「エコカー」のはずが実際は4.6倍? プラグインハイブリッドに突きつけられたCO₂排出の現実

「エコカー」のはずが実際は4.6倍? プラグインハイブリッドに突きつけられたCO₂排出の現実

電気自動車ほど充電環境に縛られず、ガソリン車より環境負荷を抑えられる――。そんな「両方の長所を持つクルマ」として普及してきたプラグインハイブリッド車、いわゆるPHEVに、改めて厳しい視線が向けられている。

欧州で実際に走っている約92万台のPHEVを調べた最新の分析によると、道路上で排出される二酸化炭素の量が、カタログや型式認証で示される数値を大幅に上回っていた。しかも問題は、その差が縮まるどころか、新しい車両ほど拡大していることだ。

2021年に登録されたPHEVでは、実際のCO₂排出量は公称値のおよそ3.5倍だった。それが2023年登録車では約4.6倍まで広がった。

一見すると不思議な結果である。近年のPHEVはバッテリー容量が増え、電気だけで走れる距離も伸びている。技術が進歩しているなら、むしろ実際のCO₂排出量は減っていてもよさそうだ。

ところが、現実の道路では必ずしもそうなっていない。


PHEVとはそもそもどんなクルマなのか

PHEVは、大きく言えば「充電できるハイブリッド車」だ。

通常のハイブリッド車と同様にガソリンエンジンなどの内燃機関と電気モーターを搭載しているが、家庭用電源や充電設備からバッテリーへ直接充電できる点が大きく異なる。

近距離の通勤や買い物であれば電気だけで走り、長距離移動ではエンジンを使う。充電設備が少ない地域や長距離走行が多いユーザーにとっては、完全な電気自動車よりも安心感がある。

理想的に運用されれば、日常走行の大半を電気でまかないながら、旅行など必要な時だけエンジンを使うことができる。

この考え方そのものに問題があるわけではない。

問題は「実際にどれだけ電気で走っているのか」だ。


制度上は「約8割を電気で走る」想定、現実は約2割

今回の分析で特に注目されるのが、制度上想定されている電動走行の割合と、現実の利用状況との大きな隔たりだ。

PHEVの公式なCO₂排出量を計算するときには、車両がどの程度電気モードで走るかを想定する必要がある。

欧州の認証制度では、バッテリーによる航続距離などをもとに「このクルマなら、このくらいの割合を電気で走るだろう」という前提を置き、その想定値をCO₂排出量の算出に反映させる。

ICCTの分析によると、より現実に近い値として2022年に約21%の電動走行比率を想定すれば実走行との整合性が高まったのに対し、公式計算では約80%という非常に高い割合が想定されていた。

つまり、計算上は走行距離の大部分を電気で走るクルマとして扱われている一方、現実ではそれほど頻繁に電気走行が利用されていない可能性が高い。

この差が、公称CO₂と実走行CO₂の大きな乖離につながる。


電気航続距離が伸びたのに、電気で走る割合は低下

今回の研究でさらに興味深いのは、バッテリー性能向上が必ずしも環境性能の改善につながっていない点だ。

通常なら、電気のみで走行できる距離が30キロから50キロ、さらに80キロへと伸びれば、エンジンを使わない距離も増えると考える。

公式の算定方法も、基本的にそうした考え方を前提としている。

しかし実走行データを見ると、2021年から2023年にかけてPHEVの電気航続距離が伸びる一方で、実際に電気で走行した割合はむしろ低下したという。

ICCTによると、平均的な実走行CO₂排出量は2021年の1キロ当たり約130グラムから、2023年には約134グラムへ増加した。

その一方で公式値は約37グラムから約29グラムへ低下した。

つまりカタログ上では環境性能が向上しているように見えるのに、道路上ではほとんど改善せず、むしろ悪化する方向に動いていた。

この二つの動きが組み合わさったことで、公称値と現実の差が3.5倍から4.6倍へと一気に広がった。


「充電できる車」と「実際に充電される車」は違う

PHEVを考えるうえで重要なのは、車両そのものの性能だけを見ても環境性能を判断できないことだ。

例えば、毎晩自宅で充電し、毎日の通勤距離が電気航続距離以内に収まるユーザーなら、エンジンをほとんど使わず生活することも可能だ。

反対に、自宅に充電設備がなく、外出先でもほとんど充電しないユーザーがPHEVを所有した場合、大きなバッテリーやモーターを載せた車体をエンジン中心で動かすことになる。

PHEVはエンジン、燃料タンク、モーター、大容量バッテリーという二つの駆動システムを同時に抱えるため、一般的に車両重量も増えやすい。

充電せずにエンジン主体で走れば、「電動化のために搭載した装備」を重りとして運ぶ場面すら生じる。

ICCTは、充電頻度の低さだけでなく、エンジンとモーターが同時に稼働する場面や、二つのパワートレインを搭載することで増える重量もエネルギー消費を押し上げる要因として挙げている。

実走行時のPHEVのCO₂排出量は、内燃機関車や従来型ハイブリッド車より平均で約18%低い程度だったという分析も示されている。

決して「電動車だから自動的に大幅な低排出になる」とは言えない状況だ。


92万台の「実際の使われ方」を分析

今回の結果が注目される理由の一つは、単なる実験室での試験ではなく、大規模な実走行データに基づいていることだ。

研究対象となったのは、2021年から2023年に欧州で登録された約92万台のPHEV。

欧州では、新しい自動車に搭載されたオンボード燃料・エネルギー消費監視システムを利用し、実際に使われた燃料やエネルギーに関するデータが収集されている。

そのため、一定の条件に設定された試験コースだけではなく、日々の通勤、買い物、高速道路、長距離旅行などを含む実利用の傾向を見ることができる。

もちろん、92万台すべての運転条件が同じではない。しかし、それだけ多くの車両を集計することで、PHEVが社会全体としてどのように使われているかを把握する重要な手掛かりになる。


問題はユーザーだけなのか

「充電しないドライバーが悪い」と考えれば話は簡単だ。

しかし実際には、制度や企業の仕組みが充電行動に影響している可能性もある。

PHEVは欧州で社用車や企業フリートとして利用されるケースが多く、関連するSNS上の議論では、会社から燃料カードが支給されガソリン代は企業負担になる一方、自宅での充電料金は従業員負担になるケースを指摘する声が繰り返し出ている。

このような状況なら、ドライバーにとってはわざわざ自腹で充電するより、会社負担でガソリンを入れる方が合理的になってしまう。

レンタカーにも似た問題がある。

旅行先でPHEVを借りた利用者が、数十キロ分の電気を得るために充電スポットを探し、料金を支払い、充電時間を待つとは限らない。

結果として、本来は頻繁な充電を前提に設計されたPHEVが「ほぼ充電されない重いハイブリッド車」として使われるケースが生まれる。

車両技術だけでは解決できない問題だ。


SNSでは「PHEV不要論」と「使い方次第」が衝突

PHEVの実走行排出量をめぐる話題は、以前からSNSやオンラインコミュニティでも大きな議論を呼んでいる。

 

海外の自動車・EV関連コミュニティでは、今回と同じICCTのデータをめぐり、「税制優遇を受けるためにPHEVを導入しているのに、実際には充電していない企業車両が多いのではないか」「充電を促す仕組みがなければPHEVへの優遇策は意味が薄い」といった批判が出ている。

中には「PHEVへの優遇を縮小し、完全なEVへの支援に振り向けるべきだ」という強い意見もある。

一方で、PHEVそのものを否定することへの反論も少なくない。

実際のオーナーからは「毎晩自宅で充電しており、普段の生活ではほぼ電気だけで走れている」「長距離旅行の時だけガソリンエンジンを使うため、自分の利用方法には非常に合っている」といった経験談も投稿されている。

また、冬季の低温環境や長距離移動ではエンジン利用率が上昇するため、「単純に充電回数だけで判断するのも不十分」という指摘もある。

SNSの反応を整理すると、争点は「PHEVという技術が良いか悪いか」という二者択一ではない。

「誰が、どのような環境で、どれほど頻繁に充電するのか」という利用条件こそが重要だという点では、賛成派と批判派の議論は意外なほど共通している。

なお、こうしたSNS投稿は世論全体を示す統計調査ではなく、公開されている関連スレッドから見える代表的な論点として捉える必要がある。


公式CO₂値はメーカーの規制達成にも影響する

この問題が単なる「カタログ燃費と実燃費の違い」で終わらない理由は、自動車メーカーのCO₂規制とも関係しているからだ。

EUではメーカーが販売する新車全体についてCO₂排出量の目標が設定されている。

PHEVに非常に低い公式CO₂値が与えられれば、多く販売することでメーカー全体の平均値を引き下げる効果が生まれる。

しかし、そのPHEVが道路上では公称値よりはるかに多くCO₂を排出しているなら、「規制上は排出削減に貢献しているのに、現実ではそれほど減っていない」という状況が起こり得る。

ICCTは、この点についてPHEVが従来型のエンジン車に対して規制上過度に有利に扱われる可能性を指摘している。

EUではすでに問題を認識しており、PHEVのCO₂計算に使う「ユーティリティ・ファクター」と呼ばれる係数の見直しを進めている。

2025年から第一段階の修正が始まり、さらに厳しい補正が2026年11月末以降、いわゆる2027年段階として適用される予定だ。

これは、公式のCO₂排出量を現実の利用状況へ近づけようとする変更である。


PHEV市場は消えるのか

だからといって、PHEVがすぐ市場から消えるとは限らない。

2026年前半のEU新車市場では、バッテリーEVのシェアが20%を超える一方、PHEVも約1割の市場を維持している。

完全EVへの移行に不安を感じる消費者にとって、PHEVは依然として魅力的な選択肢だ。

特に、自宅では充電できるが年に何度か長距離移動をする人、充電インフラが十分でない地域を頻繁に走る人、EVへの完全移行にはまだ不安がある人にとっては、「日常はEV、長距離はガソリン」という使い方に合理性がある。

しかし今後、公式CO₂値の算定方法が現実に近づけば、メーカーにとってPHEVを販売することで得られる規制上のメリットは小さくなる可能性がある。

その場合、自動車メーカーはPHEVを増やすより、完全なバッテリーEVの販売比率を高める方向へさらに動くことも考えられる。

PHEVはこれまで「EVへの橋渡し役」として評価されてきた。

これからは、その橋が本当にCO₂削減につながっているのかを、実走行データで証明することが求められる。


本当の問題は「技術」より「前提」にある

今回の研究が示した最も重要なポイントは、PHEVそのものが環境技術として成立しないということではない。

問題なのは「バッテリーの航続距離が長ければ、ユーザーはそれだけ多く電気で走るはずだ」という前提と、現実の利用行動との間に大きな差があることだ。

自宅や職場で毎日充電できる人なら、PHEVの環境性能を十分に生かすことができる。

しかし充電設備がない人、充電費用を自己負担する社用車ユーザー、長距離利用が中心の人、レンタカー利用者などでは事情が違う。

同じ車種でも使い方によってCO₂排出量が大きく変わる。

だからこそ今後は、「1台の車が理論上どこまで電気で走れるか」だけではなく、「社会の中で実際にどれだけ電気走行されているか」が重要になる。

92万台の実走行データが突きつけたのは、エコカーという名称だけでは環境性能を判断できない現実だ。

電動化が本格化する自動車市場で問われているのは、スペック表に書かれた数字ではない。

その技術が、現実の生活の中で本当に使われる仕組みになっているかどうかなのである。


出典

BUSINESS Panorama
AFP配信記事。PHEVの実走行時のCO₂排出量が、2021年登録車では公称値の約3.5倍、2023年登録車では約4.6倍に拡大したことや、約92万台のデータが分析されたことなどを報じている。
URL:
https://business-panorama.de/news.php?newsid=6710030

International Council on Clean Transportation(ICCT)プレスリリース
2026年9月に発表された今回の研究に関する公式発表。約92万台のPHEVの実走行データ、公称CO₂値との乖離、電動走行比率、EUの2027年の制度見直しなどについて説明している。
URL:
https://theicct.org/pr-plug-in-hybrid-emissions-gap-widens-despite-longer-electric-ranges-icct-study-shows/

ICCT Working Paper「Fair game: Restoring technology neutrality through plug-in hybrid utility factor adjustment」
今回の記事で扱った研究の詳細資料。2021~2023年に欧州で登録された約92万台のPHEVのオンボード燃料・エネルギー消費データを分析し、実走行CO₂、公称値との乖離、ユーティリティ・ファクターの問題などを検証している。
URL:
https://theicct.org/publication/fair-game-restoring-technology-neutrality-through-plug-in-hybrid-utility-factor-adjustment-sept26/

European Commission ― Climate Action
EUが収集した自動車の実走行燃料消費・CO₂排出データに関する公式資料。PHEVでは公称値と実走行排出量に大きな差があることや、想定ほど頻繁に充電・電気走行されていないこと、ユーティリティ・ファクターを2025年と2027年の2段階で修正する方針を説明している。
URL:
https://climate.ec.europa.eu/news-other-reads/news/publication-real-world-co2-emissions-and-fuel-consumption-cars-and-vans-collected-2022-2024-07-26_en

European Commission ― 2024年の実走行CO₂報告
PHEVの実走行CO₂排出量が試験値の平均約3.5倍だったことなどを示した欧州委員会の初期報告。PHEVが想定ほど頻繁に充電されていないことを主な要因としている。
URL:
https://climate.ec.europa.eu/news-other-reads/news/first-commission-report-real-world-co2-emissions-cars-and-vans-using-data-board-fuel-consumption-2024-03-18_en

EUR-Lex ― Commission Regulation (EU) 2023/443
PHEVの公式CO₂排出量算定に使われるユーティリティ・ファクターについて、2025年および2027年から適用される補正値などを定めたEU規則。
URL:
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32023R0443

Euractiv
2026年9月3日の関連報道。PHEVの公称値と実走行排出量の差が拡大している問題と、EUのCO₂規制、2027年に予定されるユーティリティ・ファクター見直しをめぐる自動車業界との政策論争を報じている。
URL:
https://www.euractiv.com/news/plug-in-hybrid-cars-set-to-fuel-fresh-political-fight-over-co2-standards/

ACEA(欧州自動車工業会)
2026年上半期のEU新車市場データ。BEVの市場シェアが20.7%、PHEVが9.8%となったことなど、市場動向の確認に使用した。
URL:
https://www.acea.auto/pc-registrations/new-car-registrations-5-7-in-h1-2026-battery-electric-20-7-market-share/

Reddit「r/electricvehicles」関連ディスカッション
PHEVの実走行排出量をめぐるSNS上の反応を確認するために参照。社用車でガソリン代は会社負担になる一方、自宅充電費用は利用者負担になるケースや、PHEVへの税制優遇の妥当性などが議論されている。SNS投稿は世論全体を代表するものではなく、代表的な利用者意見として参照した。
URL:
https://www.reddit.com/r/electricvehicles/comments/1tvqfuu/plugin_hybrids_in_europe_emit_five_times_more/

Reddit「r/energy」関連ディスカッション
PHEVをほとんど充電せず利用したケースと、日常的に自宅充電して電気走行を中心に利用しているオーナー双方の経験談など、PHEVの使い方による違いを確認するために参照した。
URL:
https://www.reddit.com/r/energy/comments/1r99ezj/biggest_study_yet_shows_plugin_hybrids_use_over/