アプリ」に流れた。失業率は低いが、可処分所得の落ち込みが深刻だ。

15. おわりに――「経済の時限爆弾」を外せるのは誰か

SNSでは感情的対立が先鋭化しているが、実体経済が崩れれば国民全員が痛む。政治リーダーは党派を超えて予算を通し、米国との貿易交渉・観光再建に集中する以外に道はない。タイはここ20年、危機のたびに「底力」を見せてきた。今回もその底力が問われている――時間は多く残されていない。


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